発達障害支援とナラティヴ・コーチングとの関係

 

発達障害支援コーチング
entry当協会では、発達障害支援(ニューロダイバーシティ)に関わる前向きな支援、コーチングを専門的に開催しております。

発達障害支援とナラティヴ・コーチング

― 「ラベル」ではなく「物語」で支援する ―


■ なぜナラティヴが発達障害支援に有効なのか

発達障害(ASD・ADHD・LDなど)の支援では、しばしば「診断名」「行動特徴」「困難さ」が中心に語られがちです。
しかしナラティヴ・アプローチでは、人を「症状」や「問題」としてではなく、

「その人がどのように経験を語り、意味づけているか」
に焦点を当てます。

つまり、人をラベルではなく物語として理解することを目指します。


■ ナラティヴ的支援の基本原則

視点 ナラティヴ的解釈
人が問題なのではなく、問題が問題である 行動や困難を「人の性格」と結びつけず、環境・経験・物語の中で理解する
ドミナント・ストーリー(支配的物語)からの解放 「落ち着きがない子」「空気が読めない人」といった固定的語りを解体
オルタナティブ・ストーリー(新しい物語)の創造 その人が大切にしている価値・強み・希望を再発見し、別の語り方を紡ぐ
共同編集(Co-construction) 支援者・本人・家族・教師・職場が一緒に新しい語りをつくる

■ 発達障害支援におけるナラティヴ的実践例

① 「問題行動」を“物語”として再構成する

たとえば、ある児童が授業中に立ち歩いてしまうとき、
「落ち着きがない」「集中できない」と問題視するのではなく、

  • どんな場面で?
  • 何を求めて?
  • どんな感情を抱いていた?
  • その行動が本人にとって“どんな意味”を持つのか?
    を一緒に探っていく。

🔹支援者の問い
「そのとき、体が動くことでどんな気持ちが少し楽になったの?」
「立ち歩くことが、“何かを伝えるサイン”だとしたら?」

これにより、行動の背景にある感情・意図・価値が見えてくる。


② “ラベル”を超えた「自分史」の共同編集

発達障害のある青年が、過去の失敗体験を「自分の欠点の証拠」と語ることがあります。
しかし、ナラティヴ・セッションでは、それを成長の物語として再編集します。

🔹支援的質問例

  • 「そのとき、あなたを助けてくれた人は誰でしたか?」
  • 「その経験から何を学びましたか?」
  • 「その時のあなたを見て、“がんばってたね”と言えるとしたら、何て言いますか?」

🔹効果
自己否定的語りが「挑戦してきた自分」「支援を求められた自分」という肯定的物語に変わる。
これにより**自己効力感・セルフアドボカシー(自己主張力)**が育つ。


③ チーム支援・ケース会議へのナラティヴ導入

医療・福祉・教育・企業(就労支援)など、多職種連携の場では、
本人不在のまま「○○さんの課題」「支援方針」が一方的に決められることがあります。

ナラティヴ・ファシリテーションを導入することで、

  • チーム全員で「本人の語り」を共有し、
  • それぞれがどの物語を基に支援しているのかを見える化し、
  • 支援方針を「本人の物語」に沿って再構成する
    ことが可能になります。

🔹事例:発達障害就労支援センター(英国・NAS事例)
スタッフ会議で「本人抜きの“評価会議”」を改め、本人の語りを音声・動画で共有。
結果、支援方針が「行動修正」から「環境調整+意味づけ支援」へ転換。
就労継続率が向上。


④ コーチング心理学 × ナラティヴ支援

発達障害支援では、「できないことを減らす」よりも「できること・やりたいことを広げる」支援が有効です。
コーチング心理学では、対話によって希望とエフィカシーを高めることを目的とします。

コーチング心理学の技法 ナラティヴ支援での活用例
外在化質問 「ミスを繰り返す自分」→「“焦りモンスター”が近づくとき、どう感じる?」
リフレクティブ質問 「その経験から何を学んだ?」
ストレングス・フィードバック 「注意深く考えるあなたの強みは、どんな場面で役立ちそう?」
未来ストーリー設計 「1年後、理想のあなたが語るストーリーは?」

これらの問いにより、「障害中心の物語」から「成長・可能性の物語」へと転換します。


■ 学校・企業・地域での応用例

領域 ナラティヴ導入の形 効果
学校 授業・進路面談で「自分の物語づくり」ワーク 自己理解・レジリエンスの向上
特別支援教育 行動支援計画に「本人の語り」を反映 支援方針の納得感と実効性
企業(就労支援) 面談・キャリアデザイン面接に「ナラティヴ1on1」導入 離職率の低下・職場適応の改善
地域・福祉 本人・家族・支援者の語りを共有する「ストーリー会議」 共感的理解・支援連携の強化

