動機づけ面接法コーチングとエンゲージメント・ウェルビーイングの関係
動機づけ面接法コーチングとエンゲージメント・ウェルビーイングの関係
〜社員が「自分から動く組織」をつくるための実践ガイド〜
「うちのメンバー、なんとなくやる気がなさそう…」「離職率が下がらない…」そんな悩みを抱えるマネージャーやHR担当者の方は多いのではないでしょうか。実は、その原因のひとつが「コーチングの質」にある可能性があります。
本記事では、医療・福祉の現場で生まれた「動機づけ面接法(Motivational Interviewing:動機づけ面接法)」という手法を組織コーチングに応用したとき、従業員のエンゲージメントとウェルビーイングにどのような変化が起きるのかを、わかりやすく解説します。
📋 この記事でわかること
- 動機づけ面接法(動機づけ面接法)とは何か
- エンゲージメント・ウェルビーイングとの関係性
- 動機づけ面接法コーチングの4つの実践プロセス
- 現場で使えるコーチングの具体例
- 導入時の注意点とよくある失敗パターン
1. 動機づけ面接法(動機づけ面接法)とは? 〜命令より「引き出す」アプローチ〜
動機づけ面接法(Motivational Interviewing、以下動機づけ面接法)とは、1980年代にウィリアム・ミラーとスティーブン・ロルニックが開発したカウンセリング手法です。もともとはアルコール依存症や薬物乱用の治療で使われていましたが、現在は医療・福祉・教育・ビジネスなど幅広い分野で活用されています。
動機づけ面接法の本質は「変わりたい気持ち」をその人の中から引き出すこと。外から押し付けるのではなく、内側から湧き出る動機を大切にします。
動機づけ面接法と従来のコーチングの違い
従来の指示型マネジメントやティーチングは、上司が「正解」を持っており、部下にそれを教えるスタイルです。一方、動機づけ面接法に基づくコーチングは以下のような考え方が基本になっています。
- 人は本来、変化への動機を内側に持っている
- 変わらない理由(両価性)を丁寧に扱うことが大切
- コーチの役割は「答えを与える」ではなく「気づきを促す」
- 自律性の尊重が長期的な行動変容につながる
これは、単なる「傾聴」とも異なります。動機づけ面接法には方向性があり、「変化への動機を強化する」という明確な目的を持って会話を進めます。
2. エンゲージメントとウェルビーイングとは? 〜今、なぜ注目されるのか〜
従業員エンゲージメントとは
従業員エンゲージメントとは、社員が組織や仕事に対してどれだけ「主体的に関わっているか」を示す概念です。単なる「満足度」とは異なり、自発的に努力しようとする意欲や帰属意識を含みます。
ギャラップ社の調査によると、日本の従業員エンゲージメントは世界でも最低水準グループに位置しており、「積極的に仕事に関与している」社員の割合は6%前後と非常に低いのが現状です。
ウェルビーイングとは
ウェルビーイング(Well-being)とは、身体的・精神的・社会的に良好な状態を指す概念です。単に「病気でない」という消極的な健康ではなく、「生き生きと働ける状態」という積極的な意味合いを持ちます。
- 身体的ウェルビーイング:疲労が少なく、睡眠・運動が充実している
- 精神的ウェルビーイング:ストレスが少なく、心理的安全性がある
- 社会的ウェルビーイング:職場の人間関係が良好で、所属感がある
- 職業的ウェルビーイング:仕事に意味を感じ、成長を実感している
エンゲージメントとウェルビーイングは「鶏と卵」の関係。どちらかが高まると、もう一方も上昇しやすい相乗効果があります。
3. 動機づけ面接法コーチングがエンゲージメントを高めるメカニズム
では、動機づけ面接法に基づくコーチングが、なぜ従業員のエンゲージメントやウェルビーイングの向上につながるのでしょうか?その鍵は「自己決定理論(SDT)」にあります。
自己決定理論との親和性
心理学者のデシとライアンが提唱した自己決定理論によれば、人は以下の3つの心理的欲求が満たされたとき、最も高いモチベーションを発揮します。
① 自律性(Autonomy):自分で選択・決定している感覚
② 有能感(Competence):自分にはできるという感覚
③ 関係性(Relatedness):他者とつながっている感覚
動機づけ面接法コーチングはこの3つすべてに働きかけます。「自分で考えて決める」会話スタイル(自律性)、強みを引き出し承認する(有能感)、コーチとの深い対話(関係性)——これらが組み合わさることで、外からの動機づけではなく「内発的動機づけ」が育まれます。
