運動協調性障害(DCD)コーチング心理学 サポートガイド – 大人と子どもの強みと可能性を引き出すために 認定資格取得の参考に
運動協調性障害(DCD)とは?
運動協調性障害(Developmental Coordination Disorder: DCD)は、年齢に応じた運動技能の習得や実行が困難な状態です。
運動協調性障害(発達性協調運動障害、DCD)は、運動の調整や協調がうまくできない神経発達障害の一種です。
これは、歩く、走る、ジャンプするなどの基本的な動作がぎこちなくなったり、手先の器用さが求められる作業が苦手になったりする特徴があります。
特徴
- 運動のぎこちなさ:バランスを取ることや物を掴む動作が難しい
- 手先の不器用さ:鉛筆を持つ、ボタンを留める、靴紐を結ぶのが苦手
- 空間認識の問題:ボールをキャッチする、物を目的の場所に正確に置くのが難しい
- 日常生活の困難:着替えや食事などの基本的な動作がスムーズにできない
原因
DCDの原因は完全には解明されていませんが、脳の運動機能を制御する領域(大脳皮質や小脳)の発達の遅れや異常が関係していると考えられています。
また、遺伝的要因や出生時の合併症(早産や低出生体重など)が影響を与える可能性もあります。
DCDの特徴
バランス感覚が発達途上
▢運動協調性障害チェックリスト
| ▢運動協調性の欠如 | 歩いたり走ったりすると不安定で、転びやすいことはありますか? |
| ▢手先の不器用さ | 鉛筆を持つ、ボタンを留める、靴紐を結ぶなどの細かい作業に時間がかかることはありますか? |
| ▢空間認識の課題 | 物を正確な位置に置くのが難しいと感じることはありますか? |
| ▢日常生活の困難さ | 着替えや食事、トイレの動作に時間がかかることはありますか? |
| ▢協調運動の課題 | 目と手を使う作業(楽器演奏やはさみの使用など)が苦手だと感じることはありますか? |
| ▢感覚処理の課題 | 物の大きさや距離を正しく認識するのが難しいことはありますか? |
*あくまでもDCDの特徴を捉えるための学習用のスクリーニングの参照リストです。
上記に複数、あてはまり、仕事や生活に著しく適応が難しい方は、最寄りの医師・作業療法士、社会福祉士・精神保健福祉士、心理師などにぜひご相談ください。
運動協調性障害とコーチング心理学アプローチとは?
たとえ、運動が苦手あっても、子ども・大人自身の内にある力と可能性を信じ、強みを活かしながら目標達成をサポートする心理学的アプローチです。
運動が苦手な子供・大人でも、できることに強み・焦点を当てて、自分自身の成長につなげます。
運動協調性障害(DCD)の支援におけるコーチングは、個々の特性に合わせたアプローチが重要です。以下のような方法が有効とされています。
コーチングのポイント
- 小さな成功体験を積み重ねる
- 簡単な動作から始め、徐々に難易度を上げる
- 「できた!」という感覚を大切にする
- 視覚的・触覚的なサポートを活用する
- 動作を動画や図で示す
- 触れることで動きを覚える(例:ボールを転がす練習)
- 個別対応のトレーニング
- その人に合った運動を選ぶ(例:バランスを取る練習)
- 無理なく楽しめる環境を作る
- ポジティブなフィードバック
- まず、「できない」ではなく「どうすればできるか」を考える
- 「できないこと」より、「できること」に焦点を当てる
- 努力を尊重し、未来へ行動を期待する。
強み(ストレングス)ベース
できないことではなく、できることに注目
DCDの子によく見られる強み
| 強みの種類 | 具体的な特徴 | もたらす効果 |
|---|---|---|
| 創造性・想像力 | 独自の発想、豊かな芸術的センス | 型にとらわれないアイデアを生み出し、芸術や表現活動で活躍しやすい |
| 共感力・優しさ | 他者の気持ちに敏感で、配慮深い | 対人関係で信頼を得やすく、周囲に安心感や癒しをもたらす |
| 集中力・探究心 | 興味のある分野には深く没頭する | 専門的な知識やスキルを深め、独自の強みを育てやすい |
| 言語能力・記憶力 | 話すことが得意、記憶力が高い | 物語を語る力や語彙力を活かして、スピーチや学習面で力を発揮しやすい |
| 問題解決力 | 工夫しながら別の方法で課題を乗り越える | 柔軟な思考で困難に対応し、新しいやり方を見つける創意工夫力に長けている |
成長マインド
能力は努力によって伸びると信じる
パートナーシップ
子どもと対等な関係でサポート
コーチング視点での捉え方
- • 脳の個性的な発達パターンの一つ
- • 他の能力(創造性、思考力など)に優れることが多い
- • 適切なサポートで大きく成長できる
- • 困難を乗り越える力(レジリエンス)が育つ
コーチング心理学で DCD支援法とは?
