梅桜桃李 成長はそれぞれの時代・時期でことなってもよい
桜梅桃李とコーチング心理学
——「成長はそれぞれ異なってよい」
#コーチング #自己成長 #桜梅桃李 #自分らしさ #比較しない生き方
| 🌸
桜 春・華やか 多くを魅了する存在感 |
🌺
梅 冬末・凜然 逆境に先駆ける強さ |
🍑
桃 春・温かみ 豊かな実りと優しさ |
🌿
李 春・静謐 目立たずとも確かな味 |
「同期はもう管理職になったのに、自分はまだ一歩も動けていない」
「あのコーチみたいにスラスラ話せたら……でも自分には無理だ」
こうした言葉を、コーチングセッションの中で何度耳にしてきたでしょうか。他者と自分を比べ、自分の歩みを「遅い」「間違っている」と判断してしまう——この思考パターンこそが、成長の足を最も大きく引っ張る罠のひとつです。
その罠を解くヒントが、禅の言葉「桜梅桃李(おうばいとうり)」にあります。本記事では、この東洋の智慧をコーチング心理学の視点から読み解き、「あなただけの成長プロセス」を科学的に考えていきます。
1|「桜梅桃李」とは何か——禅が教える個性の絶対性
「桜梅桃李」は、曹洞宗を開いた道元禅師の思想を源流とし、後の禅文化の中で広まった言葉です。桜は桜として、梅は梅として、桃は桃として、李(すもも)は李として——それぞれが自分の本質を全うすることに最上の価値があるという教えです。
桜は桜のまま咲けばよい。
梅が桜になろうとすることは、
梅としての美しさを失うことに他ならない。
この言葉が現代に刺さるのは、SNSやデジタルメディアによって「比較の対象」が爆発的に増えた時代を私たちが生きているからではないでしょうか。かつては職場や地域という限られた世界の中での比較でしたが、今は世界中の「成功者」「先を行く人」が可視化され、常時比較にさらされます。
桜梅桃李の教えは、そのような比較の外側に立ち、「自分という花を咲かせること」に専念する指針を与えてくれます。
2|コーチング心理学が裏付ける「成長の多様性」
桜梅桃李の概念は、単なる精神論ではありません。現代のコーチング心理学・ポジティブ心理学の研究によっても、その妥当性が裏付けられています。
◆ ① 自己決定理論(SDT)——内発的動機の力
心理学者のエドワード・デシとリチャード・ライアンが提唱した「自己決定理論」は、人間が最も充実した成長を遂げるのは、外部からの評価や比較ではなく、内側から湧き出る「自律性・有能感・関係性」の三つの欲求が満たされるときだと主張しています。
他者と比べ、他者の基準に合わせようとする行動は、まさにこの「自律性」を損なう典型です。桜が梅の咲き方を模倣しようとすれば、自律性は失われ、成長のエネルギーそのものが枯れていきます。
◆ ② 強み主義(ストレングスベース)アプローチ
ポジティブ心理学の創設者マーティン・セリグマンらが提唱した「強み主義」は、弱みを補うのではなく、その人固有の強みを発見・活用することが最大の成長をもたらすという考え方です。ギャラップ社の研究では、強みを活かせている人は、そうでない人に比べて生産性・幸福度・エンゲージメントが統計的に有意に高いことが示されています。
「私はなぜあの人みたいにできないのか」という問いは、自分の「弱み」に焦点を当てた問いです。コーチングが問い直すのはここです——「あなたにしかない強みは何か?」
◆ ③ 自己効力感(Self-Efficacy)——バンデューラの洞察
アルバート・バンデューラが提唱した「自己効力感」とは、「自分にはできる」という信念の強さです。この感覚は、他者との比較によって容易に傷つきます。「あの人はできているのに自分はできない」という状態が続くと、自己効力感は低下し、挑戦そのものを回避するようになります。
桜梅桃李の視点は、この自己効力感を守るためのフレームワークとして機能します。比較の軸を「他者」から「昨日の自分」に移すことで、小さな進歩を積み重ね、自己効力感を着実に育てることができるのです。
