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🌿 現代的な視点で見る最新の「コーチングでやってはいけないこと」2025

コーチングは「相手の主体的な気づきと行動」を支援する対話のプロセスです。
しかし、進め方を誤ると、かえって相手の自律性や信頼関係を損なってしまうことがあります。
ここでは、現代のコーチング心理学や実践倫理の観点から、特に注意すべきポイントを整理します。

🚨以前からある、伝統的なコーチングとは、変わってきている点もあるため、その点、注意しましょう。
より細かい点は、コーチング心理学基礎講座などで実施しておりますので、コーチングを学んだこともある方も必須です。

気になった方は、最新のコーチング心理学講座を受講し、学びをアップデートしましょう。


🚫 1. 相手に「答え」を押し付けないこと

コーチングは、相手が自ら答えを見つける過程を支援するものです。
「自分の考えの方が正しい」「こうすべきだ」と助言を押し付けてしまうと、
相手の内的動機づけ(self-determination)を奪い、依存や反発を招きます。
コーチングや1on1の場で「つい相手に“答え”を押し付けてしまう」ことは、無意識のバイアスによって起こる典型的な現象です。
心理学の認知バイアスなどを理解し、対応が必要です。

*エキスパートバイアス(自分が経験・知識を持っている分野では、「自分の答えが最も正しい」と信じやすくなる傾向)
*コントロール錯覚(自分が状況をコントロールできる、あるいはコントロールすべきだと思い込むバイアス)などに気をつけましょう。

❗ コーチの役割は「答えを与える人」ではなく、「考えるきっかけを生み出す人」です。


🚫 2. 無理に「引き出そう」としないこと

相手の準備ができていない段階で、深い感情や本音を無理に引き出そうとするのは逆効果です。
コーチングには**「タイミング」と「関係の安全性」**が欠かせません。
信頼関係(rapport)が築けていないうちに掘り下げすぎると、相手は防衛的になったり、心を閉ざしたりします。
以前は、引き出すことが、重要視されてきましたが、無理に引き出してしまうと、恥、トラウマを引き出してしまう可能性があります。
そのため、現代のコーチングでは、心理的安全性を重視して、相手に合わせた対応が必要になります。

💡 コーチは無理に「引き出す」のではなく、「語りが自然に生まれる環境をつくる」ことに専念します。


🚫 3. 質問だけで返そうとしないこと

「質問をすれば気づきが生まれる」という思い込みに偏ると、
コーチングが“尋問”のようになり、相手に負担を与えます。
適度なリフレクション(共感的な返し)や承認を挟むことで、
対話が双方向性を保ち、安心して考えられる場が生まれます。

以前は、たしかに、主体性を高めるために「質問」が重視されていましたが、
ヒントや情報提供をしてほしいにも関わらず、質問だけで返そうとするのは、ハラスメントになってしまう可能性があります。

相手のニーズや状況に応じて、よく理解したうえで、対応することが大切になっています。

💬 質問は「投げかけ」ではなく「橋渡し」。相手の思考をつなぐために使いましょう。


🚫 4. 相手の語りを評価・分析しないこと

コーチが心理的・理論的な知識を持っていても、
相手の語りを「診断」や「評価」として扱うことは避けるべきです。
ナラティヴ・コーチングの視点では、語りは「真実」ではなく「意味の表現」。
分析よりも、語り手がどう感じ、どう意味づけているかに耳を傾けます。

相手の文脈・状況を観察し、よく理解することが求められます。相手の状況を理解しないで対応することは、信頼関係を失う結果となります。
まず、人間は、ジャッジ(評価)をしたくなってしまうバイアスがあることも理解しておきましょう。 *基本的帰属の誤り、社会的比較バイアス、ハロー効果など

💡 評価よりも、「その言葉にどんな思いが込められているのか」を尊重します。


🚫 5. コーチ自身の価値観を基準にしないこと

コーチが「自分のやり方」「理想像」「成功モデル」を押し付けると、
相手は「それに合わせなければならない」と感じ、自由な思考が制限されます。
現代のコーチング心理学では、多様な価値観・文化的背景の尊重が前提です。

人間には、自己中心性バイアス、確証バイアスがあり、自分が正しいと思い込みやすい傾向があります。
特に自分が携わってきたことは、正当化したい傾向がある点について注意しましょう。
認知心理学などは、コーチング心理学を実践する人には必須となります。

