ADHDコーチング入門 認定資格取得の参考に

 

 

ADHDコーチング入門

一人一人の可能性を引き出すサポート
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ADHDコーチングとは

ADHDコーチングとは、ADHD(注意欠如・多動症)特性を持つ方々が自分らしく生きるためのサポートを行うものです。一般的なライフコーチングとは異なり、ADHD特有の脳の特性を理解した上で、1対1のセッションやセッション後の継続的な支援を通じて、日常生活や仕事、学校での課題解決をサポートします。

ADHDの方は、注意の維持や衝動性の制御、組織化、時間管理などに困難を感じることがありますが、そのような特性は「欠点」ではなく「特性」として捉え、その特性に合った方法で目標達成を目指すことが、ADHDコーチングの考え方の基本です。

一般社団法人コーチング心理学協会では、コーチング心理学、ポジティブ心理学を活用した発達障害支援コーチングの講座を開催し、例え発達的特性があったとしても、前向きに支援につなげる対応を行っています。

Diversity Coaching
今後は、当協会の研究や実践活動を含め、様々な役立つ情報や方法について整理し、公開して参ります。

ADHDコーチングの本質

ADHDコーチングは、「ADHD脳をもつあなたが、本当はどう生きたいか」を理解し、そのために必要な戦略やスキルを一緒に見つけ、実践していくプロセスです。あなたの「困りごと」に対して、ADHD脳の特性を踏まえた解決策を一緒に考えます。

基本原則と特徴

ADHDコーチングには、いくつかの重要な原則と特徴があります。これらを理解することで、コーチングがどのように機能するのかが見えてきます。

1. 個別化されたアプローチ

ADHDは人によって症状や影響も異なります。そのため、コーチングでは一人ひとりの特性や生活環境に合わせたカスタマイズされたサポートを提供します。これにより、その人に合った目標設定や取り組みが可能になります。

2. ストレングスベース(強みに着目)

ADHDの特性を「障害」としてではなく、ユニークな「強み」の側面も持つ特性として捉えます。創造性、直感力、情熱、エネルギッシュさなど、ADHDの持つポジティブな側面を活かす方法を見つけることを重視します。

3. 実行機能のサポート

計画立て、時間管理、タスク管理、優先順位付けなど、ADHDの方が苦手とする実行機能に焦点を当て、それをサポートする具体的な戦略やツールを提供します。

4. 継続的なサポートと振り返り

定期的なセッションを通じて、進捗状況を確認し、戦略の調整を行います。また、セッション間でもサポートを提供することで、継続的な進歩を促します。

5. 自己効力感の向上

小さな成功体験を積み重ねることで、「自分にもできる」という自己効力感を高め、自信を育みます。これが次の行動への原動力となります。

ADHDコーチングの効果

研究やフィードバックから、ADHDコーチングには以下のような効果が報告されています:

自己理解と自己受容の向上

コーチングを通じて、自分の特性や行動パターンを深く理解することで、自己受容が促進されます。「自分は怠けているわけではない」「ADHD脳にはADHD脳の特性がある」という理解が、自分を責める気持ちを軽減し、より健全な自己イメージの形成に繋がります。

実践的なスキル開発

日常生活や職場、学校で直面する具体的な課題(タイムマネジメント、優先順位の設定、人間関係の構築など)に焦点を当てたトレーニングにより、現実的な問題解決能力が向上します。これらのスキルは一生役立つ財産となります。

感情調整とストレス管理の改善

ADHDの方は、感情のコントロールに課題を感じることも少なくありません。コーチングを通じて、ストレス管理やリラクゼーション技術を学び、感情の波を安定させる方法を身につけることができます。

成功体験の積み重ねと自己効力感の向上

具体的な目標を一つひとつ達成していくことで、自信が育まれ、将来的なチャレンジへの意欲が高まります。「できた」という経験が、次の「やってみよう」という気持ちを生み出します。

研究で示された効果

  • 親のエンパワーメントと満足度の向上
  • 子供の行動と認知機能の改善
  • 親子関係の強化
  • 学業や職場でのパフォーマンス向上
  • 社会的関係の改善

効果的なアプローチ方法

ADHDコーチングでは、以下のようなアプローチ方法が効果的であることが知られています:

