離職を減らすための解決志向療法・解決志向コーチングとは?

離職を減らすための解決志向療法・解決志向コーチングとは?

「なぜうまくいかないのか」ではなく「どうすればうまくいくか」を考える職場づくりのアプローチSFAA
entry 3解決志向療法と解決志向コーチング講座

「また辞めてしまった……」「なぜ、うちの職場はこんなに人が定着しないんだろう」

そんな悩みを抱えるマネージャーや経営者の方は、今とても多いのではないでしょうか。採用コストや育成コストをかけてせっかく育てた人材が去ってしまう現実は、組織にとって大きなダメージです。

でも、「なぜ辞めたのか」「何が問題だったのか」を追いかけるだけでは、離職の連鎖を止めることはできません。注目していただきたいのが、「解決志向療法(SFT)」と「解決志向コーチング(SFC)」というアプローチです。問題の原因を掴り下げるのではなく、「うまくいっていること」「理想の未来」にフォーカスすることで、職場の活力を取り戻し、社員が「ここで働き続けたい」と思える環境をつくる手法です。

本記事では、解決志向療法・コーチングの基本から、離職防止への具体的な活用法まで、わかりやすくお伝えします。

1. そもそも「解決志向」とは何か?

解決志向(Solution-Focused)とは、1980年代にスティーブ・ド・シェイザーとインスー・キム・バーグが開発した心理療法のアプローチです。従来のカウンセリングや問題解決策が「問題の原因を分析する」のに対し、解決志向は「すでにうまくいっていることを見つけ、それを拡大する」という発想が核心にあります。

問題志向 vs 解決志向の違い

視点 問題志向 解決志向
焦点 なぜうまくいかないのか 何がうまくいっているのか
時間軸 過去の原因を探る 未来の理想を描く
質問スタイル 「何が問題ですか?」 「どうなれば理想ですか?」
前提 問題は解決すべきもの 強みと資源はすでにある

 

重要なのは、解決志向は「問題を無視する」のではないという点です。問題を認めたうえで、エネルギーを「解決策」と「可能性」に向けるのです。

2. 解決志向療法(SFT)とは?

解決志向療法(Solution-Focused TherapySFT)は、主にカウンセリング・心理療法の文脈で使われてきたアプローチです。短期間での変化を目指す「短期療法」とも位置づけられ、クライアント自身の強みとリソースを活かすことを重視します。

SFTの代表的な技法

ミラクル・クエスチョン(奇跡の質問)

「もし明日、奇跡が起きてすべての問題が解決していたとしたら、あなたはどんな変化に気づきますか?」

この質問は、理想の未来を具体的にイメージさせ、「解決された状態」を明確にする効果があります。職場に応用すると、「職場がもし理想的になっていたら、どんな様子ですか?」と問いかけることで、社員が本当に求めている職場像が浮かび上がります。

スケーリング・クエスチョン(スケール質問)

「今の状況を010点で表すと何点ですか?1点上げるために何ができそうですか?」

数値化することで、漠然とした不満を具体化し、小さな前進を可視化できます。たった1点だけ上げる行動を考えることで、現実的な一歩が踏み出せるようになります。

エクセプション(例外探し)

「問題がなかった時、または少なかった時はどんな時でしたか?その時、何が違っていましたか?」

「すべてがダメ」ではなく、「うまくいっていた例外」を探すことで、解決のヒントを見つけます。「先月はチームの雰囲気が良かった」なら、その時に何をしていたかを分析し、再現可能な行動を特定できます。

3. 解決志向コーチング(SFC)とは?

解決志向コーチング(Solution-Focused CoachingSFC)は、SFTの哲学をビジネス・組織の現場に応用したコーチングの手法です。上司と部下、あるいはコーチとクライアントの対話を通じて、「相手の強みとリソースを引き出し、目標達成を支援する」ことを目的とします。

一般的なコーチングと解決志向コーチングの最大の違いは、「問題の原因分析をほとんど行わない」点です。代わりに、

  • コーチングを受ける人がすでに持っている資源・強みにフォーカスする
  • 「理想の状態」を描き、そこへの具体的なステップを一緒に考える
  • 小さな成功体験を積み重ね、自己効力感を高める

こうした対話を継続することで、社員は「自分の意見が尊重されている」「成長できている」という実感を持ちやすくなり、職場への帰属意識が高まります。

解決志向コーチングの基本的な流れ

STEP 1 「ゴール」を明確にする 「今日の面談で何を得られると最高ですか?」と問い、ゴールを設定する。
STEP 2 「理想の状態」を描く ミラクル・クエスチョンなどを使い、ゴールが達成された状態を具体化する。
STEP 3 「例外」と「強み」を探す すでにうまくいっていることや、本人のリソースを引き出す。
STEP 4 「スケール」で現状を確認め010のスケールで現状を評価し、次のステップを小さく設定する。
STEP 5 「次の一歩」を決める 現実的で具体的なアクションを一つ決めて終了する。

 

4. なぜ解決志向コーチングが「離職防止」に効くのか?

