ナラティブと進化心理学コーチング

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ナラティブと進化心理学コーチング:人は「生き残るための物語」を語る

私たちは日々、自分や他者について「物語(ナラティブ)」を語りながら生きています。進化心理学の視点から見ると、その物語は単なる主観ではなく、**生存と繁殖に役立つ適応的な「機能」を持っています。
添付図は、人間の主要な社会的動機と、それに対応する感情・行動・語りを整理したものです。


人は「進化的機能」で物語を読む・語る

脳は出来事を客観的に記録する装置ではありません。
生き延びるために重要な意味づけをする装置です。

つまり、人が語る物語は:

  • 何が危険か

  • 誰が味方か

  • 自分の立ち位置はどこか

  • どう振る舞えば排除されないか

を判断するための「意思決定ツール」なのです。


進化的に重要な7つの社会的テーマ

1. 安全(脅威回避)

  • 不安・警戒・回避

  • 危険を過大評価しやすい

  • トラウマ的記憶が強い

ナラティブ例
「また失敗したら終わりだ」
「人は信用できない」


2. 所属(排除回避)

  • 仲間に受け入れられること

  • 同調・萎縮・空気を読む

  • 孤立への恐怖

ナラティブ例
「迷惑をかけてはいけない」
「自分だけ違うと危険」

(日本文化では特に強く表れやすいテーマです。)


3. 公平(搾取回避)

  • 不公平への怒り

  • 裏切りへの敏感さ

  • 罰や報復の感情

ナラティブ例
「自分だけ損している」
「正義が守られていない」


4. 地位(順位調整)

  • 比較・競争・評価

  • 劣等感・優越感

  • 承認欲求

ナラティブ例
「あの人より下だ」
「もっと認められたい」


5. 評判(信頼維持)

  • 他者からの見られ方

  • 完璧主義・失敗回避

  • 社会的信用への配慮

ナラティブ例
「恥をかいてはいけない」
「評価が下がると終わり」


6. 親密(関係維持)

  • 愛着・共感・独占・嫉妬

  • 親しい関係の維持

  • 裏切りへの恐怖

ナラティブ例
「離れていくかもしれない」
「自分は大切にされていない」


7. 探索(学習・成長)

  • 好奇心・挑戦

  • 新しい可能性への志向

  • 創造性

ナラティブ例
「やってみたい」
「未知の世界に進みたい」


なぜネガティブな物語が強いのか?

進化的には、

誤って安全側に倒れるほうが生存率が高い

ため、脳は危険に関する物語を優先します。

  • 良い出来事 → 忘れやすい

  • 悪い出来事 → 忘れにくい

これが「ネガティビティ・バイアス」です。


ナラティブ・アプローチとの接点

ナラティブ・アプローチでは、

問題は人ではなく、物語のほうにある

と考えます。

進化心理学を組み合わせると、さらに理解が深まります。

問題は「間違った物語」ではない

「過剰に作動した適応」かもしれない

例:

  • 過度な不安 → 安全システムの過活動

  • 完璧主義 → 評判維持の過活動

  • 対人回避 → 排除回避の過活動


コーチング・支援への応用

この視点を持つと、支援は次のように変わります。

❌「考え方を変えましょう」

ではなく

⭕「どの生存システムが働いていますか?」

と問い直すことができます。


使える質問例

  • 今、何を守ろうとしているのでしょうか?

  • どんな危険を避けようとしていますか?

  • 誰との関係を大切にしていますか?

  • 評価と安心、どちらを優先していますか?

  • もし安全が保証されていたら、何をしますか?


まとめ:人は「生きるための物語」を語る存在

人間の語りは単なる思考ではありません。
それは何百万年もの進化の中で形成された、

「社会的に生き延びるための戦略」

です。

ナラティブと進化心理学を統合すると、

  • 問題の背景理解が深まる

  • 自己批判が減る

  • より機能的な物語へ再構成できる

  • ウェルビーイング支援に直結する

という大きな利点があります。

投稿者プロフィール

徳吉陽河
徳吉陽河
徳吉陽河(とくよしようが)は、コーチング心理学研究会・コーチング心理学協会の創設者の一人であり、日本・世界のおけるコーチング心理学のパイオニア。コーチング心理士、公認心理師・キャリアコンサルタント、認定心理士(心理調査)、ポジティブ心理療法士、として教育・医療・福祉・産業分野で活動する専門家。東北大学大学院博士後期課程で研究し、国際コーチング心理学会、国際ポジティブ心理学会など、世界で学び、研究を発表。教育プログラム、心理尺度開発なども専門としている。著書に『ポジティブ大全』『科学的に正しい脳を活かす「問いのコツ」 結果を出す人はどんな質問をしているのか?』『ナラティヴ・セラピー BOOK』、『コーチング心理学ガイドブック』『コーチング心理学ハンドブック』などの翻訳書などがあり、科学的なエビデンスと物語(ナラティブ)に基づくコーチングとウェルビーイング教育を推進している。累計4000名のコーチ、カウンセリング実績」(ワークショップを含む)、「累計6000回以上のセミナー実績」以上の実績がある。国土交通省 航空保安大学講師、元東北文化学園大学講師、元仙台医療センター看護学校講師、元若者サポートセンター講師など。教育機関、海外・国外の法人企業などで講師を担当実績がある。学校法人・企業法人・医療法人(リハビリ)など、主に管理職に関わる講師を数多く担当。座右の銘は、「我以外皆我師」、失敗・挫折もたくさんしており、「万事塞翁が馬」大切にしている。「自己肯定感が低いからこそ成長できる」ことを大切にしている。

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