1. 構造化と視覚化

情報を視覚的に整理する方法(チャート、マインドマップ、カレンダー、チェックリストなど)を活用して、タスクや時間管理をサポートします。視覚的な手がかりは、ADHDの方の理解と記憶を助けます。

2. タスクの細分化

大きな目標やプロジェクトを、より小さく管理しやすいステップに分割します。これにより、圧倒される感覚を減らし、一歩一歩確実に進むことができます。

3. 環境の最適化

集中を妨げる要因を特定し、環境を調整します。例えば、静かな作業スペースの確保、気が散るものの排除、時間ブロッキングなどの方法を用います。

4. ボディダブル(作業のパートナー)

単独では取り掛かりにくい作業も、誰かと一緒に行うことで始めやすくなる「ボディダブル」という方法を活用します。物理的に同じ場所にいなくても、オンラインで繋がりながら作業することも効果的です。

5. 強みを活かす戦略

一人ひとりの強みや興味を特定し、それらを活かした方法で課題に取り組むサポートをします。例えば、創造性を活かした問題解決や、興味を持てる形でのタスク再設計などが挙げられます。

コーチングのプロセス例

  1. 目標設定: 具体的で測定可能な目標を設定
  2. 現状分析: 現在の課題と強みの評価
  3. 戦略立案: ADHD特性に合った戦略とツールの検討
  4. 実践: 日常生活での実践と調整
  5. 振り返り: 定期的な進捗確認と戦略の見直し

具体的な支援例

ADHDコーチングでどのような支援が行われるのか、具体的な例を見てみましょう:

仕事/学業の場面

課題: 締め切りを守ることが難しい

コーチングでの支援:

  • タスクを小分けにする方法を教える(大きなプロジェクトを小さなステップに分割)
  • スケジュールを視覚化するツールの活用法を提案(カラーコード付きカレンダーなど)
  • 時間の見積もりを正確に行う練習をサポート(タイマーを使った時間感覚のトレーニング)
  • 締め切りの数日前を「個人的な締め切り」として設定する習慣づけ

家庭生活の場面

課題: 家事の管理や整理整頓が難しい

コーチングでの支援:

  • 「見える収納」のシステムを一緒に考案(ラベル付きの透明容器の活用など)
  • 短時間の家事ルーティンを作成(15分タイマーを使った「片付けスプリント」など)
  • 家族との役割分担の明確化とコミュニケーション方法のサポート
  • 物の定位置を決め、維持するためのシステム構築

対人関係の場面

課題: 会話で話しすぎてしまう、または適切なタイミングで発言できない

コーチングでの支援:

  • 会話の「キャッチボール」のコンセプトを練習(話す時間とリスニングのバランス)
  • 会話中のセルフモニタリング技術の開発
  • 社交的な場面で使えるストラテジーの練習(短めの発言を心がけるなど)
  • 自分の感情状態に気づき、調整するマインドフルネス技法の練習

よくある質問

Q: ADHDコーチングは誰でも受けられますか?

A: ADHDの診断の有無にかかわらず、ADHDの特性による困りごとを感じている方であれば誰でも受けることができます。自己理解を深めたい方、日常生活での課題を改善したい方に適しています。

Q: コーチングとカウンセリングや心理療法との違いは何ですか?

A: コーチングは主に「今」と「未来」に焦点を当て、具体的な目標達成や課題解決のためのスキル開発をサポートします。過去のトラウマや深い心理的問題を扱うカウンセリングや心理療法とは異なりますが、必要に応じて併用することも可能です。トラウマの前向きな対処、PTSG(心的外傷後の成長)につなげ、コーチングに関しては過去のトラウマに関しては、教訓や経験、強みとして活用できるように支援します。

Q: コーチングはどのくらいの期間続けるものですか?

A: 個人の目標や課題によって異なります。短期的な特定の課題解決のために数回のセッションを受ける方もいれば、長期的な成長やスキル開発のために数ヶ月から1年以上継続する方もいます。コーチとの相談の上で、自分に合ったペースと期間を設定することができます。

Q: オンラインでのコーチングも効果がありますか?

A: はい、研究によればオンラインでのコーチングも対面と同様の効果があることが示されています。特に、地理的な制約がある場合や、自宅という慣れた環境で受けたい方にとって便利な選択肢です。

Q: 薬物治療とコーチングは併用できますか?

