08 / CASE & GLOSSARY
説明を読んでも動けないのは、1周の全体像が見えていないからです。6つの例で、最初から最後までをたどります。
いずれも、AIに何を入力し、AIが何を返し、本人が何を決め、1週間後に何が起きたかまでを含めています。ページの後半には、本サイト全体で使う用語をまとめた用語集を掲載しました。
一般社団法人コーチング心理学協会 / AI×コーチング心理学研究所 / ケーススタディと用語集
いずれも、AIとの対話1周分を、最初から最後までたどっています。
状況:40代・課長。部下との1on1が進捗確認だけで終わり、相談してもらえないと感じている。
使った枠組み:GROW(R・Oを厚く)
| 段階 | やりとりの要点 |
|---|---|
| ASK|問いを決める | AIへ:「私が今日いちばん考えたいことを明確にする質問をしてください」→ AIの問い:「相談されないことで、あなたが困っているのは何ですか?」→ 本人:「問題が起きてから知ることになる」 |
| THINK|現状(R) | AIの問い:「1on1で、あなたが話している時間の割合は?」→ 本人:「たぶん7割」。事実として、進捗確認の質問から始めていることを確認 |
| THINK|選択肢(O) | AIに15案を列挙させる。「冒頭の問いを変える」「議題を相手に決めてもらう」「頻度を上げて時間を短くする」など。本人が思いつかなかった案として「面談の目的を一度言葉にして共有する」が挙がる |
| ACT|行動(W) | 選択:冒頭の問いを「最近どうですか」から「いま気になっていることを1つ教えてください」に変える。来週火曜から全員に実施 |
| CHECK|1週間後 | 事実:4人中3人で実施。うち2人が業務外の懸念(異動の不安・後輩指導の悩み)を話した。1人は変化なし |
| LEARN|学習 | うまくいった要因の候補:問いが具体的だったこと、沈黙を待ったこと。次の変更:話す割合を記録する(1つだけ変える) |
この例のポイント:AIを面談中には使っていません。前(論点整理)と後(振り返り)だけで使い、対話そのものは人と人で行っています。
状況:大学3年。就職活動を控えているが、志望業界が決まらない。
使った枠組み:GROW(G・Oを厚く)
| 段階 | やりとりの要点 |
|---|---|
| ASK|問いを決める | 「向いている仕事は何か」ではなく「私は何を大切にしたいのか」に問いを変換 |
| THINK|強みの言語化 | AIに、時間を忘れて取り組めた場面/感謝された場面/自分では当たり前なのに驚かれることを、それぞれ1つずつ質問させる。3つの場面から共通点を「可能性として」提示させる |
| THINK|価値観 | 「その3つに共通して、あなたが満たされていたものは何ですか?」→ 本人:「人が理解できていなかったことを、わかる形にすること」 |
| THINK|選択肢(O) | AIに、その価値が満たされうる職種を業界横断で20挙げさせる。実現可能性は問わない指示つき。「教育」「編集」「UI設計」「研修」「行政の広報」などが並ぶ |
| ACT|行動(W) | 選択:20案のうち3つについて、実際に働いている人の話を1人ずつ聞く。今月中に1人目に連絡する |
| LEARN|学習 | 「向いている仕事」という問い自体が答えを出しにくい問いだったと気づく。次のサイクルでは、聞いた話から価値の言葉を更新する |
この例のポイント:AIに適性を判定させていません。場面を集めてから共通点を探す順序にすることで、根拠のある言語化になります。
状況:30代・営業職。転職を考えているが決めきれず、1年以上迷っている。
使った枠組み:GROW(Wを厚く)
| 段階 | やりとりの要点 |
|---|---|
| ASK|問いを決める | 「転職すべきか」→「この迷いは、私の何を守ろうとしているのか」に変換 |
| THINK|前提の検証 | ソクラテス式:「転職しないと成長できないと考える根拠は?」「反対の証拠は?」→ 現職でも新規領域を任されている事実が出る |
