可能性の科学と解決志向コーチング 統合的実践 隠れた才能とは?

HIDDEN POTENTIAL(可能性の科学)」と解決志向コーチング

——アダム・グラントの可能性の科学と解決志向コーチングの統合的実践——

アダム・グラント著 / コーチング実践研究

HSFAC

entry 3解決志向療法と解決志向コーチング講座

 

 

はじめに——あなたの「可能性」はまだ眠っている

「自分には才能がないから、どうせ無理だ」——そんなふうに感じたことはありませんか?

組織心理学者アダム・グラントの著書『HIDDEN POTENTIAL(可能性の科学)』は、そのような思い込みに真っ向から挑む一冊です。グラントは「才能は出発点ではなく、努力と学びの環境によって開花するものだ」と説きます。そして、その視点は解決志向コーチング(Solution-Focused Coaching)の哲学と驚くほど深く共鳴しています。

本記事では、『HIDDEN POTENTIAL』の主要なメッセージを解説しながら、解決志向コーチングとの統合的な実践方法を、わかりやすくお伝えします。「自分はまだ変われる」という希望を、具体的な行動に結びつけるためのヒントが満載です。

HIDDEN POTENTIAL』が伝える「可能性の科学」とは?

才能より「成長の習慣」が重要

グラントはこの本を通じて、「才能(タレント)への過度な信仰」を問い直します。多くの人が「生まれつきの才能こそが成功を決める」と信じていますが、研究データはそれを否定します。重要なのは、才能の有無ではなく「成長を支える習慣と環境」なのです。

本書では次の3つが「隠れた可能性を引き出す鍵」として紹介されています。

  • 不快感への耐性(Discomfort Tolerance ——成長の痛みを受け入れ、失敗から学ぶ力
  • 完璧主義の脱却(Imperfection as Progress ——完璧を求めず、「よりよい自分」を目指す姿勢
  • 支援の受け取り方(Absorbing Support ——他者の助けを素直に受け入れ、活かす能力

「プロセス重視」の成長観

グラントが強調するのは「結果ではなくプロセスへの注目」です。チェスの名人も、数学オリンピアンも、最初から突出していたわけではありませんでした。彼らに共通するのは「学びのプロセスを楽しむ構造」が整っていたことです。これは、「人はすでに答えを持っている」という解決志向アプローチの根本的な信念と一致しています。

スキャフォールディング:足場を組む支援の力

本書のキーコンセプトのひとつが「スキャフォールディング(足場)」です。優れた教育者やコーチは、学習者が届きそうで届かない場所に「ちょうどいい足場」を設けることで、自力での成長を促します。コーチが「答えを与える」のではなく「探索の場を作る」——これは解決志向コーチングの本質そのものです。

解決志向コーチングとは何か?——強みと未来に焦点を当てる技法

解決志向コーチング(Solution-Focused Coaching, SFC)は、スティーブ・ド・シェイザーとインスー・キム・バーグが開発した「解決志向短期療法(SFBT)」を源流に持つアプローチです。問題の原因を深掘りするのではなく、「うまくいっているとき」「すでにできていること」「望む未来」に焦点を当てることが特徴です。

解決志向コーチングの4つの基本原則

  • リソース(資源)への注目:クライアントがすでに持っている強み・能力・過去の成功体験を活かす
  • ゴール設定(Well-Formed Goal):具体的で、肯定的で、達成可能な目標を明確にする
  • 例外(Exception)の探索:「問題が起きていないとき」に何が違うかを探る
  • スケーリング・クエスチョン(SQ):010点でいまどこにいますか?」で現在地と進歩を可視化する

統合的実践——HIDDEN POTENTIAL×解決志向コーチングで何が変わるか?

ここからが本記事のコアです。アダム・グラントのメッセージと解決志向コーチングを組み合わせると、コーチングセッションの質が劇的に向上します。具体的な統合ポイントを4つご紹介します。

統合ポイント「才能より習慣」×「例外の探索」

グラントが「才能より習慣が重要」と説くとき、コーチはクライアントに「すでにうまくいっているとき、何をしているか?」という例外質問を投げかけます。「才能がないから無理」という物語を崩し、「実はもうできているパターン」を発見するプロセスは、まさに隠れた可能性を可視化する瞬間です。

【コーチングの問い例】

  • 「プレゼンがうまくいったとき、いつもと何が違いましたか?」
  • 「最近、仕事で少し手応えを感じた場面はありますか?」

統合ポイント「不快感への耐性」×「スケーリング・クエスチョン」

成長には「快適ゾーンの外」に踏み出す不快感が伴います。しかし人はその不快感を「失敗のサイン」と受け取りがちです。解決志向コーチングでは、スケーリング・クエスチョンを使って「いまの不快感は成長の証拠」と再定義することができます。

