コーチング心理学におけるエビデンスとナラティブの重要性 認定資格の取得の参考に
コーチング心理学におけるエビデンス(証拠)とナラティブ(物語)の重要性

コーチング心理学がエビデンスと物語を両方を大切にする理由コンテンツ一覧
コーチング心理学とは
コーチング心理学は、心理学の理論と実践を基盤とし、個人や団体の成長、目標達成、ウェルビーイングを促進するためのアプローチです。科学的知見と実践的な介入を組み合わせることで、クライアントの可能性を最大限に引き出すことを目的としています。

コーチング心理学の定義:科学的知見に基づく原理と方法論を活用して、身体的・精神的健康の維持・向上、ライフスキルの開発、仕事のパフォーマンス向上などを支援する実践と応用の心理学。
エビデンスとナラティブ:2つの重要な柱
📈エビデンス(科学的根拠)

研究によって裏付けられた知見や方法論、実証的データと科学的検証に基づく介入手法や理解を指します。
見通しがなく、何もない状態で行動するよりも、証拠を基にすることで、自信を持って実行できます。
また、一定の証拠があると成功率が高まります。
どんなことでも、根拠がない状態で進めるよりも、信頼できる証拠に基づいて実施するほうが、安心感が生まれ、実行しやすくなります。さらに、時間の短縮にもつながり、限られた時間の中で物事を成し遂げるためには、効率性が求められます。
未来には確実な証拠はありませんが、過去の根拠を土台にステップを踏み、その後自分で事実となる根拠を掴むことができます。
つまり、未来に確かな根拠がなくても、過去の経験やデータを活かして実行することで、自信を持って行動でき、その結果として、より高い成果を得られる可能性があります。
ナラティブ(物語)

物語の本質は、相手の背景や影響を十分に理解することにあります。
ナラティヴは、人と人とのつながりを深め、共感を生む力を持っています。また、物語には様々な歴史があり、そこに隠れた教訓から学ぶことができます。
人間の経験や感情、価値観、文化的背景といった質的な側面は、数値では完全に表現できない部分があります。個人の物語や体験談は、統計データでは見えない重要な洞察を提供し、人々の行動や動機を理解する手がかりとなります。
特に教育、カウンセリング、組織運営の場では、人々の主観的体験を理解することが、成功の鍵となると考えています。
なぜ両方が必要なのか

両方を組み合わせる価値
医療の場面では: 統計データで「この治療法の成功率は85%」と分かっても、患者一人ひとりの不安や希望、生活状況は異なります。データと患者の声の両方を聞くことで、その人に最適な治療選択ができます。
職場の改善では: 「残業時間が月20時間減った」というデータと、「家族との時間が増えて嬉しい」「でも仕事の質を保つのが大変」という従業員の声を合わせることで、本当に効果的な働き方改革につながります。
なぜ両方必要なのか
データは「事実」を教えてくれますが、体験談は「意味」を教えてくれます。人間は感情を持つ生き物なので、客観的な事実だけでなく、それが人々にとってどんな意味を持つのかを理解することが、より良い判断や解決策につながります。
現実的な問題解決には、「何が起きているか」(データ)と「それが人々にとってどういうことか」(体験談)の両方の視点が欠かせないのです。

