心理的資本(HERO)とは? コーチング心理学 用語集
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HEROモデル(心理的資本)の実践的ガイドと効果的な応用法
エビデンスに基づく心理的資本の理解と開発のための包括的ガイド
ポジティブ心理学コーチングへの活用
1. はじめに:心理的資本(PsyCap)とは
心理的資本(Psychological Capital、略称PsyCap)は、個人の「ポジティブな心理的発達状態」を表す概念であり、
次の4つの特性から構成されています:
- 希望(Hope):目標に向かって粘り強く進み、必要に応じて目標達成のための新たな道筋を見出す力
- 効力感(Efficacy):困難な課題に取り組み、成功に必要な努力を投じる自信
- レジリエンス(Resilience):困難や逆境に直面したとき、それを乗り越えて回復し、さらに成長する力
- 楽観主義(Optimism):現在と将来の成功に対してポジティブな原因帰属をする能力
これら4つの要素の頭文字をとって「HEROモデル」とも呼ばれています。
心理的資本は、ポジティブ心理学とポジティブ組織行動(POB)の研究から生まれました。特に注目すべき点は、心理的資本が「特性的(trait-like)」ではなく「状態的(state-like)」な資質であるという点です。つまり、適切な介入や訓練によって開発・向上させることが可能なのです。
「心理的資本は、個人のポジティブな心理的発達状態であり、(1)困難な課題に取り組み、成功に必要な努力を投じる自信(効力感)を持ち、(2)現在と将来の成功に対してポジティブな原因帰属(楽観主義)をし、(3)目標に向かって粘り強く進み、必要に応じて目標への道筋を変更し(希望)、(4)問題や逆境に直面したとき、それを乗り越えて回復し成功を収める(レジリエンス)ことを特徴とする。」
– Luthans, Youssef, & Avolio (2007)
2. 心理的資本の理論的基礎
心理的資本の理論は、複数の学問的源流を持っています。特に重要なのは以下の理論的基盤です:
Martin SeligmanとMihaly Csikszentmihalyiが提唱したポジティブ心理学は、人間の弱点や病理ではなく、強みや美徳に焦点を当てます。心理的資本は、このポジティブ心理学の職場への応用という側面を持っています。
Fred Luthansによって提唱されたPOBは、測定可能、開発可能、パフォーマンスに影響を与える人的資源の強みと心理的能力の研究と応用を指します。心理的資本はPOBの中核概念として位置づけられています。
Albert Banduraの社会的認知理論は、特に自己効力感の概念において心理的資本の理論的基盤となっています。この理論では、人間の機能は行動、認知、および環境の相互作用によって形成されると考えられています。
Stevan Hobfollの心理的資源理論では、人間は資源を獲得、維持、保護、育成しようとする基本的な動機を持っていると説明しています。これは心理的資本の「資源キャラバン」の概念に関連しています。
心理的資本は単なる人的資本(知識、スキル、能力)や社会的資本(人間関係、ネットワーク)を超えた概念です。それは「あなたは何を知っているか」(人的資本)や「あなたは誰を知っているか」(社会的資本)ではなく、「あなたは誰か」という存在そのものに関わる資本です。
心理的資本の特徴
- 状態的(開発可能):短期間のトレーニング介入によって向上させることが可能
- 測定可能:PCQ(Psychological Capital Questionnaire)などの科学的に検証された測定方法が存在
- パフォーマンスに影響:仕事の成果、ウェルビーイング、態度などに有意な影響を与える
- シナジー効果:4つの要素は相互に作用し、全体として各部分の総和以上の影響力を持つ
3. 心理的資本の4つの構成要素
3.1 希望(Hope)
理論的背景
希望は、C.R. Snyderの研究に基づいています。Snyderによれば、希望は単なる願望ではなく、「目標志向のエネルギー(意志力)」と「目標達成のための計画(道筋)」という2つの要素から構成される認知的プロセスです。
