リジェナラティブ と サスティナブルコーチング入門

リジェナラティブ と サスティナブルコーチング

〜コーチング心理学・ポジティブ心理学・進化心理学から読み解く〜

Sustainable regenerativeC

はじめに:なぜ今、この違いが重要なのか?

「コーチングを受けているのに、なぜかいつも同じところに戻ってしまう

「変わりたいのに、変われない。何かが足りない気がする」

 

こんな悩みを抱えたことはありませんか?

 

実は、コーチングには大きく分けて2つの方向性があります。それが「サスティナブル(持続可能な)コーチング」と「リジェナラティブ(再生型)コーチング」です。

この2つは一見似ているように見えますが、その哲学・アプローチ・もたらす変化は根本的に異なります。

 

本記事では、コーチング心理学・ポジティブ心理学・進化心理学という3つの学術的視点から、この2つのコーチングの違いをわかりやすく解説します。あなたに本当に合ったコーチングスタイルを見つけるヒントとして、ぜひ最後までお読みください。

 

サスティナブル,リジェナラティブ をわかりやすく一言でいうと

サステナブル →「悪くしない社会」を目指す

リジェネラティブ →「より良く再生する社会」を目指す

サスティナブルコーチングとは何か?

「持続可能性」を軸にしたアプローチ 安定した継続性を重視していく

サスティナブルコーチングとは、文字通り「持続可能なパフォーマンスと幸福感を維持する」ことを目的としたコーチングです。

このアプローチの核心にあるのは、「現在うまくいっていることを崩さずに、長く続けていく」という考え方です。バーンアウト(燃え尽き症候群)の予防、ワークライフバランスの確保、ストレス管理などが主要なテーマになります。

 

コーチング心理学から見たサスティナブルコーチング

コーチング心理学の視点では、サスティナブルコーチングは主に「認知行動的アプローチ(CBT)」や「解決焦点型アプローチ(SFA)」をベースにしています。

 

認知行動的アプローチでは、クライアントの思考パターンや行動習慣を特定し、より適応的なパターンへと置き換えることを目指します。「今の自分の在り方を最適化する」という視点が強く反映されています。

 

解決焦点型アプローチでは、問題そのものよりも「すでにうまくいっていること」「強みとなるリソース」に焦点を当てます。過去の成功体験を活かして、現在の課題を乗り越えることを重視します。

 

ポジティブ心理学から見たサスティナブルコーチング

ポジティブ心理学の父、マーティン・セリグマンが提唱したウェルビーイングの理論(PERMA)では、幸福の要素として「ポジティブ感情・エンゲージメント・人間関係・意味・達成」の5つを挙げています。

 

サスティナブルコーチングでは特に「エンゲージメント」と「達成」の側面に注目し、クライアントが現在の環境の中でいかに安定した充実感を維持できるかを重視します。「消耗しない範囲での持続的な努力」がキーワードです。

 

📌 サスティナブルコーチングのキーワード

維持・安定・バランス・回復力(レジリエンス)・バーンアウト予防・ストレス管理・現状最適化

 

 

リジェナラティブコーチングとは何か? 再生と創発を目指したアプローチ

リジェナラティブとは?

リジェネラティブ(Regenerative)とは、「回復・再生・成長を生み出すアプローチ」を意味します。

単に現状を維持するのではなく、人・社会・自然などのシステムを“より良い状態へ再生させる”考え方です。

■ わかりやすい定義

リジェネラティブ
→「傷ついたものを回復させ、さらに良い状態へ発展させること」

分野 リジェネラティブの意味
環境 生態系を再生する
農業 土壌や自然を回復させる農業
経済 地域や社会を再生する経済
組織 人の活力や創造性を回復する
心理 人の強み・意味・成長を再生する

 

 

「再生・変容」を軸にした新しいパラダイム

リジェナラティブコーチングとは、「生命が本来持つ自己再生・再創造の力」を引き出すことを目的とした、より深層的なアプローチです。

 

「リジェナラティブ(Regenerative)」という言葉は、農業や生態学の世界から来ています。土壌を消耗させるだけでなく、むしろより豊かに再生させていく——そのコンセプトを人間の成長と変容に応用したものです。