🌈 コーチの基準ではなく、クライアント自身の文脈と価値観に基づく問いを。


🚫 6. 安易なポジティブ思考の押し付け

「前向きに考えましょう」「大丈夫、きっとできる」などの言葉は、
一見励ましのようでいて、相手の感情を否定するリスクがあります。
**感情を“消す”より、“受け止める”**ことが、心理的回復力(レジリエンス)を高めます。
単に、ポジティブになれというは、ポジティブハラスメントに当たります。
コーチングを実践する人には、ポジティブな方も多くおりますが、ポジティブな押しつけは、相手を追い込んでしまうこともあります。
現代では、ほんのちいさなポジティブなことに自然に気づける用に配慮する必要があります。

🌱 “ポジティブ”は無理に作るものではなく、理解と共感の中から自然に育つものです。


🚫 7. 継続的なフォローを怠ること

1回のコーチングで大きな成果を求めすぎるのも危険です。
成長や変化はプロセスであり、継続的な対話を通して少しずつ定着していきます。
「話して終わり」ではなく、「話したことをどう活かすか」を共に振り返る姿勢が大切です。

コーチングは、主体性を高めることが大切ですが、定期的なフォローアップも大切になります。
状況によって課題が大きく変わることがありますので、定期的に声を掛ける努力も必要です。
相手は大丈夫だという、楽観性バイアスが、相手のサポートを妨げてしまうケースもあります。
コーチングを行う人は、優秀な人が多いかもしれません。自分ができることは、相手ができると思い込んてしまう可能性があるので
注意が必要です。(とくに管理職の方など)

🔄 コーチングは「一度の対話」ではなく、「継続する対話の習慣」。


✅ 現代的コーチングにおける倫理の3原則

原則 内容
尊重(Respect) 相手の価値観・ペース・語りを尊重する
共創(Co-creation) コーチとクライアントが共に意味を見つけていく
心理的安全性(Safety) 安心して語れる空間を保つ

🌿 本当の「コーチングの成功」とは、心理学や脳科学の科学的なエビデンスに基づきながら、クライエントの背景に隠れた“物語を、自分の言葉で語れるようになる”こと。目標達成だけでなくウェルビーイングを高め、意義や希望を発見、構築できるようにすることです。


 

🌱 現代コーチング心理学に基づく,「コーチングでやってはいけないこと」総合整理

1. 倫理・心理的安全性・ナラティヴ尊重の視点

現代のコーチング心理学(O’Riordan & Palmer, 2021)は、
安全で尊重的な学習的関係(safe and respectful learning relationship)」を基盤とします。
倫理原則(BPS・ISCP基準)では、以下3原則が重視されています:

原則 内容 参考文献
尊重(Respect) クライアントの価値観・文化的文脈を尊重 Myers & Bachkirova, 2021
共創(Co-creation) コーチとクライアントが意味を共に見出す Stelter, 2020
心理的安全性(Safety) 安心して思考・感情を探求できる場を維持 O’Riordan & Palmer, 2021

🚫 コーチングで避けるべき7つの行為(現代心理学的観点)

禁則項目 内容 心理学的背景 代表文献
1. 答えの押し付け 助言中心は自律性を奪う 自己決定理論(Deci & Ryan, 2000) Palmer & Whybrow, 2019
2. 無理な「引き出し」 関係構築前の掘り下げは防衛反応を招く 安全な関係理論(Henderson & Palmer, 2022) Neenan & Palmer, 2022
3. 質問の乱用 「尋問的質問」は認知負荷を高める Socratic Questioning原則 Neenan, 2022
4. 評価・分析の押し付け クライアントの語りを「解釈」しない ナラティヴ理論(Stelter, 2019) O’Riordan & Palmer, 2021
5. コーチの価値観中心 自分の成功モデルを押し付けない 文化的相対主義 Law, 2021
6. 安易なポジティブ思考 感情否定は逆効果 ポジティブ心理学第2世代(Wong, 2011) Kellerman & Seligman, 2023
7. 継続的フォローの欠如 変化はプロセス 成長マインド理論(Dweck, 2006) O’Riordan & Palmer, 2021

🌿 コーチング倫理と実践指針(APA・ISCP準拠:アメリカ心理学会・英国心理学会・国際コーチング心理学会)

