リハビリテーション職にコーチング心理学が必要な理由

リハビリテーション職にコーチング心理学が必要な理由|訪問リハビリ管理者スキルアップ研修会 レポート

令和7年度 訪問リハビリテーション管理者スキルアップ研修会|対人支援・管理者向けコーチング心理学基本講座 担当講師より


はじめに|「教えるだけ」では届かない時代へ

一般社団法人コーチング心理学協会の講師が,令和7年度「訪問リハビリテーション管理者スキルアップ研修会」に登壇させていただきました。

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当日のプログラムは、午前9時20分から「対人支援・管理者向けコーチング心理学基本講座 ─ 効果的なコミュニケーションの理論と技法Ⅰ(講義)」、続いて11時から「同Ⅱ(演習)」という2部構成でした。

テーマは「対人支援・管理者としてのコーチングと心理学を学び、実践する」です。

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訪問リハビリテーションの現場では、管理者に求められる役割がこれまで以上に多様化しています。利用者支援はもちろん、スタッフ教育、組織づくり、多職種連携、地域リハビリテーションのコーディネーターとしての役割……。これだけの役割を担いながら、「どうすれば部下が自分で動いてくれるか」「どうすれば利用者の意欲を引き出せるか」と悩んでいる管理者の方は、非常に多いと感じています。

その答えのひとつが、コーチング心理学です。

本記事では、研修を通じて感じたこと、そしてリハビリテーション職にコーチング心理学がなぜこれほど重要なのかを、わかりやすくお伝えしていきます。


コーチング心理学とは何か?

「コーチング」という言葉はスポーツの世界から生まれ、今ではビジネスや医療・福祉の分野でも広く活用されています。しかし、「コーチング心理学」はそれをさらに一歩進めたものです。

コーチング心理学とは、心理学の理論やエビデンスを基盤としたコーチング実践の学問です。単なるテクニックの集合体ではなく、「なぜ人はこう動くのか」「なぜ言葉がけひとつで人の行動が変わるのか」という心理メカニズムを根拠に持っています。

具体的には、以下のような心理学理論が活用されます。

  • 行動科学(優先順位,目標設定)
  • フィードバックスキル(承認,伝達)
  • ポジティブ心理学(強みを活かしたアプローチ)
  • 自己決定理論(内発的動機づけを高める関わり方)
  • 認知行動理論(思考パターンと行動変容の関係)
  • 神経科学(報酬系,記憶,感情)
  • 心理的安全性とコミュニケーション(信頼関係の形成と心理的安全性)

これらを組み合わせることで、「相手が自分で気づき、自分で動く力」を育てる関わりが可能になります。


リハビリ職にコーチング心理学が重要な3つの理由

理由①|利用者の「主体性」を引き出すために

リハビリテーションの目標は、機能回復だけではありません。利用者が自分らしく生活を営むこと、つまり生活の質(QOL)の向上が本質です。

しかし現場でよく見られるのは、「先生に言われたからリハビリをやっている」という状態です。セラピストが目標を設定し、プログラムを立案し、利用者は”やらされている”感覚を持ちながらこなしているケースは少なくありません。

これでは、たとえ機能が回復しても、自宅での自主練習は続きません。退院後や訪問リハが終了した後に「元に戻ってしまった」という現象の多くは、主体性の欠如に起因しています。

コーチング心理学の技法を使えば、利用者自身が「自分はどうなりたいか」「何のために頑張るのか」を言語化し、内側からの動機で行動するようになります。これは、自己決定理論でいう「自律性の欲求」を満たすアプローチであり、エビデンスに基づいた介入です。

「指示するリハビリ」から「引き出すリハビリ」へ。 これがコーチング心理学のリハビリへの最大の贈り物です。


理由②|スタッフ育成と定着率を高めるために

訪問リハビリテーションの管理者が直面するもっとも深刻な課題のひとつが、スタッフの離職です。

「なぜ辞めてしまうのか」「どうすれば定着するのか」──この問いに対して、多くの管理者が「給与」や「休日」といった環境整備で答えようとします。もちろん、それも大切です。しかし、研究データが示すのは、離職の最大要因は**「職場内の人間関係」と「成長実感の欠如」**であるということです。

