【クリティカル・フィードバックとは?】 フィードバックスキルコーチング 【コーチング心理学 用語】
*フィードバックスキルコーチング講座より
クリティカルフィードバック(決定的フィードバック)とは、受け手の成長や改善を促すために、相手を最大限に尊重し、建設的かつ具体的な指摘を行うフィードバックのことです。ただ単に批判をするのではなく、相手の心に響くような相手の行動やパフォーマンスに対して、具体的な改善点や提案を含めることで、相手がどのように行動を修正すべきか理解しやすくします。
クリティカルフィードバックのポイント
1. 具体的であること: どの行動や成果に対してフィードバックを行っているのかを明確にする。
2. 行動に焦点を当てる: 人物そのものを批判するのではなく、行動や結果に焦点を当てる。
3. 建設的であること: 単にダメ出しをするのではなく、改善点を指摘するだけでなく、具体的な改善策やアドバイスを提供する。
4. タイムリーであること: フィードバックはできるだけ早い段階で行うことが重要です。遅れると効果が薄れることがあります。
5. 感情に配慮する: 相手の感情に配慮し、適切なトーンや言葉遣いで伝えることが大切です。
6. 相手の心に響くようなメッセージを伝える。
7. 最大限に相手を尊重すること。
8.心理的安全性を確保する
クリティカルフィードバックの効果
* 自己改善の促進: 具体的なフィードバックによって、受け手はどのように行動を修正すればよいかを理解しやすくなり、自己改善が進みます。
* パフォーマンスの向上: 改善点を明確にすることで、受け手のパフォーマンスが向上します。
* 信頼関係の強化: 誠実かつ建設的なフィードバックを行うことで、相手との信頼関係が強化されます。
* 組織全体の成長: 個々のメンバーが成長することで、組織全体のパフォーマンスも向上します。
このように、クリティカルフィードバックは適切に行われれば、個人や組織の成長に大きく寄与する重要なコミュニケーション手法です。
1. 状況の観察と準備
* フィードバックを行う場所と時間を適切に設定
* 具体的な事例や数値データを準備
* 相手の立場や状況を十分に理解
2. フィードバックの構造化
* SBI(Situation-Behavior-Impact)モデルの活用
* Situation:具体的な状況の説明
* Behavior:観察された行動の詳細
* Impact:その行動がもたらした影響
3. 効果的な伝え方のテクニック
* フィードバックサンドイッチ法の活用 (ポジティブで挟む)
* ポジティブな観察から始める(できたところまで確認する)
* 状況説明と改善点を具体的に説明
* 将来への期待や励ましで締めくくる
避けるべき事項
1. 一般化した表現の使用
* 「いつも」「絶対に」などの言葉は避ける
* 代わりに具体的な事例を挙げる
2. 人格への攻撃
* 「あなたは怠慢だ」ではなく
* 「このプロジェクトでは締め切りに間に合わなかった」という表現を使う
3. 一方的な批判
* 相手の意見や考えを聞く機会を設ける
* 対話を通じて解決策を見出す
4.ネガティブな感情で相手を指摘する。
*ネガティブな記憶やトラウマなることを避ける
*ハラスメントを避ける
フィードバックを受ける側の心構え
1. オープンな姿勢
* 防衛的にならず、改善の機会として捉える
* 質問を通じて理解を深める
2. 具体的な行動計画
* フィードバックを基に具体的な改善目標を設定
* 進捗を定期的に確認する仕組みを作る
組織文化への影響
1. 心理的安全性の醸成
* 建設的なフィードバックが日常的に行われる文化づくり
* 失敗を学びの機会として捉える環境の整備
2. 継続的な改善サイクル
* フィードバックを通じたループ(PDCAサイクルなど)の確立
* 組織全体の学習と成長の促進
効果的なフォローアップ
1. 進捗の確認
* 定期的なチェックインの実施
* 必要に応じた支援の提供
2. 成功事例の共有
* 改善された点を積極的に評価
* 組織内での好事例として共有
このように、クリティカルフィードバックは単なる批評ではなく、個人と組織の成長を促進する重要なマネジメントツールとして機能します。適切に実施されることで、より健全で教育現場、生産的な職場環境の構築に貢献します。
コンテンツ一覧
1. 準備段階の詳細化
状況の観察と分析
- フィードバック対象となる具体的な出来事の時系列整理
- 関係者の役割と責任の明確化
- 組織的な文脈や背景の理解
- 期待される成果や目標との差異分析
データと事例の収集
- 定量的データ(数値、統計、KPI等)
- 定性的データ(観察記録、報告書等)
- 類似事例との比較分析
- 客観的な事実の整理
2. フィードバック実施の構造化
SBIモデルの具体的活用法
- 状況説明(Situation)
- 時間、場所、関係者の特定
- プロジェクトや業務の文脈説明
- 目標や期待値の確認
- 行動の特定(Behavior)
- 具体的な行動の詳細説明
- 観察された事実の提示
- 行動の頻度や期間の明確化
- 影響の分析(Impact)
- チームへの影響
- 業務成果への影響
- 組織目標への影響
- ステークホルダーへの影響
3. フォローアッププロセスの体系化
進捗管理の仕組み
- 週次/月次の定期面談
- 目標達成度の評価基準
- 改善計画の進捗確認
- 新たな課題の早期発見
支援体制の確立
- メンタリング/コーチング
- スキル開発機会の提供
- リソースの適切な配分
- チーム内サポート体制
4. 組織文化への統合
心理的安全性の強化施策
- オープンなコミュニケーション環境の整備
- 失敗を学びに変える仕組みづくり
