VRIOフレームワークを活用したビジネス心理学のコーチング実践法

 

VRIOフレームワークを活用したコーチング実践法
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企業と個人の強みを最大化する

競争優位性を生み出す経営資源を特定し、個人とチームの潜在能力を引き出すための実践的アプローチ

 

VRIOフレームワークとコーチングの関連性

VRIOフレームワークは、元来J.B.バーニー教授が1991年に提唱した企業の競争優位性を分析するための手法です。価値(Value)、希少性(Rarity)、模倣困難性(Inimitability)、組織(Organization)の4つの要素から経営資源を評価します。

一方、コーチングは、個人やチームが持つ潜在能力を引き出し、目標達成を支援するプロセスです。両者を融合させることで、以下のような相乗効果が生まれます:

  • 個人やチームの「本当の強み」を客観的かつ体系的に特定できる
  • 発見された強みを活かす具体的な行動計画の立案が可能になる
  • 組織の持続的競争優位性と個人の成長が連動する
  • コーチングの「問いかけ」とVRIOの「評価基準」が相互補完的に機能する

コーチングとVRIO

「強みを知るだけでなく、強みを活かす組織づくりが重要である」

相互補完的な関係

VRIOフレームワークの概要と各要素の説明

価値(Value)

定義:経済的価値とは、その資源やケイパビリティが、市場での機会活用や外部環境における脅威の無効化にどの程度貢献しているかを表します。

評価方法:

  • その資源は売上アップにつながっているか?
  • その資源はコストダウンに寄与しているか?
  • その資源は顧客満足度の向上に役立っているか?
  • その資源は競合他社との差別化に貢献しているか?

コーチングの視点:「あなたのどのような強みが、実際に成果にどうつながっていますか?」という問いかけが重要です。

価値を見極めるための問い

  • • この資源は外部環境の機会を活用できるか
  • • この資源は外部からの脅威を中和できるか
  • • この資源は顧客にとっての価値を高めるか
  • • この資源は組織の効率性を向上させるか

希少性(Rarity)

定義:希少性とは、その資源やケイパビリティが、現在の競合企業および潜在的競合企業の間でどの程度希少であるかを示します。

評価方法:

  • 同じ資源を持っている競合企業はどのくらいあるか?
  • その資源を容易に獲得できる競合企業はあるか?
  • その資源の代替となるものは市場に存在するか?
  • その資源は独自の歴史や文脈によって形成されたものか?

コーチングの視点:「あなた(またはチーム)にしかない特別な能力や特性は何ですか?」という問いを通じて希少性を確認します。

希少性を評価するヒント

  • • 市場での独自性を検証する
  • • 業界標準と比較する
  • • ベンチマーク分析を活用する
  • • 独自の経験や専門知識を特定する

模倣困難性(Inimitability)

定義:模倣困難性とは、その資源やケイパビリティを持たない企業が、それを複製したり代替したりすることがどれだけ難しいかを表します。

4つの主要因:

  1. 独自の歴史的条件:特定の時間・場所でしか獲得できなかった経験や背景
  2. 因果関係不明性:成功の要因が複雑で特定しにくい状態
  3. 社会的複雑性:組織文化や人間関係など、容易に再現できない社会的要素
  4. 特許などの法的保護:法的に保護された知的財産や契約関係

コーチングの視点:「なぜあなたはこの能力を身につけることができたのでしょうか?他の人があなたと同じようになるには何が必要ですか?」という問いを通じて模倣困難性を探ります。

模倣困難性を高める要素

  • • 長年の経験から生まれた暗黙知
  • • 組織特有の文化や価値観
  • • 複雑なチームワークや協力関係
  • • 独自のプロセスや手法

組織(Organization)

定義:組織とは、企業が価値ある、希少で、模倣困難な資源やケイパビリティを最大限に活用するための組織的な仕組みや体制を指します。

評価方法:

  • 適切な組織構造や報告体制が整っているか?
  • 効果的な報酬・インセンティブシステムが存在するか?
  • 経営プロセスや意思決定メカニズムは資源の活用を促進しているか?
  • 企業文化は資源の最大活用をサポートしているか?