コーチング心理学は、まさにこの問題に直接アプローチします。

管理者がコーチングスキルを持てば、スタッフとの1on1面談の質が劇的に変わります。「報告・連絡・相談」を受け取るだけの面談から、スタッフ自身が「自分はどうしたいか」「何が課題か」を語り、管理者が勇気づけながら共に解決策を見つける対話へと変わります。

この「勇気づけ」のアプローチは、アドラー心理学の中核概念であり、相手の能力や努力を認め、「あなたにはできる」という信頼を伝えることで、スタッフの自己効力感を高めます。

自己効力感が高まれば、仕事への主体性が増し、困難な場面でも「自分で乗り越えようとする力」が育ちます。これが、定着率の向上に直結するのです。


理由③|多職種連携・地域連携を強化するために

訪問リハビリの管理者には、医師・看護師・介護士・ケアマネジャー・行政担当者など、様々な職種と連携する力が求められます。しかし、専門性の異なるメンバーと協働するのは、簡単ではありません。

多職種連携がうまくいかない場面の多くは、コミュニケーションの問題です。「言ったつもり」「聞いたつもり」「伝わったつもり」──このすれ違いが、利用者へのサービスの質を下げ、チーム内の不信感を生みます。

コーチング心理学の「傾聴」「承認」「質問」の技法は、多職種連携の場でも非常に有効です。相手の立場を理解し、相手の言葉に耳を傾け、相手の強みを承認したうえで対話を進めることで、「この人と一緒に仕事をしたい」という信頼関係が構築されます。

また、リハビリ職が地域のコーディネーターとして活躍するためには、「専門家として正しいことを伝える」力だけでなく、「相手が動きたくなるように働きかける力」が必要です。これは、まさにコーチング心理学が提供するものです。


研修当日の様子|「気づき」が連鎖した3時間

今回の研修は、午前中の講義と演習という2部構成でした。

講義では、コーチング心理学の理論的背景から、訪問リハビリ現場への応用まで、具体的な事例を交えてお伝えしました。参加者の皆さんが、「これは自分の職場で使える」「あの時の部下への対応はこういうことだったのか」と、熱心にメモを取ってくださる姿が印象的でした。

演習では、実際にペアやグループになって、コーチング技法を体験していただきました。「傾聴」のロールプレイでは、「こんなに話を聞いてもらったことはなかった」「自分でも気づいていなかったことを言葉にできた」という声が多く聞かれました。

管理者の方々が日々の忙しさの中で、いかに「聴くこと」を後回しにしてきたかを感じると同時に、「聴かれること」の力の大きさを改めて実感した時間でした。

研修後の参加者のコメントでは,「現場で実践したい」「スタッフ面談に取り入れてみる」「利用者へのアプローチを変えてみようと思った」という前向きなコメントが多数寄せられました。


コーチング心理学を学ぶことで変わる3つのこと

1. 「聴く力」が変わる

コーチング心理学の基本は傾聴です。ただし、これは「黙って聞く」ことではありません。相手の言葉の裏にある感情や価値観を受け取り、「あなたのことを理解したい」という姿勢で関わることです。

傾聴ができると、利用者は「この人なら話せる」と心を開きます。スタッフは「管理者に理解してもらえた」と感じ、心理的安全性が高まります。チームの雰囲気が変わり、情報共有が活性化され、ケアの質が向上します。

2. 「質問力」が変わる

コーチングにおける質問は、「答えを引き出す」ためではなく、「相手の思考を深める」ためにあります。

「どうすればいいと思いますか?」「それを実現するために、今できることは何ですか?」──こうしたオープンクエスチョンは、相手の脳を活性化させ、自分で考え、自分で答えを見つける力を育てます。

リハビリの場でこれを使えば、利用者が「自分のリハビリの主人公」になれます。スタッフとの面談でこれを使えば、管理者が答えを押しつけずに、スタッフ自身の成長を促せます。