| 問題解決策の分類 | コーチング心理学の視点と解釈 | 活用のポイント |
|---|---|---|
| ① 身体の位置づけ | 身体感覚への気づき:身体の状態を意識することで自己調整を促す | ソマティック・コーチングやマインドフルネスと併用。姿勢・ジェスチャーに着目 |
| ② 実行への注意 | 今ここに意識を向ける:行動そのものへの集中 | 行動活性化の介入や、タスク・マネジメントに有効 |
| ③ 動きを感じる | 内的感覚の認知:自分の身体の微細な変化に気づく力 | 感情の変化やストレスサインの自己察知に活用 |
| ④ 動きのイメージ | メンタルリハーサル:成功する場面を事前に想像 | パフォーマンス向上・自信形成に有効 |
| ⑤ 動きの覚え方 | 名前をつけて言語化:経験を言語で構造化する | メタ認知・気づきの促進、他者への伝達にも◎ |
| ⑥ 手順の覚え方 | プロセスを明確にする:段取りの言語化 | 計画性の向上やプロジェクト設計に活用 |
| ⑦ リラックス | 心理的安全の確保:安心できる状態をつくる | セッション開始前の導入や緊張緩和に効果的 |
| ⑧ 知識の補足 | 情報を探し・整理する力:行動の意味や方法を理解 | コーチングの中で「なぜやるのか」を内省させる問いに通じる |
| ⑨ 活動・環境の明確化・修正 | システム的視点の導入:環境調整や習慣の仕組み化 | ハビットコーチングやライフデザインに活用 |
参考 厚生労働省 DCD 支援マニュアル
令和 4 年度障害者総合福祉推進事業
「協調運動の障害の早期の発見と適切な支援の普及のための調査を基にコーチング心理学の視点で再編集
https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/001122260.pdf
強みの発見と活用:コーチングの核心
強みを見つける質問
子どもへの質問例
- 「どんなことをしている時が一番楽しい?」
- 「友達から『すごいね』って言われることある?」
- 「時間を忘れて夢中になることは何?」
- 「自分の良いところってどこだと思う?」
- 「できないことがあっても、別にできることはありますか?」
- 「苦手でも、好きな運動はありますか?」
- 「自分でもできる運動はありますか?」
- 「苦手の中でも、例外的に得意なことはありますか?」
保護者への質問例
- 「運動や不器用でも、子供ができることはありますか?」
- 「子供が輝いて見える瞬間は?」
- 「集中している時の様子はどうですか?」
- 「他の子にはない特別な感性は?」
- 「困難を乗り越えた経験はありますか?」
- 「支援する際に、自分も大切にできることはありますか?」
- 「子どものためにできる支援はありますか?」
DCDの子によく見られる強みは何か? ・・・個人差があり、各個人ではできることは異なります。オーダーメイドで対応しましょう。
| 強みの種類 | 具体的な特徴 | もたらす効果 |
|---|---|---|
| 創造性・想像力 | 独自の発想、豊かな芸術的センス | 型にとらわれないアイデアを生み出し、芸術や表現活動で活躍しやすい |
| 共感力・優しさ | 他者の気持ちに敏感で、配慮深い | 対人関係で信頼を得やすく、周囲に安心感や癒しをもたらす |
| 集中力・探究心 | 興味のある分野には深く没頭する | 専門的な知識やスキルを深め、独自の強みを育てやすい |
| 言語能力・記憶力 | 話すことが得意、記憶力が高い | 物語を語る力や語彙力を活かして、スピーチや学習面で力を発揮しやすい |
| 問題解決力 | 工夫しながら別の方法で課題を乗り越える | 柔軟な思考で困難に対応し、新しいやり方を見つける創意工夫力に長けている |
SMART目標設定:成功への道筋
子どもと一緒に、達成可能で具体的な目標を設定しましょう
SMARTの質問法は、運動協調性障害(DCD)の支援において、目標設定や進捗管理を効果的に行うために活用されます。
SMARTとは、**Specific(具体的)、Measurable(測定可能)、Achievable(達成可能)、Relevant(関連性のある)、Time-bound(期限付き)**の頭文字を取ったものです。
SMARTの質問法を活用するポイント
- 具体的(Specific)
- 「どの動作を改善したいですか?」
- 「どんな場面で困難を感じますか?」
- 測定可能(Measurable)
- 「どのくらいの頻度で成功できるようになりたいですか?」
- 「進歩をどのように確認しますか?」
- 達成可能(Achievable)
- 「今の能力に合った目標は何ですか?」
