「I wonder」で変わる伝え方 自己肯定感が低めの人・謙虚な人へのフィードバックコーチング
「I wonder」で変わる伝え方
自己肯定感が低めの人・謙虚な人へのフィードバックコーチング
── オープンダイアログ・コーチング流、ポジティブ感情の言語化メソッド ──
| 📌 この記事でわかること
自己肯定感が低い方や謙虚すぎる方に「あなたはすごい」と直接伝えても、なかなか届かないことがあります。本記事では、オープンダイアログ・コーチングの技法「I wonder(アイ・ワンダー)」を使い、相手が自分自身で気づき、自己理解が深まるフィードバック法を3ステップでわかりやすく解説します。 |
はじめに ── 「伝わらない」フィードバックに心当たりはありませんか?
職場の後輩や部下、あるいは友人・家族の中に、「この人はもっと自分に自信を持っていいのに」と感じる人はいませんか?
せっかく「すごいじゃないですか!」「それ、あなたの強みですよ!」と伝えても、「いや、そんなことないです」「たまたまです」「誰でもできますよ」と、ひらりとかわされてしまう──。そんな経験をしたことがある方は多いのではないでしょうか。
自己肯定感が低めの方や、謙虚さが高い方には、ポジティブな言葉を直接投げかけるだけでは、心に届きにくい傾向があります。それは、その方の「私はたいしたことない」というセルフイメージが、外からの言葉を無意識にはじき返してしまうからです。
そこで活用したいのが、オープンダイアログ・コーチングの技法「I wonder(アイ・ワンダー)」を使ったフィードバック法です。この方法は、相手に「気づき」を促し、自分自身の感情や強みを内側から発見させる、とても効果的なアプローチです。
| 🔍 キーワード
I wonder コーチング / オープンダイアログ / 自己肯定感 フィードバック / 謙虚な人への伝え方 / ポジティブ感情の言語化 / コーチング 気づき |
「I wonder」とは何か? ── オープンダイアログ・コーチングの核心
I wonder の意味と背景
「I wonder」は英語で「〜かな?」「〜だろうか?」という問いかけの表現です。断言ではなく、柔らかな仮説として相手に投げかけるこのフレーズは、相手の防衛心を刺激せず、自然と内省を促す力を持っています。
オープンダイアログは、フィンランドで生まれた対話を重視するアプローチで、「答えを押し付けない」「相手の言葉を大切にする」「対話の中で意味が生まれる」という哲学を持ちます。コーチングにこの思想を取り入れた「オープンダイアログ・コーチング」は、相手の主体性と自己理解を中心に据えた、非常に人間的な支援の形です。
「I wonder」はまさにその象徴的な技法。「あなたはこうだ」と結論を押しつけるのではなく、「私には〜に見えるんだけど、どうかな?」という柔らかい提案として伝えることで、相手の心に隙間を作り、自分自身で考えるきっかけを与えます。
なぜ自己肯定感が低い人に効くのか?
自己肯定感が低い方の多くは、他者から褒められると「お世辞かな」「本当はそうじゃないはず」と受け取ってしまいます。これはその人が意地悪なのではなく、長年かけて構築されたセルフイメージ(自己像)が、外からの情報を歪めてフィルタリングしてしまうからです。
「I wonder」を使うことで、あなたはこう断定するのではなく、「私にはそう見えたんだけど、どうかな?」と問いかけます。これにより、相手は「本当にそうかもしれない」と自分で考え始め、自ら気づくプロセスが生まれます。自分で気づいた気づきは、他者から押しつけられた評価よりもずっと深く刺さり、変容につながりやすいのです。
3ステップで実践!「I wonder」フィードバック法
それでは、実際にどのように「I wonder」を使えばよいのか、3つのステップに沿って解説します。
| STEP 1 | 相手を「観察」する
相手が話す内容だけでなく、表情・声のトーン・身振りに注目します。「うれしそう」「いきいきしている」「目が輝いている」といった非言語の情報こそが、その人の本当の強みや情熱を映し出しています。 |
多くの場合、自己肯定感が低い人は「自分は〇〇が苦手で」「〇〇は全然できなくて」と話しながら、実はその話題になると表情が明るくなったり、言葉が活き活きとしたりします。このズレに注目することが第一歩です。
観察のポイントは以下の通りです。
- 言葉と表情・声のトーンが一致しているか
- どの話題のときに最もエネルギーを感じるか
- 謙遜しながらも、楽しそうに話しているトピックはどれか
| STEP 2 | 「I wonder」で優しく伝える
観察で気づいたことを「私には〜に見えたんだけど、どうかな?(I wonder)」という柔らかい言葉で伝えます。断言ではなく、問いかけとして届けることがポイントです。 |