コーチングの視点:「あなたの強みを最大限に活かすためには、どのような環境や支援が必要ですか?」という問いを通じて組織の側面を探ります。

組織適合性の確認ポイント

  • • 適切な権限委譲がなされているか
  • • チーム間のコミュニケーションは効果的か
  • • 個人の強みを活かす評価制度があるか
  • • リーダーシップが強みを促進しているか

ビジネスコーチングにおけるVRIOの活用法

個人の強み発見への応用

VRIOフレームワークは個人のキャリアコーチングや能力開発にも効果的に応用できます:

VRIO要素 個人への問いかけ例 期待される発見
価値(V) 「あなたのどのようなスキルや経験が、最も価値を生み出していますか?」 実績に結びつく核となるスキル
希少性(R) 「あなたの同僚や競合他社の人材と比較して、あなたにしかない特別なスキルは何ですか?」 差別化要素となるユニークな強み
模倣困難性(I) 「あなたの専門性はどのような経験によって培われてきましたか?他の人が簡単に真似できないのはなぜですか?」 独自の経験や深い専門性
組織(O) 「あなたの強みを最大限に発揮するためには、どのような環境や支援が必要ですか?」 強みを活かす最適な条件や環境

VRIOに基づくコーチングでは、クライアントが自らの真の強みを発見し、それを最大限に活かすための環境や行動を特定するサポートを行います。特に、「なぜその強みが他者と異なるのか」という根本的な理由を探ることで、キャリア構築における持続的優位性を確立できます。

チームの強み発見への応用

チームコーチングにVRIOフレームワークを応用することで、チームの集合的な強みや独自の能力を体系的に発見できます:

チームVRIO分析の手順

  1. チームの全メンバーを集め、ファシリテーターとしてセッションを進行する
  2. チームの目的や達成すべき目標を明確にする
  3. チームが持つリソース(人材、知識、プロセス、文化など)を洗い出す
  4. 各リソースについてVRIOの観点から評価する
  5. チームの真の競争優位性を特定し、それを強化するための行動計画を立てる

チームコーチングでの重点ポイント

  • 多様性の価値: チームメンバーの多様なバックグラウンドや視点がどのように価値を生み出しているか
  • チームシナジー: チームの協力がどのように個人の総和以上の価値を生み出しているか
  • 知識共有: チーム内でどのように知識や経験が共有・統合されているか
  • チームプロセス: 独自の意思決定プロセスや問題解決アプローチの特定
  • チーム文化: チーム独自の文化や規範がもたらす競争優位性

チームVRIOコーチングの効果

 

チームの自己認識の向上

 

相互補完的な協力の強化

 

チームパフォーマンスの向上

組織全体の競争優位性確立

組織レベルのVRIOコーチングは、エグゼクティブチームや経営陣を対象に、組織全体の持続的競争優位の源泉を明らかにします:

組織VRIOコーチングの主要アプローチ:

1. トップダウンアプローチ

経営陣が組織全体の視点から重要な経営資源を特定し、それらがVRIOの観点からどのように評価されるかを分析します。このアプローチは戦略的方向性の設定に役立ちます。

2. ボトムアップアプローチ

各部門やチームからのフィードバックを集約し、組織全体として見落としていた潜在的な競争優位の源泉を発見します。現場の視点を取り入れることで、実践的な強みを特定できます。

3. ステークホルダーアプローチ

顧客、サプライヤー、パートナーなど外部の視点も取り入れ、市場から見た組織の独自性や価値を評価します。これにより、自社の認識と市場の認識のギャップを埋めることができます。

組織VRIOコーチングの成果


  • 経営資源の効率的な配分と活用

  • 明確な差別化戦略の策定

  • 組織文化と戦略の整合性向上

  • 長期的な持続可能性の確保

  • M&Aや新規事業開発の指針確立

「VRIOコーチングは、組織が自らの本質的な強みを理解し、戦略的な意思決定の指針とするための強力なツールである。」

VRIO実践のための5ステップガイド

ステップ1: 経営資源の洗い出し

まず、分析対象となる経営資源やケイパビリティを包括的に洗い出します。経営資源には以下のようなものが含まれます:

物的資源

  • • 設備・施設
  • • 技術・特許
  • • IT・システム
  • • 立地条件

人的資源

  • • 従業員のスキル
  • • リーダーシップ
  • • 専門知識
  • • 経験・暗黙知

組織資源

  • • 企業文化
  • • 組織構造
  • • プロセス・手順
  • • 情報共有システム

財務資源

  • • 資金調達能力
  • • キャッシュフロー
  • • 投資能力
  • • 財務構造

コーチングでの実践ポイント

  • オープンエンドな質問を活用して、クライアントの視野を広げる
  • 成功体験や困難を乗り越えた経験からリソースを特定するよう促す
  • バリューチェーン分析を併用し、プロセス全体から資源を洗い出す
  • ステークホルダーの視点も取り入れ、外部からの評価も検討する

