ジョブス思考と解決志向アプローチ、未来志向、創造性、ビックファイブの関係とは?

かつて、スティーブ・ジョブズ氏が2005年6月12日、スタンフォード大学の卒業式で行った講演にとても共感し、スティーブ・ジョブズの考え方とシドニー大学のグラント教授の解決志向尺度、未来志向尺度、パーソナリティ(ビックファイブ)との関連性の研究を行いました。ジョブズの考え方は、解決志向や未来志向に関わり、創造性に関わることがわかりました。メリットについて、その内容についても、ここで紹介したいと思います。講座に関わる内容は、関連する解決志向コーチング、クリエイティブコーチング(創造的問題解決コーチング)講座などで実施しています。


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【背景】
スティーブ・ジョブズが2005年にスタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチは、今なお世界中で語り継がれる名講演です。彼はこのスピーチで、自身の人生から得た3つの教訓を語りました。
🧩 1. 点と点をつなぐ(Connecting the Dots)
ジョブズは大学を中退した後も、興味のある授業に出続けました。カリグラフィーの授業で学んだ美的感覚が、後のMacの美しいフォント設計に活かされたことを例に、「今は意味が分からなくても、後から振り返ればすべてがつながる」と語りました。「過去と現在の点を未来に結びつける」重要性を語りました。 *カリグラフィー(calligraphy)とは、文字を美しく見せるための手法
💔 2. 愛と喪失(Love and Loss)
Appleを創業したにもかかわらず、自らが解雇された経験を語り、「人生で最も創造的な時期だった」と振り返ります。NeXTやPixarの立ち上げを経てAppleに復帰した彼は、「自分の好きなことを見つけることが何より大切」と強調しました。
⏳ 3. 死について(Death)
膵臓がんと診断された経験から、「死を意識することは、人生で最も重要な選択を助けてくれる」と述べました。そして、「他人の意見に惑わされず、自分の心と直感に従うこと」の大切さを訴えました。その中で、「後悔がないように生きること」を強調していました。
🔑 名言:「Stay Hungry, Stay Foolish」
スピーチの最後に、ジョブズは「ハングリーであれ。愚かであれ(Stay Hungry, Stay Foolish)」という言葉を贈りました。これは、常に学び、挑戦し続ける姿勢を象徴するフレーズとして、多くの人の心に残っています。

上記の中から、3つの視点
過去と現在の点を未来に結びつける
自分の好きなことを見つけることが何より大切
後悔がないように生きること
を取り上げ、ジョブズ思考として、研究を行いました。
スティーブ・ジョブズのスピーチに基づく3つの重要なテーマを、意味と意義の観点から表に整理しました。
| テーマ | 意味 | 意義 |
|---|---|---|
| 過去と現在の点を未来に結びつける | 今の経験が将来どこかで意味を持ち、つながるという視点 | 今は意味が見えなくても、経験を信じて前に進む勇気が持てる/キャリアや人生の選択に希望を持てる |
| 自分の好きなことを見つけることが何より大切 | 情熱や関心から行動することが、自分らしい人生の基盤になる | 継続や成長につながり、幸福感や自己肯定感が高まる/人生の軸を明確にできる |
| 後悔がないように生きること | 自分の意思で選択しながら、今を大切に生きる姿勢 | 他人の期待に流されずに生きられる/挑戦の後押しになり、人生全体に納得感が生まれる |
そして、心理学的な視点で3つ項目にかかわる尺度を作成しました。
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◆ジョブズ思考尺度
・・ジョブズの3つの視点から構成された心理尺度です。
以下の質問に対して、最も当てはまるものを選んでください。
評価基準(5段階)
1 = 全く当てはまらない
2 = 当てはまらない
3 = どちらともいえない
4 = 当てはまる
5 = かなり当てはまる
質問項目
1.No Regret(後悔がなく、1日を大切にできる)
後悔しないように,いつも今日という日を大切にしている。
☐ 1 ☐ 2 ☐ 3 ☐ 4 ☐ 5
2.Linking(過去の経験をつなぎ合わせる)
過去の経験をつなぎ合わせて,今の自分に応用ができる。