A: はい、多くの場合、薬物治療とコーチングは相補的な関係にあります。薬が症状を軽減する一方で、コーチングはスキルの開発や戦略の習得をサポートします。医師との連携を取りながら、総合的なアプローチを取ることが効果的です。

ADHDコーチングの歴史

ADHDコーチングという概念の広まりは1994年頃から始まりました。その後の発展について簡単に見てみましょう:

  • 1994年: ADHDコーチングの概念が広まり始める
  • 1998年: David Giwercによって「ADD Coach Academy」がアメリカで発足
  • 2005年: ACO(ADHD Coaches Organization)とIAAC(International Association of ADHD Coaches)の設立
  • 2009年: PAAC(Professional Association of ADHD Coaches)の設立

これらの機関の設立により、ADHDコーチの専門性が明確化され、国際コーチング連盟(ICF)と連携した専門資格認定が整備されてきました。現在では「ADD Coach Academy」「JST Coaching&Training」「iACTcenter」などの教育機関が国際的な認定ADHDコーチを育成しています。

日本においても、海外の専門機関でトレーニングを受けたADHDコーチが徐々に増えていますが、言語の壁もあり、その数はまだ多くはありません。

さいごに

ADHDコーチングは、ADHDの特性を持つ人々が自分らしく生き、持っている可能性を最大限に発揮するためのサポートです。「ADHD脳をもつあなたが本当はどう生きたいか」という視点から出発し、そのために必要なスキルや戦略を一緒に見つけ、実践していくプロセスです。

ADHDの特性は「障害」ではなく「特性」として捉え、その特性に合った方法で目標を達成していくという考え方が、ADHDコーチングの基本です。自分自身やADHDについての理解を深め、日常生活での具体的な課題解決に取り組むことで、自己効力感を高め、より充実した生活を実現することができます。

もしADHDの特性による困りごとを感じているなら、ADHDコーチングを一度試してみることを検討してみてください。自分に合ったコーチを見つけ、一緒に歩んでいくことで、新たな可能性が開けるかもしれません。

最後に大切なこと

ADHDコーチングの目標は、あなたがADHDの特性と上手に付き合いながら、自分らしい生き方を見つけ、実現していくこと。コーチはそのプロセスを支える「伴走者」であり、専門知識を持った「協力者」です。あなた自身の可能性を信じて、一歩踏み出してみましょう。

ADHDコーチング入門 | 一人一人の可能性を引き出すサポート©2025 ADHDコーチング入門

 

投稿者プロフィール

徳吉陽河
徳吉陽河
徳吉陽河(とくよしようが)は、コーチング心理学研究会・コーチング心理学協会の創設者の一人であり、日本・世界のおけるコーチング心理学のパイオニア。コーチング心理士、公認心理師・キャリアコンサルタント、認定心理士(心理調査)、ポジティブ心理療法士、として教育・医療・福祉・産業分野で活動する専門家。東北大学大学院博士後期課程で研究し、国際コーチング心理学会、国際ポジティブ心理学会など、世界で学び、研究を発表。教育プログラム、心理尺度開発なども専門としている。著書に『ポジティブ大全』『科学的に正しい脳を活かす「問いのコツ」 結果を出す人はどんな質問をしているのか?』『ナラティヴ・セラピー BOOK』、『コーチング心理学ガイドブック』『コーチング心理学ハンドブック』などの翻訳書などがあり、科学的なエビデンスと物語(ナラティブ)に基づくコーチングとウェルビーイング教育を推進している。累計4000名のコーチ、カウンセリング実績」(ワークショップを含む)、「累計6000回以上のセミナー実績」以上の実績がある。国土交通省 航空保安大学講師、元東北文化学園大学講師、元仙台医療センター看護学校講師、元若者サポートセンター講師など。教育機関、海外・国外の法人企業などで講師を担当実績がある。学校法人・企業法人・医療法人(リハビリ)など、主に管理職に関わる講師を数多く担当。座右の銘は、「我以外皆我師」、失敗・挫折もたくさんしており、「万事塞翁が馬」大切にしている。「自己肯定感が低いからこそ成長できる」ことを大切にしている。

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