 

単に「現状を維持する」のではなく、「根本的に変容し、以前よりも生き生きとした自分になる」ことを目指します。それは、個人の枠を超えて、周囲や社会全体に良い影響を与える存在へと育っていくプロセスでもあります。

 

コーチング心理学から見たリジェナラティブコーチング

リジェナラティブコーチングは、「進化心理学」や「存在論的コーチング(Ontological Coaching)」、「ナラティブアプローチ」に深く根ざしています。

 

存在論的コーチングでは、クライアントの「在り方(Being)」そのものに働きかけます。表面的な行動や思考パターンを変えるだけでなく、「私は何者か?」「何のために生きているか?」という根本的な問いに向き合います。

 

 

ポジティブ心理学から見たリジェナラティブコーチング

ポジティブ心理学の観点では、リジェナラティブコーチングは「フラリッシング(Flourishing)」—— ただ幸福なだけでなく、完全に開花した状態 ——を目指します。

 

クリストファー・ピーターソンとセリグマンが発展させた「強みの科学(VIA強み理論)」では、人は自分の本質的な強みを発揮しているとき、最も生き生きとした状態になると述べています。

 

リジェナラティブコーチングでは、単に強みを「使う」だけでなく、まだ気づいていない潜在的な強みや可能性を「呼び覚ます」プロセスを重視します。これはサスティナブルコーチングが「現在の強みの活用」を重視するのとは異なる、より深いアプローチです。

 

進化心理学から見たリジェナラティブコーチング

進化心理学の視点はとりわけ興味深いです。人間の脳は、進化の過程で「現状維持バイアス」を持つように設計されています。未知の変化は「危険」として知覚され、本能的に避けようとする傾向があります。

 

しかし同時に、人間には「探索・探求システム(Seeking System)」も備わっています。ニューロサイエンティストのヤーク・パンクセップが発見したこのシステムは、新しいことへの好奇心・学習・成長への衝動を生み出します。

 

リジェナラティブコーチングは、この「探索システム」を意図的に活性化します。安全な環境の中で、脳の神経可塑性(ニューロプラスティシティ)を活かし、新しい神経回路を形成していく——これが「再生」の神経科学的な意味です。

 

📌 リジェナラティブコーチングのキーワード

変容・再生・開花(Flourishing)・潜在能力・根本的変化・フロー体験・目的意識・存在論的変容

 

 

2つのコーチングを徹底比較

下の表で、2つのアプローチの違いを一目で確認できます。

Sustainable regenerativeC

視点 サスティナブルコーチング リジェナラティブコーチング
目標 現状の維持・持続 再生・進化・成長
エネルギー観 消耗を抑える 内なる活力を再生する
変化へのアプローチ 安定・バランス重視 変容・根本的変化
心理的焦点 ストレス軽減・回復力 潜在能力の開花・創発
進化心理学的視点 環境適応の維持 適応的成長と可能性の拡張
コーチの役割 サポーター・伴走者 触媒・変容の促進者
時間軸 現在〜近未来 現在〜長期的未来

 

 

3つの心理学的視点から深掘りする

コーチング心理学の視点

コーチング心理学の権威、アンソニー・グラントは、コーチングを「目標達成と幸福感の向上を促進するプロセス」と定義しています。この定義はどちらのアプローチにも当てはまりますが、その「目標」の深さと「幸福感」の質が大きく異なります。

 

サスティナブルコーチングの目標: 「仕事のパフォーマンスを維持しながら、燃え尽きない」「健康的なライフスタイルを継続する」「現在の人間関係をより良くする」

 

リジェナラティブコーチングの目標: 「本当にやりたいことを見つけて、人生を根本から変える」「自分の使命に気づき、それに従って生きる」「社会に貢献できる存在として成長する」

 

どちらが「良い・悪い」ではありません。クライアントが今どのステージにいて、何を必要としているかによって、最適なアプローチは変わります。

 

ポジティブ心理学の視点

ポジティブ心理学の研究は、「幸福」には複数の層があることを示しています。

 

