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相手と自分を成長させる「7つの心理的スキル」
– 科学的根拠に基づくコミュニケーションの新常識

最新の抑えるべきコーチングスキルとは? コーチング心理学入門

「なぜ、良かれと思ってかけた言葉が相手に響かないのだろう?」 「どうすれば、もっと人の力になり、その成長をサポートできるのだろう?」

多くの人が、職場や家庭でのコミュニケーションにおいて、このような壁に突き当たった経験があるのではないでしょうか。私たちはつい、効果的な「話し方のテクニック」に答えを求めてしまいます。しかし、真の課題解決の鍵は、もっと深いレベル、つまり心理学に基づいた人間理解にあります。

もし、相手の可能性を引き出し、同時に自分自身も成長できる科学的なアプローチがあるとしたら、知りたくはありませんか?

コーチングでは、3大スキル、5大スキルなどと、提唱されていますが、コーチングスキルは、心理・社会的ニーズなどによって変化してきます。

この記事では、コーチング心理学が明らかにした「7つのコアスキル」を紹介します。これらは単なる会話術ではありません。人の心と行動がどのように変化するのか、そのメカニズムに基づいた実践的なスキルです。この記事を読み終える頃には、あなたの対人関係と自己成長に、科学的根拠という強力な羅針盤が加わっているはずです。

1. すべての土台となる「傾聴」:ただ聞くだけでなく、安全な場を作る

スキル1:傾聴(Active Listening)- 関係性の土台を築く

まず、すべての人間関係の土台となるのが「傾聴」です。コーチング心理学における傾聴とは、単に相手の話を聞くことではありません。それは「相手の言葉・感情・意図を評価せずに受け取り、理解しようとする積極的行為」と定義されます。

このスキルは、心理学者カール・ロジャーズが提唱した「共感的理解」と「無条件の肯定的関心」に深く根ざしています。つまり、相手をジャッジせず、ありのままを受け入れる姿勢が、心理的安全性と信頼関係を築くための絶対的な前提条件となるのです。

ただ黙って聞くこととの決定的な違いは、相手が安心して自己開示できる「安全な場」を、聞き手が能動的に作り出す点にあります。この安全な場があって初めて、人は心からの対話を始めることができるのです。

言葉・感情・意図・沈黙を全体的に受け止め、理解しようとする積極的行為。

2. 答えを与えるのではなく引き出す「質問」:相手を内省に導く力

スキル2:質問(Socratic Questioning)- 内なる答えを引き出す

深い傾聴によって安全な場が築かれたら、次に必要となるのが相手の内なる答えを引き出す「質問」のスキルです。これは答えを教えるための尋問ではありません。コーチング心理学では、「思考・感情・信念を明確化し、新たな視点を生み出す探求的な問い」を指します。

このアプローチは、古代ギリシャの哲学者ソクラテスに由来し、認知行動コーチングでは「ソクラティック法」として知られています。相手に答えを与えるのではなく、巧みな質問を通じて、相手自身が答えを見つける手助けをするのです。

例えば、「なぜできなかったの?」と詰問する代わりに、「もし〜だったら、どうしますか?」と可能性を探ったり、「それをどのように解釈しましたか?」と思考を深掘りしたりする問いが有効です。これらの質問は、相手に自己洞察を促し、思考の柔軟性を高めます。

忘れてはならないのは、「人は与えられた答えより、自ら見つけた答えによって行動を変える」という原則です。質問とは、その内なる発見を促すための力強いツールなのです。

3. 言葉にならないサインを読む「観察」:見えない情報を捉える解像度

スキル3:観察(Mindful Observation)- 言葉以上のものを理解する

的確な質問を投げかけるには、相手の言葉だけでなく、その背景にある感情や状態を捉える必要があります。ここで活きてくるのが「観察」のスキルです。コーチング心理学では、相手の変化や非言語的なメッセージを「評価せずに、ただ気づく」能力として定義されます。

このスキルはマインドフルネス心理学を基盤としており、観察には以下の3つの階層があります。

  1. 言語情報: 相手が何を話しているか。
  2. 非言語情報: 表情、声のトーン、姿勢、話の間(ま)など。
  3. 自分の内的反応: 相手の話を聞いて、自分自身が何を感じているか。

