1on1心理学入門 認定資格取得の参考に

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1on1(上司と部下の定期的な個別面談)は、職場での心理的安全性の向上に注目されています。最新の研究では、1on1の頻度が高いほど部下の心理的安全性が高まることが示されています。

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1on1ミーティングの歴史的背景

1on1ミーティングの歴史的背景は、単なるマネジメント手法ではなく、人材育成と組織文化の進化と深く関わっています。


🕰 1on1の歴史的背景:年表スタイル

時期 背景・出来事
1950〜60年代 米国の人材開発分野で「フィードバック」や「コーチング」の重要性が注目され始める
1980〜90年代 シリコンバレーのIT企業で「部下の成長支援」として1on1文化が根付き始める(例:インテル)
2000年代初頭 Googleが「マネージャーの8つの習慣(Project Oxygen)」で1on1の有効性を実証
2010年代前半 日本ではヤフー株式会社が1on1を制度化し、注目を集める(本間浩輔氏による導入)
2010年代後半〜 パナソニック、楽天、ソニーなど大手企業が導入。心理的安全性やエンゲージメント向上の手段として普及
現在 ポジティブ心理学やコーチング理論と融合し、単なる面談から「成長支援の場」へと進化

🔍 背景にある3つの潮流

  1. 上意下達から対話型マネジメントへ
    指示命令型の管理から、対話を通じた信頼関係構築と自律支援へと価値観がシフト。
  2. 心理的安全性の重視
    エイミー・エドモンドソンの研究により、安心して話せる環境がチームの成果に直結することが明らかに。
  3. 経験学習の促進
    ヤフーが提唱した「経験学習サイクル(経験→内省→概念化→実践)」を1on1で回すことで、社員の成長を加速。

💡ちなみに、ヤフーの1on1は「部下の才能を解き放つ」ことを目的にしており、上司が話すのではなく、部下が話す時間を大切にしているのが特徴です。

どちらかといえば、概念的は、コーチングに関わる内容になっています。

心理的安全性への効果

  • 1on1を「2か月に1回以上」実施しているグループは、「それ未満」のグループよりも心理的安全性が有意に高いと報告されています(Shibata et al., 2024)。
  • 頻繁な1on1は、上司と部下の関係性を良好にし、安心して意見や課題を話しやすい職場環境を促進します(Shibata et al., 2024)。

メンタルヘルスへの影響

  • 1on1の頻度とメンタルヘルス(精神的健康)との間には有意な関連は見られませんでした(Shibata et al., 2024)。
  • メンタルヘルスには、1on1の頻度よりも「仕事の要求度」や「仕事のコントロール度」といった他の要因がより強く影響していました(Shibata et al., 2024)。

まとめ表:1on1の頻度と効果(Shibata et al., 2024)

1on1の頻度 心理的安全性 メンタルヘルス
2か月に1回以上 高い 変化なし
2か月に1回未満 低い 変化なし


まとめ

1on1を定期的に実施することによって、部下の心理的安全性が高まる傾向があることが示されています。
しかし、メンタルヘルスの改善には他の職場環境要因も重要であり、1on1のみでは十分な効果が得られない場合もあります。

したがって、1on1に加えて別の効果的なメンタルヘルス支援の手法を併用することが望まれます。また、近年は心理的安全性に対する関心が高まっていますが、1on1に特化した実証的研究はまだ少なく、目的や位置づけが曖昧なまま運用されているケースも見受けられます。