心理的安全性の醸成
動機づけ面接法は「共感・受容・是認・自律性の尊重」を基本精神とします。これは、エイミー・エドモンドソンが提唱する「心理的安全性」の概念とも深く一致します。心理的安全性が高い職場では、社員は失敗を恐れず挑戦できるため、イノベーションが生まれやすくなります。
4. 動機づけ面接法コーチングの4つの実践プロセス(PACE)
動機づけ面接法には「関わる→フォーカスする→引き出す→計画する」という4つのプロセスがあります。これを組織コーチングに応用すると次のようになります。
① 関わる(Engaging):信頼関係を築く
最初のステップは、コーチとしての存在を「安全な場所」として感じてもらうことです。評価や判断を手放し、相手の言葉をそのまま受け取る姿勢が大切です。
「先週、プレゼンで苦労したと聞きました。どんな気持ちでしたか?」——評価せず、まず感情を聴く。
② 焦点化する(Focusing):方向性を定める
会話の中から、相手が最も変化したい・改善したいテーマを絞り込みます。ここでコーチが方向を押し付けず、「あなたが大切にしていることは何ですか?」と問い続けることが重要です。
③ 引き出す(Evoking):変化への動機を引き出す
動機づけ面接法の核心部分です。「チェンジトーク」(変化に向けた発言)を意図的に引き出し、強化します。例えば「もし理想の状態になれたら、どんな良いことがありますか?」という質問が効果的です。
- チェンジトークの例:「○○できるようになりたい」「以前はできていたのに…」「変わらないと困ると思っている」
- コーチの反応:チェンジトークを繰り返し・要約し・掘り下げる
④ 計画する(Planning):具体的なアクションへ
動機が高まったタイミングで、具体的な行動計画を一緒に考えます。重要なのは「コーチが決める」のではなく「本人が決める」こと。「では、今週できる最初の一歩は何でしょう?」という問いかけが有効です。
5. ウェルビーイングへの具体的な効果
動機づけ面接法コーチングを継続的に実践した組織では、以下のような変化が報告されています。
ストレス・バーンアウトの軽減
動機づけ面接法の傾聴スタイルは、部下が「聴いてもらえた」という体験を積み重ねることで、職場でのストレス反応を和らげます。感情の言語化(エクスプレッシブライティング的効果)が、精神的健康を支えることが心理学研究でも示されています。
自己効力感の向上
強みにフォーカスした是認(アファーメーション)は、バンデューラの自己効力感理論と一致します。「あなたはあの困難な状況を乗り越えてきた」という言葉は、次の挑戦への自信を育てます。
離職意向の低下
「自分のことを気にかけてくれる上司がいる」という実感は、組織への帰属意識を高め、離職意向を下げる最大要因のひとつです。ギャラップ社の研究でも、マネージャーの質がエンゲージメントの約70%を左右すると示されています。
動機づけ面接法コーチングは「スキル」である前に「あり方」です。部下を変えようとするより、まず自分の聴き方を変える——それがすべての始まりです。
6. 現場で使える動機づけ面接法コーチング実践例
シーン①:やる気が下がっているメンバーとの1on1
× NG例(指示型):「モチベーション上げないと困るよ。何をやりたいかちゃんと考えてきて。」
○ 動機づけ面接法型:「最近、仕事でしんどいと感じることはありますか?(開かれた質問)……それは大変でしたね(共感)。その中でも、まだ大切にしたいと思っていることはありますか?(価値観への問い)」
シーン②:目標設定のコーチング
× NG例:「来期の目標はKPI120%にしよう。できるよね?」
○ 動機づけ面接法型:「来期どんな仕事をしていたいか、理想のイメージを聞かせてもらえますか?(引き出す)……それを実現するために、今から始められそうなことはどんなことでしょう?(計画)」
シーン③:変化への抵抗があるメンバーへの対応
変化に抵抗するメンバーに対して、説得や論争は逆効果です。動機づけ面接法では「両価性(アンビバレンス)」を扱います。
「新しいやり方に変えたくない気持ち、よくわかります(受容)。一方で、少し気になっていることもある、とおっしゃっていましたね(両面の反映)。その気になっていること、もう少し教えてもらえますか?」
7. 導入時の注意点とよくある失敗パターン
失敗① 「動機づけ面接法っぽい言葉」を使うだけになる
「なるほど」「それはどう感じましたか」を連発するだけでは、相手はすぐに形式的な対応を見抜きます。動機づけ面接法は技術の前に「本当に相手の話を聴こうとしているか」というマインドセットが根本です。