コミュニケーションの9割は非言語情報で伝わるとも言われます。言葉では「大丈夫です」と言っていても、表情が曇っていたり、声に力がなかったりすることはありませんか? このような言葉と非言語の矛盾に気づくことが、表面的な会話を超えた、より深いレベルでの相互理解につながるのです。

4. 挑戦と学習を可能にする「心理的安全性」:失敗を恐れない環境づくり

スキル4:心理的安全性(Psychological Safety)- 成長のための安全網

傾聴、質問、観察を通じて深い対話の準備が整っても、それが本音で語られるためには絶対的な前提条件があります。それがハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授によって提唱された「心理的安全性」です。

失敗・発言・感情表現を恐れずに関われる状態。

これは、あらゆる対人リスクを恐れることなく、安心して自分を表現できる信頼関係を意味します。コーチング心理学の文脈では、この状態は聞き手の「受容的なリアクション」や、お互いの役割や時間を明確にする「境界線の明示」によって作られます。

このスキルの意外な重要性は、心理的安全性が「ぬるま湯の環境」を作るものではないという点です。むしろ、失敗を恐れずに率直なフィードバックを交わしたり、新しい行動を試したりすることを可能にする「安全網」として機能します。挑戦と学習は、この安全な基盤の上でこそ加速するのです。

5. 主体性を引き出す「提案/リクエスト」:行動を促す最後の一押し

スキル5:提案/リクエスト(Constructive Suggestion)- 自律的な行動を促す

心理的に安全な場で内省が深まり、進むべき方向性が見えてきたら、次に行動を促すステップが必要です。ここで使われるのが「提案/リクエスト」というスキルです。これは「相手の自律性を尊重しながら、行動を促す働きかけ」と定義されます。

  • 提案(Suggestion): 「こういう視点も考えられますが、どう思いますか?」のように、選択肢を提示します。
  • リクエスト(Request): 「次回までに試してみたいことはありますか?」のように、具体的な行動を質問します。

これらのアプローチは、人のモチベーションを研究する「自己決定理論」に基づいています。指示や命令との決定的な違いは、「最終的な選択権を相手に委ねる」点にあります。これにより、相手は行動への当事者意識と責任感を持ち、自律的に動くことができるようになるのです。

6. 強みと貢献(努力)に光を当てる「承認」:成長を加速させる原動力

スキル6:承認(Appreciative Acknowledgment)- モチベーションに火をつける

自ら選択した行動への一歩を踏み出した相手の背中を押し、その挑戦を持続させるための原動力となるのが「承認」です。ポジティブ心理学に基づくこのスキルは、「成果・努力・意図・存在価値を言語的に認めること」を指します。

単なる「すごいね!」という褒め言葉とは異なり、承認には深さのレベルがあります。

  • 事実の承認: 「予定どおり準備されていましたね」と、具体的な行動を認めます。
  • 努力の承認: 「継続的に考えていたのが伝わります」と、プロセスや工夫に光を当てます。
  • 存在の承認: 「あなたのその姿勢が、チームを安心させています」と、その人のあり方や価値そのものを伝えます。

相手の強みや価値を具体的に言語化することで、その人の自己効力感(「自分ならできる」という感覚)が高まり、持続的なモチベーションが生まれるのです。

7. 失敗から立ち直る力を育む「セルフ・コンパッション」:自分への優しさというスキル

スキル7:セルフ・コンパッション(Self-Compassion)- 折れない心を作る内的スキル

しかし、挑戦には失敗がつきものです。行動を起こした結果が思わしくなかった時、そして支援する側が疲れてしまった時、私たちを支えてくれるのが最後の内的スキル、「セルフ・コンパッション」です。これは「困難な状況で自分に優しく、共感し、全体性を受け入れる能力」と定義されます。

心理学者クリスティン・ネフによれば、セルフ・コンパッションは以下の3つの要素で構成されます。

  1. 自己への優しさ: 失敗した自分を厳しく批判するのではなく、労わる。
  2. 共通の人間性: 「失敗するのは自分だけではない。誰にでもあることだ」と捉える。
  3. マインドフルネス: 辛い感情を無視したり誇張したりせず、ありのままに受け止める。

