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11 ASSESSMENT

心理アセスメント

何のために測るのか。分類するためではなく、対話を始めるために。

結論から コーチングにおけるアセスメントは、人を分類するためではなく、対話を始めるために使います。 言語化しにくいものに名前がつくと、本人が自分について話しやすくなります。逆に、結果をラベルとして固定したり、選別に使ったりすると害になります。何のために測るのかを先に共有することが前提です。

何のために測るのか

目的使い方可否
対話の材料にする「この結果、心当たりはありますか」から始める適切
変化を確かめる支援の前後で同じ尺度を取る適切
本人が自己理解を進める結果を本人が解釈し、言葉にする適切
採用・配置の判断に使う結果で人を選ぶ不適切
タイプで決めつける「この人はこういう人だから」不適切

主な尺度と枠組み

測るもの代表的な枠組み対話でどう使うか
パーソナリティBig Five(開放性・誠実性・外向性・協調性・神経症傾向)「うまくいく進め方」を本人の傾向から設計する
強み強みの分類体系・強み尺度言語化された強みを、いまの課題に振り向ける
自己効力感一般性/領域別の自己効力感尺度「できそう」が低い領域を特定し、小さな成功体験を設計
レジリエンスレジリエンス尺度回復を支えている資源を確認する
エンゲージメントワーク・エンゲージメント尺度活力・没頭・熱意のどこが下がっているかを見る
その場で測るスケーリング(0〜10)尺度がなくても使える。理由と1点上げる条件を聞く
スケーリングが最も実用的道具がなくても、「10点満点で、いまは何点ですか」は今日から使えます。数値そのものより、「その点数の理由は」「1点上がったら何が変わっていますか」という続きの問いに価値があります。

研究は何をどう測っているか|2026年RCTの測定設計

「どの尺度を使えばいいか」は、実際の研究の設計を見るのがいちばん早道です。ここでは、認定コーチとAIチャットボットを直接比較した2026年の無作為化比較試験(N=114、教育系多国籍企業のリーダー、週1時間×4回)[1]で使われた測定を紹介します。

4層で組まれているこの研究の測定は、①成果 ②状態 ③予測因子(レディネス) ④プロセスの4層になっています。さらに、それぞれを本人・コーチ・上司の3者が重なる形で評定しました。自己申告だけに頼らない設計です。

① 成果を測る

尺度形式測っているもの
目標達成
主要アウトカム
各自が2つの目標を設定。達成度(0〜1の割合)と難易度をそれぞれ評定目標達成スコア=2目標の達成度の平均 × 難易度。同じ目標を上司も評定した
コーチング有効性(CE)4項目・7件法①内省の場ができたか ②新しい気づきが生まれたか ③新しい行動に移せたか ④全体として成功したと思うか

② 状態を測る

尺度出典形式α
精神的ウェルビーイング(WEMWBS)Tennant ら(2007)14項目。エウダイモニック(意味)とヘドニック(快)の両面を含む.91
知覚ストレス(PSS-4)Cohen ら(1983)短縮版4項目・1〜5。「重要なことをコントロールできないと感じた頻度」など.85

③ 予測因子(レディネス)を測る

この研究の要点は、これらを結果指標としてだけでなく「誰がコーチングで伸びるか」の予測変数として投入したことです。実際、開始時点の自己効力感と希望が、その後の目標達成をよく予測しました。

尺度出典形式α
一般性自己効力感(GSE)Schwarzer & Jerusalem(1995)10項目・4件法.75
希望(Adult Hope Scale)Snyder ら(1991)12項目・1〜8。Agency(目標に向かうエネルギー)4項目+Pathways(道筋を描く力)4項目、残る4項目はフィラーで分析から除外.83
認知的ハーディネスNowack(1990)簡易版15項目・5件法。Grant(2008, 2014)の待機統制RCTで前後変化が確認された実績から採用.79
知覚された社会的支援(MSPSS)Zimet ら(1988)12項目・7件法。家族・友人・特別な人の3下位尺度.93

④ プロセス(関係の質)を測る

尺度出典形式
作業同盟(WAI短縮版)Tracey & Kokotovic(1989)/原典 Horvath & Greenberg(1986)1〜7の7件法。Task(何をするかの合意)/Goal(目指す成果の合意)/Bond(信頼・尊重・安心)の3次元

※ このほか、光電式脈波(PPG)から心拍データを取得する商用プラットフォームで瞬間的な生理指標も測定されていますが、独立検証の蓄積が薄い領域であり、現時点で実務に推奨できる段階ではありません。

実務で使うなら、どれから

目的組み合わせ理由
支援の成果を測る目標達成(達成度×難易度)+ CE 4項目短期でも動く。上司評定を足すと自己申告バイアスを相対化できる
関係の質を点検するWAI短縮版3次元に分かれるので「Bondはあるが Goal がずれている」といった診断ができる
開始前に「伸びやすさ」を見る自己効力感 + 希望本研究で成果の強い予測因子だった
ウェルビーイングを測るWEMWBS + PSS-414項目+4項目と短く、現場で回しやすい
使用前に必ず確認することここに挙げた尺度はそれぞれ著作権があり、日本語版の入手可否・使用条件・出典表示の要件が異なります。項目を無断で転載・改変して使うことはできません。研究や商用利用では、原著者または権利者の許諾条件を確認してください。本ページは尺度の構成を紹介するもので、項目そのものは掲載していません。