【コーチングの問い例】

  • 0が『完全に止まっている』、10が『理想の成長』だとしたら、いまどこにいますか?」
  • 「いまの不快感を1点上げるために、小さく一歩踏み出すとしたら何ができそうですか?」

統合ポイント「スキャフォールディング」×「ゴール設定」

「足場を組む」という発想は、解決志向コーチングの「Well-Formed Goal(適切に設定された目標)」と対応しています。コーチはクライアントが「ちょうど手が届く」ゴールを一緒に言語化し、その足場を段階的に整えていきます。

Well-Formed Goalの条件(SFC×HIDDENのフレーム)

  • 具体的で行動可能(「もっと頑張る」「毎朝10分、読書する」)
  • クライアント自身が望むもの(他者から押しつけられたものでない)
  • 今の自分から「ちょうど1歩先」のストレッチゴール
  • 達成を自分の目で確認できる(Observable

統合ポイント「支援を受け取る力」×「コーチとの信頼関係」

グラントが「支援を吸収する能力」を強調するのは、成長に他者の存在が欠かせないからです。解決志向コーチングでは、コーチはクライアントを「問題のある人」ではなく「すでに答えを持つ人」として関わります。この非評価的な関係性こそが「支援を受け取る安全な場」を生み出し、クライアントの隠れた可能性を引き出す土台となります。

実践ガイド——コーチングセッションへの落とし込み方

では、具体的にコーチングの場でどう活用するか。以下に「HIDDEN POTENTIAL×SFC」の統合セッションフローを示します。

STEP 1:ゴールの明確化(510分)

「今日のセッションが終わったとき、どうなっていたら最高ですか?」「3か月後の自分は何をしていますか?」——これらの未来志向の質問で、クライアントが「本当に望む姿」を言語化します。グラントの言う「プロセスへの投資」の起点はここです。

STEP 2:例外とリソースの発掘(1015分)

「すでにうまくいっているときを思い出してください。そのとき、自分のどんな部分が活きていましたか?」クライアントが「自分にはできない」という物語から離れ、過去の成功パターン、自分の強み(リソース)に気づく時間です。

STEP 3:スケーリングで現在地の確認(5分)

「今の自分をスケールで表すと何点ですか?」「その点数に至った理由は何ですか?(0点じゃなかった理由を聞く)」——ここで大切なのは「なぜ低い点数か」ではなく「なぜその点数まで来られたか」を問うことです。これがHIDDEN POTENTIALの「成長を認める視点」と完全に一致します。

STEP 4:スモールステップの設定(10分)

「次の1週間で、今より0.5点上がるためにできる、一番小さい行動は何ですか?」スキャフォールディングの発想で「ちょうどいいサイズの次の一歩」を設定します。大きな変化より、続けられる小さな変化が「習慣」を生み、習慣が隠れた可能性を開花させます。

この記事で扱う重要キーワードと概念整理

本記事のテーマは,重要なキーワード群を含んでいます。整理しておきます。

  • HIDDEN POTENTIAL(ヒドゥン・ポテンシャル) :アダム・グラント著、組織心理学に基づく可能性開発の書籍
  • 解決志向コーチング(Solution-Focused Coaching :問題より解決・強みに焦点を当てるコーチング手法
  • スキャフォールディング :学習者が次の段階に進めるよう「足場」を整える支援方法
  • スケーリング・クエスチョン :010の数字で現在地・変化・目標を可視化するSFCの技法
  • 成長マインドセット(Growth Mindset :キャロル・ドゥエック発、能力は努力で伸ばせるという信念(HIDDEN POTENTIALの土台)

おわりに——「可能性の科学」はコーチングの未来を変える

HIDDEN POTENTIAL』が私たちに伝えるのは、「あなたはまだ自分の可能性を見くびっている」というメッセージです。そして解決志向コーチングが証明してきたのは、「人はすでに答えを持っており、コーチはその発見を助ける存在である」ということです。

この2つのアプローチを統合したとき、コーチングはただの「目標管理ツール」ではなくなります。それは、クライアントが自分の中に眠る「隠れた可能性」を発掘し、育て、世界に解き放つための旅の同伴者となります。

才能は出発点ではありません。習慣、環境、そして「ちょうどいい足場」——それがあれば、誰の中にも隠れた可能性は必ず花開きます。

あなたのコーチングセッションに、今日からこの視点を取り入れてみてください。きっと、クライアントの目に新しい光が宿るはずです。

 

7. よくある質問(FAQ2

Q1. 解決志向療法とコーチングの違いは何ですか?

