パーパス経営×コーチング入門 実践ガイド 資格取得の参考に

 

 

パーパス経営×コーチング入門 実践ガイド
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社会人のための統合アプローチ入門

 

 

はじめに:なぜいま「パーパス経営×コーチング」なのか

企業が直面する課題は年々複雑化しています。単なる利益追求ではなく、社会的意義を持ちながら成長するため、「パーパス経営」への注目が高まっています。しかし、多くの企業が「パーパスを掲げたけれど、組織に浸透しない」という壁にぶつかっています。

調査によれば、パーパス経営を効果的に実践している企業は、そうでない企業と比較して平均30%以上の業績向上を達成しています。この差はどこから生まれるのでしょうか?

出典: デロイト「パーパス駆動型企業調査(2022)」

この差を埋めるカギが「コーチング」です。本サイトでは、パーパス経営とコーチングを統合したアプローチについて、理論と実践の両面からわかりやすく解説します。明日から実践できるステップや、ソニーや味の素などの具体的事例を通じて、あなたの組織に最適な方法を見つけていきましょう。

パーパス経営とは何か

パーパス経営とは、「企業がなぜ存在するのか」という存在意義(パーパス)を明確にし、それを経営の中核に据える経営手法です。従来の経営理念やミッションと似ていますが、より社会的価値を重視し、全てのステークホルダーへの貢献を意識している点が特徴です。

パーパスとミッションの違い

パーパスとミッションは似ていますが、以下のような違いがあります:

  • ミッション:「インサイドアウト(内から外)」の視点で、企業が何を達成しようとしているかを示す
  • パーパス:「アウトサイドイン(外から内)」の視点で、社会における企業の存在意義を示す

例:従来のミッションとパーパスの違い

従来のミッション:「高品質の製品を提供し、業界No.1になる」

パーパス:「生活者の健康課題を解決し、持続可能な社会の実現に貢献する」

→パーパスは「なぜ(Why)」に焦点を当て、社会的意義を含んでいる

パーパス経営が求められる背景

社会的背景

  • 持続可能な開発目標(SDGs)への貢献要請
  • 環境・社会問題の深刻化
  • 株主資本主義から全てのステークホルダーを重視する資本主義への転換

ビジネス背景

  • 消費者の価値観の変化(意義ある企業への支持)
  • ミレニアル・Z世代の働く意義への関心
  • 不確実性が高まるVUCA時代の羅針盤の必要性

ミレニアル世代の86%が「社会的意義のある会社で働きたい」と回答しており、消費者の66%が「自分と同じ価値観を持つブランドに追加費用を払ってもよい」と回答しています。

出典: デロイト「ミレニアル世代調査(2022)」、Accenture「消費者価値観調査(2023)」

コーチングとは何か:科学的エビデンス

コーチングとは、対話を通じて相手の自己認識を高め、潜在能力を引き出し、自発的な行動変容を促すコミュニケーション手法です。近年、その効果は科学的に実証されています。

コーチングのメタ分析結果

複数の研究論文のメタ分析によると、コーチングは以下の分野で有意な効果をもたらすことが証明されています:

コーチングの効果(メタ分析結果)

  • パフォーマンス/スキル向上:効果サイズ δ = 0.28
  • ウェルビーイング(幸福度):効果サイズ δ = 0.51
  • 個人レベルの成果:効果サイズ δ = 1.24

特に内部コーチによるコーチングが外部コーチよりも効果的という結果も出ています。

出典: Jones et al.「The effectiveness of workplace coaching: A meta-analysis」(2015)

コーチングの種類

1. エグゼクティブ・コーチング

経営層や管理職向けのコーチング。リーダーシップ開発やパーパスの体現を支援。

2. チーム・コーチング

チーム全体を対象とするコーチング。チームの目的共有や協働を促進。

3. システム・コーチング

組織全体を一つのシステムとして捉え、組織文化や関係性に働きかける。

実務ヒント

組織内でコーチング文化を育むには、まず管理職がコーチングスキルを身につけ、日常の1on1ミーティングなどで実践することが効果的です。

パーパス経営とコーチングの統合アプローチ

パーパス経営とコーチングを統合することで、「理念が浸透しない」という課題を解決できます。この統合アプローチの核心は、パーパスを「知る」から「腹落ち」「行動」へと変えることにあります。

