作業同盟セルフチェック
暫定・研究中Task・Goal・Bond の3次元・18項目
コーチングの効果に効いている要因として、もっとも繰り返し取り上げられてきたのが作業同盟(working alliance)——つまり関係の質です。 27サンプル・3,563件のコーチング過程を統合したメタ分析では、関係の質と成果の相関は r = .41、望ましくない副作用との相関は r = −.29 と報告されています[1]。 ただし後述するとおり、「関係がよければうまくいく」と単純化できない結果も出ています。このチェックは、点数を上げるためではなく、3つの次元のどこがずれているかを見つけるために使ってください。
【基本方針】
このテストは、「成長・発展・学び」をコンセプトにした、心理学およびデータ解析に基づく心理尺度です。ポジティブ心理学・コーチング心理学・心理的安全性の知見を踏まえ、すべての回答に対してポジティブなフィードバックを提供します。
回答のしかた
いま関わっている特定の1つの関係(この講座、この1on1、この面談)を思い浮かべて答えてください。複数を平均しないほうが、使える結果になります。
作業同盟セルフチェックの結果
TOTAL
18–44低い
45–62普通
63–80高い
81–98かなり高い
99–126
3つの次元のバランス
作業同盟とは何か
作業同盟(working alliance)とは、支援する側と受ける側が「何を目指し、何をするか」で合意し、そのうえで信頼し合っている状態のことです。もともと心理療法の研究から生まれた概念で、コーチングにも取り入れられました。3つの要素に分けて考えます。
- Task(何をするか):進め方・時間の使い方・課題について、納得できているか
- Goal(何を目指すか):目標が共有され、しかもそれが本人にとって意味あるものか
- Bond(信頼と安心):率直に話せるか、判断されないと感じられるか
この3つのうち、実務でいちばん見落とされるのが Goal です。関係が温かくても、目指す先がずれていれば進みません。逆に、Bond が低くても Task と Goal が明確なら、短期の課題は前に進むことがあります。合計点よりも、3つのどこが低いかを見てください。
3つの次元を、ひとつずつ見る
全体を通して見えること
相手の得点と比べる(ずれを見る)
もう一方の立場の人にも同じチェックをしてもらい、下に3つの下位尺度得点を入れると、ずれが表示されます。 研究では、コーチと本人の評価は時間とともに「ずれていく」ことが報告されており[5]、そのずれ自体が対話の材料になります。
高得点でも安心しない:研究が示す4つの但し書き
作業同盟は「効く」と繰り返し言われてきましたが、それを単純に信じてよいとは言えない結果も出ています。ここを知らずに点数だけ見ると、判断を誤ります。
- 同盟の強さは「伸び」を説明しないかもしれない。大規模な無作為化比較試験を再検討した研究では、作業同盟の強さは関係の開始時点での効果の高さとは相関するが、その後セッションを重ねることによる成果の伸びとは有意に相関しなかったと報告されています[2]。「関係を強くすれば成果が伸びる」という因果は、まだ確かめられていません。
- 「関係の満足度」は成果を予測しなかった。49組の縦断研究では、関係への満足度は成果を予測せず、目標に焦点を当てた関係だけが、独立して、はるかに強く成果を予測しました[3]。仲がよいことと、進むことは別です。
- 合意は「本人発」でなければ逆効果になりうる。31組の対話を映像で分析した研究では、クライアントの側から出た目標・課題の合意は成果と正の関連があった一方、コーチの側から出した合意は逆の効果を示しました。さらに、絆をつくる行動は成果に影響せず、行動データと質問紙のデータは相関しませんでした[4]。
- コーチは自分の何が効いているかを取り違えやすい。コーチ76名とクライアント1,217名を比較した研究では、クライアントにとっては共感が成果の強い予測因子だった一方、コーチはその重要性を見落としがちで、自律性支援についても同様でした[6]。
実務への含意。点数を上げにいくのではなく、「目標は本人の言葉になっているか」「合意は本人の側から出ているか」を確かめてください。なお、コーチの経験年数は同盟の強さと関連しませんでした(r = .10, n.s.)。関連したのは、本人の変化への動機(r = .37)と本人から見たコーチの力量(r = .42)です[7]。
最後に、いちばん大切なこと
この結果は、計算式が出した数字にすぎません。全体を通してもっとも重要なのは、AIや数値ではなく、人間を中心に焦点を置くことです。人間としての尊厳と、心理的安全性を大切にすることを何よりも重視します。そして、最終的に意思決定し、行動を選ぶのは、道具でも支援者でもなく、当事者である本人、つまり人間です。数値が実感と違うなら、正しいのは実感のほうです。
振り返りメモ
留意点