失敗② 1回のセッションで結果を求める
動機づけ面接法は長期的な関係性の中で効果を発揮します。1回の面談で変化を求めるのは現実的ではありません。月1回の1on1を3ヶ月継続するだけでも、関係性は大きく変わります。
失敗③ マネージャーのスキルアップだけで終わる
動機づけ面接法コーチングが機能するためには、組織文化の変革が伴う必要があります。「何でも言える雰囲気」「失敗を責めない文化」がなければ、どれだけスキルを磨いても効果は限定的です。
成功のための3ステップ
- ステップ1:まず管理職が「聴くこと」を実践するワークショップを受ける(体験的理解)
- ステップ2:月次1on1に動機づけ面接法のフレームワークを取り入れ、トライアル実施する
- ステップ3:エンゲージメントサーベイで効果測定し、改善を継続する
まとめ:「引き出すリーダーシップ」が組織を変える
動機づけ面接法(動機づけ面接法)に基づくコーチングは、従業員の内発的動機を育て、エンゲージメントとウェルビーイングを同時に高める可能性を持っています。
大切なのは、「部下を変えようとする」のではなく、「部下が変わりたいと思える環境をつくる」という発想の転換です。それは、管理職やHR担当者が「答えを与える人」から「可能性を引き出す人」へと変わることを意味します。
あなたの組織に、本当の意味で「話を聴いてくれる人」はいますか?動機づけ面接法コーチングはそのひとつの答えかもしれません。
まずは今日の1on1から、ひとつだけ「開かれた質問」を試してみてください。小さな変化が、大きなエンゲージメントの芽を育てます。
Q&A:よくある質問
Q.一般社団法人コーチング心理学協会では,「動機づけ面接法」また,「動機づけ面接法コーチング」について学べますか?
はい、コーチング心理学協会では,コーチング心理学基礎講座などで紹介しております。イラスト化したりして,各講座も工夫して,楽しめるような内容にしております。ぜひ,体験してみていただければ幸甚です。
https://www.coaching-psych.com/event/
Q. 一般社団法人コーチング心理学協会では,「動機づけ面接法」,「動機づけ面接法コーチング」に対応できる団体研修・法人研修などを実施してますか?(新入社員・中途社員・管理職研修など)
はい,実施しております。もしご希望でしたら,お問い合わせまでご連絡をいただければ幸甚です。
各組織や会社によって異なりますので,内容に合わせて対応いたしますの。協働で研修なども可能です。
お問い合わせまでご連絡をいただければ幸甚です。
https://www.coaching-psych.com/contact/
す。
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投稿者プロフィール

- 徳吉陽河(とくよしようが)は、コーチング心理学研究会・コーチング心理学協会の創設者の一人であり、日本・世界のおけるコーチング心理学のパイオニア。コーチング心理士、公認心理師・キャリアコンサルタント、認定心理士(心理調査)、ポジティブ心理療法士、として教育・医療・福祉・産業分野で活動する専門家。東北大学大学院博士後期課程で研究し、国際コーチング心理学会、国際ポジティブ心理学会など、世界で学び、研究を発表。教育プログラム、心理尺度開発なども専門としている。著書に『ポジティブ大全』『科学的に正しい脳を活かす「問いのコツ」 結果を出す人はどんな質問をしているのか?』『ナラティヴ・セラピー BOOK』、『コーチング心理学ガイドブック』『コーチング心理学ハンドブック』などの翻訳書などがあり、科学的なエビデンスと物語(ナラティブ)に基づくコーチングとウェルビーイング教育を推進している。累計4000名のコーチ、カウンセリング実績」(ワークショップを含む)、「累計6000回以上のセミナー実績」以上の実績がある。国土交通省 航空保安大学講師、元東北文化学園大学講師、元仙台医療センター看護学校講師、元若者サポートセンター講師など。教育機関、海外・国外の法人企業などで講師を担当実績がある。学校法人・企業法人・医療法人(リハビリ)など、主に管理職に関わる講師を数多く担当。座右の銘は、「我以外皆我師」、失敗・挫折もたくさんしており、「万事塞翁が馬」大切にしている。「自己肯定感が低いからこそ成長できる」ことを大切にしている。
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