現代のコーチングにおける主要な変化(従来型 vs 現代的コーチング心理学)

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🌿 現代のコーチングにおける主要な変化(従来型 vs 現代的コーチング心理学)

項目 従来のコーチング(2000年代初期) 現代のコーチング心理学(2020年代以降) 理論・文献
焦点(Focus) 目標達成・成果志向(Performance) 意味・ウェルビーイング・持続的成長(Meaning & Flourishing) O’Riordan & Palmer, 2021; Seligman, 2023
モデル GROWモデル中心(行動変容) 統合的アプローチ(CBT・ACT・Narrative・Positive Psychology) Neenan & Palmer, 2022
役割観 コーチ=質問する人/解決促進者 コーチ=心理的安全を守る共創者(Co-creator) Stelter, 2020
倫理観 「守秘義務・誠実性」中心 「関係の倫理」「ナラティヴの尊重」「文化的多様性」へ拡張 ISCP Code of Ethics, 2023
心理的基盤 認知行動理論(思考の再構成) メタ認知・自己受容・レジリエンス・自己慈悲 Kellerman & Seligman, 2023
時間軸 目標達成=未来志向 「過去の物語」も含めた再意味づけ Narrative & Existential Coaching(Stelter, 2019)
評価の方法 KPI・パフォーマンス測定 主観的ウェルビーイング・価値整合性の自己報告 O’Riordan & Palmer, 2021
倫理の焦点 コーチの行動規範 関係的倫理(Relational Ethics)と相互尊重 Myers & Bachkirova, 2021
文化的視点 欧米中心のモデル 多文化・多言語・多様な価値観への適応 Ho Law, 2021
テクノロジーとの関係 対面中心 AI・オンライン・ハイブリッド対応型 Kellerman & Seligman, 2023

🧠 1. 「目標達成」から「ウェルビーイング、意味(有意義)とレジリエンス」も重視

  • 従来は「SMART目標」などの成果志向が中心でした。
  • 現代では、**「変化を持続可能にする内的意味」**を重視します。
    • 例:「何を達成したいか?」よりも「なぜそれが大切なのか?」
  • Suzy Green(2021)や Seligman & Kellerman(2023)は「Prospection(未来を想像し創造する力)」を新しいコーチング心理学の核としています。

💬 2. 「質問の技術」から「対話の芸術」へ

  • 現代のコーチングでは、**質問より関係性の質(Relational Presence)**が成果を左右することが明らかになっています(Stelter, 2019)。
  • 「深く問う」よりも「ともに考える・意味を共に作る(co-construct)」姿勢が重要です。

❝ The art of dialogue in coaching is not to ask better questions,
but to create better space for reflection. ❞(Reinhard Stelter, The Art of Dialogue in Coaching, 2019)


🌱 3. 「心理的安全性」の確立が中心テーマに

  • Amy Edmondson(ハーバード大学)の研究により、
    チーム・個人の学習や成長には「心理的安全性(Psychological Safety)」が不可欠とされました。
  • コーチング心理学では、質問の前に安全な場の設計が重視されています。
    • 例:「このテーマを話すことに、今どんな気持ちがありますか?」
    • 例:「話したくない部分があれば、そのままで構いません。」

🌍 4. 多様性・文化・ジェンダーへの配慮

  • Ho Law(2021)は「コーチング心理学×ダイバーシティ」の必要性を強調。
  • コーチの価値観や文化的前提を押し付けず、クライアントの世界観を中心に対話を構築します。
    • 例:「あなたの文化や経験では、この状況をどう理解されますか?」

🤝 5. 関係的倫理(Relational Ethics)への転換

  • Myers & Bachkirova(2021)は「Boundaries and Best Practice」で次のように述べています:

    “Ethics in coaching is not about rules alone, but about maintaining an ethical relationship.”

  • コーチングの倫理とは、形式的規範ではなく**“関係を通して実践される倫理”**になっています。

💡 6. AI・デジタル時代の新しい課題

  • Kellerman & Seligman(2023, Tomorrowmind)によれば、
    「AIと共に働く時代」では、人間の強み(共感・創造・未来志向)こそが求められる。
  • コーチングも「テクノロジーと人間性の調和(Techno-human Coaching)」へ移行中。
    • AI支援ツールを使いながら、**人間らしい対話(empathy-driven dialogue)**を保つことが求められています。

📚 主要文献

  • O’Riordan, S., & Palmer, S. (Eds.) (2021). Introduction to Coaching Psychology. Routledge.
  • Neenan, M., & Palmer, S. (2022). Cognitive Behavioural Coaching in Practice (2nd ed.). Routledge.
  • Stelter, R. (2019). The Art of Dialogue in Coaching: Towards Transformative Change. Routledge.
  • Kellerman, G. R., & Seligman, M. E. P. (2023). Tomorrowmind. Atria Books.
  • Ho Law (2021). Coaching and Diversity. In Introduction to Coaching Psychology.
  • Myers, A., & Bachkirova, T. (2021). Boundaries and Best Practice.
  • Wong, P. T. P. (2011). Positive Psychology 2.0: Towards a balanced model of wellbeing.

✅ まとめ:現代コーチングの方向性(3つのキーワード)

キーワード 意味 実践の焦点
共創(Co-creation) コーチとクライアントが意味を共につくる 対話の質を重視
レジリエンス(Resilience) 変化への心理的柔軟性 感情・意味の受容
倫理的プレゼンス(Ethical Presence) コーチが安全・誠実な関係を体現する 信頼・尊重・透明性

 

投稿者プロフィール

徳吉陽河
徳吉陽河
徳吉陽河(とくよしようが)は、コーチング心理学研究会・コーチング心理学協会の創設者の一人であり、日本・世界のおけるコーチング心理学のパイオニア。コーチング心理士、公認心理師・キャリアコンサルタント、認定心理士(心理調査)、ポジティブ心理療法士、として教育・医療・福祉・産業分野で活動する専門家。東北大学大学院博士後期課程で研究し、国際コーチング心理学会、国際ポジティブ心理学会など、世界で学び、研究を発表。教育プログラム、心理尺度開発なども専門としている。著書に『ポジティブ大全』『科学的に正しい脳を活かす「問いのコツ」 結果を出す人はどんな質問をしているのか?』『ナラティヴ・セラピー BOOK』、『コーチング心理学ガイドブック』『コーチング心理学ハンドブック』などの翻訳書などがあり、科学的なエビデンスと物語(ナラティブ)に基づくコーチングとウェルビーイング教育を推進している。累計4000名のコーチ、カウンセリング実績」(ワークショップを含む)、「累計6000回以上のセミナー実績」以上の実績がある。国土交通省 航空保安大学講師、元東北文化学園大学講師、元仙台医療センター看護学校講師、元若者サポートセンター講師など。教育機関、海外・国外の法人企業などで講師を担当実績がある。学校法人・企業法人・医療法人(リハビリ)など、主に管理職に関わる講師を数多く担当。座右の銘は、「我以外皆我師」、失敗・挫折もたくさんしており、「万事塞翁が馬」大切にしている。「自己肯定感が低いからこそ成長できる」ことを大切にしている。

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