- 相互フィードバックの奨励
- 建設的な対話の促進
継続的改善の仕組み化
- フィードバックループの確立
- ベストプラクティスの共有
- 改善事例のドキュメント化
- 組織学習の促進
このように体系的にアプローチすることで、クリティカルフィードバックの効果を最大化し、持続可能な改善サイクルを確立することができます。
クリティカルフィードバックの役割と影響
クリティカルフィードバックは、教育や職場環境において個人のパフォーマンスを向上させるための重要な手段とされています。以下では、クリティカルフィードバックに関する研究の主要な結論をいくつかの観点からまとめます。
クリティカルフィードバックの効果
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教育における効果: クリティカルフィードバックは、特にコンピュータ支援の協働学習環境において、学生の批判的思考スキルを向上させることが示されています。具体的には、フィードバックを受けた後、学生の議論はより明確で幅広く、創造的になり、重要で関連性のあるポイントを含むようになりました(Chen et al., 2024)。
-
教師のパフォーマンスへの影響: 初期キャリアの教師に対するクリティカルフィードバックは、特に目標設定が行われた場合に、教師のパフォーマンスを向上させることが示されています(Hunter & Springer, 2022)。
-
音楽教育における役割: 音楽教育では、クリティカルフィードバックが学習者のパフォーマンス、動機付け、自己調整に影響を与えることが確認されています。フィードバックは、学習者の関与と教師との関係性を強化することができます(De Bruin, 2022)。
フィードバックの選択と記憶
- フィードバックの選択の影響: 学生がクリティカルフィードバックを選択する場合、フィードバックの内容をよりよく記憶し、学習成果が向上することが示されています。逆に、フィードバックが一方的に与えられる場合、学習への影響は限定的です(Cutumisu & Schwartz, 2018)。
ネガティブフィードバックの潜在的な影響
- 心理的および行動的影響: ネガティブフィードバックは、自己効力感や認知、感情、行動に対して否定的な影響を与える可能性があります。これらの影響は、フィードバックの提供者や受け手の特性、フィードバックのスタイル、そして受け手の人口統計的変数によって異なります(Mercer & Gulseren, 2023)。
フィードバックの関係性と信頼
- 信頼の重要性: 大学教育において、クリティカルフィードバックは学生と教員の関係性に大きく影響します。信頼関係が強い場合、フィードバックはより効果的に受け入れられ、学習に役立つことが示されています(Troy et al., 2024)。
これらの研究は、クリティカルフィードバックが教育や職場でのパフォーマンス向上において重要な役割を果たすことを示していますが、その効果はフィードバックの提供方法や受け手の特性によって大きく異なることも示しています。
クリティカルフィードバックは、組織においてさまざまな効果をもたらします。主な効果には、従業員の仕事満足度の向上、組織市民行動(OCB)の意図の強化、そしてパフォーマンスの向上が含まれます。
仕事満足度と組織市民行動(OCB)
- クリティカルフィードバックを受けた従業員は、上司からの尊重を感じ、組織内での昇進の機会をより多く認識する傾向があります。これにより、仕事の満足度が向上し、OCBの意図が強化されます(Sommer & Kulkarni, 2012)。
- フィードバックの頻度が高い場合、OCBの報告が増加する傾向があります(Tagliabue et al., 2020)。
パフォーマンスへの影響
- 組織や上司からのフィードバックは、従業員のパフォーマンスに直接関連しており、特にポジティブなフィードバックはパフォーマンスの向上に寄与します(Becker & Klimoski, 1989)。
- フィードバックは、学習とモチベーションにおいて重要な役割を果たし、個人の行動に影響を与えます(Ilgen et al., 1979)。
フィードバックの特性と効果
- フィードバックは、水平的(同僚間)および垂直的(上司から部下への)に提供されることがあり、これらは組織の効果性に異なる影響を与えます。水平的フィードバックは目標達成や承認に関連し、垂直的フィードバックは主に目標達成に関連します(Morrow, 1982)。
- フィードバックの内容がプロセスに関するものである場合、結果に対するフィードバックよりも混合した効果を示すことがあります(Gabelica et al., 2012)。
References
Chen, W., Hu, H., Lyu, Q., & Zheng, L. (2024). Using peer feedback to improve critical thinking in computer‐supported collaborative argumentation: An exploratory study. Journal of Computer Assisted Learning. https://doi.org/10.1111/jcal.13078
Hunter, S., & Springer, M. (2022). Critical Feedback Characteristics, Teacher Human Capital, and Early-Career Teacher Performance: A Mixed-Methods Analysis. Educational Evaluation and Policy Analysis, 44, 380 – 403. https://doi.org/10.3102/01623737211062913