「希望とは、成功した(1)エージェンシー(目標志向のエネルギー)と(2)パスウェイ(目標を達成するための計画)の相互作用から生まれる、ポジティブな動機づけ状態である。」
– Snyder, Irving, & Anderson (1991, p. 287)
高い希望を持つ人は、複数の目標への道筋を考え出し、障害に直面した際に代替ルートを生み出す能力に優れています。
希望の発達方法
- 明確な目標設定:具体的で測定可能な目標を設定する
- ステッピング法:大きな目標を小さな達成可能なステップに分解する
- 複数の道筋の開発:目標達成のための複数の方法を検討する
- コンティンジェンシープランニング:障害が生じた場合の代替計画を事前に準備する
- メンタルリハーサル:目標達成の過程を心の中で繰り返し練習する
- ポジティブな自己対話:「私にはできる」といった自己肯定的な言葉を使う
希望を高めるためのエクササイズ例
目標ステッピング・エクササイズ
- 達成したい重要な職業的または個人的目標を選ぶ
- その目標を達成するための中間目標(サブゴール)を3~5個設定する
- 各サブゴールに対して、具体的な行動計画と期限を設定する
- 想定される障害を列挙し、それぞれに対する対処法を準備する
- 目標達成のための複数のルートや方法を考える
- 定期的に進捗を確認し、必要に応じて戦略や道筋を調整する
3.2 効力感(Efficacy)
理論的背景
効力感(自己効力感)は、Albert Banduraの社会的認知理論に根ざしています。これは特定の課題を成功裏に遂行するための自分の能力に対する信念や確信を指します。
「効力感とは、特定の文脈内で特定の課題を成功裏に遂行するために必要な動機づけ、認知的資源、行動過程を動員する自分の能力に対する個人の確信である。」
– Stajkovic & Luthans (1998, p. 66)
高い効力感を持つ人は、困難な課題に挑戦し、粘り強く取り組み、障害に遭遇しても諦めません。
効力感の発達方法
Banduraによれば、自己効力感は以下の4つの主要な方法で開発できます:
- 成功体験(習熟経験):実際に課題を成功させる経験を積む
- 代理経験(モデリング):他者の成功を観察し、学ぶ
- 社会的説得:ポジティブなフィードバックや励ましを受ける
- 生理的・感情的状態:ストレスや不安を管理し、ポジティブな心理状態を維持する
効力感を高めるためのエクササイズ例
成功経験のリフレクション・エクササイズ
- 過去に成功した経験や克服した困難を思い出し、書き出す
- その成功にどのようなスキルや強みが貢献したかを分析する
- 現在の課題にそれらのスキルや強みをどう活かせるかを考える
- 成功した人のアプローチを観察し、自分の状況に適用できる点を見つける
- 小さな課題から始め、成功体験を積み重ねる計画を立てる
- 信頼できる人からフィードバックを求め、励ましを得る
3.3 レジリエンス(Resilience)
理論的背景
レジリエンスは、逆境、葛藤、失敗、あるいはポジティブな変化や責任の増加からの回復力や立ち直る能力を指します。発達心理学、臨床心理学での研究が基礎となっています。
「レジリエンスとは、逆境、葛藤、失敗、あるいはポジティブな出来事、進歩、増大する責任から立ち直り、跳ね返る能力である。」
– Luthans (2002b, p. 702)
レジリエンスの高い人は、挫折や困難を成長の機会として捉え、それらから学び、より強くなって戻ってくる能力を持っています。
レジリエンスの発達方法
レジリエンスは次の3つの戦略で開発できます:
- アセット中心戦略:個人の強みや資源を特定し、強化する
- リスク中心戦略:潜在的なリスクや脅威を特定し、それらへの対処法を開発する
- プロセス中心戦略:適応と対処のプロセスを強化する
具体的な手法には以下が含まれます:
- ソーシャルサポートの活用と構築
- 意味づけと再解釈のスキル開発
- ポジティブな感情の涵養
- マインドフルネスとストレス管理技術の実践
レジリエンスを高めるためのエクササイズ例
逆境からの学びエクササイズ
- 過去に経験した困難や逆境の状況を思い出す
- その状況で役立った資源(内的・外的)を特定する
