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次世代におけるコーチングの役割　コーチング心理学の視点から

2025年10月14日 / 最終更新日 : 2025年10月24日徳吉陽河 AIコーチング

次世代におけるコーチングの役割　コーチング心理学の視点から

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🌍 次世代コーチングの役割

―「変化の時代」における意味・成長・つながりの支援―

Forbes掲載の原文内容（Bachkirova & Kemp, 2023 など）
https://www.forbes.com/sites/michaelhudson/2025/08/28/a-coach-in-your-pocket-the-paradox-of-ai-in-human-development/

🌿 本物のコーチングの構造 ― AI時代における「人間のコーチ」の価値とは ―

AIが進化し、チャット型コーチングや自動目標管理ツールが普及する中で、
「人間のコーチにしかできないこと」は何か。
研究者のTatiana Bachkirova氏とRob Kemp氏らは、プロフェッショナルなコーチングを特徴づける6つの本質要素を提示しています。
これらはAIには“近似できても再現できない”人間固有の働きです。

🔹 1. 共同探究 ― 共に考え、共に気づく

本物のコーチングは、コーチが答えを教える場ではなく、クライアントと共に探究する場です。
2人の思考が交差する「共同の思考空間」から、新しい発見や気づきが生まれます。
AIの対話は構造的ですが、人間同士の「本物の好奇心」や「間（ま）」から生まれる洞察には及びません。

🔹 2. 行動の意味づけ ― “なぜそれをするのか”を深める

目標達成だけでなく、行動の背後にある価値や意味を探るのが人間のコーチングです。
「何を達成したいか」ではなく、「それが自分にとってなぜ大切か」を問い直すことで、
行動が人生全体の文脈に結びつきます。
これは、AIには読み取れない「人の物語」や「文化的背景」の理解が必要です。

🔹 3. 価値観と倫理 ― 複雑な現実の中でバランスを取る

コーチは、組織の目標、個人の価値観、社会的責任の間でバランスを取りながら支援します。
このとき重要なのは、クライアントの自律性を守る倫理的姿勢です。
AIは倫理判断を「ルール」で行いますが、
人間は感情・状況・信頼関係の文脈を含めた“総合的判断”を行います。

🔹 4. 文脈理解 ― 見えない背景を読む力

人の変化は、組織文化・人間関係・個人史など、多層的な文脈の中で起こります。
言葉にならないニュアンスや沈黙の意味を感じ取ることも、コーチの重要な力です。
AIには、「行間を読む」「場の空気を感じ取る」といった人間的センスは再現できません。

🔹 5. 関係性の調和 ― 安心と変化を生む“つながり”

クライアントが「本当に見られている」と感じるとき、
そこに心理的安全性と変化のエネルギーが生まれます。
この**存在の質（presence）**こそ、コーチングの生命線です。
AIとの対話には快適さがありますが、成長に必要な“適度な緊張”は欠けています。

🔹 6. クライアントの自律性 ― 自分の力で進めるように

真のコーチングは、クライアントが自分で考え、選び、行動できる力を育てます。
コーチは導くのではなく、自立を支援する伴走者です。
この「関わりながら手放す」バランスは、人間の知恵と感性があってこそ可能です。

🔸 「ヒート（熱）」と成長 ― 成長には適度な不快感が必要

スイスの哲学者マックス・ピカールは「会話の中には、沈黙という第三の参加者がいる」と言いました。
人間の対話では、この沈黙が**緊張感（ヒート）**を生み、成長を促します。

リーダーシップ研究者Nick Petrie氏は、「ヒート体験（Heat Experience）」が人を“縦方向に成長”させる条件だと述べています。
それは「初めての挑戦」「結果の重要性」「不快な緊張」を含む体験です。
AIとの対話は安全で快適ですが、そこにはこの**「生産的な不快感」**が欠けており、
真の変化を促す力は生まれにくいと指摘されています。

🤝 競争から協働へ ― AIと人間の新しい関係

AIが悪いのではありません。
AIは、目標管理・行動記録・リマインドなど、補助的な支援には非常に有効です。
一方、人間のコーチは、意味づけ・倫理・感情共感など、人間的深みを要する領域に集中できます。

理想は、「AIが支える日常＋人間が導く変革」というハイブリッド型コーチング。
この組み合わせにより、より多くの人が質の高い支援にアクセスできる未来が期待されます。