このテスト結果は自己理解を深めるための一つのツールであり、すべてを決定づけるものではありません。結果は参考として活用し、他者との対話や日々の行動を振り返ることが大切です。また、このテストは心理学・統計学に基づくものであり、医学的な診断とは異なります。あくまでも行動の指針として参考にしてください。
暫定・研究中研究資料・尺度の位置づけ
本セルフチェックは、Task・Goal・Bond という3次元の枠組み(Bordin の作業同盟理論、および Working Alliance Inventory の構成)を参照しつつ、項目はすべて当協会が独自に作成したものです。既存尺度の項目は使用していません。現在の版は暫定・研究中であり、信頼性係数・因子妥当性・標準化された基準値はまだ算出されていません。得点区分は、7段階評定の理論的中間値(4点)を平均と仮定し、各次元6項目の合計(平均24点・標準偏差6点と設定)から導いた暫定・研究中の値です。
研究目的で確定した数値が必要な場合は、Working Alliance Inventory 短縮版などの標準化された尺度を、権利者の許諾条件にしたがってご使用ください。尺度開発の進行状況と研究計画を見る →
引用・参考文献
- Graßmann, C., Schölmerich, F., & Schermuly, C. C. (2020). The relationship between working alliance and client outcomes in coaching: A meta-analysis. Human Relations, 73(1), 35–58. doi:10.1177/0018726718819725
- de Haan, E., Molyn, J., & Nilsson, V. O. (2020). New findings on the effectiveness of the coaching relationship: Time to think differently about active ingredients? Consulting Psychology Journal, 72(3), 155–167. doi:10.1037/cpb0000175
- Grant, A. M. (2014). Autonomy support, relationship satisfaction and goal focus in the coach–coachee relationship: Which best predicts coaching success? Coaching: An International Journal, 7(1), 18–38. doi:10.1080/17521882.2013.850106
- Gessnitzer, S., & Kauffeld, S. (2015). The working alliance in coaching: Why behavior is the key to success. The Journal of Applied Behavioral Science, 51(2), 177–197. doi:10.1177/0021886315576407
- Williams, J. S. (2021). An empirical investigation of coaching ingredients: The role of the coach–coachee relationship in influencing coaching outcomes. Coaching: An International Journal. doi:10.1080/17521882.2021.1979612
- Zerle, G., et al. (2026). Comparing the perspectives of coaches and clients on the coaching process. Coaching: An International Journal. doi:10.1080/17521882.2026.2672922
- Graßmann, C., & Schermuly, C. C. (2020). Understanding what drives the coaching working alliance: A systematic literature review. Academy of Management Proceedings. doi:10.5465/ambpp.2020.259
- オリオーダン, S.・パーマー, S.(編)徳吉陽河(監訳)(2023). コーチング心理学ガイドブック 北大路書房
- 徳吉陽河(2024). 科学的に正しい脳を活かす「問いのコツ」 総合法令出版
- 徳吉陽河(2023). ポジティブ大全 総合法令出版
- 一般社団法人コーチング心理学協会資料/一般社団法人ポジティブ心理カウンセラー協会資料