コーチング心理学とポジティブ心理学の関係
コーチング心理学とポジティブ心理学の関係
歴史的背景と発展
ポジティブ心理学の誕生(1998年) マーティン・セリグマンが米国心理学会(APA)会長就任時に提唱しました。従来の心理学が精神疾患や問題行動に焦点を当てていたのに対し、人間の強み、幸福、最適な機能に科学的にアプローチする新しい方向性を示しました。
コーチング心理学の確立(2000年代初頭) ポジティブ心理学の影響を受けながら、エビデンスに基づいたコーチング実践として体系化されました。英国心理学会(BPS)や豪州心理学会(APS)などがコーチング心理学部門を設立し、学術的基盤を確立しました。
理論的枠組みの共通点
ウェルビーイング中心のアプローチ
- ポジティブ心理学のPERMAモデル(Positive emotion, Engagement, Relationships, Meaning, Accomplishment)は、コーチングセッションの目標設定やアセスメントに直接活用されています
- コーチングでは、クライアントの人生満足度や幸福感の向上が重要な成果指標となります
資源志向・解決志向
- 両分野とも「何が間違っているか」ではなく「何がうまく機能しているか」を探求します
- ソリューション・フォーカスト・アプローチとポジティブ心理学の相性が良く、多くのコーチが統合的に活用しています
主要な概念と応用
1. 性格強み(Character Strengths)
VIA性格強みテスト
- ポジティブ心理学者ピーターソンとセリグマンが開発した24の性格強みの分類
- コーチングでは、クライアントに自身の上位強みを認識してもらい、仕事や私生活でその強みを意図的に活用する方法を探ります
- 強みの過剰使用や状況に応じた強みの調整についても議論します
2. レジリエンス(心理的回復力)
構成要素
- 楽観性、自己効力感、感情調整能力、社会的サポート、問題解決スキル
- コーチングでは、逆境や変化に直面したクライアントがこれらの要素を強化できるよう支援します
- ABCDEモデル(Adversity, Belief, Consequence, Disputation, Energization)などの具体的な介入技法を使用します
3. 成長マインドセット vs 固定マインドセット
キャロル・ドゥエックの研究
- 能力は努力によって伸ばせるという信念(成長マインドセット)の重要性
- コーチングでは、失敗を学習機会と捉える視点の転換や、「まだできない」という言葉の使用を促します
- パフォーマンス目標から学習目標への移行を支援します
4. フロー体験
ミハイ・チクセントミハイの理論
- スキルと課題の最適なバランス、完全な没入状態
- コーチングでは、クライアントがフロー状態を経験できる活動や仕事の設計を支援します
- 集中を妨げる要因の特定と除去、適切な難易度設定などを扱います
5. 希望理論(Hope Theory)
スナイダーのモデル
- 目標思考、経路思考(目標達成の方法)、主体思考(実行する意志)の3要素
- コーチングでは、明確な目標設定だけでなく、複数の達成経路を考案し、障害に直面した際の代替案を準備します
6. 自己決定理論
デシとライアンの理論
- 自律性、有能感、関係性の3つの基本的心理欲求
- コーチングでは、クライアントの内発的動機を高めるために、これらの欲求が満たされる環境づくりを支援します
- 外発的動機から内発的動機への移行プロセスを促進します
実践的統合の例
アセスメントツール
ポジティブ心理学由来
- VIA性格強み調査
- 真正性尺度(Authenticity Scale)
- ウェルビーイング指標(PERMA Profiler)
- 感謝尺度、楽観性テスト
コーチングでの活用 これらのツールを初回セッションや定期的な進捗確認で使用し、クライアントの現状把握とゴール設定の基礎とします。
介入技法
感謝の実践
- 毎日3つの良いことを記録するエクササイズ
- 感謝の手紙を書き、直接読み上げる「感謝の訪問」
- コーチングセッション内で定期的に振り返りを行い、ポジティブな出来事への注意を向ける習慣を育成します
強み活用ワーク
- 上位強みを新しい方法で使う週間チャレンジ
- チームメンバーの強みマッピングとタスク配分の最適化
- キャリア選択における強みと価値観の整合性確認
ポジティブな関係性の構築
- アクティブ・コンストラクティブ・レスポンディング(積極的建設的応答)のトレーニング
- 職場での高品質な人間関係(High-Quality Connections)の構築方法
エビデンスベースの実践
研究成果の応用
効果測定 コーチング心理学は、ポジティブ心理学の実証研究手法を取り入れ、コーチングの効果を科学的に検証しています。無作為化比較試験(RCT)やメタ分析により、特定の介入技法の有効性が確認されています。