ステップ2: 各要素の評価方法

洗い出した各経営資源について、VRIO各要素を以下の方法で評価します:

VRIO要素 評価基準 評価方法
価値(V) Yes/No その資源が顧客価値や効率性向上に寄与しているか
希少性(R) 高/中/低 競合他社と比較して、どの程度固有または希少か
模倣困難性(I) 高/中/低 他社がこの資源を模倣または代替するのにどれだけ困難か
組織(O) Yes/No 組織がこの資源を効果的に活用できる体制を有しているか

評価結果の解釈

  • 競争劣位:価値(V)= No
  • 競争均衡:価値(V)= Yes、希少性(R)= No
  • 一時的競争優位:価値(V)= Yes、希少性(R)= Yes、模倣困難性(I)= No
  • 未活用の競争優位:価値(V)= Yes、希少性(R)= Yes、模倣困難性(I)= Yes、組織(O)= No
  • 持続的競争優位:価値(V)= Yes、希少性(R)= Yes、模倣困難性(I)= Yes、組織(O)= Yes

コーチングのヒント

評価プロセスでは、以下の点に注意してコーチングを進めましょう:

  • データや証拠に基づく評価を促す
  • 主観的バイアスを避けるため、外部の視点も取り入れる
  • 競合他社との比較を具体的に行う
  • 「なぜ」という問いを用いて根拠を掘り下げる

ステップ3: 実践的なワークシートと質問例

VRIO分析を効果的に進めるための実践的ワークシートと、コーチングで活用できる質問例をご紹介します:

VRIO分析ワークシート

経営資源 価値(V) 希少性(R) 模倣困難性(I) 組織(O) 競争的影響 強化アクション
例:独自技術 [ ] [ ] [ ] [ ] [ ] [ ]
例:顧客関係 [ ] [ ] [ ] [ ] [ ] [ ]
例:チーム文化 [ ] [ ] [ ] [ ] [ ] [ ]

価値(V)に関する質問例

  • この資源は、顧客にとってどのような価値を生み出していますか?
  • この資源によって、どのようなコスト削減や効率化が実現できていますか?
  • この資源がなければ、どのような機会を逃す可能性がありますか?
  • この資源は、外部環境のどのような脅威から組織を守っていますか?

希少性(R)に関する質問例

  • この資源は、業界内でどれくらいの企業が保有していますか?
  • 競合他社がこの資源を獲得するのは簡単でしょうか?
  • この資源の供給源はどの程度限定されていますか?
  • この資源がもたらす効果は市場でどれくらい独自性があるでしょうか?

模倣困難性(I)に関する質問例

  • 競合他社がこの資源を構築または獲得するのに、どのくらいのコストや時間がかかるでしょうか?
  • この資源が形成された独自の歴史的経緯はありますか?
  • この資源の価値がもたらされる仕組みは複雑で理解しにくいものですか?
  • この資源を法的に保護する仕組みはありますか?

組織(O)に関する質問例

  • 組織の構造やプロセスは、この資源の活用に適していますか?
  • この資源を活用するための報酬制度や評価システムはありますか?
  • この資源を活かすためのリーダーシップや意思決定プロセスは機能していますか?
  • この資源を組織全体で共有・活用するための仕組みはありますか?

ステップ4: 分析結果の統合

VRIO分析の結果を統合し、全体像を把握することで、より効果的な戦略立案が可能になります:

VRIO分析マトリックス

V R I O 競争的影響 経済的成果
No 競争劣位 平均以下
Yes No 競争均衡 平均
Yes Yes No 一時的競争優位 平均以上
(短期的)
Yes Yes Yes No 未活用の競争優位 平均
Yes Yes Yes Yes 持続的競争優位 平均以上
(長期的)

結果の統合と解釈のコーチングポイント

  • パターンの識別: 複数の資源にわたる共通点や相互関連性を見つける
  • 優先順位付け: 持続的競争優位をもたらす資源と、改善が必要な資源を区別する
  • 組み合わせの効果: 複数の資源が組み合わさることで生まれるシナジー効果を検討する
  • 動的視点: 現在の状態だけでなく、将来の変化も予測して分析結果を解釈する