■ ワーク例:「わたしの物語マップ」

ステップ 内容 ファシリテーターの問い
Step 1 小さいころの印象的な出来事を書く 「それはあなたにとってどんな意味を持つ出来事でしたか?」
Step 2 困難を感じた場面を書き出す 「そのとき助けてくれた人・物・出来事はありましたか?」
Step 3 成功体験・嬉しかったことを書く 「どんな力を使ってうまくいったと思いますか?」
Step 4 今の自分を一言で表すタイトル 「“〇〇の途中”など、物語のタイトルをつけてみましょう」
Step 5 未来に向けた物語を描く 「5年後のあなたは、どんな場面で輝いていますか?」

■ ナラティヴ支援がもたらす心理的変化
項目 変化
自己理解 自分の困難や特徴を“意味づけ”として受け止められる
自尊感情 「できない自分」ではなく「努力してきた自分」として再評価
対人関係 他者の語りを聴くことで共感的理解が深まる
レジリエンス 過去の困難を“成長物語”に変換し、再挑戦する力が生まれる
主体性 支援を受ける立場から「自分の物語を選び取る人」へ変化


✏発達障害支援におけるナラティヴアプローチ:現状と課題

発達障害支援におけるナラティヴアプローチは、本人の生活や経験、物語を中心に据えた支援方法として注目されています。特に、本人の主体性や社会参加を促進する実践的な枠組みとして意義が強調されています。

ナラティヴアプローチの特徴と意義

  • ナラティヴアプローチは、発達障害のある子どもや生徒の「生活」を中心に、日常的な経験や物語を通じて自立や社会参加に必要な力を育むことを重視します。指導計画の作成においても、教科ごとの目標や内容を「生活上の目標や課題」に統合し、本人の経験や語りを活かすことが求められています 。
  • 形式的・画一的な活動から脱却し、個々の違いを反映した授業設計や展開が課題とされており、本人の主体性を強調した指導計画の樹立が重要視されています 。
  • 自閉症スペクトラム児へのナラティヴ的支援の実践例では、「共同想起」や「記述」を用いた介入が、本人の発達や社会的理解の促進に寄与することが示唆されています 。

実践上の課題と今後の展望

  • ナラティヴアプローチの正確な理解や、個別性を重視した指導計画の作成、活動の定型化からの脱却が課題として挙げられています
  • 教員の専門性向上や、統合的な指導計画樹立のための具体的なガイドラインの提示が今後の重要な課題です 。

ナラティヴアプローチの実践的意義と課題

特徴・意義 主な課題・今後の展望
生活・経験・物語を中心とした支援 個別性を反映した指導計画の作成
自立・社会参加能力の育成 活動の定型化からの脱却
共同想起・記述による発達支援 教員の専門性向上・ガイドライン整備

Figure 1: ナラティヴアプローチの意義と課題を整理した表

まとめ

ナラティヴアプローチは、発達障害支援において本人の主体性や生活経験を重視し、個別性に応じた支援を実現する有効な枠組みです。一方で、実践のための指導計画や教員の専門性向上など、今後の課題も明確になっています。

 

投稿者プロフィール

徳吉陽河
徳吉陽河
徳吉陽河(とくよしようが)は、コーチング心理学研究会・コーチング心理学協会の創設者の一人であり、日本・世界のおけるコーチング心理学のパイオニア。コーチング心理士、公認心理師・キャリアコンサルタント、認定心理士(心理調査)、ポジティブ心理療法士、として教育・医療・福祉・産業分野で活動する専門家。東北大学大学院博士後期課程で研究し、国際コーチング心理学会、国際ポジティブ心理学会など、世界で学び、研究を発表。教育プログラム、心理尺度開発なども専門としている。著書に『ポジティブ大全』『科学的に正しい脳を活かす「問いのコツ」 結果を出す人はどんな質問をしているのか?』『ナラティヴ・セラピー BOOK』、『コーチング心理学ガイドブック』『コーチング心理学ハンドブック』などの翻訳書などがあり、科学的なエビデンスと物語(ナラティブ)に基づくコーチングとウェルビーイング教育を推進している。累計4000名のコーチ、カウンセリング実績」(ワークショップを含む)、「累計6000回以上のセミナー実績」以上の実績がある。国土交通省 航空保安大学講師、元東北文化学園大学講師、元仙台医療センター看護学校講師、元若者サポートセンター講師など。教育機関、海外・国外の法人企業などで講師を担当実績がある。学校法人・企業法人・医療法人(リハビリ)など、主に管理職に関わる講師を数多く担当。座右の銘は、「我以外皆我師」、失敗・挫折もたくさんしており、「万事塞翁が馬」大切にしている。「自己肯定感が低いからこそ成長できる」ことを大切にしている。

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