WellからWillへ:ウェルビーイングからウィルビーイングへ、意志のあるあり方、意義・行動・経験の構築

ウェルビーイングからウィルビーイング よりよい意義・行動・経験の構築
はじめに
近年、ウェルビーイング(Well-being)の概念が広く注目されていますが、より能動的で自律的な「Will-being(意志を持った幸福、ウィルビーイング)」への発展が重要視されるようになってきました。本記事では、Well-beingからWill-beingへの発展に関するエビデンスに基づいた概要と実践法をご紹介します。
WellとWillの概念整理
Well-being(ウェルビーイング)とは
ウェルビーイングとは、WHO(世界保健機関)の定義によれば「身体的・精神的・社会的に良好な状態であり、単に病気や虚弱でないということではない」状態を指します。つまり、心身ともに健康で幸福感のある状態です。
Will-being(ウィルビーイング)とは
一方、Will-beingとは、より意図的・主体的に幸福や意義を構築していく姿勢や行動を指します。「Well(良い状態)」から「Will(意志を持って)」への転換は、受動的な幸福感から能動的な幸福の創造へと発展させることを意味します。
PERMAモデルとウェルビーイング
マーティン・セリグマンによって提唱された「PERMAモデル」は、ウェルビーイングを構成する5つの要素を示しています:
- Positive Emotions(ポジティブ感情):喜び、感謝、愛情などの前向きな感情体験
- Engagement(没頭・フロー):活動に完全に没頭し、時間の感覚を忘れるような体験
- Relationships(良好な人間関係):互恵的で支持的な人間関係の構築と維持
- Meaning(意義・意味):自己を超えた大きな何かとつながり、目的を持つ感覚
- Accomplishment(達成):目標の達成や熟達の感覚
このPERMAモデルは、幸福感を科学的に理解し高めるための枠組みとして広く活用されています。
PERMA+4モデルへの発展
PERMAモデルはさらに発展し、職場や実生活での応用を目指した「PERMA+4モデル」が提案されています。このモデルでは、以下の4つの要素が追加されています:
- Physical Health(身体的健康):生物学的、機能的、心理的健康資産の組み合わせ
- Mindset(マインドセット/成長志向):困難や挫折を成長の機会と捉える前向きな思考様式
- Work Environment(職場環境):自然光や新鮮な空気へのアクセス、物理的安全性など、個人の好みに合った職場環境
- Economic Security(経済的安定):個人のニーズを満たすために必要な経済的安定の認識
Donaldsonら(2022)の研究によると、これらの要素はウェルビーイングと職務パフォーマンスの向上に重要な役割を果たしています。
Will-beingの3つの側面
Will-beingは、以下の3つの側面から捉えることができます:
1. Will-being(よりよい意義の構築)
意図的に自己の人生や行動に意味や目的を見出す能力を高めることです。自分の価値観を明確にし、「なぜ」という問いから始めることで、より深い意義を構築できます。
2. Will-doing(よりよい行動の構築)
意図的に価値ある行動を選択し実行する能力を高めることです。行動活性化療法の原理を応用し、小さな一歩から始めることが重要です。
3. Will-having(よりよい経験の構築)
意図的に価値ある経験やスキルを獲得するための取り組みです。マインドフルネスの実践や計画的な学習を通じて、質の高い経験を積み重ねていくことが大切です。
実践法1:よりよい意義の構築(Will-being)ウィル・ビーイング
理論的背景: 意図的な意味付けの実践が主観的幸福感を高めるという研究結果があります。人は単に幸福を感じるだけでなく、自らの行動に意味を見出すことで、より深い満足感を得ることができます。
実践方法:
- 価値観の明確化ワーク:自分にとって最も大切な価値観を5つ書き出し、それらがどのように日常生活に反映されているかを考察する
- 「Why」から始める目標設定:目標を設定する際に「なぜそれを達成したいのか」を深く掘り下げる
- 意味日記の実践:毎日の出来事から意味を見出し、記録する習慣をつける
- 社会貢献活動への参加:自己を超えた目的に関わることで意味を見出す
実践法2:よりよい行動の構築(Will-doing)ウィル・ドゥーイング
理論的背景: 首藤・山本(2024)の研究では、行動活性化療法を応用したオンラインプログラムが心理的ウェルビーイングを向上させることが示されています。「行動→気分」という順序で変化を起こすアプローチが効果的です。
実践方法:
- 価値に基づく行動リストの作成:自分の価値観に沿った具体的な行動を20個リストアップする
- スモールステップの設定:大きな目標を小さな行動に分解し、毎日一つずつ実行する
