プロセス・ベースド・セラピーとコーチング
プロセス・ベースド・セラピーとコーチング
~「今ここ」のプロセスを活かして、あなたの人生を深く変える心理アプローチ~
はじめに:「なぜ変われないのか」に答えるアプローチ
「頭ではわかっている。でも変われない。」
そんなもどかしさを感じたことはありませんか?ダイエット、人間関係の改善、職場でのパフォーマンスアップ……自分を変えたい気持ちはあるのに、なかなか変化が起きない。それは意志力の問題でも、怠け心でもありません。
プロセス・ベースド・セラピー(Process-Based Therapy)とプロセス・ベースド・コーチング(Process-Based Coaching)は、この「変われない」謎に科学的・心理学的に答える最新のアプローチです。本記事では、これらの概念をわかりやすく解説し、あなたの日常生活やセルフケアに活かす方法をお伝えします。
プロセス・ベースド・セラピーとは?
「流派を超えた」心理療法の新潮流
プロセス・ベースド・セラピー(PBT)は、2020年にスティーブン・ヘイズ(ACT創始者)とステファン・ホフマン(認知行動療法研究者)によって提唱された、次世代型の心理療法フレームワークです。
従来の心理療法は、「CBT(認知行動療法)」「ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)」「DBT(弁証法的行動療法)」など、それぞれ独立した流派として発展してきました。PBTはこれらの枠組みを超え、「どの技法が効くか?」ではなく、
「この人の今この瞬間、何のプロセスに介入すればもっとも変化が起きるか?」
という問いに焦点を当てます。言い換えれば、「人間の心理変化を生み出す核心的プロセス(コア・プロセス)」を特定し、それに直接働きかけることで、より効率的で個別化された支援を実現しようとするアプローチです。
6つのコア・プロセス
PBTが注目する核心的な変化プロセスは、主に以下の6領域に分類されます。
- 認知プロセス:思考の柔軟性、脱フュージョン(思考と距離を置く能力)
- 感情調整プロセス:感情を体験し、うまく調整する能力
- 注意プロセス:今ここへの注意、マインドフルネス
- 行動プロセス:価値に基づいた行動、習慣化
- 生物学的・身体的プロセス:睡眠、運動、呼吸など身体レベルでの変化
1 注意(Attention)
注意の向け方・気づきの質を調整するプロセス
例
-
マインドフルネス
-
注意の柔軟性
-
今この瞬間への気づき
役割
→ 自動反応から距離を取る
2 認知(Cognition)
思考の柔軟性を高めるプロセス
例
-
認知再評価
-
認知の脱フュージョン
-
メタ認知
役割
→ 思考へのとらわれを減らす
3 感情(Affect)
感情の理解・調整に関わるプロセス
例
-
感情調整
-
感情受容
-
コンパッション
役割
→ 感情に圧倒されない
4 自己(Self)
自己認識や自己概念に関わるプロセス
例
-
自己観察
-
観察する自己
-
自己コンパッション
役割
→ 固定された自己像からの解放
5 動機(Motivation)
価値や意味に関わるプロセス
例
-
価値の明確化
-
意味の発見
-
内発的動機
役割
→ 行動の方向性を作る
6 行動(Behavior)
実際の行動変化に関わるプロセス
例
-
行動活性化
-
習慣形成
-
スキル学習
役割
→ 現実の生活を変える
重要なのは、「問題の診断名」よりも「その人に今起きているプロセスのどこに詰まりがあるか」を見ていく点です。これにより、不安障害もうつ病も、同じプロセスの機能不全として捉え、個人に合わせた介入が可能になります。
プロセス・ベースド・コーチングとは?