次に、1on1ミーティングとメンタルヘルス支援を組み合わせた具体的な実践方法を現場で使える形で整理しました


🧩 実践ステップ:1on1 × メンタルヘルス支援

ステップ 実践内容 具体的な問いかけ・工夫
① 雰囲気づくり 評価や詰問ではなく「安心して話せる場」であることを明示 「今日は業務の話だけでなく、最近の気持ちも聞かせてくださいね」
② 感情の確認 業務進捗だけでなく、感情の動きにも注目 「最近、気持ちが沈んだり、疲れを感じることはありましたか?」
③ ストレスの兆候に気づく 表情・言葉・沈黙などから変化を察知 「少し元気がないように見えますが、何か気になることはありますか?」
④ 対話の記録と継続 話した内容を簡単にメモし、次回に活かす 「前回話していた〇〇、その後どうなりましたか?」
⑤ 必要に応じて連携 かなり、メンタルヘルス的に深刻な場合は休養の配慮、さらに、産業医・EAP・人事と連携。

生命、メンタルヘルスを最優先する。

よく相手の観察し、「まだまだ頑張れます」と言っていても配慮を行う。

恥の文化、人に迷惑をかけていはいけない文化を考慮した対応を行う。

「すこし、休養について、検討してみませんか?」

「相談室に一緒に一度行きませんか?」

  • 📌ポイント:メンタルヘルスを伴う1on1の場合
    • あくまでも、お互いの成長と学びにつなげ、協力・協働感覚を意識する。日本人の場合、相手に迷惑をかけたくない文化、支援を受けることへの恥を知らず知らずに意識してしまうケースがあるため、その点を考慮する。
    • 相手をよく観察し、無理をしていないか、相手を理解する。
      よく相手の観察し、「まだまだ頑張れます」と言っていても、適切な配慮を行う。
    • 共感できるポイントを見つける。
    • 相手の言葉を肯定的解釈し、相手に伝える。
    • ポジティブなことへの強制はしない。ポジティブなことに自然に気づいてもらう対応を行う。
      (単なる ☓前向きになりましょう。☓楽観的にいきましょうなど、ポジティブハラスメントになる)
    • 弱音、愚痴、ネガティブな会話であっても、すべて受け止めて聞く態度を持つ。(心理的安全性)
    • 自分と価値観が一致していないことがあっても否定しないで受け止める。
    • こちらから、気にかけ、積極的に声を掛け、コンタクトを取ること。

💬 実際の現場での工夫例(事例より)

  • ある企業では、1on1の冒頭に「気分スケール(1〜10)」を使って、感情の状態を可視化
  • 医療現場では、「最近、安心できた瞬間は?」という問いで、ストレスの中にあるポジティブを拾う
  • IT企業では、1on1の最後に「今日の対話で少しでも気持ちが軽くなったことは?」と振り返りを促す

🧠 注意点とコツ

  • アドバイスより“共感”を優先:「それは大変でしたね」とまず受け止める
  • 沈黙を恐れない:言葉が出るまで待つことも、信頼の表現
  • “話す”より“聴く”:上司の7割は「聴く」に徹する意識で

職場で「1on1(ワン・オン・ワン)」と「メンタルヘルス」を組み合わせることは、従業員のウェルビーイングを守り、組織の持続的な成長を支える重要なマネジメント施策です。以下に、職場で実践するためのステップと注意点、制度設計のアイデアをまとめました。


🧭 職場での1on1×メンタルヘルス統合ステップ

1on1の「目的再設計」

  • 従来:業務の進捗管理・パフォーマンス確認
  • これから:信頼関係づくり+メンタルチェックの場

✅例:1on1の議題に「体調や気分の変化」を含める


事前に心理的安全性を築く

  • メンタルの話をする前提として、上司と部下間に安心できる関係性が必要
  • 方法例:
    • 雑談から始める「ウォームアップ1on1」
    • 上司も自身の体調や失敗を共有する「開示型リーダーシップ」

チェックイン・チェックアウトの導入

  • 1on1の冒頭と終了時に、気持ちや体調をスケーリング(1〜10)で確認
    • 「最近、睡眠はどう?」
    • 「今の気分を数字で言うとどれくらい?」
    • 「今週で一番嬉しかったことは?」

不調の兆しに気づくサインを共有

  • 上司向けに、メンタル不調の兆候リストを社内共有
    (例:急に発言が減る、遅刻・ミスの増加、表情が暗い)
  • **気づいたら「1on1を増やす」**など迅速なフォローが鍵

