発達障害のある社員の方とのコミュニケーション改善ガイド 〜多様な働き方を支える、職場での実践〜

発達障害のある社員とのコミュニケーション改善ガイド

〜多様な働き方を支える、職場のコミュニケーション実践ガイド〜
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|カテゴリ:人事・職場環境・ダイバーシティ

はじめに――「伝わらない」の本当の理由

「何度説明しても理解してもらえない」「急な予定変更でパニックになってしまった」「会議中ずっと違う方向を向いていて、話を聞いているのか不安になる」――こんな経験が職場でありませんか?

そのとき、「この人はやる気がないのかな」「コミュニケーション能力が低いのかな」と感じた方もいるかもしれません。しかし、その「伝わらない」「かみ合わない」の背景には、発達障害という特性が関係している場合があります。

発達障害とは、生まれつきの脳の特性によって、学習・コミュニケーション・行動などに困難が生じる状態のことです。ASD(自閉スペクトラム症)・ADHD(注意欠如多動症)・LD(学習障害)などが代表的で、厚生労働省の調査では、成人の約67人に1人が何らかの発達特性を持つとも言われています。

このガイドでは、発達障害のある社員が職場でどのような困難を感じやすいか、そして上司・同僚がどうコミュニケーションを工夫すればよいかを、実践的かつ共感的な視点でお伝えします。「障害のある人への特別対応」ではなく、「誰もが働きやすい職場づくり」の第一歩として読んでいただければ幸いです。

 

1. 発達障害とは何か――基礎知識を正しく理解する

1-1. 発達障害の主な種類

まず、職場でよく見られる発達障害の特性を整理しておきましょう。

ASD(自閉スペクトラム症)

  • 言葉の裏の意味や空気を読むことが苦手
  • 急な変更・予定外の出来事に強いストレスを感じる
  • 特定の分野に強いこだわりや集中力を持つ
  • コミュニケーションのパターンを好む(毎日同じ手順・流れなど)

 

ADHD(注意欠如多動症)

  • 注意が逸れやすく、ひとつのことに集中し続けることが難しい
  • 締め切りや時間管理が苦手なことが多い
  • 衝動的に発言・行動してしまうことがある
  • 興味のある分野では驚くほど高い集中力(過集中)を発揮する

 

LD(学習障害)

  • 読み書き・計算など特定の学習スキルに困難がある
  • 知的能力は平均的でも、文字の読み取りや記述が苦手
  • 業務の報告書作成・メール文章作成などに時間がかかる

 

💡 ポイント: 発達障害はひとりひとりの特性が異なります。「ASDだからこう」とひとくくりにせず、その人個人の強みと苦手を把握することが最も重要です。

 

1-2. 「できない」のではなく「やり方が違う」

発達障害のある方が職場で失敗してしまうとき、それは「能力がない」「やる気がない」からではありません。情報の処理の仕方、感覚の受け取り方、時間の感覚などが、いわゆる「定型発達」と呼ばれる多数派の人と異なっているだけです。

たとえば、ADHDの方は「時間に間に合わない」ことが多いですが、それは怠慢ではなく「時間感覚の処理が脳のレベルで異なる」ためです。ASDの方が「空気を読まない」発言をするのも、悪意ではなく「比喩・暗示・文脈の読み取りに困難がある」からです。

こうした前提を職場全体で共有することが、コミュニケーション改善の出発点になります。

 

2. 発達障害のある社員が職場で感じる「あるある」な困難

2-1. 指示が「わからない」のではなく「伝え方が合っていない」

上司が「あとでよろしく」「いい感じに頼む」「柔軟に対応して」と伝えても、ASDの傾向がある方は「あとで」がいつなのか、「いい感じ」の基準が何なのかがわからず、困惑してしまうことがあります。

これは本人の理解力の問題ではなく、指示の具体性が足りていないことが多いのです。

⚠ 注意: 曖昧な指示・抽象的な表現・「暗黙の了解」は、発達特性のある方にとって最大のバリアになります。

 

2-2. 複数業務・突発的な変更が苦手

「今すぐこっちを優先して」「さっきの話は変わって、こうして」といった急な方針変更は、計画通りに動くことでパフォーマンスを発揮する方にとって非常に大きなストレスです。マルチタスクへの切り替えが求められる業務も、ADHDASDの方には苦手なケースが多くあります。

 

2-3. 口頭だけの指示は記憶に残りにくい

会議や口頭での説明を聞きながら同時に頭の中で処理することが難しい場合、指示の内容が抜け落ちてしまうことがあります。「聞いていなかった」のではなく、「情報の受け取り方・保持の仕方が異なる」ことを理解する必要があります。

 

2-4. 人間関係・空気感への疲弊

「なぜあの人は怒っているんだろう」「さっきの発言は失礼だったのだろうか」など、職場の人間関係を読み取ることに膨大なエネルギーを使う方もいます。その結果、業務そのものよりも「場の空気への気配り」でヘトヘトになってしまうことがあります。