☐ 1 ☐ 2 ☐ 3 ☐ 4 ☐ 5
3.Passion(好きなことができる)
自分の好きなことができている。
☐ 1 ☐ 2 ☐ 3 ☐ 4 ☐ 5
◆合計点( )
平均点:9点(SD=3)人数=868名)
| 平均値 | SD | かなり高い | 高い | 普通 | 低い | かなり低い | |
| ジョブズ思考合計 | 9 | 3 | 13 | 11~12 | 9~10 | 7~8 | 6以下 |
| 線をつなぐ | 3 | 1 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 |
| 後悔しない | 3 | 1 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 |
| 好きなこと | 3 | 1 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 |
信頼係数(Alpha reliability)= 0.75
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◆心理的ネットワーク分析
ジョブズ思考について、パーソナリティや解決志向、未来志向などを検討するため心理的ネットワーク分析を行いました。
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TIPI-J尺度 ビックファイブ・パーソナリティ尺度
以下のパーソナリティを測定できる尺度
外向性(Extraversion)、協調性(Agreeableness)、勤勉性(Conscientiousness)、神経症傾向(Neuroticism)、開放性(Openness)
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SFI(Solution-Focused Inventory)はシドニー大学のグラント教授が開発した解決志向に関わる尺度です。解決志向(Solution-Focused Approach)の傾向を測定するために開発された心理尺度。内容は、「問題の外在化(解決志向)」、「資源の活性化」、「目標志向」です。その他、未来に関わる尺度を設定して心理的ネットワーク分析を実施しました。–ここでの心理的ネットワーク分析では、
青色線は、プラスの関係を示し、
赤い線は、関係が薄いか、逆のマイナスの関係を示します。
太いほど関係が強い傾向を示します。

以下は、近接性(関係の近さ)を示す図です。ジョブズ思考は、資源の活性化、未来志向、目標志向、開放性(知的好奇心)に近いことがわかります。

🧩 分かりやすくまとめたポイント
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 中心にある価値観 | 「Passion(好きなこと)」「Linking(つながり)」「No regrets(後悔しない)」など、スティーブ・ジョブズの考え方が中心に位置し、多くの心理特性と関連している。 |
| 関連するポジティブな要素 | 勤勉性・外向性・開放性・目標志向・前向きな自己認識など、いわゆる「自分を前に動かす力」とつながっている。 |
| 解決志向とのつながり | 「どうなりたいか」「何がうまくいっているか」を大切にするSFIの要素とジョブズの価値観がリンクしている。 |
| 神経症傾向の特徴 | ネガティブな感情に敏感な傾向(神経症傾向)は、他の前向きな特性との結びつきが弱く、やや離れた位置にある。 |
| 心理的メッセージ | 「好きなことに夢中になり、後悔のないように行動し、経験をつなぐこと」が、前向きな生き方や自己成長に強く影響していることがわかる。 |
💡 まとめると
「楽しいことに取り組めていると、未来志向が高まり、目標志向や資源の活性化にもつながります。一方で、神経症傾向から離れやすくなり、メンタル面にも良い影響を与えると考えられます。
「過去の経験と現在をつなぎ合わせることは、資源の活性化にもつながります。過去を活かすという点でも重要なプロセスであり、開放性(好奇心)とも関係しています。好奇心は創造性と深く関わっているため、創造的な活動につなげられる可能性があります。また、目標志向や未来志向とも関連し、神経症傾向を和らげる効果も期待され、メンタル面にも良い影響があります。」
「後悔のない生き方は、未来志向につながるとともに、協調性とも関係しています。他者と協力して何かを成し遂げる経験は、人生において貴重な学びとなる可能性があります。」
