AIを活用したコーチング・カウンセリング、1on1の支援法 ポジティブ心理学 AIコーチング入門
コーチングやカウンセリングにおけるクライエントの支援に役立つAI活用法
ウェルビーイングを高めるための「AI×物語的アイデンティティ」研究まとめ
ポジティブ心理学の分野では、ChatGPTのようなAIが、コーチやセラピストの支援に活用できるかを積極的な新しい研究が行われています。例えば、クライエントに自分の物語(ナラティヴ・エピソード)を語ってもらい、その内容をAIが分析することで、より適切な支援方法を検討する手助けになります。ナラティヴに関しては、以下の講座がおすすめです。
私たちの協会でも、コーチングや心理療法など、さまざまなアプローチにAIを取り入れ、実践に活かしていきたいと考えています。
ただし、AIが人間のコーチングをすべて代わりに行うのではなく、人間としてのコーチやカウンセラーは「第三者の視点」を持ち、「クライエント」本人では気付けない視点をAIを活用しながらクライエントの気づきを促す、引き出す役割を担うことが、とても大切だと考えています。今回は、以下の論文を元にAIを活用したコーチ・カウンセラーの支援を検討します。
◆原著論文
https://www.tandfonline.com/doi/epdf/10.1080/17439760.2023.2257642
1. 背景と問題意識
- 人は自分の人生を「物語」として語る。
- これは「物語的アイデンティティ(narrative identity)」と呼ばれ、自分が誰であり、何を大切にし、どんな未来を目指すかを形づくるもの。(McAdams,1985)
- コーチングや心理療法では、クライアントの物語を聴き、それを整理し、洞察や成長につなげるのが重要。
- しかし、物語の聴き取りや整理は時間がかかり、労力も大きい。
→ そこをAIがサポートできるのでは? というのが今回の研究の出発点。
2. 研究の進め方
ステップ①
- 参加者に「意識の流れ」的な短い思考(stream of consciousness)を50個書いてもらう。
- 日記のように、自分の考えを断片的に書き連ねるイメージ。
ステップ②
- それをChatGPT-4に入力し、個人ごとの「物語的アイデンティティ」を自動生成させる。
例:
「アリゾナ州在住、47歳、モルモン教徒、4児の父で献身的。しかし内面には疲労感と人生への問いがある。健康やフィットネスへの執着、宗教との微妙な距離感、自己成長への強い欲求が見える」…など、非常に詳細な個人像が生成される。
ステップ③
- 次に以下のプロンプトをGPTに投げる:
I am a life coach. Here is my client’s personal narrative: “{個人の物語}” Based on this narrative identity how would you advise me to coach {him/her}? - さらに
Please suggest specific interventions based on this narrative identity and coaching approach.と続ける。
3. 主な結果
- 研究者らが作成したAIによるナラティブ生成を、参加者の**89%**が「完全に正確」または「ほぼ正確」と評価。
- 78%が「非常に驚き」または「多少驚きがあった」と回答。
- 69%が「新たな洞察を得た」と答えた。
→ AIが個人の内面を的確に捉えた! と多くの参加者が感じた。
4. AIが生成するコーチングの中身
ChatGPT-4は単に「優しい声掛け」ではなく、具体的なコーチング戦略と介入策を提案する。
例)47歳男性への推奨
- 価値観と目標を整理する
- 例:カードソート、日記による内省
- 後悔を再解釈する
- 若い頃の自分に手紙を書くなどのワーク
- 健康とフィットネスを現実的に扱う
- 家族と個人の時間の両立
- 宗教との関係を再検討する
- 批判的思考を社会貢献へ活かす
- 読書、ポッドキャスト、コミュニティ参加など自己発見のツールを提示
- マインドフルネスや瞑想を取り入れる
- 定期的なフォローアップ
- 必要に応じて専門家と連携
すごいのは、介入が「手段レベル」まで具体的であること。例えば「家族と個性のバランス」のために週単位のスケジュール作りを提案するなど。
5. この研究の意義
セリグマン先生曰く:
「これは科学心理学の歴史の中でまれな瞬間だ。AIは今、より効果的な心理療法とコーチングを約束している。」
- AIは「人間に代わる」ものではない。
- 物語的アイデンティティの分析や介入の提案など、膨大な労力がかかる作業を代行。
- コーチやセラピストは、人間にしかできない共感・洞察・関係構築に集中できる。
- クライアントとコーチ/セラピスト間の「相互理解の深まり」にもつながる。
まとめ
- AIは人を代替するのではなく、人を助ける。
- AIが個人の物語を「構造化」し「洞察」や「介入提案」まで導き出すことが可能になってきた。
- ウェルビーイング支援、コーチング、心理療法はAIとの協働で新たな可能性を広げつつある。
「AI assistance for coaches and therapists」by Blyler & Seligmanの論文をもとに、実際にどうやってAI支援をコーチングや心理支援の現場で活用するのか、「実践の流れ」を検討しました。
「AI × ナラティブコーチング」実践フロー
【STEP 1】クライアントの“意識の流れ”を収集する
▼やること
- クライアントに 意識の流れ(stream of consciousness) の文章を複数書いてもらう