| THINK|選択肢(O) | 「転職する/しない」の2択から、「現職で異動を希望する」「副業で試す」「1年後に再検討する条件を決める」など8案に拡張 |
| ACT|行動(W) | 選択:「1年後に再検討する条件を決める」。条件=新規領域の担当が来期も続くか/年内に社外の人と月1回会えているか |
| CHECK|1か月後 | 事実:社外の人と2回会った。新規領域の担当は継続の見込み |
| LEARN|学習 | 「決められない」のではなく「決める条件が言語化されていなかった」と整理。迷いの正体が変わった |
この例のポイント:AIに「転職すべきか」を判断させていません。判断基準を言語化する作業に限定しています。
状況:30代。3か月後の試験に向けて勉強したいが、着手できない日が続く。
使った枠組み:PDCA(1週間周期)
| 段階 | やりとりの要点 |
|---|---|
| PLAN | 「毎日1時間」を「毎朝20分、起床後すぐ」に変更。if-then:「もし23時を過ぎたら、教材を開いて置いてから寝る」 |
| DO|記録 | AIには評価を禁止して事実だけ記録。7日中4日実施、平均18分 |
| CHECK|差分 | 予定7日/実際4日。できた4日は、すべて前夜に教材を開いていた日だった |
| CHECK|要因 | AIが候補を3つ提示(断定なし):前夜の準備、就寝時刻、時間設定の長さ |
| ACT|変更1つ | 変えるのは「20分→15分」だけ。前夜の準備は継続。判断基準は「7日中5日以上」 |
| 次の周期 | 6日実施。基準を満たしたため、次は時間を20分に戻して再検証 |
この例のポイント:変更点を1つに絞ったことで、何が効いたのかがわかりました。3つ同時に変えていたら、この学習は得られません。
状況:リーダー。週次会議で発言が偏り、同じ人しか話さない。
使った枠組み:GROW(R・O)+PDCA
| 段階 | やりとりの要点 |
|---|---|
| ASK | 「発言を増やすには」→「発言しにくくしている条件は何か」に変換 |
| THINK|現状(R) | 事実:会議は60分、議題は前日共有、発言は上位2名で8割。1年目の2名は0回 |
| THINK|選択肢(O) | AIに12案。「議題を事前に問いの形で配る」「最初の5分は全員が一言話す」「否定しない時間を明示する」など |
| ACT | 選択:「最初の5分、全員が今週の気がかりを一言ずつ話す」。4週間続ける |
| CHECK|4週後 | 事実:1年目2名の発言が0回→平均3回に。会議時間は変わらず |
| LEARN | 「意見が出ない」は能力ではなく順番の問題だった可能性。次は議題の配り方を検証 |
この例のポイント:チームの記録をAIに入力する際、メンバーの氏名は使っていません。「1年目の2名」という形に一般化しています。
状況:対人支援の仕事。人の話を聴く側で、自分の状態を扱う機会がない。
使った枠組み:PERMA+レジリエンス(週次)
| 段階 | やりとりの要点 |
|---|---|
| 週次のCHECK | PERMAの5要素で1週間を振り返る。スコアはつけない。「意味」は高く、「没頭」と「関係」が薄いことに気づく |
| LEARN|資源の棚卸し | 過去に回復できた場面を3つ挙げ、共通点を探す→「一人で外を歩く時間」が共通していた |
| ACT | 週2回、昼休みに15分歩く。予定に入れる |
| CHECK|3週後 | 実施は6回中4回。歩いた日は午後の集中が続いたという主観的な変化 |
| 境界の確認 | 眠れない日が続いていないか、食欲はあるかを毎週確認。該当したらAIではなく受診する、と事前に決めておく |
この例のポイント:支援職がAIを使う場合、クライアントの情報は一切入力していません。扱っているのは自分自身の状態だけです。
ケースを比べると、パターンが見えてきます。
「どうすればいいか」を「私は何を大切にしたいのか」「何が条件なのか」に変換しています。この変換だけで、答えの出どころが自分の中に移ります。
AIは選択肢を広げ、事実を整理し、問いを出す役割にとどめています。選ぶのは必ず本人です。