- その経験から学んだことや得た強みを書き出す
- 現在や将来の課題にその学びをどう活かせるかを考える
- 未来の潜在的な困難に対する「対応計画」を作成する
- ソーシャルサポートのネットワークを確認し、必要に応じて強化する
3.4 楽観主義(Optimism)
理論的背景
心理的資本における楽観主義は、Martin Seligmanの説明スタイル理論とCarver & Scheierの素因的楽観主義の両方に基づいています。
「楽観主義とは、ポジティブな出来事を内的、永続的、広範な原因に帰属し、ネガティブな出来事を外的、一時的、特定状況の要因によるものと解釈する前向きな説明スタイルである。」
– Seligman (1998)
心理的資本における楽観主義は「現実的楽観主義」であり、単なる楽観的思考ではなく、現実的な評価に基づくポジティブな期待を持つことを重視します。
楽観主義の発達方法
- 説明スタイルの認識と変更:ネガティブな出来事への解釈パターンを特定し、より楽観的な説明スタイルに変更する
- 過去への寛容:過去の失敗や間違いを受け入れ、許す
- 現在への感謝:今あるものに感謝し、ポジティブな側面に注目する
- 未来への機会探索:将来の可能性や機会を積極的に探す
- 認知的再構成:状況や出来事に対する考え方や解釈の仕方を変える
- 肯定的自己対話:自分自身に対してポジティブな言葉をかける
楽観主義を高めるためのエクササイズ例
説明スタイル変更エクササイズ
- 最近経験したネガティブな出来事や失敗を思い出す
- その出来事に対する自分の説明や解釈(原因帰属)を書き出す
- その説明が「内的/外的」「永続的/一時的」「全般的/特定的」のどれに当てはまるか分析する
- より楽観的な説明スタイル(外的、一時的、特定的)に書き換える
- その出来事から学べることや、ポジティブに活かせる側面を探す
- 毎日3つの感謝できることを書き出す習慣をつける
4. 心理的資本の測定方法
心理的資本を科学的に研究し、効果的に応用するためには、信頼性と妥当性のある測定方法が不可欠です。以下に主要な測定方法を紹介します。
4.1 PCQ-24(Psychological Capital Questionnaire-24)
PCQ-24は、心理的資本研究で最も広く使用されている自己報告式の測定ツールです。各構成要素(希望、効力感、レジリエンス、楽観主義)につき6項目、合計24項目から成ります。6段階のリッカート尺度(1=全く当てはまらない、6=非常に当てはまる)で回答します。
PCQ-24のサンプル項目
希望の項目例
- 「現在、私は仕事上の目標を精力的に追求している」
- 「現在の仕事上の問題に対して、多くの解決策を見つけることができる」
効力感の項目例
- 「長期的な問題を分析して解決策を見つけることに自信がある」
- 「組織の戦略について議論するとき、自信を持って貢献できる」
レジリエンスの項目例
- 「仕事で挫折に遭ったとき、それを乗り越えて回復するのが難しい(逆転項目)」
- 「普段、仕事上のストレスに何とか対処できる」
楽観主義の項目例
- 「仕事に関して、物事が不確かなときでも、最善を期待する」
- 「仕事に関しては、『困ったことがあれば、それだけ良いこともある』と考える」
4.2 PCQ-12(短縮版)
PCQ-12は、PCQ-24の短縮版で、各構成要素から選ばれた項目で構成されています(希望4項目、効力感3項目、レジリエンス3項目、楽観主義2項目)。時間的制約のある状況や、より簡潔な測定が必要な場合に適しています。
4.3 I-PCQ(暗黙的心理的資本質問票)
I-PCQは、社会的望ましさのバイアスや自己報告の限界を克服するために開発された投影法的測定ツールです。参加者は特定の状況を描写した短いシナリオを読み、登場人物の思考や感情、行動を予測します。これにより、参加者自身の潜在的な心理的資本を評価します。
4.4 測定上の注意点
- 心理的資本は状態的(state-like)であるため、測定時期や状況によって変動する可能性がある
- 文化的背景や職業的文脈によって解釈が異なる場合がある
- 自己報告形式による社会的望ましさバイアスの影響を考慮する必要がある
- 測定結果の解釈には、個人の状況や環境要因を考慮することが重要