神経科学との統合 脳の可塑性、ポジティブ感情が認知機能に与える影響、マインドフルネスの神経基盤などの研究が、コーチング実践の科学的根拠を強化しています。
コーチング心理学とポジティブ心理学の違いと補完関係
焦点の違い
ポジティブ心理学
- 幸福、ウェルビーイング、人間の繁栄に関する科学的研究
- 理論構築と実証研究が中心
- 「何が人間を繁栄させるのか」という問いへの答えを追求
コーチング心理学
- 目標達成・成長・能力開発・成長にフォーカスを当てている。
- 様々な心理療法も統合的に活用し,実践を行う。
- 研究知見を実践に応用する応用科学
- 個人やグループの目標達成とパフォーマンス向上に焦点
- 「どのように人々の成長と変化を支援するか」という実践的問い
相互補完/共通点
統合的アプローチを採用している。
ポジティブ心理学は,社会心理学,健康心理学,教育心理学,臨床心理学,進化心理学といった様々な心理学荷関して統合的に扱う統合的アプローチ。
コーチング心理学は,上記に加えて,認知行動療法,解決志向療法,動機づけ面接法,家族療法,ナラティヴ・アプローチ,NLP,交流分析など,心理療法的なアプローチを統合的に活用する
ポジティブ心理学がエビデンスと理論を提供し、コーチング心理学がそれを実践の場で検証・洗練させるという循環的な関係があります。コーチングの現場から得られた知見が、ポジティブ心理学の新たな研究テーマを生み出すこともあります。
統合モデルの例
GROW-POSITIVEモデル
伝統的なGROWモデル(Goal, Reality, Options, Will)にポジティブ心理学の要素を統合したアプローチ:
- 強みの特定と活用
- ポジティブな例外(うまくいった時)の探索
- 感謝と達成の振り返り
- 最良の自己(Best Possible Self)のビジョニング
ウェルビーイング・コーチング
クライアントの総合的なウェルビーイング向上を目的とし、PERMA要素すべてを定期的にアセスメントしながら、バランスの取れた成長を支援するアプローチです。
現代的展開
組織開発への応用 ポジティブ組織学(Positive Organizational Scholarship)とエグゼクティブ・コーチングの統合により、組織全体のウェルビーイングと生産性向上を目指す取り組みが増えています。
マインドフルネスの統合 第三世代の認知行動療法とポジティブ心理学、コーチング心理学が融合し、マインドフルネスベースのコーチングプログラムが開発されています。
デジタルコーチング ポジティブ心理学の介入をアプリやオンラインプラットフォームで提供する試みが拡大し、コーチング心理学の知見がその設計に活かされています。
コーチング心理学とポジティブ心理学は、人間の可能性を最大化するという共通の使命のもと、理論と実践の両面で深く結びついています。この統合により、エビデンスに基づいた、より効果的な支援が可能になっているのです。
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投稿者プロフィール

- 徳吉陽河(とくよしようが)は、コーチング心理学研究会・コーチング心理学協会の創設者の一人であり、日本・世界のおけるコーチング心理学のパイオニア。コーチング心理士、公認心理師・キャリアコンサルタント、認定心理士(心理調査)、ポジティブ心理療法士、として教育・医療・福祉・産業分野で活動する専門家。東北大学大学院博士後期課程で研究し、国際コーチング心理学会、国際ポジティブ心理学会など、世界で学び、研究を発表。教育プログラム、心理尺度開発なども専門としている。著書に『ポジティブ大全』『科学的に正しい脳を活かす「問いのコツ」 結果を出す人はどんな質問をしているのか?』『ナラティヴ・セラピー BOOK』、『コーチング心理学ガイドブック』『コーチング心理学ハンドブック』などの翻訳書などがあり、科学的なエビデンスと物語(ナラティブ)に基づくコーチングとウェルビーイング教育を推進している。累計4000名のコーチ、カウンセリング実績」(ワークショップを含む)、「累計6000回以上のセミナー実績」以上の実績がある。国土交通省 航空保安大学講師、元東北文化学園大学講師、元仙台医療センター看護学校講師、元若者サポートセンター講師など。教育機関、海外・国外の法人企業などで講師を担当実績がある。学校法人・企業法人・医療法人(リハビリ)など、主に管理職に関わる講師を数多く担当。座右の銘は、「我以外皆我師」、失敗・挫折もたくさんしており、「万事塞翁が馬」大切にしている。「自己肯定感が低いからこそ成長できる」ことを大切にしている。
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