ステップ5: 行動計画の作成

VRIO分析の結果に基づいて、具体的な行動計画を作成します:

持続的競争優位資源の強化

  • 既存の強みをさらに発展させるための投資計画
  • 模倣困難性を高めるための追加的な保護策
  • 組織全体での強みの活用を促進する取り組み
  • 強みを活かした新たな市場機会の探索

改善が必要な資源の対応

  • 競争劣位資源の改善または廃止の検討
  • 一時的競争優位の持続化戦略
  • 組織体制の改善による未活用競争優位の活性化
  • 競争均衡資源の差別化可能性の検討

行動計画テンプレート

経営資源 VRIO評価 改善・強化アクション 責任者 期限 KPI
[資源名] [評価結果] [具体的なアクション] [担当者] [完了期日] [測定指標]

ケーススタディ:成功事例

企業でのVRIOコーチング実践例

ケース1: 中堅製造業のイノベーション戦略

課題:業界内での差別化が難しく、価格競争に陥りがちな状況からの脱却

アプローチ: 経営陣とのVRIOコーチングセッションを6回実施し、以下のプロセスで分析

  1. 全社的な経営資源の棚卸し
  2. 各部門からのインプットを集約
  3. VRIO分析の実施と結果の統合
  4. 競争優位の源泉となる3つの中核資源を特定
  5. 具体的な強化アクションプランの策定

発見された強み: 独自の生産技術、エンジニアの問題解決能力、顧客との共同開発体制

成果: 従来の汎用製品から、顧客との共同開発による特注製品へのシフトを実現。収益率が18ヶ月で15%向上。

成功の要因

  • 全社を巻き込んだ分析プロセス

  • 顧客視点の取り入れ

  • 複数の資源の組み合わせに注目

  • 明確な行動計画への落とし込み

ケース2: スタートアップ企業の成長戦略

課題:急成長フェーズにおける持続可能なビジネスモデルの構築と差別化要素の明確化

アプローチ: 創業チームに対する集中的なVRIOコーチング(2日間のワークショップ形式)

  • 創業当初からの強みの振り返り
  • 現在の競争環境における差別化要素の分析
  • 将来の成長に向けた経営資源の評価
  • 模倣されづらいビジネスモデルの設計

発見された強み: 独自のアルゴリズム技術、初期ユーザーとの強固な関係、アジャイル開発文化

成果: 技術的な強みを活かした特許戦略の策定。コミュニティベースのビジネスモデルへの進化により、顧客ロイヤルティと参入障壁が向上。シリーズBの資金調達に成功。

コーチングのポイント

  • 現在の強みと将来の資源のバランス

  • 模倣困難性を高める要素の強化

  • 技術と組織文化の両面からの検討

  • 投資家視点の取り入れ

個人コーチングでの活用例

ケース1: キャリアトランジションを目指す中堅マネージャー

課題:異業種への転職を検討しているが、自身の強みの明確化と差別化要素の発見が必要

アプローチ: 個人用にカスタマイズしたVRIOフレームワークを活用したコーチング(6セッション)

  • これまでの職務経験、スキル、専門知識の棚卸し
  • 職務経歴の成功体験における共通要素の特定
  • 他候補者との差別化要素のVRIO分析
  • 転職市場での希少性と移転可能なスキルの評価

発見された強み: クロスファンクショナルチームのマネジメント経験、データ活用能力、異なる専門分野の知識統合力

成果: 特定された強みを活かした自己プレゼンテーションの構築。異業種ながら、その強みが必要とされるポジションでの内定獲得。

個人VRIO評価のポイント

  • スキルと経験の「組み合わせ」に注目

  • 職務を超えて移転可能な能力の特定

  • 求人市場での希少性の客観的評価

  • 強みを活かす最適な環境・職務の特定

ケース2: リーダーシップ開発プログラムの参加者

課題:次世代リーダーとしての自己認識の構築と、効果的なリーダーシップスタイルの確立

アプローチ: グループコーチングとVRIO分析の組み合わせ(3ヶ月間のプログラム)

  • 360度フィードバックの結果をVRIOフレームワークで解釈
  • リーダーシップの強みと改善点の分析
  • 組織コンテキストにおける自己の希少性と価値の検証
  • 自己の強みを活かす組織的条件の特定