🔮 「人間の力」を再定義する時代へ

AI時代のコーチングは、「人とAIのどちらが優れているか」ではなく、
両者が協働して、人の成長をより深く支える仕組みを作ることが求められています。

しかし、忘れてはならないのは――
人が人を支えるときに生まれる、沈黙・緊張・共感・倫理といった**“還元不可能な人間性”**です。

🌱 本物のコーチングとは、効率ではなく「意味」を生み出す人間的対話の場である。
未来のコーチは、AIを超えて「人の物語に寄り添う存在」である。

社会的役割：変化と不確実性の時代に「人間らしい成長」を支える

次世代（2030年代以降）は、AI・自動化・人口構造変化・気候危機など、
社会の不確実性（VUCA）がさらに高まる時代です。

その中で、コーチングの役割は「成果支援」から「人間の回復力（Resilience）支援」へと移行しています。

時代	コーチングの焦点	社会的意義
20世紀末〜2000年代	成果・生産性・リーダーシップ開発	組織成果の最適化
2020年代以降	意味・関係性・ウェルビーイング	個と組織の持続的成長・共生

🌱 次世代のコーチングは、「人が成果を出す支援」ではなく、「人が人間らしくあり続ける支援」へ。

心理的役割：内省・レジリエンス・希望の再構築

次世代における最大の課題は、**「情報過多と孤立」**です。
AI・SNSによって知識は増えても、自己理解や他者との深い関係性は希薄になりがちです。

コーチング心理学（Coaching Psychology）はこの流れの中で、
「自己効力感の回復」「内省の質の向上」「心理的安全性の確保」という3つの領域で大きな役割を担います。

領域	コーチングの機能	背景理論
自己理解	自分の価値・感情・目的を見つめる	自己決定理論（Deci & Ryan, 2000）
レジリエンス	逆境からの回復・意味づけ	ポジティブ心理学2.0（Wong, 2011）
希望の再構築	「未来を想像する力（Prospection）」を育む	Seligman & Kellerman, 2023

💡 次世代のコーチは、“問いを投げる人”ではなく、“希望の文脈を共に創る人”になる。

テクノロジーとの共進化：AI時代の「共感的倫理実践」

AIの進化により、情報の整理・目標管理・分析は自動化されつつあります。
その中で、人間のコーチにしかできない役割は次の3つです。

人間コーチの不可欠な役割	内容	背景
① 文脈理解（Contextual Intelligence）	数値化できない人間関係・文化的背景の理解	Narrative Coaching（Stelter, 2019）
② 感情の共鳴（Empathic Presence）	クライアントの感情に共に在る	Presence Theory（Geller, 2021）
③ 倫理的判断（Ethical Presence）	AIでは代替できない人間的判断	ISCP Code of Ethics, 2023

AI時代のコーチング倫理とは、
「AIが分析するデータ」ではなく、「人間が生きる物語」を扱う実践です。
つまり、**テクノロジーと人間性を架け橋する“関係のデザイン職”**へと進化しています。

倫理的・文化的役割：多様性の中で「共に生きる智慧」を育む

次世代社会では、文化・ジェンダー・価値観の多様化がさらに進みます。
コーチングは、単に個人の成果を高めるスキルではなく、
「対話による共生（Dialogical Coexistence）」の技術として社会的意義を持ちます。

領域	コーチングの意義	関連理論
文化的多様性	他者の“正しさ”を理解する姿勢を育む	Ho Law, 2021
世代間の橋渡し	経験知と新しい価値観の共創	Narrative Learning
組織文化	心理的安全性をベースとしたチーム支援	Edmondson, 2022

🌈 次世代のコーチングは、“人を変える”のではなく、“人と人をつなぐ”学問である。

5. 次世代のコーチ像（未来型コンピテンシー）

領域	次世代コーチに求められる資質	関連スキル
倫理性（Ethical Presence）	安全で誠実な関係を体現する	ISCP倫理準拠・倫理的リフレクション
共創力（Co-creative Dialogue）	対話を通して意味を共に生み出す	ナラティヴ・ダイアログ
文化感受性（Cultural Literacy）	多様な背景を理解し尊重する	インクルーシブ・コーチング
テクノロジー活用力（Techno-empathy）	AI時代における共感的デジタル対話	デジタル倫理実践
自己洞察（Reflective Practice）	自分の価値・限界・影響を理解する	スーパービジョン・内省習慣

