地震災害に対するコーチング心理学での対応法

地震災害に対するコーチング心理学での対応法

―― 共感でつながり、心の回復力(レジリエンス)を育むアプローチ ――

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突然の激しい揺れ、繰り返す余震への恐怖、一変してしまった日常。地震という自然災害は、建物やインフラだけでなく、私たちの「心」にも深い爪痕を残します。「もう大丈夫」と頭ではわかっていても、なぜか涙が止まらない。夜になると理由のわからない不安が押し寄せる。そうした経験をした方、あるいは職場や地域でそうした方に寄り添う立場にある支援者の方も、決して少なくないはずです。

本記事では、コーチング心理学(Coaching Psychology)の視点から、地震災害後の心のケアと回復力を高めるための考え方と、現場ですぐに活用できる実践的アプローチを、専門用語をできるだけかみ砕きながらご紹介します。人事・研修担当者、産業保健スタッフ、地域支援者、そして被災された方ご自身にも役立つ内容を目指しました。

なぜ今、コーチング心理学による災害心理支援が必要なのか

日本は世界有数の地震大国です。大規模な地震のたびに、避難所運営や物資支援といった「生活の再建」には注目が集まる一方、目に見えない「心の再建」は後回しにされがちです。しかし、心のケアが遅れると、その後の生活再建や職場復帰にも大きな影響を及ぼすことが知られています。

コーチング心理学は、臨床的な心理療法とは異なり、「今この瞬間から、その人が持つ強みを活かして前に進む」ことを支える実践的な枠組みです。専門的な治療が必要なケースを見極めつつ、日常のなかで誰もが行える支援的な関わり方を提供できる点で、災害後のあらゆる支援の場面と相性が良いのです。

地震がもたらす心の反応を正しく理解する

誰にでも起こりうる「急性ストレス反応」

大きな揺れを経験した後、動悸や不眠、些細な物音への過敏な反応、集中力の低下といった症状が現れることがあります。これらは「異常な出来事に対する正常な反応」であり、多くの場合、時間の経過とともに和らいでいきます。まずこの前提を支援者自身が理解し、本人にも伝えることが、不要な自己否定を防ぐ第一歩になります。

時間とともに変化する心理プロセス

災害心理学では、被災後の心理状態は一直線には回復せず、緊張が高まる時期、混乱や苛立ちが増す時期、そして少しずつ生活のリズムを取り戻していく時期など、波を打ちながら変化していくと考えられています。「昨日は元気そうだったのに今日は落ち込んでいる」という揺れ動きも、決して珍しいことではありません。

コーチング心理学が支援にもたらす3つの視点

傾聴と共感的な関わり(OARS)

動機づけ面接(Motivational Interviewing)に由来するOARS――開かれた質問(Open questions)、是認(Affirmation)、聞き返し(Reflective listening)、要約(Summarize)――は、被災した方の話を「解決しよう」とせず、まず「そのまま受け止める」ための強力な技術です。「大変でしたね、頑張ってください」と急いで励ますよりも、「あのときの揺れは、本当に怖かったのですね」と聞き返すことが、安心感につながります。

心理的安全性の確保

評価されず、否定されず、安心して感情を表出できる場をつくることは、コーチング関係の土台です。災害後は特に「弱音を吐いてはいけない」という空気が生まれやすいため、支援者が率先して「どんな感情も自然なことだ」という姿勢を示すことが重要になります。

強みへの着目(リソース活性化)

問題や欠落に焦点を当て続けるのではなく、「これまでどうやって困難を乗り越えてきたか」という過去の成功体験や、本人がすでに持っている資源に光を当てることも、コーチング心理学の重要な視点です。これは決して「前向きさの強要」ではなく、本人のペースを尊重しながら、少しずつ視野を広げていく関わりです。

PRISM(Tomorrowmind)フレームワークで考える災害後のレジリエンス構築

『これからの生き方』(Tomorrowmind)で紹介されているPRISMフレームワークは、見通す力(Prospection)、回復力(Resilience)、創造性(Innovation)、社会的つながり(Social Connection)、意味・貢献(Mattering)という5つの要素から人間の心理的な強さを捉える枠組みです。災害後の支援にも、次のように応用できます。

要素 災害後に起こりやすい状態 コーチング的な関わり方
P 見通す力 (Prospection) 先の見えない不安、将来への悲観 「今できる小さな一歩」を一緒に描き、見通しを取り戻す問いかけを行う
R 回復力 (Resilience) 無力感、自己効力感の低下 過去に乗り越えた経験を想起させ、強みを言語化する
I 創造性 (Innovation) 思考の硬直化、選択肢が見えない状態 オープンクエスチョンで新しい選択肢を一緒に探索する
S 社会的つながり (Social Connection) 孤立感、支援を求めにくい心理 安心して話せる関係性を築き、周囲とのつながりを再構築する支援を行う
M 意味・貢献 (Mattering) 「自分は役に立たない」という感覚 小さな貢献や役割を見出し、意味の再構築を支える

 

現場で使える実践的アプローチ

WOOPメソッドで「次の一歩」を描く

願い(Wish)、成果(Outcome)、障害(Obstacle)、計画(Plan)の頭文字をとったWOOPメソッドは、漠然とした不安を具体的な行動計画に変換するのに役立ちます。「まず何を願うか」「それが叶うとどんな気持ちになるか」「その道のりで何が障害になりそうか」「では具体的にどうするか」と順に問いかけることで、被災した方が主体的に次の一歩を選び取れるよう支えます。