- 「無理なく取り組める方法はありますか?」
- 関連性のある(Relevant)
- 「この目標は日常生活にどう役立ちますか?」
- 「どんな場面で活用できますか?」
- 期限付き(Time-bound)
- 「いつまでに達成したいですか?」
- 「どのくらいの期間で改善を目指しますか?」
良い目標の例
避けたい目標の例
自己効力感の向上:「できる!」という信念を育てる

自己効力感とは「自分はできる」という信念のこと。この感覚を育てることで、チャレンジ精神と継続力が生まれます。
段階的成功体験の積み重ね
ステップ1:簡単な課題から
確実にできることから始めて「できた!」を体験
ステップ2:少しずつ難易度UP
子どものペースに合わせて挑戦レベルを上げる
例:キャッチボール1回 → 3回 → 5回 → 10回
ステップ3:自立を促す
サポートを徐々に減らし、自分でできる範囲を広げる
効果的な声かけ・コーチング会話
プロセス重視の褒め方
✅ 「続けたから上達したね」
気づきを促す質問
失敗を学びに変える
自己決定感・内発的動機の促進:自ら学びたくなる環境づくり
自己決定感・内発的動機づけには、以下の重要な視点があります。
自律性の支援
例:
「今日は何から練習する?」「どの方法が良さそう?」
有能性の実感
例:
成長チャート、ビフォーアフターの動画記録
関係性の構築
例:
一緒に取り組む時間、達成を共に喜ぶ
楽しさを生み出すコーチングアイデア
ゲーミフィケーション
- • レベルアップシステム
- • ポイント制やスタンプカード
- • ミッション形式の課題
- • チーム対戦形式
ストーリー性の導入
- • 冒険の主人公として設定
- • スキル習得を「魔法修行」に
- • 困難を「ボス戦」に見立てる
- • 成長を「進化」として祝う
実践的コーチング技法
効果的な質問技法
拡大質問(気づきを促す)
具体化質問(明確にする)
• 「どのくらいできるようになりたい?」
確認質問(理解を深める)
• 「大切にしたいことは何?」
積極的傾聴のポイント
非言語コミュニケーション
• 表情の共感
言語的フィードバック
• 要約して確認
避けるべき反応
エビデンス × コーチング:最適な介入方法
科学的根拠とコーチング心理学を組み合わせることで、より効果的で持続可能な成果が期待できます
コーチング統合型CO-OP
従来のCO-OP
認知的アプローチによる問題解決
+ コーチング要素
効果:
より主体的で持続的な取り組みが可能
コーチング統合型タスク特異的訓練
従来の訓練
具体的課題の反復練習
+ コーチング要素
効果:
モチベーション維持と転移促進
研究で実証された効果
運動パフォーマンス
効果量: 0.63 (中等度)
認知・心理面
効果量: 0.65 (中等度)
書字困難改善
改善率: 約70%
家庭・学校でのコーチングアプローチ
家庭でのコーチングサポート
日常会話でのコーチング
ルーティンにコーチング要素を
環境設定のコーチング
学校でのコーチングアプローチ
授業でのコーチング的配慮
仲間関係のコーチング
評価のコーチングアプローチ
レジリエンス(回復力)の育成
DCDの子どもは困難を乗り越える体験を通じて、強いレジリエンス(回復力・適応力)を身につけることができます
認知的レジリエンス
コーチング質問例:
「他にどんなやり方がありそう?」
感情的レジリエンス
サポート例:
感情の言語化、リラクゼーション技法
社会的レジリエンス
育成方法:
集団活動、ピアサポート体験
レジリエンス育成のコーチングストラテジー
困難を成長機会に変える質問
- • 「この経験から何を学んだ?」
- • 「どんな力が身についたと思う?」
- • 「次は同じ状況でどう対応する?」
- • 「誰かの役に立てそうな経験だね」
強みの転用を促す質問
- • 「この能力、他でも活かせそう?」
- • 「似たような場面はどこにある?」
- • 「この経験、後輩に教えられる?」
- • 「これって実はすごいことだよね」
成功事例:コーチングアプローチの力
Aくん(小2):書字困難から自信回復へ
Bさん(小4):運動苦手から仲間のリーダーへ
成功の共通要因
強みベース
できることから始める
本人主導
子どもが決める要素を重視
関係性重視
信頼関係とパートナーシップ
小さな成功
達成可能な目標設定
保護者・支援者向け:コーチングスキル習得ガイド
発達障害支援は、保護者・支援者に関してもサポートと習得が重要です。
とくに、ポジティブなメンタルヘルスは極めて重要になります。
スキル習得ステップ
ステップ1:マインドセット
ステップ2:基本スキル
ステップ3:実践・応用
日常での練習法
週間練習プラン