「うまくいっていない」ではなく「4人中3人で実施した」という形で記録しています。事実がないと、次に何を変えればよいかがわかりません。
同時に複数を変えると、何が効いたのかが不明になります。1つずつ変えることで、学習が積み上がります。
他者の氏名や評価をAIに入力していません。支援職のケースでは、受診の基準を事前に決めています。
| 失敗のパターン | 起きること | 修正の方向 |
|---|---|---|
| AIに「どうすればいい?」と聞く | 一般論が返り、納得して終わる | 「私は何を大切にしたいか」に問いを変える |
| 長い回答をもらって満足する | 記憶に残らず、行動が起きない | 自分の言葉で1行だけ書き出す |
| 記録を残さない | 振り返る材料がない | 決めたことだけをコピーして残す |
| 変更点を一度に3つ決める | 何が効いたかわからない | 1つに絞り、次の周期に持ち越す |
| AIが出した分析を事実として扱う | 根拠のない自己像が固定される | 「可能性として」提示させ、経験で検証する |
| 毎回ゼロから相談する | 同じ話を繰り返す | 前回の記録を冒頭に貼る |
はじめて読む方が引っかかりやすい言葉を中心に集めました。
| 用語 | 説明 |
|---|---|
| 生成AI | 文章や画像などを生成するAI。ChatGPT・Gemini・Claudeなど。入力された文の続きとして、もっともらしい文を確率的に生成する仕組み。 |
| 大規模言語モデル(LLM) | 大量の文章で学習した言語モデル。生成AIの中核となる技術。 |
| プロンプト | AIへの指示文。役割・目的・制約・出力形式を指定するほど、出力が安定する。 |
| ハルシネーション | AIが、存在しない研究・統計・書籍などをもっともらしく生成する現象。事実確認は人が行う必要がある。 |
| バイアス | 学習データに含まれる偏りが出力に現れること。特定の価値観が望ましいものとして語られることがある。 |
| コンテキスト | AIが一度に扱える文脈の範囲。長い対話では、過去のやりとりが参照されなくなることがある。 |
| カスタムAI/GPTs | 特定の役割や指示をあらかじめ設定した生成AI。毎回同じ前提で対話できる。 |
| 用語 | 説明 |
|---|---|
| コーチング | 対話を通じて、本人が答えを見つけ、行動を決めることを支援する関わり方。教える(ティーチング)とは区別される。 |
| コーチング心理学 | 心理学の理論と研究にもとづいてコーチングを行う分野。学習・目標達成・ウェルビーイングの促進を扱う。 |
| GROWモデル | Goal(目標)・Reality(現状)・Options(選択肢)・Will(意思)の4段階で対話を進める枠組み。 |
| セルフコーチング | 自分自身に問いを立てて考えを進める方法。AIはこの問いの生成と記録を外部化する道具になる。 |
| 1on1 | 上司と部下が定期的に行う一対一の対話。進捗確認ではなく、本人のための時間として設計される。 |
| フィードバック | 行動や結果について情報を返すこと。人格ではなく行動に焦点を当てることが基本。 |
| Iメッセージ | 主語を「私」にして伝える方法。「あなたは〜だ」ではなく「私は〜と感じた」と表現する。 |
| アサーション | 相手を尊重しながら、自分の考えや気持ちを適切に伝える方法。 |
| 用語 | 説明 |
|---|---|
| ポジティブ心理学 | 人の強み・良い状態・成長を科学的に研究する心理学の分野。問題の除去だけでなく、良い状態の増進を扱う。 |
| PERMA | ウェルビーイングを、前向きな感情・没頭・関係・意味・達成の5要素で捉える枠組み。 |
| ウェルビーイング | 身体的・心理的・社会的に良好な状態。単なる快感情ではなく、意味・関係・達成を含む多面的な概念。 |
| VIA強み | 誠実さ・好奇心・思いやりなど、性格上の強み。発揮する機会を増やすことが推奨される。 |