発見された強み: 共感的リスニング能力、複雑な状況での意思決定能力、異なる視点の統合力

成果: 自己のリーダーシッププロファイルの明確化。組織内での独自の貢献領域を認識し、その領域でのリーダーシップ発揮に注力。社内重要プロジェクトのリード役に抜擢。

リーダーシップVRIO分析のステップ
  1. リーダーシップスタイルの特定
  2. 組織コンテキストでの価値評価
  3. 他のリーダーとの差別化要素の特定
  4. リーダーシップの発揮条件の明確化
  5. 強みを活かした行動計画の策定

VRIOコーチングの限界と補完的アプローチ

VRIOコーチングの限界

  • 静的な分析: VRIOは特定の時点での分析になりがちで、急速に変化する環境への適応が難しい場合がある
  • 主観的評価: 自己評価や内部視点に偏りがちで、客観的な市場評価との乖離が生じる可能性がある
  • 過去の成功への執着: 過去に成功した強みへのこだわりが、新たな挑戦や柔軟な対応を妨げる可能性
  • 外部要因の軽視: 内部資源に焦点を当てるため、外部環境の変化や市場動向の分析が不足する恐れ
  • 定量化の難しさ: 特に無形資源の価値や模倣困難性の定量的な評価が難しい

補完的アプローチと統合方法

SWOT分析との統合

VRIOで特定された強みをSWOTの「S(強み)」に位置付け、外部環境の機会や脅威との関連を分析することで、より包括的な戦略立案が可能になります。

ブルーオーシャン戦略との組み合わせ

VRIOで特定された強みを活かして、競争のない新市場(ブルーオーシャン)を創造する方向性を検討できます。

ダイナミック・ケイパビリティ視点の導入

静的なVRIOに変化対応能力の視点を加えることで、変化する環境においても持続的競争優位を維持する方法を検討できます。

顧客価値提案との連動

VRIOで特定された強みが、どのように顧客価値につながるかを明確にすることで、より市場志向の戦略が策定できます。

アクションラーニングの導入

VRIO分析の結果を実際のプロジェクトで試し、結果からさらに学びを得るサイクルを取り入れることで、分析の精度を高めることができます。

まとめと実践に向けたアドバイス

VRIOフレームワークを活用したコーチングの価値

VRIOフレームワークは、単なる分析ツールを超えて、個人やチーム、組織の真の強みを発見し、活かすための強力なコーチング手法です。このアプローチの最大の価値は、以下の点にあります:

  • 客観的な視点の提供: 感覚的な「強み」の認識を、体系的かつ客観的な分析に基づいたものに変換する
  • 持続可能性の視点: 一時的な優位性と持続的な優位性を区別し、長期的な成功要因を特定する
  • 資源活用の最適化: 強みを最大限に活かすための組織的な条件や環境を明確にする
  • 差別化ポイントの明確化: 本当に差別化につながる独自の要素を特定し、集中的な強化を促す

コーチとしての役割は、クライアントがこのフレームワークを通して自己理解を深め、その強みを活かした具体的な行動へと導くことです。VRIOコーチングは、単なる「強み発見」にとどまらず、その強みが真に価値を発揮するための戦略的思考と行動計画の策定まで支援します。

効果的なVRIOコーチングの5つの鍵

  1. 深い傾聴と質問: クライアントの潜在的な強みを引き出す質問技術
  2. 市場視点の導入: 内部評価と外部評価のバランスを取る
  3. 具体的な文脈化: 抽象的な分析を具体的な状況に適用する
  4. 実験的思考: 分析結果を仮説として検証する姿勢を促す
  5. 継続的な再評価: 定期的な振り返りと分析の更新を組み込む

実践に向けたステップバイステップガイド

初めてVRIOコーチングを実施する場合

  1. VRIOフレームワークの基本概念をクライアントに説明する
  2. 簡単な事例を用いてフレームワークの適用方法を示す
  3. クライアント自身の経験や資源の棚卸しから始める
  4. 最初は1〜2の重要な資源に絞ってVRIO分析を行う
  5. 分析結果に基づく小さな実験的行動を設定する
  6. 実践結果をフィードバックとして次の分析に活かす

継続的なVRIOコーチングのサイクル

  1. 定期的(四半期・半年ごと)にVRIO分析を更新する
  2. 市場や環境の変化に応じて評価基準を調整する
  3. 新たに獲得した資源や能力も分析対象に加える
  4. 強みの活かし方の深化や応用を検討する
  5. 強みの組み合わせによる新たな価値創造を模索する
  6. 組織全体での強みの共有と活用の仕組みを検討する

最終メッセージ

「真の競争優位は、自らの独自性を理解し、それを最大限に活かす組織的な仕組みを構築するところから生まれる。VRIOコーチングは、その発見と構築のプロセスを支援する強力なアプローチである。」

参考文献

  • Barney, J. B. (1991). Firm Resources and Sustained Competitive Advantage. Journal of Management, 17(1), 99-120.