 

3. 職場でできる!発達障害支援におけるコミュニケーション改善の7つの実践ポイント

ポイント指示は具体的に、数字と期限で

「なるべく早く」「できれば今週中に」という言い方を、「今日の17時までに」「金曜日の正午までに仕上げてください」と置き換えましょう。「何を・いつまでに・どのレベルで」の3点をセットで伝えることがポイントです。

💡 ポイント: 「今週中によろしく」「木曜日の15時までに、A41枚のまとめ資料を作成してください」に変えるだけで、行動のイメージがまったく変わります。

 

ポイント口頭+書面のセットを習慣化する

口頭で伝えた後に、メールやSlackで同じ内容を文字で送る習慣をつけましょう。発達特性のある方だけでなく、チーム全員の認識統一にも役立ちます。「言った・言わない」問題の予防にもなります。

 

ポイント変更は早めに・段階的に伝える

急な予定変更が避けられない場合も、「変更が発生しそうです」という予告を早めにすることで、混乱を最小限に抑えられます。変更の理由と新しい手順を一緒に伝えると、より受け入れやすくなります。

 

ポイント一度に伝える情報量を絞る

「資料作って、それが終わったら営業に連絡して、会議の議事録も今日中に」とまとめて伝えると情報が混乱しやすくなります。ひとつのタスクが終わってから次を伝えるか、優先順位を明確にして番号で伝えましょう。

  • まず○○を完成させる
  • 次に○○に連絡する
  • 最後に○○を提出する

このように番号付きで渡すだけで、グッとわかりやすくなります。

 

ポイント「なぜ」を一緒に伝える

指示の背景や目的がわかると、ASDの傾向がある方はより適切に対応できることが多いです。「この資料は○○部長がお客様に説明するために使います。だから図を多めにしてください」のように、目的と理由をセットにしましょう。

 

ポイント「確認OK」の習慣をつくる

指示を出した後に「今伝えたこと、どう理解しましたか?」と確認する習慣をつけましょう。これは「信用していない」のではなく「一緒に認識を合わせる」ためのものです。本人が自分の言葉で繰り返せれば、理解が確認できます。

⚠ 注意: 「わかった?」という聞き方は避けましょう。「わかった」と答えるプレッシャーが生まれます。「どう進める予定か教えてもらえますか?」など、オープンな質問にしましょう。

 

ポイント得意なことを活かす配置・役割分担

発達障害のある方には、特定分野への強い集中力・記憶力・独創的な発想・細部へのこだわりなど、際立った強みを持つ方も多くいます。苦手な業務を無理にこなさせるより、得意領域で輝ける環境をつくることが、本人にとっても職場にとっても最善です。

 

4. 上司・人事担当者が知っておきたい「配慮」と「合理的配慮」の違い

4-1. 合理的配慮とは

2016年施行の「障害者差別解消法」により、事業者は障害のある方からの意思の表明があった場合、「合理的配慮」を提供する義務があります(2024年の改正で民間企業も義務化)。

合理的配慮とは、「特別扱い」ではなく「同じスタートラインに立つための調整」です。たとえば、以下のような配慮が該当します。

  • 指示書を文字でも渡す
  • 業務手順書をフローチャートで作成する
  • 作業の優先順位を視覚的に整理する
  • 周囲の音や光が気になる場合は座席を配慮する
  • 週に一度、11の確認面談の機会を設ける

 

4-2. 「過度な負担にならない範囲で」

合理的配慮は「何でも要求に応じなければならない」わけではありません。「過度な負担にならない範囲で」という基準があります。重要なのは、本人と話し合い、双方にとって現実的な形を模索するプロセスです。

💡 ポイント: 「配慮してほしい」と伝えることができる安心できる職場環境づくりが、まず第一歩です。

 

5. 心理的安全性――全員が話せる職場をつくる

5-1. 「言いにくい」をなくす文化づくり

発達障害のある方が職場で最も困ることのひとつが、「困っていることを言い出せない」という状況です。「また迷惑をかける」「変に思われる」と感じると、助けを求めることができなくなります。

心理的安全性とは、「失敗しても、疑問を言っても、違う意見を出しても、罰せられない」と感じられる職場の雰囲気のことです。これは発達障害の有無に関わらず、すべての社員の生産性と満足度に直結します。

 

5-2. 1on1ミーティングの活用

定期的な11の面談を設けることで、日常的なコミュニケーションの中では言いにくいことを話せる場が生まれます。「何かあれば言って」では言いにくい。だからこそ、「場をつくる」ことが管理職の重要な役割です。

1on1では、「業務の進め方で困っていることは?」「今の仕事でもっとこうしたいと思うことある?」という開かれた問いかけが効果的です。

 