セルフチェック
長期的視点とサポート体制の構築
発達段階別アプローチ
幼児期(3-5歳)
学童期(6-12歳)
思春期(13歳以降)
サポートネットワーク
専門機関との連携
• 言語聴覚士
教育機関との協働
• 教育委員会・教育センター
コミュニティサポート
参考文献・エビデンス
Blank, R., et al. (2019). International clinical practice recommendations on the definition, diagnosis, assessment, intervention, and psychosocial aspects of developmental coordination disorder. Developmental Medicine & Child Neurology, 61(3), 242-285.
国際的な臨床実践ガイドライン
Yu, J., et al. (2018). Motor skill interventions in children with developmental coordination disorder: A systematic review and meta-analysis. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation, 99(10), 2076-2091.
系統的レビュー・メタアナリシス
白石純子ら (2021). 発達性協調運動症のある子どもの書字困難の特徴と感覚統合療法の効果. LD研究, 30(1), 58-71.
日本における実証研究
Deci, E. L., & Ryan, R. M. (2000). The “what” and “why” of goal pursuits: Human needs and the self-determination of behavior. Psychological Inquiry, 11(4), 227-268.
自己決定理論(コーチング心理学の基礎理論)
Dweck, C. S. (2006). Mindset: The new psychology of success. Random House.
成長マインドセット理論
厚生労働省 DCD 支援マニュアル
令和 4 年度障害者総合福祉推進事業
「協調運動の障害の早期の発見と適切な支援の普及のための調査
https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/001122260.pdf
コンテンツ一覧
投稿者プロフィール

- 徳吉陽河(とくよしようが)は、コーチング心理学研究会・コーチング心理学協会の創設者の一人であり、日本・世界のおけるコーチング心理学のパイオニア。コーチング心理士、公認心理師・キャリアコンサルタント、認定心理士(心理調査)、ポジティブ心理療法士、として教育・医療・福祉・産業分野で活動する専門家。東北大学大学院博士後期課程で研究し、国際コーチング心理学会、国際ポジティブ心理学会など、世界で学び、研究を発表。教育プログラム、心理尺度開発なども専門としている。著書に『ポジティブ大全』『科学的に正しい脳を活かす「問いのコツ」 結果を出す人はどんな質問をしているのか?』『ナラティヴ・セラピー BOOK』、『コーチング心理学ガイドブック』『コーチング心理学ハンドブック』などの翻訳書などがあり、科学的なエビデンスと物語(ナラティブ)に基づくコーチングとウェルビーイング教育を推進している。累計4000名のコーチ、カウンセリング実績」(ワークショップを含む)、「累計6000回以上のセミナー実績」以上の実績がある。国土交通省 航空保安大学講師、元東北文化学園大学講師、元仙台医療センター看護学校講師、元若者サポートセンター講師など。教育機関、海外・国外の法人企業などで講師を担当実績がある。学校法人・企業法人・医療法人(リハビリ)など、主に管理職に関わる講師を数多く担当。座右の銘は、「我以外皆我師」、失敗・挫折もたくさんしており、「万事塞翁が馬」大切にしている。「自己肯定感が低いからこそ成長できる」ことを大切にしている。
最新の投稿
book2025年11月16日コーチング心理学入門 ポジティブな支援の実践 サイエンス社
AI2025年11月16日コーチング心理学用のワークシートを基にしたワークアプリを開発
Skills2025年11月13日コーチング心理学の視点でのAI活用ガイドライン
TOPIC2025年11月12日「職場の心理的安全性」と「フィードバックスキル」の関係 コーチング心理学より