必要に応じて産業医・EAPにつなぐ

  • 深刻なメンタル不調が疑われる場合は、専門家(産業医・カウンセラー)へ引き継ぐ体制を整える
  • 「話したら不利益になる」という不安を消すため、プライバシー保護と非評価性の明示が重要

メンタルヘルスに配慮した1on1テンプレートの導入

セクション 内容
チェックイン 今週の気分、コンディション(0〜10)
仕事の振り返り うまくいったこと・しんどかったこと
感情面の確認 イライラ・不安・落ち込みなど
サポートニーズ 今、必要な支援・相談したいこと
チェックアウト 次回に話したいこと or 一言感想

📘 実際に導入している企業例(参考)

  • サイボウズ:心理的安全性向上を目的とした1on1文化を浸透
  • DeNA:1on1トレーニング+メンタルサーベイを組み合わせたケア体制
  • メルカリ:上司の聞く力向上を重視し、メンタルケアに強いリーダー育成

⚠️ 組み合わせ時の注意点

課題 解決策
話すことに抵抗感 「聞くだけ」でよいと明言し、安心感を提供
上司の対応力不足 1on1研修+メンタル対応マニュアル整備
情報の扱いに不安 機密保持と相談窓口の明確化

📈 導入効果の測定法

  • 社内ストレスチェックの改善度
  • エンゲージメントスコア(例:eNPS)
  • 離職率の低下や休職者数の推移
  • 1on1満足度調査の定期実施

*アセスメントの扱いについては、個人情報であり、結果が悪いと大変ナイーブになりやすいく、肯定的なアセスメントの活用力が求められます。その点に関しては、コーチング心理学で実施しているす心理アセスメント法を是非活用いただけると幸いです。

 

🌿 管理職のための「本当の気持ちを大切にする心理学」1on1ミーティング実践ガイド

~信頼と共感が育む、チームの力~


はじめに

1on1ミーティングは、ただ業務の話をする場ではなく、部下の“本当の気持ち”を尊重し、寄り添う場でもあります。上司が対話の中で感情や価値観を受け止め、共に考える姿勢を持つことで、部下は“話してよかった”という安心感を得ることができます。

本記事では、コーチング心理学に基づき、部下の気持ちに丁寧に寄り添うための1on1のポイントを解説します。


なぜ「本当の気持ちを大切にする」ことが重要か?

効果 説明
相互理解の深化 表面的なやりとりでは見えない価値観や感情に触れることで、関係が深まる
感情的エネルギーの回復 誰かに「分かってもらえた」という体験は、安心や前向きな気持ちを生む
信頼の土台を築く 気持ちを受け止めてもらえる経験は「この人には話せる」という心理的安全性を強化する

🧠 5つのアプローチ

① 心理的安全性の土台づくり

  • 「評価されない」「否定されない」と感じられる雰囲気を丁寧に作る
  • うなずきやアイコンタクト、穏やかな表情で“聴いている”姿勢を示す
  • 小さなことでも共感:「それはそう感じますよね」「私もそう思うことあります」

② 気持ちに焦点をあてる問いかけ

  • 「最近、仕事をしていてどんな気持ちが湧きましたか?」
  • 「一番ほっとした瞬間って、どんなときでした?」
    → 結果や行動だけでなく、感情という“その人らしさ”に敬意を払う問いかけを。

③ アクティブリスニングで「受け止める」

  • 話を遮らない・ジャッジしない
  • パラフレーズで感情を言語化:「つまり、不安と期待が入り混じっていたのですね」
  • 沈黙も大切に:言葉が出るまで、あえて待つ時間も尊重する姿勢の表れです

④ 自分も“等身大”で関わる(自己開示)