解決志向療法(SFT)は、粿神的な課題や心理的な苦痛を抱える人への臨床的アプローチです。一方、解決志向コーチング(SFC)は、基本的には粿神疑患のない健康な人の目標達成や成長支援を目的としています。職場での一般的な離職防止・人材育成においてはSFCが適しています。

Q2. 解決志向コーチングを学ぶにはどうすればいいですか?

国内外にSFC関連の研修・資格プログラムが存在します。日本でも 一般社団法人コーチング心理学協会にて,解決志向コーチングの研修が提供されています。解決志向コーチ は一般社団法人コーチング心理学協会の特許庁登録となっています。

Q3. 全社員に必要ですか、管理職だけでいいですか?

最初は管理職(特に現場マネージャー)へのトレーニングから始めることをお勧めします。管理職のコミュニケーションスタイルが変わると、チーム全体の雰囲気に自然と影響が広がります。定着してきたら、全社的な研修や文化づくりに展開するのが効果的です。

Q4. 解決志向療法とCBT(認知行動療法)はどう違うの?

CBT(認知行動療法)は、ネガティブな思考パターンを特定して修正することを重視します。一方、解決志向療法と解決志向コーチングは思考パターンの分析よりも、「解決が実現した未来」と「うまくいっている例外」に注目します。どちらも科学的根拠に基づいた有効なアプローチであり、目的や状況に応じて使い分けることが理想的です。

  

Q5.一般社団法人コーチング心理学協会では,「解決志向アプローチ」「解決志向コーチング」の実践について学べますか?

はい、コーチング心理学は,解決志向コーチング講座などで,学ぶことが出来ます。科学的・現代的な視点で解決志向とエンゲージメントについて実践・研究を行っています。各講座も工夫して,楽しめるようなツールやアプリなどを活用しています。ぜひ,体験してみていただければ幸甚です。

解決志向療法と解決志向コーチング講座

 

Q6. 一般社団法人コーチング心理学協会では,「解決志向アプローチ」「解決志向コーチング」に関する団体研修・法人研修などを実施してますか?(新入社員・中途社員・管理職研修など)

はい,実施しております。もしご希望でしたら,お問い合わせまでご連絡をいただければ幸甚です。
各組織や会社によって異なりますので,内容に合わせて対応いたしますの。協働で研修なども可能です。
お問い合わせまでご連絡をいただければ幸甚です。

https://www.coaching-psych.com/contact/

 

 

【参考・関連キーワード】

アダム・グラント / HIDDEN POTENTIAL / 可能性の科学 / 解決志向コーチング / Solution-Focused Coaching / SFC / SFBT / スキャフォールディング / スケーリング・クエスチョン / 成長マインドセット / キャロル・ドゥエック / 強みを活かすコーチング / コーチング手法 / コーチングスキル / ポジティブ心理学 / 組織心理学 / 人材開発 / リーダーシップ開発 / 1on1コーチング

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投稿者プロフィール

徳吉陽河
徳吉陽河
徳吉陽河(とくよしようが)は、コーチング心理学研究会・コーチング心理学協会の創設者の一人であり、日本・世界のおけるコーチング心理学のパイオニア。コーチング心理士、公認心理師・キャリアコンサルタント、認定心理士(心理調査)、ポジティブ心理療法士、として教育・医療・福祉・産業分野で活動する専門家。東北大学大学院博士後期課程で研究し、国際コーチング心理学会、国際ポジティブ心理学会など、世界で学び、研究を発表。教育プログラム、心理尺度開発なども専門としている。著書に『ポジティブ大全』『科学的に正しい脳を活かす「問いのコツ」 結果を出す人はどんな質問をしているのか?』『ナラティヴ・セラピー BOOK』、『コーチング心理学ガイドブック』『コーチング心理学ハンドブック』などの翻訳書などがあり、科学的なエビデンスと物語(ナラティブ)に基づくコーチングとウェルビーイング教育を推進している。累計4000名のコーチ、カウンセリング実績」(ワークショップを含む)、「累計6000回以上のセミナー実績」以上の実績がある。国土交通省 航空保安大学講師、元東北文化学園大学講師、元仙台医療センター看護学校講師、元若者サポートセンター講師など。教育機関、海外・国外の法人企業などで講師を担当実績がある。学校法人・企業法人・医療法人(リハビリ)など、主に管理職に関わる講師を数多く担当。座右の銘は、「我以外皆我師」、失敗・挫折もたくさんしており、「万事塞翁が馬」大切にしている。「自己肯定感が低いからこそ成長できる」ことを大切にしている。

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