統合アプローチの理論的枠組み

個人と組織のパーパス接続モデル

個人のパーパスと組織のパーパスを完全に一致させる必要はなく、「つながりを見出す」ことが重要です。コーチングはこの「つながりの発見」を促進します。

ただし、このつながりの気づきは一人では難しく、コーチや対話の場が必要です。

エンゲージメントとパーパス

従来の「トップダウン型(忠誠心)」や「モチベーション向上型」と異なり、「エンゲージメント型」のアプローチでは、個人と組織が横並びの関係で、互いの価値観の重なりを見出します。

特に「自分らしさの発揮」がエンゲージメントを高めます。

パーパス経営におけるコーチングの役割

1. 自己認識の促進

コーチングにより、自身の価値観やビジョンを明確化し、組織のパーパスとの接点を見出せる

2. 対話の質向上

コーチング的対話により、形式的なコミュニケーションから、本質的な対話へ移行する

3. 行動変容の支援

コーチングは認識の変化を行動変容に結びつけ、パーパスの体現を支援する

「パーパスは単なる言葉ではなく、感情を伴う体験として社員に届けることが重要です。そのために、定期的なワークショップやストーリーテリングセッションを設け、社員一人ひとりがパーパスと自身の価値観をつなげる機会を創出することが効果的です。」

実務ヒント

トップのコミットメントが特に重要です。エグゼクティブ・コーチングを受けた経営者は、「会社」という主語ではなく、「私」という主語でパーパスを語れるようになります。これが組織全体に波及効果をもたらします。

成功事例:ソニーと味の素の取り組み

ソニーグループのパーパス経営

パーパス

「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」

4つの価値観:「夢と好奇心」「多様性」「高潔さと誠実さ」「持続可能性」

取り組み内容

  • 2018年、吉田憲一郎社長就任時に、多様な事業を統合するパーパスを策定
  • 全従業員にパーパスに関する意見を求め、広く参画意識を醸成
  • CEO室、広報、ブランド戦略部、人事等が一体となり浸透策を実施
  • イントラネットで「My Purpose」連載を設け、従業員自らのストーリーを共有

成功要因

  • トップマネジメントの強いコミットメント(吉田社長自らが率先)
  • 策定プロセスへの従業員参加
  • 「自分事」として捉えられる仕組みづくり
  • 明確な言葉で表現された価値観

具体的成果

この統合的アプローチにより、2020年度にはコロナ禍にもかかわらず最高収益を達成しました。

味の素グループのASV(Ajinomoto Group Shared Value)

パーパス

「アミノ酸のはたらきで食習慣や高齢化に伴う食と健康の課題を解決し、人びとのウェルネスを共創します」

2030年目標:10億人の健康寿命を延伸、環境負荷を50%削減

取り組み内容

  • ASVを中期経営計画の中核に位置付け、事業活動そのものとして実践
  • ASV浸透を推進するタスクフォースの設置
  • 「Our ASV」専用サイトの開設、情報一元化と共感醸成
  • ASVアワード表彰と動画公開による共感づくり
  • エンゲージメントサーベイでの定量的測定

成功要因

  • 創業以来の社会課題解決姿勢を現代に再定義
  • 組織横断的なタスクフォースによる浸透活動
  • 従業員のストーリーとアワード表彰による共感醸成
  • エンゲージメント指標の定量的管理

具体的成果

2020年度のサーベイでは、82%の従業員が「自分の職務を通じてASVに貢献している」と回答。エンゲージメントと成長を両立しています。

事例から学ぶポイント

両社に共通するのは、「トップのコミットメント」「全員参加型のプロセス」「自分事化の仕組み」「定量的な効果測定」です。特に、パーパスを理解するだけでなく、日々の行動や意思決定に落とし込む仕組みが重要といえます。

明日から実践できる7つのステップ

パーパス経営とコーチングを統合するアプローチは、段階的に進めることで効果が高まります。以下に、組織規模を問わず実践できる7つのステップを紹介します。

STEP 1: 現状の「Why」を問い直す

実践方法:経営層を中心に対話の場を設け、「なぜ我々はこの事業をしているのか」「社会にどのような価値を提供できるのか」を徹底的に問い直します。

ポイント:外部コーチを招き、質問を通じて深い洞察を引き出すことが効果的です。

明日からできること:

  • 経営会議の冒頭15分を使い、「我々の存在意義は何か」をオープンに議論する
  • 取締役会・役員間で、互いの「この会社に入った理由」を共有する

STEP 2: パーパスステートメントの作成

実践方法:STEP1の対話をもとに、短く覚えやすいパーパスステートメントを作成します。

ポイント:独自性・メッセージ性を持ち、社内外に伝わりやすい表現を心がけましょう。

明日からできること:

  • 部門ごとにワークショップを開き、各自が考える「理想の企業パーパス案」を出し合う
  • 「私たちは〇〇のために存在する」という文で表現してみる

STEP 3: 経営層へのエグゼクティブ・コーチング導入

実践方法:経営層がパーパスを自分事として体現できるよう、エグゼクティブ・コーチングを実施します。

ポイント:週1回・3ヶ月程度の継続的なコーチングを推奨します。

明日からできること:

  • 経営層が自身の行動とパーパスの一貫性を振り返る時間を設ける
  • 意思決定の際に「これはパーパスに沿っているか」を問いかける習慣をつける

STEP 4: 中間管理職向けコーチングスキル研修

実践方法:部門長・マネジャーにコーチングスキルを習得させ、部下との1on1や部門ミーティングでパーパスを対話のテーマにします。

ポイント:管理職は「パーパスの翻訳者」としての役割を担います。

明日からできること:

  • 1on1ミーティングで「あなたにとって仕事の意義は何か」を質問する
  • 部門会議で「私たちの部門はパーパスにどう貢献できるか」を議論する

STEP 5: パーパス×個人の接点発見ワークショップ

実践方法:全従業員参加型のワークショップを開催し、個人の価値観とパーパスの接点を発見します。

ポイント:自分自身の価値観やキャリアの棚卸しから始め、組織パーパスとの接点を見出します。

明日からできること:

  • ランチタイムミーティングで「私が仕事で大切にしていること」を共有する
  • 「会社のパーパスと自分の価値観がつながる瞬間」をチームで話し合う

STEP 6: システム・コーチングによる組織風土づくり

実践方法:部門・チーム単位でシステム・コーチングを導入し、パーパスに基づいた協働の場を作ります。

ポイント:お互いの思いや考えを率直に聞き合い、チームとしてのパーパス体現を目指します。

明日からできること:

  • 部門会議の冒頭に「パーパスモーメント」と称した5分間の共有タイムを設ける
  • チーム内で「私たちのチームがパーパスを体現した瞬間」を共有する

STEP 7: パーパス体現の評価・報酬制度への組み込み

実践方法:パーパスの体現度を評価項目に加え、パーパスに沿った行動を評価・表彰します。

ポイント:定量的指標と定性的指標の両方を組み込みましょう。

明日からできること:

  • 月間MVPとして「パーパス体現者」を表彰する仕組みを導入する
  • 評価面談で「パーパスを体現できた事例」を具体的に聞く

実務ヒント

すべてのステップを一度に導入する必要はありません。組織の状況に応じて優先順位をつけ、小さな一歩から始めましょう。特に「STEP 3(経営層のコーチング)」と「STEP 5(個人との接点発見)」は効果が高いとされています。

統合アプローチがもたらす効果

パーパス経営とコーチングを統合したアプローチは、複数の観点から組織に具体的な効果をもたらします。

1. エンゲージメント向上

パーパスが明確な組織では、従業員の仕事への意欲が平均40%上昇し、離職率が23%減少します。特にコーチングとの統合アプローチでは、「自分らしさの発揮」が促進され、エンゲージメントがさらに高まります。

出典: デロイト「パーパス駆動型企業調査(2022)」

2. イノベーション創出

パーパスが体現されている企業では、新規事業開発やサービス創出のスピードが1.7倍になります。コーチングによる「対話の質向上」がアイデア創出を促進します。

出典: マッキンゼー「Purpose: Shifting from why to how(2020)」

3. 顧客ロイヤルティ向上

パーパス経営を体現している企業のNPS(顧客推奨度)は業界平均と比較して35%高く、リピート購入率も24%向上しています。これは従業員が「意義」を感じて行動することで、顧客体験の質が向上するためです。

出典: Accenture「顧客ロイヤルティ調査(2021)」

4. 投資家からの評価向上

パーパス経営を実践する企業の株価パフォーマンスは、そうでない企業と比較して平均19%上回っています。日本企業では、パーパス経営実践企業のROEが業界平均を5.3ポイント上回る結果が出ています。

出典: 三菱UFJモルガン・スタンレー証券「企業価値分析レポート(2022)」

統合アプローチの費用対効果

パーパス経営とコーチングの統合アプローチは、初期投資に対して中長期的に大きなリターンをもたらします。

パーパス経営の導入コストと比較して、中長期的な企業価値向上は平均4.2倍という調査結果があります。特にコーチングを併用した企業では、その効果がより早く現れる傾向にあります。