項目 指針内容 出典
境界設定(Boundaries) 役割の明確化、依存関係の回避 Myers & Bachkirova, 2021
多様性(Diversity) 文化・性別・信条・障害などの尊重 Law, 2021
エビデンス基盤(Evidence-based practice) 科学的根拠に基づく介入選択 Neenan & Palmer, 2022
スーパービジョン 倫理的・心理的サポート体制 Neenan, 2022

 

🔍 コーチング質問集(倫理・安全性対応版)

カテゴリ 質問例 意図
自律性支援 「あなた自身はどう感じていますか?」 内的動機づけ
意味の探求 「その出来事に、どんな意味がありそうですか?」 ナラティヴ展開
感情の尊重 「その時、どんな感情がありましたか?」 感情受容
プロセス視点 「それを少しずつ試すとしたら、どんな一歩がありそうですか?」 小さな成功体験
関係の安全性 「ここで話しても大丈夫だと感じることは何ですか?」 安心感形成

🧭 結論:現代コーチングの倫理的基盤
  • コーチングは「問題解決の場」ではなく、「意味づけと成長の場」。
  • 倫理・多様性・心理的安全性を守ることは「関係の質=成果の質」に直結する。
  • コーチは「変化が起こる場」(心理的安全性)を作り、安心して「変化を促せる人」

📚 参考文献

  • O’Riordan, S., & Palmer, S. (2021). Introduction to Coaching Psychology. Routledge.
  • Neenan, M., & Palmer, S. (2022). Cognitive Behavioural Coaching in Practice (2nd ed.). Routledge.
  • Kellerman, G. R., & Seligman, M. E. P. (2023). Tomorrowmind. Atria Books.

 


🌿 コーチング心理学における倫理に基づいた質問(国際コーチング心理学会:ISCP準拠)

🧭 1. 倫理的原則の基盤(ISCP Code of Ethics)

ISCPの倫理原則(O’Riordan & Palmer, 2021; Myers & Bachkirova, 2021)では、
コーチがクライアントと関わる際の基本的価値は以下の4つです:

原則 内容 コーチの焦点
尊重(Respect) クライアントの自律性・価値観・文化的背景を尊重 判断や押し付けを避ける
誠実(Integrity) 正直・透明性・一貫性を保つ 利害関係の明確化
責任(Responsibility) 専門的境界・安全な実践を保つ 守秘義務・限界の共有
共感(Empathy) クライアントの感情世界を理解・尊重 感情を「直す」より「理解する」

🌱 2. 倫理に基づいた質問カテゴリ一覧

カテゴリ 倫理的意図 具体的質問例 出典・理論背景
① 自律性の尊重 クライアント自身の選択権を保障する 「あなた自身は、どう決めたいと思っていますか?」「この選択があなたにとってどんな意味を持ちますか?」 Self-Determination Theory(Deci & Ryan, 2000)
② 境界と同意の確認 安全で信頼できる枠組みを明示 「このテーマについて話すことは、今大丈夫ですか?」「どこまで話しても良い範囲だと思いますか?」 ISCP Ethical Boundary Model(Myers & Bachkirova, 2021)
③ 感情の尊重と受容 感情を否定せず、心理的安全性を保つ 「今の気持ちを言葉にすると、どんな言葉が合いそうですか?」「その感情に、どんな背景がありますか?」 Second Wave Positive Psychology(Wong, 2011)
④ ナラティヴの尊重 クライアントの物語を分析せず聴く 「その経験を、あなたはどのように語りたいですか?」「この出来事にあなたらしさを感じる部分はありますか?」 Narrative Coaching(Stelter, 2019)
⑤ 責任と境界の共有 コーチの専門限界を明確にする 「このテーマは他の専門家と連携した方が良いと感じますか?」「サポートの方法について、一緒に考えてもいいですか?」 ISCP Professional Practice Standards
⑥ 多様性と文化的感受性 文化・信念・立場の違いを尊重 「この話題を、あなたの文化や背景ではどのように受け止められるでしょう?」「違う立場の人ならどう感じると思いますか?」 Coaching & Diversity(Ho Law, 2021)
⑦ 倫理的リフレクション コーチ自身の行動を内省する 「この質問は、クライアントの利益になっているだろうか?」(※スーパービジョンで使用) Neenan, 2022; Palmer & O’Riordan, 2021