具体的なセリフ例をご紹介します。
| 💬 フレーズ例
「私には、あなたが『〇〇は強みではない』と謙虚に言いながらも、その話をするとき、すごくいきいきしているように見えたんだけど……どうかな? 私の見間違えかな?(I wonder)」 |
このフレーズには、いくつかの工夫が詰まっています。
- 「謙虚に言いながらも」──相手の謙遜を否定せず、一旦受け止めている
- 「見えたんだけど」──断言ではなく、あくまで観察として伝えている
- 「どうかな?」「私の見間違えかな?」──相手に判断を委ね、圧迫感をゼロにしている
「あなたはすごい」と直接言うのではなく、「私にはそう見えた、あなたはどう思う?」と問いかけることで、相手は自分の内側を探り始めます。これがオープンダイアログ・コーチングの真髄です。
| STEP 3 | 自己理解への「気づき」を待つ
伝えたあとは、すぐに答えを求めません。相手が「確かに、そうかもしれない」と自分の感情に気づくプロセスをゆっくりと待ちます。この「間(ま)」こそが、変容のための最も大切な時間です。 |
「I wonder」で問いかけたあと、多くの場合、相手はしばし沈黙します。この沈黙は、相手が自分の内側に向き合っているサイン。コーチとして、あるいは対話の相手として、この沈黙を大切に守ってあげましょう。
うまくいくと、相手から「……確かに、そうかもしれません」「そう言われると、あの仕事のときは楽しかったかも」という言葉が出てきます。この「気づき」こそが、自己理解の芽吹きです。
よくある失敗パターンと対処法
失敗①:「でも、あなたは絶対すごいよ!」と押しつけてしまう
「I wonder」の後に相手が「いや、そんなことないです」と答えたとき、焦って「いや、絶対そうだよ!」と強く押し返してしまうと、逆効果になります。相手は「わかってもらえていない」「また説得されている」と感じ、心を閉じてしまいます。
対処法:「そう感じるんだね。じゃあ、あの話をするときの表情、どんな感じだったと思う?」と、さらに内省を促す問いかけに切り替えましょう。
失敗②:観察なしにいきなり「I wonder」を使う
「I wonder」は、しっかりした観察の上に成り立ちます。「なんとなく言ってみた」フィードバックは、相手に刺さりません。「なぜその言葉を選んだのか」を自分の中で明確にしてから伝えることが重要です。
失敗③:答えを急かす
「どう思う? ねえ、どう?」と急かすのはNGです。相手のペースに合わせ、沈黙を恐れずに待つこと。これができると、対話の質が劇的に上がります。
実践シナリオ ── 職場でのリアルな対話例
シナリオ:謙虚すぎる後輩へのフィードバック
後輩のAさんは、プレゼンを担当したあと「全然うまくできなかったです。数字の説明も下手くそで、もう少し練習しないと」と自己評価が低い様子です。しかし、プレゼン中のAさんはとても生き生きとしていました。
| 👤 Aさん(後輩)
「全然うまくできなかったです……数字の説明が下手で、もっと練習しないと。お客様に失礼だったかもしれません。」 |
| 🙋 あなた(I wonderを使う側)
「そうか、数字のところが気になってたんだね。……でも私には、Aさんが商品の課題を説明するとき、すごくいきいきして、言葉に力があるように見えたんだけど……どうかな? 私の見間違えだったかな?(I wonder)」 |
| 👤 Aさん(気づきの瞬間)
「……確かに、課題の話は自分でも好きかもしれません。お客さんの反応を見ながら話すの、楽しかったかも。」 |
このように、「I wonder」は相手の「気づき」をそっと引き出し、自己理解の扉を開く鍵となります。Aさんは自分で「楽しかった」「好きかもしれない」と気づいた──これは、外から「あなたはすごい」と言われるよりも、ずっと深い変化につながります。
「I wonder」が特に有効な場面
「I wonder」フィードバック法は、以下のような場面で特に力を発揮します。
- 職場での1on1ミーティングやコーチングセッション
- 自己肯定感が低い部下・後輩へのフィードバック
- 謙虚すぎて自分の強みを認識できていない人へのサポート
- キャリア相談・転職支援・就職活動のサポート
- 学校カウンセリングや教育現場での生徒指導
- 親しい友人や家族への優しい気づきの促し
共通しているのは「相手が自分の内側にあるものを発見する」場面だということ。相手の答えを持っている、あるいは外から評価を与える場面では効果が薄く、むしろ相手自身が自己理解を深めるプロセスを支援する場面でこそ輝きます。
活用する際の注意点
| ⚠️ 注意