この考え方で作った、使える3つのツール

上の4層構造のうち、③予測因子・④プロセス・①成果を、許諾の要らない当協会オリジナルの形で使えるようにしました。いずれもブラウザだけで動き、入力内容は外部に送信されません。

3つとも「暫定・研究中」です項目は作成されており使えますが、信頼性係数・因子構造の妥当性・標準化された基準値はまだ算出されていません。自己理解や対話のきっかけには使えますが、研究の測定や採用・評価の判断には使わないでください。何が確かめられていないか、どう検証を進めるかは尺度開発の進行状況に公開しています。

結果の返し方

結果は断定ではなく仮説として返します。順序を守ってください。

  1. 目的を再確認する「これは評価ではなく、話のきっかけにするためのものです」
  2. 仮説として示す「この結果は〇〇という傾向を示しているかもしれません」
  3. 本人に照らしてもらう「心当たりはありますか」「違うと感じる部分はどこですか」
  4. 本人の実感を優先するずれている場合、正しいのは本人の実感です
  5. 行動につなげる「その傾向を前提にすると、次はどう進めますか」
やってはいけない返し方「あなたは〇〇タイプです」と断定する/低い数値を弱点として指摘する/本人の同意なく第三者(上司・人事)に共有する。3つ目は倫理の問題です。

変化を測る設計

よくある質問

コーチングで心理テストを使う意味はありますか?
あります。ただし目的は人を分類することではなく、対話の材料を作ることです。 言語化しにくいものに名前がつくと、本人が自分について話しやすくなります。
Big Fiveとは何ですか?
開放性・誠実性・外向性・協調性・神経症傾向という5つの次元でパーソナリティを捉える枠組みです。 タイプに分類するのではなく、それぞれの次元の程度として表す点が特徴です。
結果を本人にどう返せばよいですか?
断定ではなく仮説として返します。 「この結果はこういう傾向を示しているかもしれませんが、心当たりはありますか」と問い、本人の実感と照らし合わせてください。ずれている場合は本人の実感を優先します。
測ることに副作用はありますか?
あります。ラベルとして固定されること、結果に合わせて行動してしまうこと、選別に使われることです。 何のために測るのかを先に共有し、結果を評価や配置の判断に流用しないことが原則です。
尺度がなくても測れますか?
測れます。「10点満点で、いまは何点ですか」というスケーリングは、その場で使える簡便な測定です。 数値そのものより、その点数の理由と1点上げる条件を聞くことに意味があります。

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参考文献

  1. de Haan, E., Terblanche, N., & Nowack, K. (2026). A randomised controlled comparison of the effectiveness of human and AI chatbot coaching with goal attainment, wellbeing and self-efficacy. Human Resource Development International. doi:10.1080/13678868.2026.2633990
  2. Tennant, R., et al. (2007). The Warwick-Edinburgh Mental Well-being Scale (WEMWBS): Development and UK validation. Health and Quality of Life Outcomes, 5, 63. doi:10.1186/1477-7525-5-63
  3. Cohen, S., Kamarck, T., & Mermelstein, R. (1983). A global measure of perceived stress. Journal of Health and Social Behavior, 24(4), 385–396. doi:10.2307/2136404
  4. Schwarzer, R., & Jerusalem, M. (1995). Generalized Self-Efficacy scale. In J. Weinman, S. Wright, & M. Johnston (Eds.), Measures in health psychology: A user's portfolio (pp. 35–37). NFER-NELSON.
  5. Snyder, C. R., et al. (1991). The will and the ways: Development and validation of an individual-differences measure of hope. Journal of Personality and Social Psychology, 60(4), 570–585. doi:10.1037/0022-3514.60.4.570
  6. Nowack, K. M. (1990). Initial development of an inventory to assess stress and health risk. American Journal of Health Promotion, 4(3), 173–180. doi:10.4278/0890-1171-4.3.173
  7. Zimet, G. D., Dahlem, N. W., Zimet, S. G., & Farley, G. K. (1988). The Multidimensional Scale of Perceived Social Support. Journal of Personality Assessment, 52(1), 30–41. doi:10.1207/s15327752jpa5201_2
  8. Tracey, T. J., & Kokotovic, A. M. (1989). Factor structure of the Working Alliance Inventory. Psychological Assessment, 1(3), 207–210. doi:10.1037/1040-3590.1.3.207
  9. Grant, A. M. (2014). The efficacy of executive coaching in times of organisational change. Journal of Change Management, 14(2), 258–280. doi:10.1080/14697017.2013.805159
監修
一般社団法人 コーチング心理学協会
公開日
2026年8月31日
最終レビュー
2026年8月
注記
本ページは教育・情報提供を目的としたもので、医学的診断・治療の代替ではありません。心身の不調が疑われる場合は医療機関にご相談ください。