🌱 1. 前向きな活動が心理的資源を広げる
- 「楽しいこと」や「好きなこと」に取り組むことは、未来志向・目標志向・資源の活性化へとつながります。
- こうした前向きな心理状態は、神経症傾向を和らげ、メンタルヘルスの保護因子としても機能します。
→ 結論:楽しさや好奇心を源にした活動は、心の柔軟性や心理的レジリエンスを高める起点になる。
🧠 2. 過去の経験を「つなぐ」ことの心理的効果
- 「過去と現在の経験を結びつける」ことで、自分の持つ資源(知識・経験・強み)を再発見・再活性化できます。
- この「つなぐ行為」は開放性(好奇心)と関連し、結果的に創造性や適応力の向上につながる可能性があります。
→ 結論:振り返りと思索は、自己理解だけでなく、創造的な未来を生み出す鍵となる。
🤝 3. 後悔しない生き方が社会性と成長を育む
- 「後悔しない」という価値観は、未来志向を促進し、さらに協調性とも結びつきます。
- 他者と協力して何かに取り組むことが、「人生の意味」や「達成経験」につながりやすく、社会的学習や成長にも結びつきます。
→ 結論:自分の意思で選ぶ生き方が、人とのつながりや人生の納得感を深める。
🧭 総合的な意義
これらを統合して見ると、
「内発的動機(楽しいこと・好きなこと)」 → 「未来・目標志向の強化」 → 「過去の資源の統合」 → 「創造性・社会性・メンタルヘルスの向上」
という心理的な好循環が描けます。
さらに、3つの要素(①楽しいこと、②過去とのつながり、③後悔しない生き方)と、7つのウェルビーイング領域との関係性と意義を整理してみました。
🧩 3つの要素と7つのウェルビーイングとの関係性・意義
| 3つの要素 | 関連するウェルビーイング領域 | 関係性 | 意義 |
|---|---|---|---|
| 楽しいことに取り組む | ・心理的ウェルビーイング ・キャリアウェルビーイング ・身体的ウェルビーイング |
楽しさはポジティブ感情を生み、やる気や活力を高める。仕事や生活の充実感にもつながる。 | 未来志向・目標志向を促進し、神経症傾向を緩和。心の健康を守る基盤となる。 |
| 過去とつなぐ(経験の活用) | ・心理的ウェルビーイング ・創造的ウェルビーイング ・キャリアウェルビーイング |
過去の経験を意味づけることで、自分の強みや資源を再発見できる。好奇心や創造性も刺激される。 | 自己理解が深まり、開放性や創造性が高まる。未来への行動に自信と柔軟性をもたらす。 |
| 後悔しない生き方 | ・社会的ウェルビーイング ・心理的ウェルビーイング ・キャリアウェルビーイング |
自分の意思で選択し、他者と協力して行動することで、人生への納得感やつながりが生まれる。 | 未来志向と協調性を育み、人生の充実感や社会的貢献感を高める。自分の仕事に対して充実感を持つことで後悔のな生き方ができる。 |
このように、3つの要素はそれぞれ異なるウェルビーイング領域と深く関わりながら、自己理解・創造性・社会性・メンタルヘルスといった多面的な幸福感を支える役割を果たしています。
🗣️「未来志向」「楽しいこと」「過去とのつながり」「後悔しない生き方」などの心理的資源を引き出すためのコーチング用の質問(セルフトーク、対人支援用に)
🌈 楽しいこと・情熱に関する問い
目的: ポジティブな感情・関心から内発的動機を明確にする
- 最近、夢中になっている「楽しいこと」は何ですか?
- それをしているとき、あなたの中でどんなエネルギーが湧いていますか?
- その「楽しさ」を他の領域にも広げるとしたら、どんなことができますか?
🔭 未来志向・目標志向を育む問い
目的: 今の行動を、望ましい未来につなげる
- あなたが「こうありたい」と感じる未来は、どんな姿ですか?
- その未来に向けて、今すでにできていることは何でしょう?
- 一歩でも近づくために、今日できる小さな行動は何ですか?
🔄 過去とのつながり・資源の活用に関する問い
目的: 過去の経験や強みを再発見し、今と未来に活かす
- 今のあなたに影響を与えている「過去の経験」は何ですか?
- その経験から得た「自分の強み」は、どんな場面で活かせそうですか?
- 「あのときの自分」に、今どんな言葉をかけてあげたいですか?
🌱 後悔のない人生に向けた問い
目的: 意志ある選択と行動を促す
- 後になって「やっておけばよかった」と感じそうなことはありますか?
- それに今、少しでも挑戦するとしたら、最初の一歩は何ですか?
- 「他人の評価」ではなく「自分の基準」で大切にしたいものは何ですか?