  • 「実は私もこのあいだ、ちょっとモヤモヤしたことがあって…」
    → 相手に完璧を求めず、自分も感情を持つ存在として接することで双方向の共感が生まれます

⑤ 次に繋げる“あたたかなフォローアップ”

  • 前回の話題にさりげなく触れる:「前に話してくれたあの件、その後どうなった?」
  • 小さな変化への気づきを伝える:「最近、少し表情が柔らかくなりましたね」
    → 一貫した関心と対話の“つづき”を意識することで、関係は深まり続けます

💡実例:感情に寄り添う1on1ミーティングの効果

Gさん(マネージャー)は、業務的な会話ばかりの1on1に違和感を感じ、意識的に「気持ち」に焦点を当てるようにしました。
週1回の対話で、「嬉しかったこと」「悩んだこと」を丁寧に聴き、共に笑い・共に悩む場を作った結果、

  • 部下の表情や口調が柔らかくなり
  • 小さな変化や心のサインにも気づけるようになり
  • 組織内で“このチームは話しやすい”という評判が広がりました

🏁 おわりに:話を聞くのではなく、「その人」に寄り添うということ

1on1は、データや成果だけで語られる場ではありません。
目の前の相手がどんな日々を過ごし、どんな思いを抱えているかに「関心を持つ」ことから、信頼の芽は育ちます。

「本音を引き出す」ことよりも、「あなたの気持ちを大切にしたい」というスタンスこそが、1on1の本質ではないでしょうか。


実施方法や効果は組織文化や風土によって異なる場合がございます。そのため、組織特性に配慮した効果的なアプローチを実践していただくためにも、団体・法人として研修をご希望の際は、お気軽にお問い合わせください。皆さまと協力・協働しながら有意義な機会を創出できましたら幸いです。

*この件の研修のお問い合わせは、info[@]coaching-psych.com まで[]を外して、ご連絡をお願いします。一般社団法人コーチング心理学協会事務局

References

Shibata, Y., Eguchi, H., Kawanami, S., Taguchi, Y., & Kitamura, H. (2024). P-175 A CROSS-SECTIONAL STUDY OF THE EFFECTS OF REGULAR ONE-ON-ONE MEETINGS BETWEEN SUPERVISORS AND SUBORDINATES IN THE WORKPLACE. Occupational Medicinehttps://doi.org/10.1093/occmed/kqae023.0705

投稿者プロフィール

徳吉陽河
徳吉陽河
徳吉陽河(とくよしようが)は、コーチング心理学研究会・コーチング心理学協会の創設者の一人であり、日本・世界のおけるコーチング心理学のパイオニア。コーチング心理士、公認心理師・キャリアコンサルタント、認定心理士(心理調査)、ポジティブ心理療法士、として教育・医療・福祉・産業分野で活動する専門家。東北大学大学院博士後期課程で研究し、国際コーチング心理学会、国際ポジティブ心理学会など、世界で学び、研究を発表。教育プログラム、心理尺度開発なども専門としている。著書に『ポジティブ大全』『科学的に正しい脳を活かす「問いのコツ」 結果を出す人はどんな質問をしているのか?』『ナラティヴ・セラピー BOOK』、『コーチング心理学ガイドブック』『コーチング心理学ハンドブック』などの翻訳書などがあり、科学的なエビデンスと物語(ナラティブ)に基づくコーチングとウェルビーイング教育を推進している。累計4000名のコーチ、カウンセリング実績」(ワークショップを含む)、「累計6000回以上のセミナー実績」以上の実績がある。国土交通省 航空保安大学講師、元東北文化学園大学講師、元仙台医療センター看護学校講師、元若者サポートセンター講師など。教育機関、海外・国外の法人企業などで講師を担当実績がある。学校法人・企業法人・医療法人(リハビリ)など、主に管理職に関わる講師を数多く担当。座右の銘は、「我以外皆我師」、失敗・挫折もたくさんしており、「万事塞翁が馬」大切にしている。「自己肯定感が低いからこそ成長できる」ことを大切にしている。

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