国際応用心理学会(ICAP)参加報告2 シンポジウム「ナラティブキャリアカウンセリング 世界を変える改革的アプローチ」

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国際応用心理学会(ICAP)参加報告2

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シンポジウム「ナラティブキャリアカウンセリング 世界を変える改革的アプローチ」Narrative Career Counselling: Innovative Approaches in a World of Challenges」

日時: 7月22日(水)9:30〜11:00 会場: Hall Q-Arsenale 座長: Mary McMahon教授(クイーンズランド大学) 部門: Division 16(カウンセリング心理学)


シンポジウム全体のテーマ

今回参加したシンポジウムでは、急速に変化し複雑化する社会の中で、キャリアカウンセリングという分野がどのように実践を再構築してきたかが議論されました。

背景にあるのは、コンテクスト(文脈)を重視する世界観と、構成主義(Constructivism)・社会構成主義(Social Constructionism)という考え方です。この視点に立つと、キャリアとは

  • 適性検査や興味検査によって「選ぶもの」

ではなく、

  • 自分自身の人生を語りながら「創っていくもの」

として捉え直されます。カウンセラーは答えを与える立場ではなく、クライエントを人生の専門家として尊重し、対話を通じて未来の物語を一緒に紡いでいく協働的なファシリテーターと位置づけられていました。

以下、4つの発表と最後のレスポンスの内容を順にご紹介します。


① Story Telling: A Systems-Based Approach

発表者:Mary McMahon / Mark Watson

McMahon教授が提唱するSystems Theory Framework(STF:システム理論フレームワーク)に基づく発表です。人の人生には、家族、学校、地域、文化、経済、健康、そして偶然の出来事など、非常に多くのシステムが影響を与えているという前提に立ちます。

実践では、相談者に自分の「人生のストーリー」を自由に語ってもらい、その語りの中から人生の転機、人との出会い、偶然の出来事、価値観などを一緒に整理していきます。人生全体を俯瞰し、環境要因も含めて理解できるため、複雑な事情を抱えるキャリア相談にも対応しやすい点が特徴として挙げられていました。


② Every Life Deserves a Novel

発表者:Paul Hartung

「すべての人生は一冊の小説に値する」という印象的なタイトルの発表でした。Career Construction Counseling(キャリア構成カウンセリング)の考え方が紹介されました。

ポイントは、人生を「履歴書」としてではなく「小説」として理解するという姿勢です。子どもの頃好きだったこと、尊敬する人物、思い出、印象的な出来事などを相談者に語ってもらい、そこから人生全体を貫くテーマを見つけ出します。最後に、そのテーマを未来の仕事へとつなげていくプロセスが紹介されました。


③ Re-authoring Conversations

発表者:Peyman Abkhezr

対象は難民・移民の若者です。難民の方々は、戦争、差別、トラウマといった経験から、自分の人生を「失敗した物語」として語ってしまうことがあります。

そこで用いられるのが、ナラティブセラピーの技法である「Re-authoring(物語の書き直し)」です。例えば「私は難民だから仕事がない」という物語を、「私は困難を乗り越えてきた人間である」という新しい物語へと書き換えていきます。このプロセスを通じて、キャリア形成に対する希望が生まれることが紹介されました。


④ Culture-Infused Career Counselling

発表者:Nancy Arthur

文化を取り入れたキャリア支援がテーマの発表です。人は国、宗教、民族、ジェンダー、社会制度など、さまざまな文化的背景の影響を受けています。そのため、全員に同じキャリア支援を画一的に行うのではなく、文化的背景を理解した上での支援が重要であると説明されました。

例えばアジア圏では家族の期待、欧米では自己実現が、それぞれ強く影響することがあるといった例が挙げられ、文化的価値観を踏まえながら人生の物語を一緒に作っていくことの重要性が強調されました。


⑤ Response

発表者:Mark Watson

最後は、これまでの発表を総括する討論でした。AI時代の到来、キャリアの不確実性の高まり、生涯を通じたキャリア形成、多文化社会への対応といった今後の課題に応えていくためには、ナラティブ・キャリアカウンセリングの重要性がますます高まっていくとまとめられました。


シンポジウム全体を通じて強調されたメッセージ

  • クライエントは「問題を抱えた人」ではなく、自らの人生の専門家である
  • カウンセラーは答えを与えるのではなく、対話を促進する協働的なファシリテーターである
  • キャリアは固定された職業選択ではなく、人生経験や価値観を統合しながら「物語」として構成される
  • 過去の経験を振り返り、意味を再解釈することで、希望ある未来のストーリーを描くことができる
  • 文化的背景や社会的文脈を尊重し、多様な人生経験に対応できる柔軟な支援が求められる

コーチング心理学との関連について

今回のシンポジウムの内容は、コーチング心理学との親和性が非常に高いと感じました。共通する点として、以下が挙げられます。

  • クライエント中心の支援
  • 強みや成功体験を活用するアプローチ
  • リフレクション(内省)を促す質問
  • 未来志向の目標設定
  • 自己効力感や主体性の育成

また、ポジティブ心理学やPRISMモデルとの接点も感じられました。過去の経験から意味(Meaning)を見出し、将来を展望する(Prospection)というプロセスは、ナラティブ・キャリアカウンセリングの考え方と相互に補完し合う関係にあると考えられます。今後の実践や記事作成にも活かしていきたいと思います。

投稿者プロフィール

徳吉陽河
徳吉陽河
徳吉陽河(とくよしようが)は、コーチング心理学研究会・コーチング心理学協会の創設者の一人であり、日本・世界のおけるコーチング心理学のパイオニア。コーチング心理士、公認心理師・キャリアコンサルタント、認定心理士(心理調査)、ポジティブ心理療法士、として教育・医療・福祉・産業分野で活動する専門家。東北大学大学院博士後期課程で研究し、国際コーチング心理学会、国際ポジティブ心理学会など、世界で学び、研究を発表。教育プログラム、心理尺度開発なども専門としている。著書に『ポジティブ大全』『科学的に正しい脳を活かす「問いのコツ」 結果を出す人はどんな質問をしているのか?』『ナラティヴ・セラピー BOOK』翻訳書『Tomorrowmind日本語版 これからの生き方』『コーチング心理学ガイドブック』『コーチング心理学ハンドブック』などの翻訳書などがあり、科学的なエビデンスと物語(ナラティブ)に基づくコーチングとウェルビーイング教育を推進している。累計4000名のコーチ、カウンセリング実績」(ワークショップを含む)、「累計6000回以上のセミナー実績」以上の実績がある。国土交通省 航空保安大学講師、元東北文化学園大学講師、元仙台医療センター看護学校講師、元若者サポートセンター講師など。教育機関、海外・国外の法人企業などで講師を担当実績がある。学校法人・企業法人・医療法人(リハビリ)など、主に管理職に関わる講師を数多く担当。座右の銘は、「我以外皆我師」、失敗・挫折もたくさんしており、「万事塞翁が馬」大切にしている。「自己肯定感が低いからこそ成長できる」ことを大切にしている。

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