科学的検証と実証的データの重要性
- 信頼性の向上
- 実験や調査によって得られたデータは、主観的な判断よりも信頼性が高い。
- 再現性のある結果を得ることで、理論や手法の妥当性を確認できる。
- 意思決定の精度向上
- データに基づく判断は、感情や偏見に左右されにくく、合理的な選択を可能にする。
- 企業の経営戦略や医療の診断など、正確な判断が求められる場面で特に有効。
- 効率性の向上
- 証拠に基づくアプローチは、試行錯誤を減らし、時間やコストを節約できる。
- 限られたリソースの中で最適な選択をするための指針となる。
心理学における実証的データの活用
心理学では、量的研究と質的研究の両方が活用されます。
- 量的研究(統計データ、実験結果など)
- 例:認知行動療法(CBT)は、うつ病や不安障害の治療において、実証的データに基づく介入手法として確立されている。
- 例:ポジティブ心理学の研究では、「感謝の習慣」が幸福度を向上させることが統計的に示されている。
- 質的研究(インタビュー、ケーススタディなど)
- 例:トラウマ治療において、個々の経験を深く理解するために質的データが活用される。
未来に証拠がない中での意思決定
未来には確実な証拠がないため、過去のデータや経験を活用することが重要です。
- 過去の成功事例を活用する
- 似たような状況で成功した方法を参考にすることで、未来の選択肢を増やせる。
- データをもとに仮説を立てる
- 未来の不確実性を減らすために、統計的予測やシミュレーションを活用する。
- 柔軟な適応力を持つ
- 証拠に基づくアプローチを取り入れつつ、新しい情報に応じて戦略を調整する。

ナラティヴ(narrative)は、単なる物語以上の意味を持ち、個人の経験や価値観、人生の文脈を通じて世界を理解し、他者とつながるための重要な要素です。心理学や社会学、ビジネス、教育など幅広い分野で活用されており、特に質的研究の中心的な概念として扱われます。
ナラティヴの特徴
- 個人的な意味づけ
- 人は経験を単なる出来事としてではなく、意味を持つ物語として捉えます。
- 例えば、同じ出来事でも人によって異なる解釈が生まれるのは、ナラティヴの影響です。
- 共感とつながりを生む力
- 物語を共有することで、他者との共感が生まれ、深いつながりを築くことができます。
- カウンセリングや教育の場面では、ナラティヴを活用することで、より効果的なコミュニケーションが可能になります。
- 文化的・歴史的背景の影響
- ナラティヴは個人の経験だけでなく、社会や文化の影響を受けて形成されます。
- 例えば、ある国の歴史的な出来事が、その国の人々の価値観や行動に影響を与えることがあります。
ナラティヴの活用
- 心理学・カウンセリング
- ナラティヴ・セラピーでは、クライアントの自己物語を再構築することで、心理的な問題の解決を目指します。
- 例えば、「自分は失敗ばかりしている」という物語を、「困難を乗り越えて成長している」という視点に変えることで、自己肯定感を高めることができます。
- 教育・学習
- 学習者が自分の経験を物語として語ることで、知識の定着が促されます。
- 例えば、歴史の授業で単なる年号や出来事を学ぶのではなく、当時の人々の物語を通じて理解することで、より深い学びが得られます。
- ビジネス・マーケティング
- 企業のブランドストーリーを明確にすることで、顧客との信頼関係を築くことができます。
- 例えば、ある企業が「環境保護のために創業した」というナラティヴを持つ場合、消費者はその理念に共感し、商品を選ぶ理由が生まれます。
ナラティヴの実践と分析
ナラティヴは質的研究の中心的なテーマであり、心理学や社会学では以下のような方法で研究されています:
- ナラティヴ分析:個人の語りを分析し、どのような意味づけが行われているかを探る。
- ライフストーリー研究:人の人生の物語を通じて、アイデンティティの形成や変化を理解する。
- ナラティヴ・アプローチ:カウンセリングや教育の場面で、個人の物語を活用することで、より良い結果を導く。
ナラティヴの力を活用することで、個人の経験をより深く理解し、他者とのつながりを強化することができます。
バランスの取れたアプローチ
エビデンスのみでは個人の独自性を見逃し、ナラティブのみでは効果的な介入が保証されません。両方を組み合わせることで、科学的根拠に基づきながらも個人に合わせたコーチングが可能になります。
適切な介入の選択
エビデンスは「何が一般的に効果があるか」を教え、ナラティブは「この特定の人にとって何が意味があるか」を伝えます。両方を理解することで、コーチは最適な介入方法を選択できます。
測定可能な成果と個人的意義
エビデンスは測定可能な成果を重視し、ナラティブはその成果がクライアントにとってどのような意味を持つかを示します。両方を大切にすることで、量的・質的両面での成功を評価できます。
信頼関係の構築
クライアントのナラティブを尊重することで信頼関係が深まり、エビデンスに基づく介入の効果も高まります。科学的な専門知識と人間的な理解の両方を示すことがクライアントの信頼を獲得します。
実践例:エビデンスとナラティブの統合
ケーススタディ:キャリア移行のコーチング
エビデンスの活用: キャリア変更時の心理的課題に関する研究結果を基に、アイデンティティの移行期における自己効力感の維持方法を提案。
ナラティブの重視: クライアントの職業人生の物語を深く聞き、過去の経験から得た強みや価値観を明確化。
統合的アプローチ: クライアントの個人的な価値観(ナラティブ)に合わせつつ、心理的資本を高める科学的に検証された方法(エビデンス)を適用することで、効果的なキャリア移行を支援。
エビデンスとナラティブを統合する実践のステップ
- 科学的知見を把握する: 関連分野の最新研究や効果が検証されている介入方法について学び続ける
- クライアントの物語を尊重する: 丁寧な傾聴を通じて、クライアントの経験、価値観、目標の文脈を理解する
- 反省的実践を行う: 自分の実践がエビデンスとナラティブの両方を尊重しているか定期的に振り返る
- 個別化されたアプローチを設計する: エビデンスに基づく方法をクライアントの物語に合わせて調整する
- 効果を多角的に評価する: 数値化できる成果だけでなく、クライアントにとっての意味も評価の対象にする
まとめ:コーチング心理学の未来
コーチング心理学の発展には、エビデンスとナラティブの両方を大切にする姿勢が不可欠です。科学的根拠のある実践を行いながらも、クライアント一人ひとりの物語に敬意を払うバランスが、効果的で倫理的なコーチングの鍵となります。
これからのコーチング心理学の実践者には、常に新しい研究知見を取り入れながらも、人間の複雑さと多様性を尊重する柔軟性が求められます。エビデンスとナラティブを統合するアプローチは、クライアントの真の成長と変化をサポートする強力な基盤となるでしょう。
投稿者プロフィール