ナラティブコーチングで体験に意味を与える

災害体験は、ともすれば「自分は被害者だ」という物語に固定されがちです。ナラティブコーチングでは、体験を丁寧に語ってもらいながら(Discover)、そこにあった強みや工夫を見出して名づけ(Name)、あらためて語り直し(Narrate)、それを自分のものとして内在化し(Internalize)、いずれは同じ経験をした誰かの支えになる(Contribute)という流れを通じて、被害者としての物語から、困難を乗り越えつつある人としての物語へと、少しずつ再構築していく支援を行います。

支援者自身の心を守るために

被災された方の話を継続的に聴く支援者自身も、代理受傷(共感疲労)と呼ばれる心理的な負担を受けることがあります。人事・産業保健スタッフやコーチ自身が、定期的に自分の状態を振り返る時間を持ち、同僚同士でのスーパービジョンや相談の場を確保することは、支援を長く続けるための必須条件です。「支援する人こそ支援される必要がある」という前提を、組織として共有しておくことが望まれます。

職場・地域コミュニティでの実践ポイント

💡 災害後の職場・地域支援チェックリスト

・まずは安全確保と生活基盤の状況を確認する

・感情を否定せず、評価せずに耳を傾ける時間を用意する

・「頑張って」よりも「大変でしたね」と気持ちに寄り添う言葉を選ぶ

・本人のペースを尊重し、無理に前向きさを求めない

・必要に応じて専門的な医療・カウンセリング機関につなぐ

・支援者同士が孤立しないよう、定期的な振り返りの場を設ける

よくある質問(FAQ)

Q1. コーチングとカウンセリング・心理療法はどう違いますか?

カウンセリングや心理療法が過去の傷つきの治療や診断を目的とすることが多いのに対し、コーチングは「今ここから、どう前に進むか」に焦点を当てます。ただし、強い抑うつ症状やフラッシュバックなど専門的なケアが必要と思われる場合は、速やかに医療・心理の専門機関につなぐことが前提となります。

Q2. 被災直後、どのように声をかければよいですか?

「大丈夫?」と聞くよりも、「今、一番気がかりなことは何ですか」「話せる範囲で聞かせてください」といった開かれた問いかけが有効です。沈黙を怖がらず、相手のペースに委ねる姿勢が安心感につながります。

Q3. PTSD(心的外傷後ストレス障害)が疑われる場合、コーチングだけで対応してよいですか?

いいえ。強い再体験症状や回避行動、著しい機能低下が見られる場合は、コーチングだけではなく,医療機関との連携とケアが必要になります。少しでもみらに向けた復興や道筋を広げていくために,「気づき、つなぐ」役割を担います。

Q4. 職場で被災した従業員にどう関わればよいですか?

業務上の配慮(勤務時間の調整、業務量の一時的な軽減など)と、心理的なサポートは分けて考える必要があります。管理職には「聴く」役割を担ってもらい、専門的なケアは産業保健スタッフや外部の相談窓口につなぐ体制をあらかじめ整えておくことが望まれます。

Q5. 支援を続けるうちに、支援者自身が疲弊してしまったときは?

それは支援者として自然な反応です。一人で抱え込まず、同僚や上司に状況を共有し、必要であれば自分自身もカウンセリングや相談の場を利用してください。支援者のセルフケアは、支援の質を保つための土台です。

まとめ

地震災害後の心のケアにおいて、コーチング心理学は「治療」ではなく「伴走」の視点を提供してくれます。傾聴と共感的な関わり、心理的安全性の確保、そして本人の強みに光を当てるアプローチは、専門的な治療を必要としない多くの方々にとって、日常を取り戻すための確かな支えとなります。PRISMフレームワークやWOOPメソッド、ナラティブコーチングといった具体的な手法を知っておくことは、家族や同僚、地域の一員として、大切な人にそっと寄り添うための実践的な備えになるはずです。

キーワード: 地震災害 / 災害心理支援 / コーチング心理学 / レジリエンス / PRISM / Tomorrowmind / 心理的安全性 / 傾聴 / OARS / WOOPメソッド / ナラティブコーチング / 惨事ストレス / 職場のメンタルヘルス

投稿者プロフィール

徳吉陽河
徳吉陽河
徳吉陽河(とくよしようが)は、コーチング心理学研究会・コーチング心理学協会の創設者の一人であり、日本・世界のおけるコーチング心理学のパイオニア。コーチング心理士、公認心理師・キャリアコンサルタント、認定心理士(心理調査)、ポジティブ心理療法士、として教育・医療・福祉・産業分野で活動する専門家。東北大学大学院博士後期課程で研究し、国際コーチング心理学会、国際ポジティブ心理学会など、世界で学び、研究を発表。教育プログラム、心理尺度開発なども専門としている。著書に『ポジティブ大全』『科学的に正しい脳を活かす「問いのコツ」 結果を出す人はどんな質問をしているのか?』『ナラティヴ・セラピー BOOK』翻訳書『Tomorrowmind日本語版 これからの生き方』『コーチング心理学ガイドブック』『コーチング心理学ハンドブック』などの翻訳書などがあり、科学的なエビデンスと物語(ナラティブ)に基づくコーチングとウェルビーイング教育を推進している。累計4000名のコーチ、カウンセリング実績」(ワークショップを含む)、「累計6000回以上のセミナー実績」以上の実績がある。国土交通省 航空保安大学講師、元東北文化学園大学講師、元仙台医療センター看護学校講師、元若者サポートセンター講師など。教育機関、海外・国外の法人企業などで講師を担当実績がある。学校法人・企業法人・医療法人(リハビリ)など、主に管理職に関わる講師を数多く担当。座右の銘は、「我以外皆我師」、失敗・挫折もたくさんしており、「万事塞翁が馬」大切にしている。「自己肯定感が低いからこそ成長できる」ことを大切にしている。

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