「I wonder」は万能ではありません。信頼関係がある程度築かれていない相手に使うと「なんか不思議なことを言われた」と戸惑わせることも。まずは相手との対話の土台を作り、安心安全な関係性の中で使うことが大切です。 I wonder法は,曖昧になりやすいというデメリットがあります。 直接言われたほうが,よい方,自己受容感が高い方は,I メッセージで通常通り,伝えたほうが,良いケースおあります。 |
また、「I wonder」はあくまでも「観察したことを問いかける」技法です。相手を操作したり、特定の答えに誘導したりするための道具ではありません。コーチとしての誠実さと、相手への純粋な関心があってこそ、この技法は生きてきます。
まとめ ── 「気づき」こそが最大のギフト
自己肯定感が低い方や謙虚さが高い方への最大のプレゼントは、「あなたはすごい」という言葉ではなく、相手が自分で「あ、私ってこういうところがあるんだ」と気づく瞬間を作ってあげることかもしれません。
「I wonder」というシンプルなフレーズは、その気づきをそっと後押しする、とても人間的な技法です。オープンダイアログ・コーチングの哲学「対話が変化を生む」を体現したこのアプローチを、ぜひあなたの日常のコミュニケーションに取り入れてみてください。
| ✅ 3ステップのおさらい
STEP1:相手の言葉と表情(非言語)を丁寧に「観察」する STEP2:「私には〜に見えたんだけど、どうかな?」と「I wonder」で優しく問いかける STEP3:相手が「確かにそうかもしれない」と気づくまでの「間」を大切に待つ |
あなたのフィードバックが、誰かの自己理解の扉を開くきっかけになりますように。
よくある質問(FAQ)
- 一般社団法人コーチング心理学協会事務局では,褒められるのが苦手な人や若者に対してポジティブにフィードバックする方法を学べますか?
はい、フィードバックスキルコーチング基本講座などで,紹介しております。ぜひ,体験してみていただければ幸甚です。
https://www.coaching-psych.com/event/
- 一般社団法人コーチング心理学協会では,褒められるのが苦手な人や若者に対してポジティブにフィードバックする方法を団体研修・法人研修などを実施してますか?
(新入社員・中途社員・管理職研修など)
はい,実施しております。もしご希望でしたら,お問い合わせまでご連絡をいただければ幸甚です。
協働で研修なども可能です。
参考情報・関連キーワード
本記事は、オープンダイアログ・コーチングの実践手法に基づき、「I wonder」技法を解説しました。関連するテーマとして以下もご参照ください。
- オープンダイアログ(Open Dialogue)── フィンランド発の対話重視の支援アプローチ
- ソクラテス的問答法 ── 問いかけによって相手の内在的知恵を引き出す技法
- 自己効力感(Self-efficacy)── 「自分にはできる」という感覚を育む心理学的概念
- アクティブリスニング(積極的傾聴)── コーチングの基礎となる傾聴スキル
- ポジティブ心理学 ── 強みと幸福に焦点を当てた心理学の分野
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投稿者プロフィール

- 徳吉陽河(とくよしようが)は、コーチング心理学研究会・コーチング心理学協会の創設者の一人であり、日本・世界のおけるコーチング心理学のパイオニア。コーチング心理士、公認心理師・キャリアコンサルタント、認定心理士(心理調査)、ポジティブ心理療法士、として教育・医療・福祉・産業分野で活動する専門家。東北大学大学院博士後期課程で研究し、国際コーチング心理学会、国際ポジティブ心理学会など、世界で学び、研究を発表。教育プログラム、心理尺度開発なども専門としている。著書に『ポジティブ大全』『科学的に正しい脳を活かす「問いのコツ」 結果を出す人はどんな質問をしているのか?』『ナラティヴ・セラピー BOOK』、『コーチング心理学ガイドブック』『コーチング心理学ハンドブック』などの翻訳書などがあり、科学的なエビデンスと物語(ナラティブ)に基づくコーチングとウェルビーイング教育を推進している。累計4000名のコーチ、カウンセリング実績」(ワークショップを含む)、「累計6000回以上のセミナー実績」以上の実績がある。国土交通省 航空保安大学講師、元東北文化学園大学講師、元仙台医療センター看護学校講師、元若者サポートセンター講師など。教育機関、海外・国外の法人企業などで講師を担当実績がある。学校法人・企業法人・医療法人(リハビリ)など、主に管理職に関わる講師を数多く担当。座右の銘は、「我以外皆我師」、失敗・挫折もたくさんしており、「万事塞翁が馬」大切にしている。「自己肯定感が低いからこそ成長できる」ことを大切にしている。