セラピーとコーチングの架け橋
プロセス・ベースド・コーチングは、PBTの考え方をコーチングの文脈に応用したアプローチです。コーチングはもともと「問題の治療」ではなく「目標達成・潜在能力の開花」を目的としていますが、プロセス・ベースドな視点を加えることで、より深い変化をサポートできるようになります。
従来のコーチングとの違い
従来のコーチングでは「目標設定→行動計画→実行」という線的なプロセスを重視します。しかしプロセス・ベースド・コーチングでは、
- なぜ目標に向かえないのか(内部プロセスの阻害要因)
- 何が本当の価値・意味か(価値の明確化プロセス)
- 思考・感情・身体反応がどう絡み合っているか(相互作用プロセス)
を丁寧に探索します。この「プロセスを見る目」こそが、行動変容を長続きさせ、表面的な変化ではなく根本的な変容をもたらす鍵です。
具体例で理解する:職場でのストレスを抱えるAさんの場合
Aさん(38歳・会社員)は「上司に意見が言えない」という悩みを持っています。従来のコーチングなら「どうすれば言えるようになるか」を考えますが、プロセス・ベースド・コーチングでは「意見を言おうとしたとき、体にどんな感覚がある?」「その瞬間どんな思考が浮かぶ?」「その思考をどのくらい『本当のこと』として信じている?」といった問いを通じ、回避行動の根底にあるプロセスを明らかにしていきます。すると、「失敗したら価値のない人間になる」という認知的フュージョン(思考への過剰な同一化)が行動を妨げていることが見えてきます。
PBTとコーチングを支える科学的根拠
エビデンスベースドなアプローチ
プロセス・ベースド・セラピーは「エビデンスベースド・プラクティス(EBP)」の流れを継承しています。ランダム化比較試験(RCT)などによるエビデンスを土台にしつつ、
- なぜ効くのか(機序・メカニズム)の理解
- 誰に・どんな状況で・どの介入が効くか(個別最適化)
- 変化プロセスそのものの測定と可視化
という3点を重視します。「この技法は効果があります」という結果だけでなく、「なぜ・どのプロセスを通して効果があるのか」を問うことで、より精密な支援が可能になります。
ACT・CBT・マインドフルネスとの関係
PBTはゼロから生まれた理論ではなく、以下の主要なエビデンスベースド・アプローチの知見を統合しています。
- ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー):価値への注目、心理的柔軟性
- CBT(認知行動療法):認知の歪みの修正、行動活性化
- マインドフルネス:「今ここ」への注意、観察者としての自己
- ポジティブ心理学:強みの活用、ウェルビーイング
- 行動分析学:行動の機能分析、強化のメカニズム
これらの「いいとこ取り」をするのではなく、それぞれの技法が働きかける「プロセス」のレベルで統合するところがPBTの独自性です。
日常生活でプロセス・ベースドな視点を活かす
セルフコーチングへの応用
PBTの考え方は、専門家のサポートがなくても日常的に活用できます。以下に、実践的なセルフワークをご紹介します。
① プロセスに気づく「観察日記」
何か困ったことや避けたい状況に直面したとき、以下の3つを書き留める習慣をつけましょう。
- 【思考】:そのとき頭に浮かんだ言葉や考えは何ですか?
- 【感情・身体感覚】:胸が締め付けられる、喉が詰まるなど、体のどこに何を感じますか?
- 【行動】:実際にどう行動しましたか?(または避けましたか?)
このシンプルな記録が、自分の「詰まりのプロセス」を明らかにする第一歩です。
② 思考との距離を取る「脱フュージョン」
「私はダメだ」という思考が浮かんだとき、それをそのまま「事実」として信じ込むのが認知的フュージョンです。脱フュージョンとは、思考と自分との間に少し距離を置くことで、
「私はダメだ」→「私は今、『自分はダメだ』という思考が浮かんでいることに気づいている」
このように言い換えるだけで、思考に飲み込まれる力が弱まります。ACTから来るこの技法は、PBTの認知プロセスへの介入の代表例です。
③ 価値の明確化
「何をしたいか」だけでなく「なぜそれが自分にとって大切か」を問うのが価値の明確化です。コーチングセッションでも、この問いは変化の原動力になります。
- 人間関係において、どんな人でありたいですか?
- 仕事を通じて、何を世界に届けたいですか?
- 健康・体に関して、どんな状態を大切にしたいですか?
これらの問いへの答えは、行動変容を外からの「義務」ではなく内からの「意味」として位置づける力を持っています。
プロセス・ベースド・コーチングを受けるメリット
こんな方に特におすすめ
以下のような状況の方に、プロセス・ベースドなコーチングアプローチは特に効果的です。
- 「何度チャレンジしても同じパターンで行き詰まる」という方
- 「目標は明確なのに行動できない」「わかっているのにできない」方
- 「感情に流されて後悔することが多い」方
- 「人間関係のパターンを変えたい」方
- 「ストレスや不安で本来のパフォーマンスが発揮できていない」方
- 「仕事や生活に意義・意味を感じられない」方
期待できる変化
プロセス・ベースドなアプローチを通じて、以下のような変化が期待できます。
- 心理的柔軟性の向上:困難な状況でも価値に沿った行動を選べる力
- 自己理解の深化:自分の思考・感情・行動のパターンへの洞察
- 感情調整力の向上:感情に振り回されず、うまく付き合える能力
- レジリエンスの強化:逆境からの回復力
- 意味・目的の明確化:何のために生きるかという軸の確立
プロが語る:プロセス・ベースドなセラピーとコーチングの実践
セッションでの実際の流れ
プロセス・ベースドなアプローチを取り入れたセッションでは、以下のような流れで進むことが多いです。
【第1段階:プロセスのアセスメント】
単に「何が問題か」ではなく、「どのプロセスが詰まっているか」を明らかにします。思考・感情・行動・身体・対人関係の各領域を統合的にアセスメントします。
【第2段階:介入ポイントの特定】
アセスメントをもとに、どのプロセスへの介入が最も変化をもたらすかを特定。「この人には認知的脱フュージョンが有効か」「感情調整スキルを先に強化すべきか」といった個別の判断を行います。
【第3段階:プロセスへの介入と実践】
特定したプロセスに働きかけるワークを行います。マインドフルネス、価値の明確化、行動実験、感情の体験など、多彩な技法が活用されます。
【第4段階:変化の定着と自律化】
セッション内での変化を日常生活に持ち帰り、自分でプロセスを観察・調整できる自律的な力を育てます。
よくある質問(FAQ)