出典: EY「パーパス主導型変革調査(2023)」

意外な効果

多くの企業で報告されている「予想外の効果」として、リスク感度の向上があります。パーパスが明確になると、「これは我々のパーパスに沿っているか」という問いが自然と生まれ、不適切な意思決定を未然に防ぐ効果があるようです。

まとめ:持続可能な成長のために

パーパス経営とコーチングの統合アプローチは、企業の持続可能な成長を実現するための効果的な手段です。本記事で解説してきたように、このアプローチにより以下の成果が期待できます:

  • 組織のパーパスが「壁の言葉」から「行動の指針」へと変化
  • 従業員一人ひとりが「自分ごと」としてパーパスを捉え、エンゲージメントが向上
  • 経営層の「言行一致」が組織全体に波及し、一貫した組織文化を形成
  • イノベーションの促進、顧客ロイヤルティの向上、財務パフォーマンスの改善

「利益を追求すればするほど、利益は逃げていく。しかし、目的を追求していると、利益は自然についてくる」

VUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)の時代において、企業は単なる利益追求を超えた存在意義を明確にする必要があります。そのためには、パーパスを言葉で掲げるだけでなく、コーチングを活用して組織の隅々まで浸透させ、日々の行動や意思決定に反映させることが重要です。

最後に、パーパス経営とコーチングの統合は一朝一夕に実現するものではありません。「パーパス」という言葉が流行に終わらないよう、長期的な視点を持って取り組むことが大切です。本記事で紹介した7つのステップを参考に、あなたの組織にあった方法で、明日から一歩を踏み出してみてください。

明日からのアクション

まずは自分自身に問いかけてみましょう。「自分にとって、この仕事・組織の意義は何か?」「私はどのような価値を社会に提供したいのか?」この問いを同僚や部下と共有することから、パーパスの対話は始まります。

参考文献

  • Jones, R. J., Woods, S. A., & Guillaume, Y. R. (2016). The effectiveness of workplace coaching: A meta‐analysis of learning and performance outcomes from coaching. Journal of Occupational and Organizational Psychology, 89(2), 249-277.
  • Theeboom, T., Beersma, B., & van Vianen, A. E. (2014). Does coaching work? A meta-analysis on the effects of coaching on individual level outcomes in an organizational context. The Journal of Positive Psychology, 9(1), 1-18.
  • De Haan, E., & Nilsson, V. O. (2023). What can we know about the effectiveness of coaching? A meta-analysis based only on randomized controlled trials. Academy of Management Learning & Education.

© 2025 パーパス経営×コーチング 実践ガイド

 

投稿者プロフィール

徳吉陽河
徳吉陽河
徳吉陽河(とくよしようが)は、コーチング心理学研究会・コーチング心理学協会の創設者の一人であり、日本・世界のおけるコーチング心理学のパイオニア。コーチング心理士、公認心理師・キャリアコンサルタント、認定心理士(心理調査)、ポジティブ心理療法士、として教育・医療・福祉・産業分野で活動する専門家。東北大学大学院博士後期課程で研究し、国際コーチング心理学会、国際ポジティブ心理学会など、世界で学び、研究を発表。教育プログラム、心理尺度開発なども専門としている。著書に『ポジティブ大全』『科学的に正しい脳を活かす「問いのコツ」 結果を出す人はどんな質問をしているのか?』『ナラティヴ・セラピー BOOK』、『コーチング心理学ガイドブック』『コーチング心理学ハンドブック』などの翻訳書などがあり、科学的なエビデンスと物語(ナラティブ)に基づくコーチングとウェルビーイング教育を推進している。累計4000名のコーチ、カウンセリング実績」(ワークショップを含む)、「累計6000回以上のセミナー実績」以上の実績がある。国土交通省 航空保安大学講師、元東北文化学園大学講師、元仙台医療センター看護学校講師、元若者サポートセンター講師など。教育機関、海外・国外の法人企業などで講師を担当実績がある。学校法人・企業法人・医療法人(リハビリ)など、主に管理職に関わる講師を数多く担当。座右の銘は、「我以外皆我師」、失敗・挫折もたくさんしており、「万事塞翁が馬」大切にしている。「自己肯定感が低いからこそ成長できる」ことを大切にしている。

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