- 徳吉陽河(とくよしようが)は、コーチング心理学研究会・コーチング心理学協会の創設者の一人であり、日本・世界のおけるコーチング心理学のパイオニア。コーチング心理士、公認心理師・キャリアコンサルタント、認定心理士(心理調査)、ポジティブ心理療法士、として教育・医療・福祉・産業分野で活動する専門家。東北大学大学院博士後期課程で研究し、国際コーチング心理学会、国際ポジティブ心理学会など、世界で学び、研究を発表。教育プログラム、心理尺度開発なども専門としている。著書に『ポジティブ大全』『科学的に正しい脳を活かす「問いのコツ」 結果を出す人はどんな質問をしているのか?』『ナラティヴ・セラピー BOOK』、『コーチング心理学ガイドブック』『コーチング心理学ハンドブック』などの翻訳書などがあり、科学的なエビデンスと物語(ナラティブ)に基づくコーチングとウェルビーイング教育を推進している。累計4000名のコーチ、カウンセリング実績」(ワークショップを含む)、「累計6000回以上のセミナー実績」以上の実績がある。国土交通省 航空保安大学講師、元東北文化学園大学講師、元仙台医療センター看護学校講師、元若者サポートセンター講師など。教育機関、海外・国外の法人企業などで講師を担当実績がある。学校法人・企業法人・医療法人(リハビリ)など、主に管理職に関わる講師を数多く担当。座右の銘は、「我以外皆我師」、失敗・挫折もたくさんしており、「万事塞翁が馬」大切にしている。「自己肯定感が低いからこそ成長できる」ことを大切にしている。
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