Being(あり方)の変化とコーチング心理学 〜 Well-being・Will-being・AI-beingを科学的に紐解く 〜
Being(あり方)の変化とコーチング心理学
〜 Well-being・Will-being・AI-beingを科学的に紐解く 〜
カテゴリ:コーチング心理学 / ウェルビーイング / AI時代の生き方
「あなたは今、どんな自分として生きていますか?」
この問いに、すぐに答えられる人は意外と少ないものです。私たちは毎日「何をするか(Doing)」「何を持つか(Having)」ばかりに気を取られ、「どうあるか(Being)」という根本的な問いを後回しにしがちです。
しかしAI技術が急速に進化し、働き方や人間関係が劇的に変化する現代において、「Being(あり方)」こそが最も重要な問いとなっています。本記事では、コーチング心理学の視点からWell-being・Will-being・Positive Autopilot being・AI-beingという4つのBeingの変化を体系的に解説します。あなた自身の「あり方」を深く見つめ直す機会にしてください。
この記事でわかること
- コーチング心理学における「Being(あり方)」とは何か
- 4つのBeingの変化(Well-being / Will-being / Positive Autopilot being / AI-being)
- 各Beingとコーチング心理学理論との関係
- 日常で実践できるコーチング的問いかけ
- AI時代に「人間ならではの強み」をどう生かすか
第1章|「Being(あり方)」とコーチング心理学の交差点
コーチング心理学が注目する「Being」の概念
コーチング心理学は、ポジティブ心理学・認知行動療法・自己決定理論などを統合し、人の内発的動機と成長を支援する学問分野です。その中核にある概念が「Being(あり方)」です。
従来の目標設定型コーチングが「Doing(行動)」や「Having(成果)」を重視したのに対し、現代のコーチング心理学は「どんな人間として存在するか」というBeingを起点とするアプローチに進化しています。これは、ポジティブ心理学の祖マーティン・セリグマン博士が提唱するPERMA理論(Positive emotions・Engagement・Relationships・Meaning・Achievement)とも深く連動しています。
セリグマン博士はかつて「幸福とは快楽の追求だ」という見方を超え、「人生の意味・深い関わり・達成感が組み合わさったとき、人は本当に flourish(開花)する」と主張しました。この「flourishing(人間的開花)」こそ、コーチング心理学が目指すBeingの理想形です。
なぜ今「Being」が問われるのか
VUCAの時代(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)と呼ばれる現代では、正解が一つではなく、過去の成功体験が未来に通じない場面が増えています。そのような状況で私たちが拠り所にできるのは、外部の情報や他者の評価ではなく、「自分自身のあり方(Being)」なのです。
コーチング心理学の観点から言えば、Beingが安定している人ほど、変化への適応力(レジリエンス)が高く、自己効力感(self-efficacy)が持続しやすいという研究結果も複数あります。「あり方」は単なる精神論ではなく、科学的に裏付けられた心理的基盤なのです。
第2章|Well-being(ウェルビーイング):心と身体の幸福を科学する
Well-beingとは何か
Well-beingとは、心身ともに健康で幸福を感じている状態のことです。単に「病気でない」というだけでなく、「人生に満足している」「毎日に喜びを感じている」という積極的な幸福感を指します。
具体的な例として、ワークライフバランスの実現・良好な人間関係の構築・身体的な健康習慣の維持などが挙げられます。WHO(世界保健機関)も健康の定義を「単に疾病がないことではなく、身体的・精神的・社会的に良好な状態」と定めており、Well-beingはまさにその状態を表します。
コーチング心理学との関係:自己決定理論とWell-being
デシとライアンが提唱する自己決定理論(Self-Determination Theory)によれば、人間には「自律性(Autonomy)」「有能感(Competence)」「関係性(Relatedness)」という3つの基本的心理欲求があり、これらが満たされたときに内発的動機が高まり、Well-beingが向上します。
コーチングの場では、クライアントが「自分で選んでいる感覚(自律性)」を持てるよう、コーチは答えを与えるのではなく問いを通じて気づきをサポートします。これがWell-beingを内側から高める鍵です。
あなたへのコーチングの質問
💬 「あなたが一番幸福を感じる瞬間はいつですか?その瞬間に共通しているものは何でしょうか?」
第3章|Will-being(ウィルビーイング):意志と目的を持って生きる
Will-beingとは何か
Will-beingとは、強い意志と目的意識を持ち、主体的に生きるあり方です。Well-beingが「今ここの幸福感」を重視するのに対し、Will-beingは「なぜ生きるか」「何のために頑張るか」という人生の方向性や意味(Meaning)に焦点を当てます。
具体例としては、キャリア目標の達成に向けた継続的な努力、社会貢献活動への積極的な参加などが挙げられます。日本語では「志(こころざし)」に近い概念とも言えるでしょう。