5. 心理的資本の効果に関するエビデンス
心理的資本の効果については、多くの実証研究がなされています。ここでは、主要な研究成果をまとめます。
5.1 メタ分析によるエビデンス
Avey et al.(2011)は、51の独立したサンプル(合計12,000人以上の従業員)のメタ分析を行いました。その結果、心理的資本は以下の要素と有意な関連があることが示されました:
- パフォーマンス(自己評価、上司評価、客観的指標)
- 仕事満足度
- 組織コミットメント
- 心理的ウェルビーイング
- 組織市民行動
- シニシズム(冷笑的態度)
- 離職意向
- 仕事ストレス
- 不安
- 逸脱行動
5.2 実験研究によるエビデンス
心理的資本の開発可能性と効果については、実験研究によっても支持されています:
- Luthans et al.(2006)は、2〜3時間の短時間介入によって心理的資本が有意に向上し、パフォーマンスが改善することを示しました。投資利益率(ROI)分析では、心理的資本開発への投資に対して270%のリターンが算出されました。
- Luthans et al.(2008)は、ウェブベースのトレーニング介入が心理的資本を有意に向上させることを実証しました。
- Peterson et al.(2011)は、心理的資本とパフォーマンスの間の長期的な関連性を示し、心理的資本の向上がパフォーマンスの向上に先行することを明らかにしました。
5.3 教育分野でのエビデンス
教育分野での研究も心理的資本の効果を支持しています:
- Kalman & Summak(2017)は、教師を対象とした心理的資本開発トレーニング介入(PCDTI)が、教師の個人的・職業的な意識と発達にポジティブな効果をもたらすことを質的研究で示しました。
- Luthans, Luthans, & Avey(2014)は、ビジネス専攻の学生の心理的資本を高めることで、学業パフォーマンスと卒業率が向上することを実証しました。
- Siu, Bakker, & Jiang(2014)は、学生の心理的資本が学業エンゲージメント、学習パフォーマンス、そして全体的な幸福度と正の関連があることを示しました。
5.4 重要な限定要因
心理的資本の効果に影響を与える可能性のある限定要因も指摘されています:
- 文化的要因:米国内での研究と比較して、他の国々では効果の大きさが異なる場合がある
- 産業セクター:サービス業と工業セクターでは効果の大きさが異なる
- リーダーシップスタイル:リーダーの行動やスタイルが介入の効果に影響を与える可能性がある
- 組織文化:支援的な組織文化がある場合、効果が高まる傾向がある
6. 教育現場での応用
心理的資本は教育現場において、教師の職業的発達、学生の学業成績向上、そして学校組織の改善に活用できます。
6.1 教師の心理的資本開発
教師は日々、学生の問題行動、増加する業務負担、教育改革、高まる説明責任などの課題に直面しています。心理的資本の開発は、これらの課題に対処する教師の能力を高める可能性があります。
教師向け心理的資本開発プログラムの例(PCDTIモデル)
Kalman & Summak(2017)が実施した8週間のプログラム(週1回2時間、計16時間)では以下のような活動が含まれていました:
- 各要素(希望、効力感、レジリエンス、楽観主義)に2セッションずつ配分
- 研究者と参加者によるプレゼンテーション
- 教育現場に関連したケーススタディやシナリオ
- グループディスカッション
- 体験談の共有(現役教師をゲストスピーカーとして招待)
- ストレス対処法の実践的なエクササイズ(心理カウンセラーによる指導)
このプログラムは参加教師の個人的・職業的意識と発達に肯定的な効果をもたらし、生徒への態度や教職に対する姿勢の変化をもたらしました。
教師の心理的資本を高めることで、以下のような効果が期待できます:
- 職業的なバーンアウトの減少
- 仕事への満足度と意欲の向上
- 学生に対するより効果的な指導
- 教育改革や変化への適応力の向上
- 職場での協力関係の強化
6.2 学生の心理的資本開発
学生の心理的資本を育成することも、教育的成果の向上に貢献します。実施可能な方法には以下があります:
- カリキュラムへの統合:社会情動的学習(SEL)やライフスキル教育の一部として心理的資本の要素を組み込む
- 目標設定とパスウェイ形成の指導:生徒が明確な学習目標を設定し、それを達成するための複数の方法を考える訓練
- 成功体験の提供:達成可能な課題から始め、徐々に難易度を上げていくことで自己効力感を育成
- レジリエンス教育:失敗や挫折からの回復力を育てるための指導と支援
- 楽観的思考パターンの育成:ポジティブな説明スタイルを教え、実践する機会の提供
6.3 学校組織への応用
学校全体としての心理的資本を高めることで、以下のような組織的効果が期待できます:
- 集団的効力感の向上:教職員全体が「私たちならできる」という信念を持つことで学校改善に取り組む
- ポジティブな学校風土の醸成:楽観的で希望に満ちた組織文化の形成
- 変化への適応力の向上:教育改革や環境変化に対する組織的レジリエンスの強化
- 教師の離職率低下:職務満足度とウェルビーイングの向上による定着率の改善
- 生徒の学業成績向上:教師の効果的な指導と支援的な学校環境による学習成果の改善
7. 組織での応用
心理的資本は、様々な組織コンテキストで応用されており、個人のパフォーマンスから組織全体の競争力まで幅広い影響を与えることが示されています。
7.1 リーダーシップ開発
リーダーの心理的資本は、自身のパフォーマンスだけでなく、部下や組織全体にも影響を与えます。
- 真正(オーセンティック)リーダーシップ:心理的資本の高いリーダーは、より真正性のあるリーダーシップを発揮し、部下の信頼を獲得します
- 変革型リーダーシップ:心理的資本はビジョンの形成と伝達、変革の推進に必要な資質を強化します
- 集団的心理的資本の醸成:リーダーの心理的資本は、チームや部門全体の心理的資本に波及効果をもたらします
リーダー向け心理的資本開発の実践例
- リーダー自身の心理的資本プロフィールの評価(PCQ-24などを使用)
- 強みと開発が必要な領域の特定
- 個別の開発計画の策定
- コーチングや研修を通じた各要素の強化
- リーダーとしての行動への統合(部下の心理的資本を高める行動の実践)
- 定期的な評価とフィードバック
7.2 チームの心理的資本(cPsyCap)
個人レベルを超えて、チームとしての集合的な心理的資本(Collective Psychological Capital:cPsyCap)の開発も重要です。
- チーム目標の共有と明確化:共通の目的意識とそれを達成するための道筋を確立
- チームの成功体験の構築:達成可能な小さな成功を積み重ね、チームとしての効力感を高める
- チームのレジリエンス構築:困難な状況でのチームの対応力を強化
- ポジティブなチーム風土の醸成:楽観的な説明スタイルと前向きなコミュニケーションを促進
7.3 組織全体への応用
組織全体としての心理的資本(oPsyCap)の開発は、組織文化や競争力に影響を与えます。
- ポジティブな組織文化の構築:希望、効力感、レジリエンス、楽観主義を価値として組み込んだ文化の形成
- 人材開発システムへの統合:採用、研修、評価、報酬システムに心理的資本の概念を取り入れる
- 組織変革の促進:変化に対する適応力と革新性の向上に心理的資本を活用
- 危機管理への応用:組織的レジリエンスを高め、危機からの回復力を強化
7.4 産業保健への応用
心理的資本は従業員の健康とウェルビーイングにも影響を与えることが示されています。
- ストレス管理:心理的資本が高い個人はストレスに対する耐性が高く、より効果的に対処できる
- バーンアウト予防:心理的資本の開発によって職業的燃え尽き症候群のリスクを低減
- ワーク・ライフ・バランスの向上:複数の役割や責任の管理に必要な心理的資源の強化
- プレゼンティーイズム(出勤しているが生産性が低い状態)の低減:心理的資本の向上による職場での活力と集中力の改善
8. トレーニングプログラムの設計と実施
効果的な心理的資本開発のためのトレーニングプログラムを設計し実施するための具体的なガイドラインを提供します。
8.1 プログラム設計の基本原則
- 科学的根拠に基づく:各要素の開発に関する実証研究に基づいた内容を含める
- 実践的で応用可能:参加者の実際の職場や生活状況に適用できる内容にする