💡ポイント補足*後悔の扱い方については別途取り上げたいと考えておりますが、以下の点があります。
時間を戻せない世界では「後悔」は必ず起こるものです。そのため、未来に向けて後悔をエネルギにーするのも良い方法。
後悔したことは、改善に役立ち、他の方への支援に役立ちます。
後悔と点を組み合わせて、未来にできることを考えてみるのも良いです。
最後は、学術的に検討しました。スティーブ・ジョブズが「過去と現在の点をつなぎ未来につなぐ」という考え方は、人生やキャリアの出来事を振り返り、それらがどのように意味を持ち、将来に影響を与えるかを理解する力を強調しています。このアプローチは、自己理解や創造性、人生の意味づけ、そして未来への希望やレガシーの形成に大きな効果があります。
点をつなぐことの効果
-
自己理解と成長
ジョブズは、人生の出来事が一見バラバラに見えても、後から振り返ることで深い繋がりや意味が見えてくると語っています。これにより、自分の歩みや選択に納得し、自己成長や自己実現につながります(Avgerinou, 2019)。 -
創造性と意味の発見
過去・現在・未来の経験をつなげることで、人生の一貫性や目的意識が生まれ、創造的な発想や新しい価値の創出が促されます。これは人生の意味や喜び、他者とのつながり、そして自分のレガシー(後世に残すもの)を意識することにもつながります(Kaufman, 2018)。 -
困難や失敗の再解釈
ジョブズは「失敗や喪失も、後から見れば新しい道へのサインになる」と述べています。過去の困難を未来の成功や成長の糧として再解釈できる力が養われます。
創造性・リーダーシップへの応用
-
直感と想像力の活用
ジョブズは、芸術とテクノロジーを直感的かつ創造的に結びつけることで、革新的な製品やサービスを生み出しました。これは「点をつなぐ」思考がもたらす大きな成果です(Isaacson, 2011)。 -
他者への影響とインスピレーション
自分の経験を物語として語ることで、他者に勇気やインスピレーションを与え、チームや社会にポジティブな影響を与えることができます(Isaacson, 2011; Avgerinou, 2019)。
まとめ
スティーブ・ジョブズの「点をつなぐ」考え方は、過去の経験を意味づけ、創造性や自己成長、未来への希望を生み出す強力な方法です。これにより、困難を乗り越え、人生や仕事に深い意味と目的を見出すことができます。
References
(2007). Editorial. Journal of Human Values, 13, iii – iv. https://doi.org/10.1177/097168580701300201
Isaacson, W. (2011). Steve Jobs. Simon & Schuster
Kaufman, J. (2018). Finding Meaning With Creativity in the Past, Present, and Future. Perspectives on Psychological Science, 13, 734 – 749. https://doi.org/10.1177/1745691618771981
Avgerinou, M. (2019). The Architect Inside (Will Eventually Connect The Dots). Lessons in Leadership in the Field of Educational Technology. https://doi.org/10.1007/978-3-030-29501-1_20
◆ジョブズ思考尺度
ジョブズの3つの視点から構成された心理尺度です。
以下の質問に対して、最も当てはまるものを選んでください。
投稿者プロフィール

- 徳吉陽河(とくよしようが)は、コーチング心理学研究会・コーチング心理学協会の創設者の一人であり、日本・世界のおけるコーチング心理学のパイオニア。コーチング心理士、公認心理師・キャリアコンサルタント、認定心理士(心理調査)、ポジティブ心理療法士、として教育・医療・福祉・産業分野で活動する専門家。東北大学大学院博士後期課程で研究し、国際コーチング心理学会、国際ポジティブ心理学会など、世界で学び、研究を発表。教育プログラム、心理尺度開発なども専門としている。著書に『ポジティブ大全』『科学的に正しい脳を活かす「問いのコツ」 結果を出す人はどんな質問をしているのか?』『ナラティヴ・セラピー BOOK』、『コーチング心理学ガイドブック』『コーチング心理学ハンドブック』などの翻訳書などがあり、科学的なエビデンスと物語(ナラティブ)に基づくコーチングとウェルビーイング教育を推進している。累計4000名のコーチ、カウンセリング実績」(ワークショップを含む)、「累計6000回以上のセミナー実績」以上の実績がある。国土交通省 航空保安大学講師、元東北文化学園大学講師、元仙台医療センター看護学校講師、元若者サポートセンター講師など。教育機関、海外・国外の法人企業などで講師を担当実績がある。学校法人・企業法人・医療法人(リハビリ)など、主に管理職に関わる講師を数多く担当。座右の銘は、「我以外皆我師」、失敗・挫折もたくさんしており、「万事塞翁が馬」大切にしている。「自己肯定感が低いからこそ成長できる」ことを大切にしている。
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