なぜ解決志向のアプローチが、社員の離職防止に有効なのかを解説します。

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理由「見えていない貢献」を可視化できる

離職する社員の多くは、「自分の仕事が認められていない」と感じています。解決志向コーチングでは、日常的に「先週うまくいったことは?」「あなたが貢献したと感じたことは?」と問いかけます。これにより、見落とされがちな小さな成功が言語化され、承認されます。

理由「自己決定感」が高まる

人は「自分で決めた」と感じるとき、強くコミットします。解決志向のアプローチでは、上司が答えを押し付けるのではなく、部下が自分で「次の一歩」を決めることを重視します。「指示されてやった」のではなく「自分が選んだ」という感覚が、仕事への主体性と定着率を高めます。

理由ネガティブな評価文化からの転換

多くの職場では、フィードバックが「何がダメだったか」という問題指摘に偶りがちです。解決志向では、「何がうまくいったか」「次どうするか」を中心に対話します。評価される恐怖が減り、心理的安全性が高まることで、社員は安心して働き続けられるようになります。

理由管理職の「聴く力」が育つ

解決志向コーチングを実践する管理職は、自然と「傍聴スキル」が磨かれます。部下の話を評価・判断せずに聴く姿勢が、「この上司に相談できる」という信頼関係を育て、不満が離職につながる前に早期発見・対応できるようになります。

5. 解決志向アプローチの職場での具体的な活用シーン

シーン1on1ミーティング

1on1で使える解決志向の質問例:

  • 「先週、うまくいったと感じたことは何ですか?」
  • 「今、自分がもっと活かされていると感じるには何が変わればいいですか?」
  • 3ヶ月後に理想の状態になっているとしたら、どんな様子ですか?」

こうした質問を続けることで、社員は「自分のことを大切にしてくれている」と実感し、職場への信頼感が高まります。

シーン:オンボーディング(新入社員の定着支援)

入社後の早期離職を防ぐためには、最初の3ヶ月が重要です。解決志向コーチングを使ったオンボーディングでは、「何ができるようになりたいか」「職場に来るのが楽しいと感じるのはどんな時か」を定期的に確認します。問題が顕在化する前に、本人の強みや関心を把握しておくことで、配置や業務のアサインに活かせます。

シーン:メンタルヘルス不調の早期対応

不調のサインが見えた部下には、「最近しんどそうだね、何が辛い?」と問題にフォーカスするよりも、「ちょっと話せる?最近で少しでも楽だった時はあった?」と例外探しから入ることで、本人が自分自身のリソースに気づきやすくなります。解決志向は、精神的に追い詰めることなく対話を継続できる安全な手法です。

シーン:チームビルディング

チーム全体で「ベストチームだった時の様子」「お互いの強み」を語り合うワークショップを実施することで、チームの一体感が醇成されます。問題の犯人探しではなく、「私たちにできること」にフォーカスする文化が生まれ、職場の雰囲気が改善されます。

6. 解決志向コーチングを導入する際のポイント

ポイント:管理職へのトレーニングが不可欠

解決志向コーチングは「自然な会話」に見えますが、慣れない人がやると「問題を無視している」「表面的だ」と受け取られるリスクがあります。管理職が基本的なスキルと哲学を学ぶためのトレーニングプログラムへの投資が、導入成功の鍵です。

ポイント:「問題を聴く」こともバランスよく

解決志向だからといって、社員の不満や困りごとを無視してはいけません。「大変だったね」という共感をしっかり受け取った上で、「それで、どうなるといいと思う?」と未来へ転換する。この順番が非常に重要です。共感なき解決志向は、かえって社員の不信感を生みます。

ポイント:小さく始めて継続する

まずは週1回の1on1に解決志向の質問を一つ加えるだけでも構いません。大きな変化は小さな実践の積み重ねから生まれます。「先週うまくいったことを一つ聴く」というシンプルな習慣が、職場の文化を少しずつ変えていきます。

ポイント:組織全体の文化として根付かせる

個々の管理職スキルに留まらず、会議や評価制度・社内コミュニケーションの文化として解決志向を組み込むことで、真の効果を発揮します。たとえば、週次ミーティングで「今週の小さな成功」をシェアする時間を5分設けるだけで、チームの雰囲気が変わります。

7. 解決志向と離職率改善:エビデンスの視点から

解決志向アプローチは、医療・教育・福祉など多くの領域でその効果が実証されています。職場への応用においても、以下のような研究知見が存在します。

  • 解決志向コーチングを受けた社員は、自己効力感(self-efficacy)が有意に向上する(Grant, 2012
  • 解決志向的なマネジメントスタイルは、部下のエンゲージメントと組織コミットメントを高める(Bono & Judge, 2003
  • ポジティブなフィードバックが多い職場ほど、離職率が低い傾向にある(Gallup社調査)

ただし、これらの研究は「解決志向=万能」を意味しません。組織の文化・業種・個人差によって効果は異なります。重要なのは、解決志向の哲学を理解したうえで、自社の実情に合わせて柔軟に応用することです。

8. よくある質問(FAQ

Q1. 解決志向療法とコーチングの違いは何ですか?