コーチング心理学との関係:PURPOSE(パーパス)とACT
Will-beingはコーチング心理学における「パーパス(Purpose:人生の目的)」の概念と密接に結びついています。Victor Franklの意味療法(Logotherapy)に影響を受けた現代コーチングでは、クライアントが自分の「why(なぜ)」を明確にすることが変容の起点となります。
また、アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)では「価値に基づいた行動(Value-based action)」を重視します。ACTの視点では、痛みや不安があったとしても、自分の価値観に沿って行動することがWill-beingを高め、心理的柔軟性(psychological flexibility)を育みます。
コーチングセッションでは、「あなたにとって本当に大切なものは何か」「10年後、どんな自分でありたいか」という問いが、クライアントのWillを呼び覚ます効果的なアプローチとして用いられます。
あなたへのコーチングの質問
💬 「あなたが本当に成し遂げたいことは何ですか?それはなぜ、あなたにとって大切なのでしょうか?」
第4章|Positive Autopilot being:意志を習慣化するあり方
Positive Autopilot beingとは何か
Positive Autopilot beingとは、強い意志が日々の習慣となり、無意識的に良い方向へ行動できるあり方です。意識的に始めた良い習慣(例:毎朝の運動、読書、瞑想)が、やがて努力なく自然に続くようになった状態を指します。
「オートパイロット(自動操縦)」という言葉が示すように、いちいち意識しなくても体が動く、意識のエネルギーを消費せずに良い行動が続く状態です。これはまさに、意志の力(Willpower)を超えた、Being次元での変容と言えます。
コーチング心理学との関係:習慣形成とマインドフルネス
心理学者チャールズ・デュヒッグが著書「習慣の力」で示したように、習慣は「きっかけ→ルーティン→報酬」のループによって形成されます。コーチング心理学では、このループを意識的に設計し、クライアントが望ましい習慣を定着させるサポートを行います。
さらに重要なのが「マインドフルネス(Mindfulness)」との組み合わせです。マインドフルネスは、今この瞬間の自分の状態に気づく能力を高めます。この「気づき」があることで、自動化された行動が本当に自分の価値観に沿っているかをモニタリングし、必要に応じて軌道修正できます。
コーチングセッションでは「先週、自然と(無意識に)できた良い行動は何でしたか?」という問いが、クライアントのPositive Autopilotを可視化し、さらに強化するきっかけになります。
「21日間ルール」の真実とコーチングの役割
「習慣は21日で形成される」という説が広まっていますが、ロンドン大学のフィリッパ・ラリー博士の研究によれば、実際には平均66日かかるとされています。コーチングの役割は、この長い習慣形成プロセスにおいてクライアントの継続をサポートし、挫折しそうな場面でリフレーミング(見方を変える)を助けることにあります。
あなたへのコーチング的問い
💬 「今日、自然と(無意識に)できた良い行動は何ですか?それはいつから習慣になりましたか?」
第5章|AI-being(AIビーイング):AI時代の人間の在り方
AI-beingとは何か
AI-beingとは、AI技術を理解し、人間ならではの強み(創造性・共感・倫理観)をAIと共生させるあり方です。AIをツールとして使いこなし、新たな知見や価値を生み出す存在としての人間の在り方を指します。
これはAIへの恐怖や排除ではなく、AIとの協働・共創(co-creation)を通じて人間が本来の可能性を最大化する、前向きな姿勢です。AI-beingを体現する人は「AIが私の仕事を奪う」ではなく「AIを使って私にしかできない価値を創る」と考えます。
コーチング心理学との関係:強み活用とグロースマインドセット
AI-beingとコーチング心理学の接点は「強みベースのアプローチ(Strengths-based approach)」にあります。VIA強み分類(Values in Action)に基づくコーチングでは、各クライアントの独自の強みを特定し、それを最大化することに焦点を当てます。AIが得意とするのは情報処理・パターン認識・高速計算ですが、人間固有の強みである「創造的直感」「感情的共鳴」「倫理的判断」はAIが代替できない領域です。
また、スタンフォード大学のキャロル・ドウェック教授が提唱する「グロースマインドセット(成長思考)」もAI-beingに欠かせません。「能力は固定されている」と考えるフィックスドマインドセットではなく、「能力は努力と学習で伸ばせる」というグロースマインドセットを持つことで、AI技術の習得や活用に積極的に取り組めるようになります。
「人間にしかできないこと」をコーチングで明確化する
コーチング心理学のアプローチでは、AI時代においてクライアントが「自分にしかない価値」を言語化・再定義する支援が重要になっています。例えば以下のような問いが有効です:
- 「あなたの仕事の中で、AIが代替できない部分はどこだと思いますか?」
- 「過去に、あなたの存在そのものが誰かに影響を与えたと感じた場面はありましたか?」