Q. プロセス・ベースド・セラピーとコーチングの違いは何ですか?
**プロセス・ベースド・セラピー(Process-Based Therapy:PBT)**と
**プロセス・ベースド・コーチング(Process-Based Coaching:PBC)**は、
同じ「心理プロセス」に焦点を当てる枠組みですが、目的・対象・実践領域が異なります。
整理すると次の違いになります。
プロセス・ベースド・セラピー
→ 心理的苦痛を改善するために
心理プロセスを変化させる心理療法
プロセス・ベースド・コーチング
→ 成長や目標達成のために
心理プロセスを活性化するコーチング
| 観点 | プロセス・ベースド・セラピー | プロセス・ベースド・コーチング |
| 主目的 | 心理的苦痛・症状の改善 | 成長・目標達成 |
| ゴール | 心理的柔軟性・回復 | パフォーマンス・可能性の発揮 |
| 問題の扱い | 不安・抑うつなどの心理問題 | キャリア・能力開発・目標 |
まとめ:「プロセス」を見る目が人生を変える
プロセス・ベースド・セラピーとコーチングは、「なぜ人は変われないのか」という問いに対する、21世紀の心理科学からの答えです。
大切なのは、問題の「ラベル」ではなく、その人の内側で今まさに起きている「プロセス」。思考、感情、注意、行動、身体——それらが複雑に絡み合いながら、私たちの行動と経験を作り出しています。
このアプローチが伝えているのは、「あなたは壊れていない」ということです。ただ、いくつかのプロセスが詰まっているだけ。そしてそのプロセスは、適切な働きかけによって必ず動き始めます。
「今ここ」に起きているプロセスに気づき、それを丁寧に扱うこと。それが本物の変化への扉を開く鍵です。
もしこの記事を読んで「自分のプロセスを探ってみたい」と感じた方は、ぜひプロセス・ベースドなアプローチを専門とするセラピストやコーチへの相談を検討してみてください。あなたの「変化のプロセス」はすでに、このページを読んでいる今、始まっています。
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投稿者プロフィール

- 徳吉陽河(とくよしようが)は、コーチング心理学研究会・コーチング心理学協会の創設者の一人であり、日本・世界のおけるコーチング心理学のパイオニア。コーチング心理士、公認心理師・キャリアコンサルタント、認定心理士(心理調査)、ポジティブ心理療法士、として教育・医療・福祉・産業分野で活動する専門家。東北大学大学院博士後期課程で研究し、国際コーチング心理学会、国際ポジティブ心理学会など、世界で学び、研究を発表。教育プログラム、心理尺度開発なども専門としている。著書に『ポジティブ大全』『科学的に正しい脳を活かす「問いのコツ」 結果を出す人はどんな質問をしているのか?』『ナラティヴ・セラピー BOOK』、『コーチング心理学ガイドブック』『コーチング心理学ハンドブック』などの翻訳書などがあり、科学的なエビデンスと物語(ナラティブ)に基づくコーチングとウェルビーイング教育を推進している。累計4000名のコーチ、カウンセリング実績」(ワークショップを含む)、「累計6000回以上のセミナー実績」以上の実績がある。国土交通省 航空保安大学講師、元東北文化学園大学講師、元仙台医療センター看護学校講師、元若者サポートセンター講師など。教育機関、海外・国外の法人企業などで講師を担当実績がある。学校法人・企業法人・医療法人(リハビリ)など、主に管理職に関わる講師を数多く担当。座右の銘は、「我以外皆我師」、失敗・挫折もたくさんしており、「万事塞翁が馬」大切にしている。「自己肯定感が低いからこそ成長できる」ことを大切にしている。
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