💬 3. 対話例(倫理的配慮を含むコーチング)

コーチ:「このテーマについて話すことに、今どんな気持ちがありますか?」
(目的:「同意と安全の確認」)

クライアント:「正直、少し緊張しています。」

コーチ:「ありがとうございます。今は浅いところから話していく形でも構いません。どうしますか?」
(目的:「自律性の尊重」)

クライアント:「はい、少しずつ話したいです。」

コーチ:「そうしましょう。どんなペースが心地よさそうですか?」
(目的:「心理的安全性の維持」)


🌍 4. 倫理に基づく質問デザイン原則(ISCP実践ガイドより)

原則 内容 実践上のヒント
意図を明示する 質問の目的をコーチ自身が理解してから使う 「何のための問いか?」を意識する
同意と選択肢を提示する クライアントが話す・話さないを選べる 「この話を続けてもいいですか?」
価値中立性を保つ 評価・助言を避ける 「良い」「悪い」と言わない質問を選ぶ
感情を尊重する 感情を“変える”でなく“理解する” 「今はどんな感情があると感じますか?」
時間軸を意識する 現在・過去・未来を行き来する 「これまで」「いま」「これから」を繋ぐ

🧩 5. ISCP推奨の倫理的リフレクション質問(自己省察用)

観点 コーチ自身への問い
自律性 「私はクライアントの選択を本当に尊重できているか?」
境界 「どこまでが私の役割で、どこからが他職種の領域か?」
感情 「自分の感情が相手への反応に影響していないか?」
多様性 「自分の文化的前提が、質問の仕方に影響していないか?」
倫理的勇気 「クライアントの利益を最優先にしているか?」

📚 6. 主要文献・出典

  • O’Riordan, S. & Palmer, S. (Eds.) (2021). Introduction to Coaching Psychology. Routledge.
  • Neenan, M. & Palmer, S. (2022). Cognitive Behavioural Coaching in Practice (2nd ed.). Routledge.
  • Myers, A. & Bachkirova, T. (2021). Boundaries and Best Practice. In Introduction to Coaching Psychology.
  • Law, H. (2021). Coaching and Diversity. In Introduction to Coaching Psychology.
  • Stelter, R. (2019). The Art of Dialogue in Coaching. Routledge.
  • Wong, P. T. P. (2011). Positive Psychology 2.0: Towards a balanced model of wellbeing.
  • ISCP (International Society for Coaching Psychology) Code of Ethics and Practice (最新版, 2023).

🌼 まとめ:倫理的質問の本質

「倫理的な質問」とは、
クライアントの“話す自由”と“沈黙する自由”の両方を尊重する問いである。


 

投稿者プロフィール

徳吉陽河
徳吉陽河
徳吉陽河(とくよしようが)は、コーチング心理学研究会・コーチング心理学協会の創設者の一人であり、日本・世界のおけるコーチング心理学のパイオニア。コーチング心理士、公認心理師・キャリアコンサルタント、認定心理士(心理調査)、ポジティブ心理療法士、として教育・医療・福祉・産業分野で活動する専門家。東北大学大学院博士後期課程で研究し、国際コーチング心理学会、国際ポジティブ心理学会など、世界で学び、研究を発表。教育プログラム、心理尺度開発なども専門としている。著書に『ポジティブ大全』『科学的に正しい脳を活かす「問いのコツ」 結果を出す人はどんな質問をしているのか?』『ナラティヴ・セラピー BOOK』、『コーチング心理学ガイドブック』『コーチング心理学ハンドブック』などの翻訳書などがあり、科学的なエビデンスと物語(ナラティブ)に基づくコーチングとウェルビーイング教育を推進している。累計4000名のコーチ、カウンセリング実績」(ワークショップを含む)、「累計6000回以上のセミナー実績」以上の実績がある。国土交通省 航空保安大学講師、元東北文化学園大学講師、元仙台医療センター看護学校講師、元若者サポートセンター講師など。教育機関、海外・国外の法人企業などで講師を担当実績がある。学校法人・企業法人・医療法人(リハビリ)など、主に管理職に関わる講師を数多く担当。座右の銘は、「我以外皆我師」、失敗・挫折もたくさんしており、「万事塞翁が馬」大切にしている。「自己肯定感が低いからこそ成長できる」ことを大切にしている。

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