公認心理師におけるコーチング心理学、技術の統合的活用

公認心理師におけるコーチング心理学、成長・学習などの技術の統合的活用

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コーチング技術の心理支援への応用の理論的基盤

公認心理師、臨床心理士、認定心理士の方が、コーチング技術を活用することは、認知行動療法や社会心理学、教育心理学、ポジティブ心理学の理論と親和性が高く、クライアントの内的リソースを最大限に引き出すアプローチとして注目されています。従来の問題焦点型アプローチに加えて、解決焦点型・強み焦点型(ストレングス)のアプローチ、ウェルビーイング、ポジティブ感情を統合することで、より包括的な支援が可能となります。

具体的な活用場面の詳細展開

1. 目標設定支援の多層的アプローチ

  • SMART目標の設定: 具体的(Specific)、測定可能(Measurable)、達成可能(Achievable)、関連性(Relevant)、時間的制約(Time-bound)を意識した目標設定
  • 価値観との整合性確認: クライアントの深層的価値観と目標の一致度を探索
  • 段階的目標設定: 長期目標から短期目標へのブレークダウンによる実現可能性の向上
  • 目標の可視化技法: ビジュアルボードやマインドマップを活用した目標の明確化

2. 自己探索促進の体系的手法

  • 強み発見プロセス: VIA(Values in Action)強み調査などの標準化されたツールの活用
  • ライフライン作成: 人生の重要な出来事を時系列で整理し、パターンや成長点を発見
  • 価値観探索ワーク: カードソート法や価値観ランキングによる深層的価値観の明確化
  • リソースマッピング: 内的・外的リソースの包括的把握と活用戦略の構築

3. 行動変化促進の実践的技法

  • 行動計画の詳細設計: When、Where、What、Howを明確にした具体的行動計画
  • 習慣形成の科学的アプローチ: ハビットループ(きっかけ-ルーティン-報酬)の理解と活用
  • 実行障壁の事前特定: 想定される困難とその対処法の事前準備
  • 進捗モニタリングシステム: 定期的な振り返りと調整メカニズムの構築

4. 問題解決能力向上の構造化支援

  • 問題分析フレームワーク: 問題の構造化と根本原因分析の技法指導
  • 創造的思考法: ブレインストーミング、マインドマップ、シックスハット法等の習得
  • 意思決定スキル: 選択肢評価マトリックスや決定木分析の活用法指導
  • メタ認知能力開発: 自分の思考プロセスを客観視する能力の向上

5. 肯定的な心理アセスメントの活用

  • 心理尺度の肯定的な活用、成長支援
  • 心理アセスメント(投影法):アートセラピーを応用したアプローチの活用
  • ウェルビーイングのサーベイの開発と運用
  • エビデンスに基づいた支援 

コーチングとカウンセリングの統合的理解

統合的アプローチの必要性

現代の心理支援においては、コーチングとカウンセリングを対立的に捉えるのではなく、相補的な関係として理解し、統合的に活用することが重要です。

時系列的統合モデル

  1. 安定化フェーズ(カウンセリング主体): 心理的安全性の確保、トラウマや症状の軽減
  2. 移行フェーズ(統合的アプローチ): 過去の整理と未来への橋渡し
  3. 成長フェーズ(コーチング主体): 目標設定、行動変化、能力開発

状況別使い分けの指針

  • 急性期・危機状態: カウンセリングアプローチを優先
  • 回復期・安定期: 統合的アプローチで段階的移行
  • 成長期・発達期: コーチングアプローチを中心とした支援

実践における注意点と倫理的配慮

1. 専門性の境界の明確化

  • 医療的治療が必要な状態の適切な見極め
  • 他職種との連携体制の構築
  • 自己の専門性の限界の認識と適切な紹介

2. クライアントの自律性の尊重

  • 押し付けではない支援の提供
  • クライアントのペースに合わせた進行
  • 選択の自由の保障

3. 継続的な専門性向上

  • コーチング技術の体系的学習
  • スーパービジョンの活用
  • 事例検討による技術向上

今後の展望と課題

統合的心理支援モデルの発展 公認心理師の専門性を基盤として、コーチング技術を統合した新しい心理支援モデルの確立が期待されます。これにより、予防的介入から治療的介入、さらには成長促進まで、より包括的な支援の提供が可能となるでしょう。

エビデンスベースドの実践 コーチング技術を心理支援に活用する際の効果測定や、どのような条件下でより効果的かという研究の蓄積が今後の課題となります。科学的根拠に基づいた実践により、より質の高い支援の提供が可能となります。

このような統合的アプローチにより、公認心理師はクライアントの多様なニーズに対応し、その人らしい豊かな人生の実現を支援することができるのです。

投稿者プロフィール

徳吉陽河
徳吉陽河
徳吉陽河(とくよしようが)は、コーチング心理学研究会・コーチング心理学協会の創設者の一人であり、日本・世界のおけるコーチング心理学のパイオニア。コーチング心理士、公認心理師・キャリアコンサルタント、認定心理士(心理調査)、ポジティブ心理療法士、として教育・医療・福祉・産業分野で活動する専門家。東北大学大学院博士後期課程で研究し、国際コーチング心理学会、国際ポジティブ心理学会など、世界で学び、研究を発表。教育プログラム、心理尺度開発なども専門としている。著書に『ポジティブ大全』『科学的に正しい脳を活かす「問いのコツ」 結果を出す人はどんな質問をしているのか?』『ナラティヴ・セラピー BOOK』、『コーチング心理学ガイドブック』『コーチング心理学ハンドブック』などの翻訳書などがあり、科学的なエビデンスと物語(ナラティブ)に基づくコーチングとウェルビーイング教育を推進している。累計4000名のコーチ、カウンセリング実績」(ワークショップを含む)、「累計6000回以上のセミナー実績」以上の実績がある。国土交通省 航空保安大学講師、元東北文化学園大学講師、元仙台医療センター看護学校講師、元若者サポートセンター講師など。教育機関、海外・国外の法人企業などで講師を担当実績がある。学校法人・企業法人・医療法人(リハビリ)など、主に管理職に関わる講師を数多く担当。座右の銘は、「我以外皆我師」、失敗・挫折もたくさんしており、「万事塞翁が馬」大切にしている。「自己肯定感が低いからこそ成長できる」ことを大切にしている。

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