6. よくある疑問にお答えします

Q. 発達障害かどうかわからない社員に、どう接すればよいですか?

診断の有無にかかわらず、「わかりやすいコミュニケーション」はすべての人に有効です。具体的な指示・書面での確認・柔軟な業務設計は、発達障害の方だけでなくチーム全体の生産性を上げます。まず「全員にとって働きやすい環境」を目指しましょう。

 

Q. 本人に「発達障害があるのでは」と伝えていいですか?

診断やラベルを本人に押しつけることは絶対に避けましょう。もし困っている様子があれば、「最近業務で大変そうに見えるけど、何か一緒に改善できることはある?」と、本人の状況に寄り添う形で話しかけましょう。

⚠ 注意: 「あなたは発達障害ではないか」という言い方は、本人を傷つける可能性があります。あくまで業務上の困りごとに焦点を当てた会話にしましょう。

 

Q. 社内で発達障害への理解を広めるにはどうすれば?

研修・勉強会の実施、ダイバーシティ推進の方針明示、ポスターや社内報での啓発など、複数のアプローチを組み合わせることが効果的です。特に管理職層への理解促進が、職場文化全体の変化につながります。

 

Q.一般社団法人コーチング心理学協会では,「発達障害」や「グレーゾーン」について学べますか?

はい、コーチング心理学協会では,発達障害支援コーチングなど,コミュニケーションに関わる内容を学べます。

イラスト化したりして,各講座も工夫して,楽しめるような内容んしております。ぜひ,体験してみていただければ幸甚です。

発達障害支援コーチング

https://www.coaching-psych.com/event/ddsc/

Q. 一般社団法人コーチング心理学協会では,「発達障害」,「グレーゾーン」の方に対応できる団体研修・法人研修などを実施してますか?(新入社員・中途社員・管理職研修など)

はい,実施しております。もしご希望でしたら,お問い合わせまでご連絡をいただければ幸甚です。
各組織や会社によって異なりますので,内容に合わせて対応いたしますの。協働で研修なども可能です。
お問い合わせまでご連絡をいただければ幸甚です。

https://www.coaching-psych.com/contact/

 

 

 

まとめ――違いを知ることが、チームの強さになる

発達障害のある社員とのコミュニケーション改善は、「その人のために特別なことをする」ことではありません。「伝わる伝え方」「わかりやすい職場のルール」「安心して話せる環境」――これらはすべての人にとって価値あるものです。

多様な特性を持つ人がそれぞれの強みを発揮できるとき、チームの創造性と問題解決力は確実に上がります。違いを恐れるのではなく、違いから学ぶ職場文化をつくっていきましょう。

 

実践チェックリスト

  • 指示は「何を・いつまでに・どのレベルで」を明確にした
  • 口頭と書面の両方で伝えている
  • 急な変更は早めに予告・理由も伝えている
  • タスクを一度に複数伝えず、優先順位を明示している
  • 「なぜ」という目的・背景も伝えている
  • 理解確認はオープンな質問でしている
  • 1on1や相談できる場が定期的にある
  • 本人の得意分野を活かせる配置を考えている

 

 

参考文献・関連リソース

・厚生労働省「発達障害者支援法」関連情報

・内閣府「障害者差別解消法 合理的配慮の提供」

・発達障害情報・支援センター(国立障害者リハビリテーションセンター)

本記事は情報提供を目的としており、医学的診断の代わりになるものではありません。

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投稿者プロフィール

徳吉陽河
徳吉陽河
徳吉陽河(とくよしようが)は、コーチング心理学研究会・コーチング心理学協会の創設者の一人であり、日本・世界のおけるコーチング心理学のパイオニア。コーチング心理士、公認心理師・キャリアコンサルタント、認定心理士(心理調査)、ポジティブ心理療法士、として教育・医療・福祉・産業分野で活動する専門家。東北大学大学院博士後期課程で研究し、国際コーチング心理学会、国際ポジティブ心理学会など、世界で学び、研究を発表。教育プログラム、心理尺度開発なども専門としている。著書に『ポジティブ大全』『科学的に正しい脳を活かす「問いのコツ」 結果を出す人はどんな質問をしているのか?』『ナラティヴ・セラピー BOOK』、『コーチング心理学ガイドブック』『コーチング心理学ハンドブック』などの翻訳書などがあり、科学的なエビデンスと物語(ナラティブ)に基づくコーチングとウェルビーイング教育を推進している。累計4000名のコーチ、カウンセリング実績」(ワークショップを含む)、「累計6000回以上のセミナー実績」以上の実績がある。国土交通省 航空保安大学講師、元東北文化学園大学講師、元仙台医療センター看護学校講師、元若者サポートセンター講師など。教育機関、海外・国外の法人企業などで講師を担当実績がある。学校法人・企業法人・医療法人(リハビリ)など、主に管理職に関わる講師を数多く担当。座右の銘は、「我以外皆我師」、失敗・挫折もたくさんしており、「万事塞翁が馬」大切にしている。「自己肯定感が低いからこそ成長できる」ことを大切にしている。

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