- 行動前後の感情記録:行動の前後で感情がどのように変化したかを記録する
- 成長志向マントラの活用:「まだできない」ではなく「まだできていない」というマインドセットを培う
実践法3:よりよい経験の構築(Will-having)ウィル・ハビング
理論的背景: 園部ら(2012)の研究では、Well-Beingへの気づきと運動行動の変容ステージには関連があり、定期的な運動を行う人ほどWell-Beingへの意識が高いことが示されています。
実践方法:
- マインドフルネスの実践:日々の体験を意識的に味わう瞑想法を取り入れる
- スキル習得計画の立案:成長させたいスキルを特定し、計画的に学習する
- フロー体験を促す環境デザイン:没頭できる環境を意図的に作り出す
- 先延ばしの克服技法:「2分ルール」など、行動の障壁を下げる技法を活用する
統合的実践アプローチ
Will-beingの3つの側面は相互に関連しており、循環的に影響し合います:
- 意義→行動:明確な意義は行動の動機付けになります
- 行動→経験:意図的な行動は質の高い経験をもたらします
- 経験→意義:豊かな経験は更なる意義の発見につながります
中野ら(2023)の研究では、チャットボットを通じてウェルビーイング向上のアドバイスを提供し、その内容を多く実行したグループほどウェルビーイングレベルが向上したことが確認されました。これは、意図的な行動の積み重ねが幸福感の向上に繋がることを示しています。
まとめ:WellからWillへの発展のポイント
- 受動から能動へ:幸福を待つのではなく、創り出す姿勢を持つ
- 小さな一歩から:大きな変化は小さな行動の積み重ねから始まる
- 循環的理解:意義、行動、経験の相互関係を意識する
- 継続的実践:一時的な取り組みではなく、生活習慣として定着させる
ウェルビーイングは単なる状態ではなく、意図的に構築していくものです。Will-beingの視点を取り入れることで、より能動的かつ持続的な幸福感を育むことができるでしょう。
参考文献
- Seligman, M. E. (2011). Flourish: A visionary new understanding of happiness and well-being. Free Press.
- Donaldson, S.I., et al. (2022). PERMA+ 4: A framework for work-related wellbeing, performance and positive organizational psychology 2.0. Frontiers in Psychology, 12, 817244.
- 首藤祐介・山本竜也 (2024). Well-being 向上を目的としたオンライン行動活性化プログラムの効果の検討. 認知行動療法研究, 50(3).
- 中野淳一ほか (2023). 行動変容を促すことによるウェルビーイング向上効果の研究. 日本感性工学会論文誌, 22(4).
- 園部豊ほか (2012). Well-Being への気づきと運動行動の変容ステージとの関連について. 日本体育大学紀要, 41(2), 131-138.
投稿者プロフィール

- 徳吉陽河(とくよしようが)は、コーチング心理学研究会・コーチング心理学協会の創設者の一人であり、日本・世界のおけるコーチング心理学のパイオニア。コーチング心理士、公認心理師・キャリアコンサルタント、認定心理士(心理調査)、ポジティブ心理療法士、として教育・医療・福祉・産業分野で活動する専門家。東北大学大学院博士後期課程で研究し、国際コーチング心理学会、国際ポジティブ心理学会など、世界で学び、研究を発表。教育プログラム、心理尺度開発なども専門としている。著書に『ポジティブ大全』『科学的に正しい脳を活かす「問いのコツ」 結果を出す人はどんな質問をしているのか?』『ナラティヴ・セラピー BOOK』、『コーチング心理学ガイドブック』『コーチング心理学ハンドブック』などの翻訳書などがあり、科学的なエビデンスと物語(ナラティブ)に基づくコーチングとウェルビーイング教育を推進している。累計4000名のコーチ、カウンセリング実績」(ワークショップを含む)、「累計6000回以上のセミナー実績」以上の実績がある。国土交通省 航空保安大学講師、元東北文化学園大学講師、元仙台医療センター看護学校講師、元若者サポートセンター講師など。教育機関、海外・国外の法人企業などで講師を担当実績がある。学校法人・企業法人・医療法人(リハビリ)など、主に管理職に関わる講師を数多く担当。座右の銘は、「我以外皆我師」、失敗・挫折もたくさんしており、「万事塞翁が馬」大切にしている。「自己肯定感が低いからこそ成長できる」ことを大切にしている。
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