De Bruin, L. (2022). Feedback in the instrumental music lesson: A qualitative study. Psychology of Music, 51, 1259 – 1274. https://doi.org/10.1177/03057356221135668
Troy, A., Moua, H., & Van Boekel, M. (2024). Wise feedback and trust in higher education: A quantitative and qualitative exploration of undergraduate students’ experiences with critical feedback. Psychology in the Schools. https://doi.org/10.1002/pits.23164
Cutumisu, M., & Schwartz, D. (2018). The impact of critical feedback choice on students’ revision, performance, learning, and memory. Comput. Hum. Behav., 78, 351-367. https://doi.org/10.1016/j.chb.2017.06.029
Mercer, M., & Gulseren, D. (2023). When negative feedback harms: a systematic review of the unintended consequences of negative feedback on psychological, attitudinal, and behavioral responses. Studies in Higher Education, 49, 654 – 669. https://doi.org/10.1080/03075079.2023.2248490
Sommer, K., & Kulkarni, M. (2012). Does constructive performance feedback improve citizenship intentions and job satisfaction? The roles of perceived opportunities for advancement, respect, and mood. Human Resource Development Quarterly, 23, 177-201. https://doi.org/10.1002/HRDQ.21132
Becker, T., & Klimoski, R. (1989). A FIELD STUDY OF THE RELATIONSHIP BETWEEN THE ORGANIZATIONAL FEEDBACK ENVIRONMENT AND PERFORMANCE. Personnel Psychology, 42, 343-358. https://doi.org/10.1111/J.1744-6570.1989.TB00662.X
Gabelica, C., Bossche, P., Segers, M., & Gijselaers, W. (2012). Feedback, a powerful lever in teams: A review. Educational Research Review, 7, 123-144. https://doi.org/10.1016/J.EDUREV.2011.11.003
Morrow, P. (1982). EXPLORATIONS IN MACRO COMMUNICATION BEHAVIOUR: THE EFFECTS OF ORGANIZATIONAL FEEDBACK ON ORGANIZATIONAL EFFECTIVENESS [1]. Journal of Management Studies, 19, 437-446. https://doi.org/10.1111/J.1467-6486.1982.TB00118.X
Ilgen, D., Fisher, C., & Taylor, M. (1979). Consequences of individual feedback on behavior in organizations.. Journal of Applied Psychology, 64, 349-371. https://doi.org/10.1037/0021-9010.64.4.349
Tagliabue, M., Sigurjonsdottir, S., & Sandaker, I. (2020). The effects of performance feedback on organizational citizenship behaviour: a systematic review and meta-analysis. European Journal of Work and Organizational Psychology, 29, 841 – 861. https://doi.org/10.1080/1359432x.2020.1796647