- 「AIを使いこなすことで、あなたはどんな新しい価値を生み出せると思いますか?」
💬 「AIが進化する中で、あなたにしかできないことは何ですか?あなたの『人間としての強み』をどう活かしますか?」
第6章|4つのBeingをコーチング心理学で統合する
BeingとDoingの好循環モデル
コーチング心理学では「Being → Doing → Having」という変容の順序を重視します。つまり、「どんな自分でありたいか(Being)」が明確になることで、「何をすべきか(Doing)」が自然に決まり、結果として「望む成果(Having)」が得られるという好循環です。
4つのBeingはそれぞれ独立しているのではなく、螺旋状に発展します。Well-beingという基盤の上に、Will-beingという方向性が生まれ、それがPositive Autopilotとして習慣化され、AI-beingとして時代に適応していく。この発展プロセス全体をコーチングが支援します。
あなたの「Being診断」:今どのステージにいるか
以下の問いに対して、1〜10のスコアで自己評価してみてください(10が最高):
| Beingの種類と問い | 現在のスコア | 理想のスコア |
| Well-being:今、心身ともに満たされていると感じるか | ||
| Will-being:人生の目的・方向性が明確か | ||
| Positive Autopilot being:良い習慣が無意識に続いているか | ||
| AI-being:AI技術と共生し、独自の価値を発揮できているか |
現在と理想のギャップが大きい項目ほど、あなたのコーチングの優先課題と言えます。
第7章|今日からできる「Being実践」5ステップ
コーチング心理学の知見をもとに、4つのBeingをバランスよく育てるための実践的な5ステップを紹介します。
ステップ1:Being Journaling(毎日5分)
朝起きたら「今日、どんな自分でありたいか」を1〜2文で書く。Beingを言語化することで、その日の行動に意図が生まれます。
ステップ2:週次の振り返りコーチング(週1回30分)
「今週、自分のBeingに沿った行動ができたか」を自問自答するセルフコーチングを行う。
ステップ3:強みの棚卸し(月1回)
VIA強み調査(無料オンライン診断)を活用し、自分の上位強みを確認。AI時代に特に活かしたい強みを特定する。
ステップ4:習慣スタッキング
すでに定着している習慣(歯磨き、コーヒーを飲む等)に新しい良い習慣を紐づける。Positive Autopilot beingを構築する最短ルート。
ステップ5:AI協働実験(週1回)
AIツール(ChatGPT、Claude等)を使って自分の業務を一部自動化し、空いた時間で「人間にしかできないこと」に集中する実験を行う。
まとめ:Being(あり方)こそ、AI時代の最強の資産
本記事では、コーチング心理学の観点から4つのBeingの変化を解説しました。
- Well-being:心身の幸福という土台
- Will-being:意志と目的という方向性
- Positive Autopilot being:習慣化という推進力
- AI-being:AI時代に人間固有の価値を発揮する適応力
これらは別々のものではなく、互いに連携し、螺旋状に深化していくものです。コーチング心理学は、この4つのBeingをバランスよく育てるための科学的・実践的な枠組みを提供します。
AIがどれだけ進化しても、「あなたがどうありたいか」という問いに答えられるのはあなただけです。テクノロジーが変わり、社会が変わり、仕事が変わっても、あなたのBeingは揺るぎない根として存在し続けます。
今日から、「何をするか」より先に「どうあるか」を問いかけてみてください。その小さな問いが、大きな変容の始まりになるでしょう。
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投稿者プロフィール

- 徳吉陽河(とくよしようが)は、コーチング心理学研究会・コーチング心理学協会の創設者の一人であり、日本・世界のおけるコーチング心理学のパイオニア。コーチング心理士、公認心理師・キャリアコンサルタント、認定心理士(心理調査)、ポジティブ心理療法士、として教育・医療・福祉・産業分野で活動する専門家。東北大学大学院博士後期課程で研究し、国際コーチング心理学会、国際ポジティブ心理学会など、世界で学び、研究を発表。教育プログラム、心理尺度開発なども専門としている。著書に『ポジティブ大全』『科学的に正しい脳を活かす「問いのコツ」 結果を出す人はどんな質問をしているのか?』『ナラティヴ・セラピー BOOK』、『コーチング心理学ガイドブック』『コーチング心理学ハンドブック』などの翻訳書などがあり、科学的なエビデンスと物語(ナラティブ)に基づくコーチングとウェルビーイング教育を推進している。累計4000名のコーチ、カウンセリング実績」(ワークショップを含む)、「累計6000回以上のセミナー実績」以上の実績がある。国土交通省 航空保安大学講師、元東北文化学園大学講師、元仙台医療センター看護学校講師、元若者サポートセンター講師など。教育機関、海外・国外の法人企業などで講師を担当実績がある。学校法人・企業法人・医療法人(リハビリ)など、主に管理職に関わる講師を数多く担当。座右の銘は、「我以外皆我師」、失敗・挫折もたくさんしており、「万事塞翁が馬」大切にしている。「自己肯定感が低いからこそ成長できる」ことを大切にしている。