| 🔑 コーチング心理学 × 桜梅桃李|3つの接点 |
| ● 自己決定理論:他者基準ではなく内発的動機が真の成長を生む
● 強み主義:弱みの補完より固有の強みの発揮が成長を加速させる ● 自己効力感:比較軸を「他者→昨日の自分」に移し自信を育てる |
3|「比較グセ」が成長を止めるメカニズム
なぜ私たちはこれほど他者と比べてしまうのでしょうか。それは脳の仕組みと深く関係しています。
人間の脳には「社会的比較」を行う神経基盤が存在しており、これは進化的に見ると他者より劣位に置かれることで集団から排除されるリスクを避けるためのサバイバル機能でした。しかし現代社会では、SNSが常時「自分より優れた他者」を提示し続けるため、この比較機能が過剰に刺激されます。
心理学ではこれを「上方比較(Upward Social Comparison)」と呼び、過剰な上方比較は自尊心の低下、抑うつ感情の増加、そして回避行動の強化につながることが多くの研究で示されています。
つまり「あの人みたいになりたい」という思いが健全な目標設定につながるケースもある一方で、「自分はどうせあの人にはなれない」という方向に転じた瞬間、それは成長を阻む心理的ブレーキになるのです。
4|桜梅桃李を実践するコーチング的アプローチ
では具体的に、どうすれば「自分の花を咲かせる」感覚を育てられるのでしょうか。コーチングの現場で有効とされる4つのアプローチを紹介します。
◆ STEP 1:「自分だけの強み」を言語化する
まず取り組みたいのは、自分の強みを明確に言葉にする作業です。ギャラップ社の「StrengthsFinder(クリフトンストレングス)」やVIA性格強み診断など、科学的根拠に基づいたアセスメントツールが役立ちます。「他者と比べて劣っている点」ではなく、「自分がエネルギーを感じる瞬間はどんなときか」を起点に棚卸しすることがポイントです。
◆ STEP 2:「昨日の自分」と比べるクセをつける
コーチングセッションでよく使うフレームのひとつが「昨日の自分と今日の自分の差」に注目する問いかけです。「先月の自分と比べて、何が変化したか?」「半年前にはできなかったことで、今できるようになったことは?」こうした問いは、他者との比較ではなく「自分という軸での成長」を可視化します。
◆ STEP 3:「自分の季節」を信頼する
桜は春に咲き、梅は冬の終わりに咲きます。それぞれの「咲く季節」が違うように、人の成長にも固有のタイミングがあります。今「まだ咲いていない」と感じていても、それは遅れではなく、あなたの根がゆっくり深く伸びている過程かもしれません。コーチングでは、この「プロセスへの信頼」を育てることを大切にします。
◆ STEP 4:問いで自己認識を深める
コーチングの核心は「正しい答えを教えること」ではなく、「本質的な問いを立てること」にあります。以下の問いを、日記やジャーナリングで試してみてください。
| 📝 自己探求のための4つの問い(ジャーナリング用) |
| 1. 私が「時間を忘れて」取り組めることは何か?
2. 他者に感謝されることで、自分が「たいしたことない」と思っていることは何か? 3. 10年前の自分が見たら、驚くほど成長していると感じることは何か? 4. もし「比較」が存在しない世界で生きるとしたら、私は何に向かって歩くか? |
5|よくある疑問(FAQ)
以下は、このテーマに関してよく寄せられる疑問とその回答です。
◆ Q1:「桜梅桃李」は仕事・職場でも使える概念ですか?
はい、使えます。特にチームマネジメントやリーダーシップ開発の文脈で非常に有効です。メンバーそれぞれの「固有の強み=その人の花」を引き出し、活かす環境を整えることが、心理的安全性の高いチームの構築につながります。全員を同じ基準で評価・育成しようとするマネジメントは、個性という最大の資源を損なう可能性があります。
◆ Q2:コーチングと桜梅桃李の考え方は、どこが一致しますか?