ヘドニア(快楽的幸福感): ポジティブな感情の増加、ネガティブな感情の減少。サスティナブルコーチングがよく焦点を当てる領域です。

 

エウダイモニア(自己実現的幸福感): 自分の潜在能力を最大限に発揮し、意味ある人生を生きること。リジェナラティブコーチングが目指す深い充実感です。

 

心理学者のキャロル・ドウェックが提唱する「グロースマインドセット(成長型思考)」の観点からも興味深い対比があります。サスティナブルコーチングは現在の能力を最大活用する「固定型〜成長型の移行期」に有効で、リジェナラティブコーチングは「深いグロースマインドセットが全面開花する段階」に対応します。

 

進化心理学の視点

進化心理学から見ると、人間の変容能力は非常に特別です。他の動物と異なり、人間は「文化的進化」を通じて、遺伝子レベルの変化なしに劇的な適応を可能にしてきました。

 

これは「表現型の可塑性(Phenotypic Plasticity)」と呼ばれる概念で、同じ遺伝子を持ちながらも、環境や経験によって全く異なる表現型(在り方・行動・可能性)を発揮できる能力です。

 

サスティナブルコーチングは、現在の適応パターンを最適化することで、この可塑性の「安定した発現」を支援します。

 

リジェナラティブコーチングは、この可塑性を意図的に活性化することで、「新たな適応パターンの創発」を促します。これは脳の神経可塑性(ニューロプラスティシティ)とも深く関係しており、新しい体験・気づき・感情を通じて、文字通り新しい神経回路を形成していきます。

 

💡 進化心理学的洞察

人間の脳は変化を恐れるように設計されていますが、同時に成長への本能も持っています。リジェナラティブコーチングはこの「成長本能」を安全に呼び覚ます技術とも言えます。

 

 

あなたに合うのはどちらのコーチング?

サスティナブルコーチングが向いている方

  • 継続性を重視したアプローチ
  • 現在の仕事・生活に疲弊していて、まずは安定を取り戻したい方
  • バーンアウトや慢性的なストレスを抱えている方
  • ワークライフバランスの改善を求めている方
  • 具体的で短期的な目標(半年〜1年以内)に向けて動きたい方
  • 大きな変化よりも、現在の状態を最適化したい方

 

リジェナラティブコーチングが向いている方

  • 創発的に進化していきたいきたいというかた
  • 「このままでいいのか?」という深い問いを持っている方
  • 人生の目的・使命を探している方
  • 根本的な変容・自己変革を望んでいる方
  • 自分の可能性をもっと広げたい、開花させたいと感じている方
  • 社会や周りの人々に良い影響を与える存在になりたい方

 

大切なのは、「どちらが優れているか」ではなく「今の自分に何が必要か」を正直に見つめることです。そして多くの場合、人はサスティナブルコーチングで基盤を整え、その後リジェナラティブコーチングで深い変容を遂げるというプロセスをたどります。

 

 

統合的アプローチ:2つは対立ではなく補完関係

最も効果的なコーチングは、この2つを「段階的・統合的に活用する」ことです。

 

たとえば、以下のような流れが考えられます:

 

  • 1段階(サスティナブル):現在の消耗を止め、心身のエネルギーを回復させる
  • 2段階(サスティナブルリジェナラティブ):安定した基盤から、自分の強みと価値観を明確にする
  • 3段階(リジェナラティブ):深い目的意識とともに、根本的な変容のプロセスに入る
  • 4段階(リジェナラティブ):個人を超えた貢献と影響を創造する存在へと成長する

 

この統合的なアプローチは、コーチング心理学の「発達段階モデル」とも一致しています。ロバート・キーガンの成人発達理論では、人間の意識は段階的に深まっていくとされており、各段階には適切なサポートの質が必要です。

 

🌱 統合的コーチングの本質

サスティナブルコーチングが「根を張る」プロセスなら、リジェナラティブコーチングは「花を咲かせ、実を結ぶ」プロセスです。両方があってこそ、真の成長が実現します。

 

 