コーチングは「人間の可能性を守る文化装置」へ

次世代において、コーチングの役割はこう要約できます。

🔹 個人の可能性を最大化する技術から、
🔹 社会の関係性と人間性を守る文化的実践へ。

AI・不確実性・多様性の時代において、
コーチングは「人が人を理解し続ける」ための倫理的・心理的インフラとなるでしょう。

🌿 コーチングとは、未来を共に語る“希望の対話”である。

📚 参考文献

O’Riordan, S., & Palmer, S. (Eds.) (2021). Introduction to Coaching Psychology. Routledge.
Neenan, M., & Palmer, S. (2022). Cognitive Behavioural Coaching in Practice (2nd ed.). Routledge.
Seligman, M. E. P., & Kellerman, G. R. (2023). Tomorrowmind. Atria Books.
Stelter, R. (2019). The Art of Dialogue in Coaching. Routledge.
Wong, P. T. P. (2011). Positive Psychology 2.0: Towards a balanced model of wellbeing.
Edmondson, A. (2022). The Fearless Organization. Wiley.
Ho Law, H. (2021). Coaching and Diversity.

🌿 次世代コーチ育成プログラム（Next-Generation Coaching Development Program）

―コーチング心理学 × ポジティブ心理学による人間中心の学習設計―

1️⃣ プログラムの基本理念

視点	内容
目的	「他者の可能性を引き出す人」ではなく、「共に意味を創る人」を育成する。
理論基盤	Coaching Psychology（O’Riordan & Palmer, 2021）／Positive Psychology 2.0（Wong, 2011）／Relational Coaching（Stelter, 2019）
倫理的原則	尊重（Respect）・共創（Co-creation）・心理的安全性（Safety）・多様性（Diversity）・誠実（Integrity）
教育目標	「対話」「自己理解」「レジリエンス」「倫理的プレゼンス」を実践的に体得する。

2️⃣ 教育フレーム：4層構造（Learning Architecture）

レベル	名称	学習テーマ	学習成果（Learning Outcomes）
L1	自己理解（Self Awareness）	自分の価値観・信念・感情への洞察	コーチとしての「あり方（Being）」を確立
L2	関係構築（Relational Presence）	傾聴・共感・心理的安全性の創出	安全で尊重的な対話の場をつくる力
L3	意味創造（Meaning & Growth）	ポジティブ心理学・ナラティヴ・レジリエンス	クライアントの意味づけと成長を支援
L4	社会的実践（Ethical & Systemic Practice）	倫理・多様性・AI時代の倫理的判断	倫理的・持続的に関係をデザインする力

3️⃣ カリキュラム構成（全4モジュール）

🌱 Module 1：自己理解とレジリエンス（Self-understanding & Resilience）

目的：コーチ自身の内的リソースと限界を理解し、倫理的プレゼンスを育む。

内容	学習アクティビティ	理論背景
自己決定理論（SDT）	価値観マッピング／内的動機づけの探求	Deci & Ryan, 2000
感情リテラシー	ジャーナリング／感情命名ワーク	Goleman, 1998
レジリエンス形成	自己物語の再構成（Narrative Reflection）	Wong, 2011

💬 「自分を理解することは、他者を安全に支える第一歩。」

🌿 Module 2：関係性と心理的安全性（Relational Coaching & Safety）

目的：共感的な関係性を構築し、クライアントの安心感を支える力を養う。

内容	学習アクティビティ	理論背景
傾聴と共感的対話	ペアコーチング実習／沈黙の活用	Carl Rogers, 1957
心理的安全性	チーム対話による安全性診断	Edmondson, 2022
非暴力コミュニケーション（NVC）	フィードバック実践／感情ニーズモデル	Rosenberg, 2003

🌼 「安全な場をつくれる人は、学びを生み出せる人。」

🌻 Module 3：ポジティブ心理学的介入（Positive Coaching Interventions）

目的：ポジティブ心理学第2世代の介入を活用し、深い意味と希望を共創する。

内容	実践ワーク	理論背景
強みの探求（VIA Strengths）	強み対話・ペア探索	Peterson & Seligman, 2004
感謝と希望の育成	「明日への手紙」ワーク	Emmons, 2013; Seligman, 2018
意味の再構築	喪失・変化のナラティヴコーチング	Wong, 2011; Stelter, 2019