解決志向療法(SFT)は、粿神的な課題や心理的な苦痛を抱える人への臨床的アプローチです。一方、解決志向コーチング(SFC)は、基本的には粿神疑患のない健康な人の目標達成や成長支援を目的としています。職場での一般的な離職防止・人材育成においてはSFCが適しています。

Q2. 解決志向コーチングを学ぶにはどうすればいいですか?

国内外にSFC関連の研修・資格プログラムが存在します。日本でも 一般社団法人コーチング心理学協会にて,解決志向コーチングの研修が提供されています。解決志向コーチ は一般社団法人コーチング心理学協会の特許庁登録となっています。

Q3. 全社員に必要ですか、管理職だけでいいですか?

最初は管理職(特に現場マネージャー)へのトレーニングから始めることをお勧めします。管理職のコミュニケーションスタイルが変わると、チーム全体の雰囲気に自然と影響が広がります。定着してきたら、全社的な研修や文化づくりに展開するのが効果的です。

Q4. 解決志向療法とCBT(認知行動療法)はどう違うの?

CBT(認知行動療法)は、ネガティブな思考パターンを特定して修正することを重視します。一方、解決志向療法と解決志向コーチングは思考パターンの分析よりも、「解決が実現した未来」と「うまくいっている例外」に注目します。どちらも科学的根拠に基づいた有効なアプローチであり、目的や状況に応じて使い分けることが理想的です。

  

Q5.一般社団法人コーチング心理学協会では,「解決志向アプローチ」「解決志向コーチング」の実践について学べますか?

はい、コーチング心理学は,解決志向コーチング講座などで,学ぶことが出来ます。科学的・現代的な視点で解決志向とエンゲージメントについて実践・研究を行っています。各講座も工夫して,楽しめるようなツールやアプリなどを活用しています。ぜひ,体験してみていただければ幸甚です。

解決志向療法と解決志向コーチング講座

 

Q6. 一般社団法人コーチング心理学協会では,「解決志向アプローチ」「解決志向コーチング」に関する団体研修・法人研修などを実施してますか?(新入社員・中途社員・管理職研修など)

はい,実施しております。もしご希望でしたら,お問い合わせまでご連絡をいただければ幸甚です。
各組織や会社によって異なりますので,内容に合わせて対応いたしますの。協働で研修なども可能です。
お問い合わせまでご連絡をいただければ幸甚です。

https://www.coaching-psych.com/contact/

 

まとめ:「問題」ではなく「可能性」を見る文化が離職を防ぐ

解決志向療法・解決志向コーチングのアプローチは、離職問題を「なぜ起きたか」ではなく「どうすれば変わるか」という視点で捉え直すための強力なツールです。

本記事のポイントを振り返ります:

  • 解決志向は「問題の原因」ではなく「うまくいっていること」にフォーカスする
  • ミラクル・クエスチョン、スケール質問、例外探しが核心技法
  • 1on1、オンボーディング、メンタルヘルス対応など多くの場面で活用できる
  • 共感を大切にしながら未来志向の対話を積み重ねることが重要
  • 小さく始めて、組織文化として育てることが成功の鍵

「あなたのチームにも、すでにうまくいっていることが必ずあります。」

まずは明日の1on1から、「先週うまくいったことは何ですか?」という一言を加えてみてください。その小さな問いかけが、職場の空気を変える第一歩になります。

離職防止は、大きな制度改革だけでなく、日々の対話の質の積み重ねから始まります。解決志向のアプローチで、社員が「ここで働き続けたい」と思える職場をつくっていきましょう。

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投稿者プロフィール

徳吉陽河
徳吉陽河
徳吉陽河(とくよしようが)は、コーチング心理学研究会・コーチング心理学協会の創設者の一人であり、日本・世界のおけるコーチング心理学のパイオニア。コーチング心理士、公認心理師・キャリアコンサルタント、認定心理士(心理調査)、ポジティブ心理療法士、として教育・医療・福祉・産業分野で活動する専門家。東北大学大学院博士後期課程で研究し、国際コーチング心理学会、国際ポジティブ心理学会など、世界で学び、研究を発表。教育プログラム、心理尺度開発なども専門としている。著書に『ポジティブ大全』『科学的に正しい脳を活かす「問いのコツ」 結果を出す人はどんな質問をしているのか?』『ナラティヴ・セラピー BOOK』、『コーチング心理学ガイドブック』『コーチング心理学ハンドブック』などの翻訳書などがあり、科学的なエビデンスと物語(ナラティブ)に基づくコーチングとウェルビーイング教育を推進している。累計4000名のコーチ、カウンセリング実績」(ワークショップを含む)、「累計6000回以上のセミナー実績」以上の実績がある。国土交通省 航空保安大学講師、元東北文化学園大学講師、元仙台医療センター看護学校講師、元若者サポートセンター講師など。教育機関、海外・国外の法人企業などで講師を担当実績がある。学校法人・企業法人・医療法人(リハビリ)など、主に管理職に関わる講師を数多く担当。座右の銘は、「我以外皆我師」、失敗・挫折もたくさんしており、「万事塞翁が馬」大切にしている。「自己肯定感が低いからこそ成長できる」ことを大切にしている。

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