他者を支援するためには、まず支援者自身が燃え尽きず、失敗から回復する力が必要不可欠です。また、相手が自己否定に陥った際に、自己受容を促すための重要な視点となります。もしあなたが誰かを励ましたいなら、まずこの問いを自分にしてみてください。「大切な友人が同じ状況なら、どんな言葉をかけますか?」

まとめ:スキルが繋がり、成長のサイクルを生み出す

ここまで紹介した7つのスキルは、それぞれが独立して機能するわけではありません。これらは相互に関連し合い、「Coaching Psychology Growth Cycle(コーチング心理学の成長サイクル)」と呼ばれる持続的な成長のループを生み出します。

  1. 信頼・理解の形成 このサイクルは、まず傾聴観察によって相手の現在地を深く理解することから始まります。この土台の上で、的確な質問が内省を促し、その全てを心理的安全性という名の揺るぎない容器が受け止めます。これにより、単なる会話ではない、真の「対話」の場が生まれるのです。
  2. 行動と成長の促進 この安全な基盤があるからこそ、相手の自律性を尊重する提案/リクエストが機能し、主体的な行動を引き出します。そして、その挑戦やプロセスに光を当てる承認が、行動を強化し、次なる一歩へのモチベーションに火をつけます。
  3. 内的回復と学習の定着 たとえ挑戦が失敗に終わっても、セルフ・コンパッションが自己批判から守り、回復する力を与えます。この内的スキルによって、失敗は学びへと転換され、次の挑戦への糧となります。こうしてサイクルは再び始まり、成長のループは回り続けます。

このサイクルは、「安全な場で内省し(信頼・理解)、行動を起こし(行動・成長)、失敗しても回復し再挑戦する(回復・定着)」という、人が持続的に成長するための理想的なプロセスを支えるのです。

結び:未来への問いかけ

この記事で紹介した7つの心理的スキルは、コーチやカウンセラーだけのものではありません。職場の上司と部下、チームメンバー、そして親子やパートナーといった、あらゆる人間関係に応用可能な普遍的な知恵です。

もちろん、これらすべてを一度に実践する必要はありません。大切なのは、まず一つのスキルを意識することから始めることです。その小さな一歩が、あなたとあなたの周りの人たちの関係に、確かな変化をもたらすはずです。

明日、あなたが最初の一歩として試してみたいスキルは、どれですか?

投稿者プロフィール

徳吉陽河
徳吉陽河
徳吉陽河(とくよしようが)は、コーチング心理学研究会・コーチング心理学協会の創設者の一人であり、日本・世界のおけるコーチング心理学のパイオニア。コーチング心理士、公認心理師・キャリアコンサルタント、認定心理士(心理調査)、ポジティブ心理療法士、として教育・医療・福祉・産業分野で活動する専門家。東北大学大学院博士後期課程で研究し、国際コーチング心理学会、国際ポジティブ心理学会など、世界で学び、研究を発表。教育プログラム、心理尺度開発なども専門としている。著書に『ポジティブ大全』『科学的に正しい脳を活かす「問いのコツ」 結果を出す人はどんな質問をしているのか?』『ナラティヴ・セラピー BOOK』、『コーチング心理学ガイドブック』『コーチング心理学ハンドブック』などの翻訳書などがあり、科学的なエビデンスと物語(ナラティブ)に基づくコーチングとウェルビーイング教育を推進している。累計4000名のコーチ、カウンセリング実績」(ワークショップを含む)、「累計6000回以上のセミナー実績」以上の実績がある。国土交通省 航空保安大学講師、元東北文化学園大学講師、元仙台医療センター看護学校講師、元若者サポートセンター講師など。教育機関、海外・国外の法人企業などで講師を担当実績がある。学校法人・企業法人・医療法人(リハビリ)など、主に管理職に関わる講師を数多く担当。座右の銘は、「我以外皆我師」、失敗・挫折もたくさんしており、「万事塞翁が馬」大切にしている。「自己肯定感が低いからこそ成長できる」ことを大切にしている。

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