🌱 「ポジティブとは、無理に明るくすることではなく、深く受け止める力である。」

🌏 Module 4：倫理・多様性・AI時代のコーチング（Ethical Coaching in the Digital Era）

目的：テクノロジーと共存しながら、人間的倫理と文化的感受性を持つコーチを育成。

内容	学習アクティビティ	理論背景
倫理的ジレンマ演習	ケーススタディ・グループ対話	ISCP Code of Ethics, 2023
多様性・文化理解	立場性（positionality）ワーク	Ho Law, 2021
AI・テクノロジー倫理	AIコーチング実験とリフレクション	Kellerman & Seligman, 2023

🤝 「AIの時代こそ、人間らしい誠実さと共感が問われる。」

4️⃣ 実践要素（Learning by Doing）

項目	内容
スーパービジョン	経験豊かなコーチ心理学者による倫理的・実践的レビュー
リフレクティブ・ジャーナル	毎セッション後に自己省察を記録し、学びを言語化
ピア・コーチング	学習者同士の安全な実践環境で対話訓練
ケース・ポートフォリオ	コーチング事例を倫理・心理学の観点から分析・提出

5️⃣ 成果指標（Competency Outcomes）

領域	習得スキル	評価方法
自己理解	内的動機・価値の明確化	リフレクティブ・エッセイ
対話力	傾聴・共感・質問力	実技評価（ロールプレイ）
倫理性	ISCP基準に基づく判断	倫理ケーススタディ
意味創造	ナラティヴ再構築スキル	ケース分析レポート
社会的貢献	コーチングを通した実践活動	フィールドプロジェクト

6️⃣ プログラム後の展開

段階	内容
修了認定	ISCP倫理基準準拠の修了証発行（Coaching Psychology Diploma）
継続教育（CPD）	年2回の倫理・心理研究アップデートセミナー
共同研究／実践ネットワーク	大学・企業・地域での「ウェルビーイング・コーチング」実践共有
AI時代の学習共同体	テクノロジーと人間的対話を融合する学習型コミュニティ形成

🧭 結語

次世代コーチ育成のゴールは、
「成果を出すスキル」ではなく、
「人が安全に変化できる文化をつくる力」を育てることにある。

コーチングは、未来社会における「人間理解のインフラ」であり、
AI・多様性・不確実性の時代を生き抜く倫理的対話の技術として進化していく。

📚 参考文献

O’Riordan, S., & Palmer, S. (2021). Introduction to Coaching Psychology. Routledge.
Seligman, M. E. P., & Kellerman, G. R. (2023). Tomorrowmind. Atria Books.
Stelter, R. (2019). The Art of Dialogue in Coaching. Routledge.
Wong, P. T. P. (2011). Positive Psychology 2.0.
Edmondson, A. (2022). The Fearless Organization.
Ho Law (2021). Coaching and Diversity.
ISCP (2023). Code of Ethics and Good Practice for Coaching Psychologists.

投稿者プロフィール

徳吉陽河

徳吉陽河（とくよしようが）は、コーチング心理学研究会・コーチング心理学協会の創設者の一人であり、日本・世界のおけるコーチング心理学のパイオニア。コーチング心理士、公認心理師・キャリアコンサルタント、認定心理士（心理調査）、ポジティブ心理療法士、として教育・医療・福祉・産業分野で活動する専門家。東北大学大学院博士後期課程で研究し、国際コーチング心理学会、国際ポジティブ心理学会など、世界で学び、研究を発表。教育プログラム、心理尺度開発なども専門としている。著書に『ポジティブ大全』『科学的に正しい脳を活かす「問いのコツ」結果を出す人はどんな質問をしているのか?』『ナラティヴ・セラピー BOOK』、『コーチング心理学ガイドブック』『コーチング心理学ハンドブック』などの翻訳書などがあり、科学的なエビデンスと物語（ナラティブ）に基づくコーチングとウェルビーイング教育を推進している。累計4000名のコーチ、カウンセリング実績」（ワークショップを含む）、「累計6000回以上のセミナー実績」以上の実績がある。国土交通省　航空保安大学講師、元東北文化学園大学講師、元仙台医療センター看護学校講師、元若者サポートセンター講師など。教育機関、海外・国外の法人企業などで講師を担当実績がある。学校法人・企業法人・医療法人（リハビリ）など、主に管理職に関わる講師を数多く担当。座右の銘は、「我以外皆我師」、失敗・挫折もたくさんしており、「万事塞翁が馬」大切にしている。「自己肯定感が低いからこそ成長できる」ことを大切にしている。