- 例:
- 「今、頭に浮かんでいることを50個書いてください」
- 「最近の心配事や、考えていること、夢中なことなど、どんな内容でもいいです」
- 例:
- 文字数は短くてもOK。断片的なメモで十分。
▼ねらい
- ナラティブ(個人の物語)的アイデンティティをAIが抽出するための材料集め
【STEP 2】意識の流れ+属性情報をAIに入力
▼やること
- 集めた文章とクライアントの属性情報(年齢、性別、居住地、信仰など)を ChatGPT-4 に入力
入力例(プロンプト)
以下は私のクライアントの意識の流れとプロフィールです:
[意識の流れテキスト]
プロフィール:
- 年齢:〇歳
- 性別:〇
- 居住地:〇
- 宗教:〇
- 職業:〇
など
この情報から、クライアントの物語的アイデンティティを文章化してください。
【STEP 3】AIによるナラティブ生成
▼やること
- ChatGPT-4が その人固有の物語的アイデンティティ を生成する
出力される内容(例)
「彼は家族に献身的だが、内面には深い疲労感と自己成長への渇望を抱いている。宗教への信仰は大切だが、同時に教会への退屈感を感じている…」
→ クライアント像の可視化 ができる
【STEP 4】AIにコーチング方針を尋ねる
▼やること
- 次のような追加プロンプトをAIに投げる
プロンプト例
私はライフコーチです。以下はクライアントの物語的アイデンティティです:
[AIが生成したナラティブ]
この情報に基づき、私がクライアントをどのようにコーチングすべきかアドバイスしてください。
→ AIが具体的な コーチング方針 を提案してくれる
【STEP 5】AIに具体的介入方法をリクエスト
▼やること
- 同じチャットの中で、さらに 具体的な介入案 を出すようAIに依頼
プロンプト例
このクライアントの物語的アイデンティティと、あなたが提案したコーチング方針に基づき、
具体的な介入方法やワーク、ツール、質問例を提案してください。
【STEP 6】AIの提案をコーチが吟味
▼やること
- AIが提案したアプローチを読んで、コーチ自身が
- クライアントに合う部分を採用する
- 修正・カスタマイズする
- 不要な部分を除く
AI提案はあくまで ヒントや素材。最終的に、人間の専門性・意思決定で取捨選択することを大切にする。
【STEP 7】クライアントとのセッションで活用
▼やること
- 実際のコーチングやセラピーの場で
- AIが提案した質問を投げてみる
- 提案されたワークを試す
- クライアントの反応を見て調整する
例:
- 「過去の後悔を手紙に書いてみませんか?」
- 「あなたにとって大事な価値観トップ3を選んでみましょう」
- 「マインドフルネスの練習を始めてみませんか?」
【STEP 8】継続支援と進捗管理
▼やること
- AIに経過報告を入力し、新たな提案をもらう
- 定期的にAIを活用しながら
- 新たな問い
- 修正された介入案
- 次のステップの提案
を受ける
例:
前回のセッション後、クライアントは〇〇と話していました。
今後の支援のために、新たな提案はありますか?
論文のフローの強み
✅ ナラティブの自動生成 → クライアント理解の加速
✅ 問いの提案 → 洞察を引き出す質の向上
✅ 介入案まで具体化 → 即実践につながる
✅ 時間と労力を大幅に削減
✅ 人間の専門性を活かす余地が残る(AIにすべて任せない)
実践のヒント
- 短時間セッションでもクライアント理解が深まる
- 1on1コーチングやウェルビーイング・ワークショップに活用可能
- AIは「質問例」「ワーク案」生成ツールとして非常に有効
- プライバシー配慮が必須(特に個人情報の取り扱い)
次に、AIの回答をもとに、コーチやカウンセラーが対話支援していくための質問法について探究します。
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投稿者プロフィール

- 徳吉陽河(とくよしようが)は、コーチング心理学研究会・コーチング心理学協会の創設者の一人であり、日本・世界のおけるコーチング心理学のパイオニア。コーチング心理士、公認心理師・キャリアコンサルタント、認定心理士(心理調査)、ポジティブ心理療法士、として教育・医療・福祉・産業分野で活動する専門家。東北大学大学院博士後期課程で研究し、国際コーチング心理学会、国際ポジティブ心理学会など、世界で学び、研究を発表。教育プログラム、心理尺度開発なども専門としている。著書に『ポジティブ大全』『科学的に正しい脳を活かす「問いのコツ」 結果を出す人はどんな質問をしているのか?』『ナラティヴ・セラピー BOOK』、『コーチング心理学ガイドブック』『コーチング心理学ハンドブック』などの翻訳書などがあり、科学的なエビデンスと物語(ナラティブ)に基づくコーチングとウェルビーイング教育を推進している。累計4000名のコーチ、カウンセリング実績」(ワークショップを含む)、「累計6000回以上のセミナー実績」以上の実績がある。国土交通省 航空保安大学講師、元東北文化学園大学講師、元仙台医療センター看護学校講師、元若者サポートセンター講師など。教育機関、海外・国外の法人企業などで講師を担当実績がある。学校法人・企業法人・医療法人(リハビリ)など、主に管理職に関わる講師を数多く担当。座右の銘は、「我以外皆我師」、失敗・挫折もたくさんしており、「万事塞翁が馬」大切にしている。「自己肯定感が低いからこそ成長できる」ことを大切にしている。
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