- 参加型で体験的:講義だけでなく、アクティブな参加と体験を重視する
- 個別化:参加者の特性や状況に合わせた個別のアプローチを取り入れる
- フォローアップと持続性:単発のワークショップではなく、継続的な実践とフォローアップを計画する
8.2 効果的なPsyCap開発介入(PCI)モデル
Luthansらによって開発されたPsyCap Intervention(PCI)モデルは、2〜3時間の集中的なセッションで心理的資本を有意に向上させることが実証されています。基本的な構成は以下の通りです:
PCIモデルの基本構成
- 希望の開発:
- 価値のある、現実的に挑戦的な目標の設定
- 複数の道筋(パスウェイ)の特定と開発
- 障害の予測と対策計画の策定
- 小目標への分解(ステッピング)
- 効力感の開発:
- 成功体験の設計と実施
- モデリングとビカリアス学習
- ポジティブなフィードバックと社会的説得
- 生理的・心理的状態の管理
- レジリエンスの開発:
- 資産(強み)の特定と活用
- リスク要因の特定と対策
- プロセス戦略の開発
- レジリエントな思考パターンの構築
- 楽観主義の開発:
- 説明スタイルの認識と改善
- 過去への寛容、現在への感謝、未来への機会探索
- ポジティブな自己対話の練習
- 現実的楽観主義の構築
8.3 実践的なプログラム構成
効果的な心理的資本開発プログラムの一例として、8週間(各セッション2時間)のプログラム構成を示します。
| セッション | テーマ | 主な活動 |
|---|---|---|
| 1 | イントロダクション |
|
| 2-3 | 希望の開発 |
|
| 4-5 | 効力感の開発 |
|
| 6-7 | レジリエンスの開発 |
|
| 8-9 | 楽観主義の開発 |
|
| 10 | 統合と持続 |
|
8.4 効果的な実施のためのヒント
- グループサイズ:10〜15人程度の小グループが理想的
- 多様な学習方法:講義、ディスカッション、ロールプレイ、ビデオ、ケーススタディなど様々な方法を組み合わせる
- 実践的な課題:セッション間に実践できる具体的な「宿題」を設定
- 個別化:参加者の職種や状況に合わせた事例や演習を用意
- フォローアップ:コーチングセッションやリマインダーの提供による持続的な実践の支援
- テクノロジーの活用:スマートフォンアプリやウェブベースのツールを補助的に活用
- 測定と評価:事前・事後評価による効果の確認と継続的なモニタリング
9. 日常での実践法
心理的資本の開発は、組織的なトレーニングプログラムだけでなく、日常生活の中での継続的な実践によっても促進されます。以下に、各要素を日常的に強化するための具体的な方法を紹介します。
9.1 希望を高める日常の実践
- 毎朝の目標設定:一日の始まりに、その日に達成したい具体的な目標を設定する
- 進捗の視覚化:目標達成に向けた進捗を記録し、視覚的に確認できるようにする
- プラン B の用意:重要な目標には常に複数のアプローチを考えておく
- 小さな勝利の祝福:小さな成功や進歩を認識し、祝う習慣をつける
- 行き詰まったときのブレインストーミング:障害に直面したら、新しい方法を考えるために時間をとる
9.2 効力感を高める日常の実践
- 漸進的挑戦:少しずつ難易度の高い課題に挑戦し、成功体験を積み重ねる
- 成功日記:日々の成功体験や達成したことを記録する習慣をつける
- ロールモデルの観察:尊敬する人の行動や対処法を意識的に観察し学ぶ
- 自己対話の改善:「できない」から「まだできていない」という表現に変える
- スキル向上への投資:定期的に新しいスキルや知識の習得に時間を投資する
9.3 レジリエンスを高める日常の実践
- レジリエンス日記:困難な状況をどう乗り越えたかを振り返り記録する
- ストレス管理の日課:瞑想、深呼吸、運動などのストレス管理技法を日常に組み込む
- 社会的支援の構築:信頼できる人間関係を意識的に構築し維持する
- 学びの視点:失敗や困難を「学びの機会」として捉える習慣をつける
- 健康習慣の維持:十分な睡眠、バランスの取れた食事、定期的な運動を心がける
9.4 楽観主義を高める日常の実践