| 自己効力感 | 自分にはできるという見込み。行動の開始と持続を左右する。 |
| レジリエンス | 困難な状況から回復し、適応していく力。生まれつきの性質ではなく、獲得できるものとされる。 |
| メタ認知 | 自分の思考や感情を一段上から眺める働き。 |
| リフレーミング | 出来事の意味づけの枠組みを変える技法。事実を変えずに解釈の選択肢を増やす。 |
| ソクラテス式質問 | 思い込みを否定せず、根拠や反証を問うことで本人自身に検証させる質問技法。 |
| 心理的柔軟性 | つらい感情があるままでも、自分の価値にそった行動を取れる状態。 |
| 実行意図 | 「もし〜のときは〜する」の形で行動を事前に決めておく方法。実行率が上がるとされる。 |
| 解決志向アプローチ | 問題の原因ではなく、うまくいっている例外に注目する支援の枠組み。 |
| 心理的安全性 | 対人リスクを取っても罰せられないとメンバーが信じている、チームの状態。 |
| 用語 | 説明 |
|---|---|
| AI×コーチング心理学 | 心理学の理論と研究にもとづいて、AIの使い方そのものを設計する立場。どんな問いを、どの順番で、なぜ立てるのかに根拠を置く。 |
| AI Coaching Cycle | 本サイトが整理した5段階のフレーム。ASK(問いをつくる)→THINK(AIと考える)→ACT(行動する)→CHECK(結果を確認する)→LEARN(学習する)。 |
| AI質問法10の型 | 探索・明確化・深掘り・視点転換・選択肢生成・例外・実行・振り返り・学習・メタ認知の10分類。対話が行き詰まったときに、足りない型を選ぶために使う。 |
| AIコーチング活用タイプ | 自己理解型・目標達成型・キャリア探索型・ウェルビーイング型・リーダーシップ型・学習成長型・対人関係型の7分類。 |
ケースについて
いいえ。解説のために構成した架空の事例です。特定の個人の記録ではなく、数値や結果も典型的な流れを示すための例示です。効果を保証するものではありません。
扱っているのが自分自身のことか、他者との関係かで大きく分かれます。他者との関係が主題なら管理職やチームのケース、自分の方向性が主題ならキャリアや大学生のケースが近いでしょう。
問いを立て直していること、AIに結論を出させていないこと、事実と解釈を分けていること、変更点を1つに絞っていること、境界を守っていることの5つです。
個人差が大きく、断定はできません。掲載したケースでは1週間〜1か月の周期で1周していますが、これは説明のための設定です。
1on1・チームでの活用
面談の前に「この面談で本当に確認したいことは何か」を整理し、面談後に「自分は指示と質問のどちらに偏っていたか」を振り返ります。面談中は使わない運用を推奨します。
氏名・評価・人事情報は入力しないでください。掲載したケースでは「1年目の2名」のように一般化した表現に書き換えています。
使えます。ポイントは「意見が出ない」という解釈ではなく、「発言は上位2名で8割、1年目は0回」という事実から始めることです。事実がないと、何を変えればよいかが決まりません。
用語について
コーチングは主に健康な範囲での目標達成や成長を扱い、カウンセリングは不調や症状からの回復を扱います。生活に支障が出ている場合はカウンセリングや医療が優先されます。
心理学の理論と研究にもとづいてコーチングを行う分野です。学習、目標達成、ウェルビーイングの促進を対象とし、経験則ではなく研究知見を基盤に置く点が特徴です。
違います。ポジティブ心理学は、人の強みや良い状態、成長を科学的に研究する分野です。つらい状況を無理に前向きに解釈することとは異なります。
対人リスクを取っても罰せられないと、メンバーが信じているチームの状態を指します。仲がよいことや、居心地がよいこととは別の概念です。
AIを使いこなす鍵は、AIの操作方法ではなく「どんな問いを立て、何を振り返るか」です。コーチング心理学協会では、質問・目標設定・フィードバック・強みの活用を、演習中心のワークショップで学べます。
ご相談・ご提案の段階で費用はかかりません。