私たちの人生のストーリーは、社会の価値観や働き方、テクノロジー、家族観など、時代の変化とともに書き換えられていきます。かつては正解とされた選択が、別の時代には必ずしも機能しないこともあるでしょう。だからこそ大切なのは、「誰かの型」や「一般論」に合わせて咲こうとするのではなく、その時代の文脈の中で、自分にとっての意味や納得感を手がかりに、自分らしい花を咲かせていくことです。
この視点に立てば、成長もまた一つの尺度で測れるものではなくなります。成長とは、外的な基準に近づくことだけではなく、変化する環境の中で自分の強みを活かし直し、価値観を更新しながら、より「自分の人生を生きる」方向へと調整していくプロセスだと捉えられます。桜梅桃李の思想は、そのプロセスを肯定し、個別性にもとづく成長を支える土台になります。
◆ Q3:「他者と比べない」と言われても、どうすれば習慣化できますか?
脳は習慣的に比較を行うため、「比べない」という意思だけでは難しいのが現実です。有効なのは、比較の「矛先」を変えることです。「昨日の自分との比較」「過去の自分の記録との比較」など、自分の成長の軌跡を見える化する仕組みを作ると、他者比較への依存が自然と減っていきます。新しい3つのチャレンジや成長ノートの習慣がこれに当たります。
◆ Q4:桜梅桃李の教えは「向上心を持たなくていい」という意味ですか?
いいえ、そうではありません。桜は桜として「最高に咲く」ことを目指します。梅は梅として「最も深く香る」ことを追求します。桜梅桃李は諦めの哲学ではなく、「自分の本質に根ざした向上」を促す哲学です。他者の基準ではなく、自分の内側から湧き出る「もっとよくなりたい」という欲求を大切にすることが、本来の成長のあり方だと伝えています。
まとめ——あなたにしか咲かせられない花がある
桜梅桃李。この言葉は、700年以上前から私たちに同じことを語り続けています。
あなたが桜でないことを嘆く必要はない。あなたが梅でないことを恥じる必要はない。あなたはあなたという種を持って生まれ、あなたにしか咲かせられない花を、あなただけの季節に咲かせる——それで十分であり、それこそが最も尊いことだ、と。
コーチング心理学は、この東洋の智慧に科学的な根拠を与えます。自己決定理論が示すように、内発的動機こそが真の成長を生む。強み主義が示すように、固有の資質を活かすとき人は最も輝く。自己効力感理論が示すように、「昨日の自分」との比較が自信という土壌を育てる。
比較をやめることは、諦めることではありません。それは、自分という花に水をやり、根を張り、本来の力で大きく咲くための、最初の一歩なのです。
桜は桜として咲けばいい。
あなたはあなたとして、あなたの季節に、
あなたの色で咲けばいい。
投稿者プロフィール

- 徳吉陽河(とくよしようが)は、コーチング心理学研究会・コーチング心理学協会の創設者の一人であり、日本・世界のおけるコーチング心理学のパイオニア。コーチング心理士、公認心理師・キャリアコンサルタント、認定心理士(心理調査)、ポジティブ心理療法士、として教育・医療・福祉・産業分野で活動する専門家。東北大学大学院博士後期課程で研究し、国際コーチング心理学会、国際ポジティブ心理学会など、世界で学び、研究を発表。教育プログラム、心理尺度開発なども専門としている。著書に『ポジティブ大全』『科学的に正しい脳を活かす「問いのコツ」 結果を出す人はどんな質問をしているのか?』『ナラティヴ・セラピー BOOK』、『コーチング心理学ガイドブック』『コーチング心理学ハンドブック』などの翻訳書などがあり、科学的なエビデンスと物語(ナラティブ)に基づくコーチングとウェルビーイング教育を推進している。累計4000名のコーチ、カウンセリング実績」(ワークショップを含む)、「累計6000回以上のセミナー実績」以上の実績がある。国土交通省 航空保安大学講師、元東北文化学園大学講師、元仙台医療センター看護学校講師、元若者サポートセンター講師など。教育機関、海外・国外の法人企業などで講師を担当実績がある。学校法人・企業法人・医療法人(リハビリ)など、主に管理職に関わる講師を数多く担当。座右の銘は、「我以外皆我師」、失敗・挫折もたくさんしており、「万事塞翁が馬」大切にしている。「自己肯定感が低いからこそ成長できる」ことを大切にしている。
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