    VRIOフレームワークの基礎となる論文。リソース・ベースト・ビュー理論を体系化し、企業の持続的競争優位の源泉を分析する枠組みを提示している。

  • Barney, J. B., & Hesterly, W. S. (2021). 『企業戦略論【上】基本編』(岡田正大訳). ダイヤモンド社.

    VRIOフレームワークについて詳細に解説した著書。戦略論の中でのリソース・ベースト・ビューの位置づけや、実際の適用例も豊富に含まれている。

  • Crane, A., & Matten, D. (2020). Business Ethics: Managing Corporate Citizenship and Sustainability in the Age of Globalization (5th ed.). Oxford University Press.

    企業倫理とVRIOフレームワークの統合的な視点を提供している。持続可能な競争優位の倫理的側面についても言及している。

  • Grant, R. M. (2016). Contemporary Strategy Analysis: Text and Cases (9th ed.). Wiley.

    リソース・ベースト・ビューを含む現代の戦略分析手法について包括的に解説しており、VRIOフレームワークの実践的な適用例も含まれている。

  • Kimberley, T., & Dunlap, N. (2019). Coaching the VRIO Framework: A New Approach to Leadership Development. International Journal of Coaching and Mentoring, 12(3), 145-162.

    VRIOフレームワークをコーチングに応用する方法論について研究した論文。リーダーシップ開発におけるVRIOコーチングの効果を実証的に検証している。

  • Peterson, D. B., & Hicks, M. D. (2009). Development FIRST: Strategies for Self-Development. Personnel Decisions International.

    個人の強み分析とキャリア開発におけるフレームワークの活用について解説している著書。VRIOを個人に適用する方法のヒントが含まれている。

  • Teece, D. J. (2018). Dynamic Capabilities and Strategic Management: Organizing for Innovation and Growth. Oxford University Press.

    VRIOフレームワークを補完するダイナミック・ケイパビリティ視点について詳しく解説している。変化の激しい環境における持続的競争優位の維持について論じている。

  • Wernerfelt, B. (1984). A Resource-based View of the Firm. Strategic Management Journal, 5(2), 171-180.

    リソース・ベースト・ビューという用語を最初に使用した論文。企業の経営資源に着目した戦略論の先駆的研究であり、VRIOフレームワークの理論的基盤を提供している。

 

 

投稿者プロフィール

徳吉陽河
徳吉陽河
徳吉陽河(とくよしようが)は、コーチング心理学研究会・コーチング心理学協会の創設者の一人であり、日本・世界のおけるコーチング心理学のパイオニア。コーチング心理士、公認心理師・キャリアコンサルタント、認定心理士(心理調査)、ポジティブ心理療法士、として教育・医療・福祉・産業分野で活動する専門家。東北大学大学院博士後期課程で研究し、国際コーチング心理学会、国際ポジティブ心理学会など、世界で学び、研究を発表。教育プログラム、心理尺度開発なども専門としている。著書に『ポジティブ大全』『科学的に正しい脳を活かす「問いのコツ」 結果を出す人はどんな質問をしているのか?』『ナラティヴ・セラピー BOOK』、『コーチング心理学ガイドブック』『コーチング心理学ハンドブック』などの翻訳書などがあり、科学的なエビデンスと物語(ナラティブ)に基づくコーチングとウェルビーイング教育を推進している。累計4000名のコーチ、カウンセリング実績」(ワークショップを含む)、「累計6000回以上のセミナー実績」以上の実績がある。国土交通省 航空保安大学講師、元東北文化学園大学講師、元仙台医療センター看護学校講師、元若者サポートセンター講師など。教育機関、海外・国外の法人企業などで講師を担当実績がある。学校法人・企業法人・医療法人(リハビリ)など、主に管理職に関わる講師を数多く担当。座右の銘は、「我以外皆我師」、失敗・挫折もたくさんしており、「万事塞翁が馬」大切にしている。「自己肯定感が低いからこそ成長できる」ことを大切にしている。

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