- 感謝の実践:毎日3つの感謝できることを書き出す習慣をつける
- 肯定的事象の認識:日常の中のポジティブな出来事に意識的に注目する
- 認知的再解釈:ネガティブな出来事に対して、より建設的な解釈を試みる
- メディア摂取の調整:ネガティブなニュースやメディアへの過剰な接触を避ける
- 未来志向の思考:将来の機会や可能性に意識的に思いを巡らせる時間をもつ
毎日の心理的資本開発ルーティン(例)
朝
- 5分間の静かな瞑想または深呼吸
- その日の主要な目標を3つ設定
- 目標達成のための具体的な行動計画を立てる
- ポジティブな自己宣言(例:「今日も最善を尽くす」)
日中
- 困難に直面したら一時停止して複数の解決策を考える
- 小さな成功や進歩を認識し祝う
- 短い休憩を取りリフレッシュする
- ポジティブな社会的交流の機会を持つ
夕方/夜
- その日の3つの良かったことや感謝することを振り返る
- 学んだことや成長した点を記録する
- 明日の準備と計画を立てる
- リラックスのための時間を意識的に持つ
10. 参考文献
- Avey, J.B., Reichard, R.J., Luthans, F., & Mhatre, K.H. (2011). Meta-analysis of the impact of positive psychological capital on employee attitudes, behaviors, and performance. Human Resource Development Quarterly, 22(2), 127-152.
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- Kalman, M., & Summak, M.S. (2017). Revitalizing the HERO within teachers: An analysis of the effects of the PsyCap development training. The Qualitative Report, 22(3), 655-682.
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- Youssef, C.M., & Luthans, F. (2007). Positive organizational behavior in the workplace: The impact of hope, optimism, and resilience. Journal of Management, 33, 774-800.
投稿者プロフィール

- 徳吉陽河(とくよしようが)は、コーチング心理学研究会・コーチング心理学協会の創設者の一人であり、日本・世界のおけるコーチング心理学のパイオニア。コーチング心理士、公認心理師・キャリアコンサルタント、認定心理士(心理調査)、ポジティブ心理療法士、として教育・医療・福祉・産業分野で活動する専門家。東北大学大学院博士後期課程で研究し、国際コーチング心理学会、国際ポジティブ心理学会など、世界で学び、研究を発表。教育プログラム、心理尺度開発なども専門としている。著書に『ポジティブ大全』『科学的に正しい脳を活かす「問いのコツ」 結果を出す人はどんな質問をしているのか?』『ナラティヴ・セラピー BOOK』、『コーチング心理学ガイドブック』『コーチング心理学ハンドブック』などの翻訳書などがあり、科学的なエビデンスと物語(ナラティブ)に基づくコーチングとウェルビーイング教育を推進している。累計4000名のコーチ、カウンセリング実績」(ワークショップを含む)、「累計6000回以上のセミナー実績」以上の実績がある。国土交通省 航空保安大学講師、元東北文化学園大学講師、元仙台医療センター看護学校講師、元若者サポートセンター講師など。教育機関、海外・国外の法人企業などで講師を担当実績がある。学校法人・企業法人・医療法人(リハビリ)など、主に管理職に関わる講師を数多く担当。座右の銘は、「我以外皆我師」、失敗・挫折もたくさんしており、「万事塞翁が馬」大切にしている。「自己肯定感が低いからこそ成長できる」ことを大切にしている。