3. 「承認力」が変わる

承認とは、相手の存在・努力・成果を「見ている」と伝えることです。「よくできたね」という評価とは異なり、「昨日、あの利用者さんへの声かけ、すごく丁寧だったね」という具体的な承認は、相手の自己肯定感と自己効力感を高めます。

日本人は、褒めることも褒められることも苦手な方が多いと言われます。しかし、承認は「才能」ではなく「スキル」です。学べば、誰でも使えるようになります。


訪問リハ管理者が今すぐできる実践ステップ

コーチング心理学を学んだからといって、すぐに完璧にできる必要はありません。まずは、以下のような小さな一歩から始めてみましょう。

ステップ1:今日から「うなずき」を意識する 相手が話しているときに、意識的にうなずきを増やす。それだけで「聴かれている感」が格段に上がります。

ステップ2:「どうすればいいと思う?」を口癖にする 答えを先に言うのではなく、まず相手に聞く。スタッフへの声かけをこれに変えるだけで、主体性が育ちます。

ステップ3:1日1回、具体的な承認を伝える 「今日、あの場面のあなたの対応、良かった」と、具体的に伝える。メールでも、廊下ですれ違った一言でも構いません。

ステップ4:自分自身がコーチングを受ける コーチングは、受けることで初めてその力を実感できます。管理者自身がコーチングを体験することで、スタッフや利用者への関わり方が変わります。


まとめ|コーチング心理学は「人を活かす技術」

リハビリテーション職の使命は、人の機能を回復させることだけではありません。その人が自分らしく生きる力を取り戻すことを支援することです。

そのためには、セラピスト自身が「人を活かす技術」を持つ必要があります。コーチング心理学は、まさにその技術です。

訪問リハビリの現場で、管理者として、セラピストとして、コーチング心理学を学ぶことは、利用者のQOL向上、スタッフの育成と定着、チームと地域の連携強化──すべてに貢献します。

今回の研修に参加してくださった皆さん、そしてこの記事を読んでくださっているすべてのリハビリテーション職の皆さんへ。

「正しいことを教える」から「相手が動きたくなる関わり」へ。

その一歩を、今日から踏み出してみてください。


徳吉 陽河 一般社団法人コーチング心理学協会・講師 令和7年度 訪問リハビリテーション管理者スキルアップ研修会 登壇講師


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投稿者プロフィール

徳吉陽河
徳吉陽河
徳吉陽河(とくよしようが)は、コーチング心理学研究会・コーチング心理学協会の創設者の一人であり、日本・世界のおけるコーチング心理学のパイオニア。コーチング心理士、公認心理師・キャリアコンサルタント、認定心理士(心理調査)、ポジティブ心理療法士、として教育・医療・福祉・産業分野で活動する専門家。東北大学大学院博士後期課程で研究し、国際コーチング心理学会、国際ポジティブ心理学会など、世界で学び、研究を発表。教育プログラム、心理尺度開発なども専門としている。著書に『ポジティブ大全』『科学的に正しい脳を活かす「問いのコツ」 結果を出す人はどんな質問をしているのか?』『ナラティヴ・セラピー BOOK』、『コーチング心理学ガイドブック』『コーチング心理学ハンドブック』などの翻訳書などがあり、科学的なエビデンスと物語(ナラティブ)に基づくコーチングとウェルビーイング教育を推進している。累計4000名のコーチ、カウンセリング実績」(ワークショップを含む)、「累計6000回以上のセミナー実績」以上の実績がある。国土交通省 航空保安大学講師、元東北文化学園大学講師、元仙台医療センター看護学校講師、元若者サポートセンター講師など。教育機関、海外・国外の法人企業などで講師を担当実績がある。学校法人・企業法人・医療法人(リハビリ)など、主に管理職に関わる講師を数多く担当。座右の銘は、「我以外皆我師」、失敗・挫折もたくさんしており、「万事塞翁が馬」大切にしている。「自己肯定感が低いからこそ成長できる」ことを大切にしている。

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