まとめ:コーチングで人生に「再生の力」を

この記事では、リジェナラティブコーチングとサスティナブルコーチングの違いを、コーチング心理学・ポジティブ心理学・進化心理学という3つの視点から解説しました。

 

サスティナブルコーチングが「現在の安定と持続可能な幸福」を追求するのに対し、リジェナラティブコーチングは「根本的な変容と潜在能力の完全な開花」を目指します。どちらが正解ということはなく、あなたの今のステージと必要性に応じて、最適なアプローチが異なります。

 

大切なのは、「変わることへの恐れ」と「変わりたいという本能的な衝動」の両方を受け入れながら、自分のペースで成長していくことです。進化心理学が教えてくれるように、人間は環境への適応だけでなく、意図的な自己変革もできる唯一の存在です。

 

あなたの中には、まだ気づかれていない再生の力が眠っています。コーチングはその力を呼び覚ます旅の最良の伴走者となるでしょう。

 

 

よくある質問(FAQ

Q:リジェナラティブコーチングとサスティナブルコーチングは、どちらを先に受けるべきですか?

A:一般的には、サスティナブルコーチングで心身の安定を取り戻してからリジェナラティブコーチングに移行することを推奨します。ただし、個人の状況やコーチの判断によって異なります。

 

Q:ポジティブ心理学を活用したコーチングとリジェナラティブコーチングはどう違いますか?

A:ポジティブ心理学を活用したコーチングは研究に基づいた幸福感の向上を目指すのに対し、リジェナラティブコーチングはそれをさらに深め、存在論的な変容や社会への貢献まで射程に入れた包括的なアプローチです。

 

Q:このコーチングはビジネスリーダーにも適していますか?

A:非常に効果的です。特にリジェナラティブコーチングは、リーダー自身の変容を通じて、組織全体に「再生的な文化」を生み出すことができるため、近年ビジネス界からの注目が高まっています。

 

 

参考文献・推奨リソース

  • Seligman, M. E. P. (2011). Flourish: A Visionary New Understanding of Happiness and Well-being
  • Dweck, C. S. (2006). Mindset: The New Psychology of Success
  • Panksepp, J. & Biven, L. (2012). The Archaeology of Mind: Neuroevolutionary Origins of Human Emotions
  • Kegan, R. (1994). In Over Our Heads: The Mental Demands of Modern Life
  • Grant, A. M. (2003). The Impact of Life Coaching on Goal Attainment, Metacognition and Mental Health. Social Behavior and Personality

 

── この記事があなたの一歩のヒントになれば幸いです ──

投稿者プロフィール

徳吉陽河
徳吉陽河
徳吉陽河(とくよしようが)は、コーチング心理学研究会・コーチング心理学協会の創設者の一人であり、日本・世界のおけるコーチング心理学のパイオニア。コーチング心理士、公認心理師・キャリアコンサルタント、認定心理士(心理調査)、ポジティブ心理療法士、として教育・医療・福祉・産業分野で活動する専門家。東北大学大学院博士後期課程で研究し、国際コーチング心理学会、国際ポジティブ心理学会など、世界で学び、研究を発表。教育プログラム、心理尺度開発なども専門としている。著書に『ポジティブ大全』『科学的に正しい脳を活かす「問いのコツ」 結果を出す人はどんな質問をしているのか?』『ナラティヴ・セラピー BOOK』、『コーチング心理学ガイドブック』『コーチング心理学ハンドブック』などの翻訳書などがあり、科学的なエビデンスと物語(ナラティブ)に基づくコーチングとウェルビーイング教育を推進している。累計4000名のコーチ、カウンセリング実績」(ワークショップを含む)、「累計6000回以上のセミナー実績」以上の実績がある。国土交通省 航空保安大学講師、元東北文化学園大学講師、元仙台医療センター看護学校講師、元若者サポートセンター講師など。教育機関、海外・国外の法人企業などで講師を担当実績がある。学校法人・企業法人・医療法人(リハビリ)など、主に管理職に関わる講師を数多く担当。座右の銘は、「我以外皆我師」、失敗・挫折もたくさんしており、「万事塞翁が馬」大切にしている。「自己肯定感が低いからこそ成長できる」ことを大切にしている。

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