ナラティヴセラピーとナラティヴコーチング リメンバリング入門 認定資格取得の参考に
1. はじめに
ナラティヴコーチングは、人生における出来事を「物語(ナラティヴ)」として捉え、その語り直しを通して自己理解を深め、新たな可能性を見出していくアプローチです。その中でも「リメンバリング」は特に強力な手法の一つとなっています。
リメンバリングは単なる「思い出す」という行為ではありません。それは自分の人生に影響を与えてきた人々との関係性を再評価し、自分のアイデンティティを豊かに再構築していく実践です。
「人は他者を通して人になる」
— デズモンド・トゥトゥ大司教
このガイドでは、ナラティヴコーチングにおけるリメンバリングの基本概念から実践方法、そして具体的な事例まで、社会人の方々が日常生活やキャリアの中で活用できるように詳しく解説していきます。
2. リメンバリングの基本概念
リメンバリングの起源
「リメンバリング(Re-membering)」という概念は、もともと人類学者バーバラ・マイヤーホフ(Barbara Myerhoff, 1982)が提唱したものです。彼女は南カリフォルニアの高齢ユダヤ人コミュニティでの研究を通じて、この概念を「特別な種類の回想」として説明しました。
「特別な種類の回想を表すために、『Re-membering(リメンバリング)』という用語が使われます。これは、自分の人生に関わるメンバー(登場人物)たちを再び集め直すことに注目するものです」
— Barbara Myerhoff
マイケル・ホワイトによる発展
その後、ナラティヴセラピーの創始者の一人であるマイケル・ホワイト(Michael White, 1997)がこの概念をセラピーの文脈に取り入れ、「人生のクラブ(club of life)」というメタファーを用いて発展させました。
ホワイトの考えでは、私たち一人ひとりの人生は「クラブ」のようなものであり、そこには様々な「メンバー」(重要な他者)が存在します。これらのメンバーは、私たちのアイデンティティ形成に異なる影響力や地位を持っています。
リメンバリングの中核的な考え
- 人のアイデンティティは「自己の本質」によってではなく、「人生の関係性」によって形成される
- 私たちは皆、様々な「声」(影響)からなる多声的な存在である
- 人生のクラブのメンバーシップは再編成可能である
- 重要な他者との関係性を意図的に再評価することで、新たな自己理解と可能性が開ける
リメンバリングの実践は、孤立感の解消、自己肯定感の向上、人生の物語の豊かな再構築など、様々なポジティブな効果をもたらすことが多くの実践例で示されています。
3. 「リメンバリング」と「一般的な回想」の違い
リメンバリングは、単なる過去の思い出し(remembering)とは大きく異なります。この違いを理解することが、リメンバリング実践の効果を高める鍵となります。
| 一般的な回想(Remembering) | リメンバリング(Re-membering) |
|---|---|
| 過去の出来事の単純な想起 | 人生における重要な他者との関係性の意図的な再評価 |
| 受動的なプロセス | 能動的で目的を持ったプロセス |
| 過去にフォーカス | 過去、現在、未来を結びつける |
| 個人的な思い出 | 関係性のネットワークの中での自己の理解 |
| 変化を伴わないこともある | 人生のクラブのメンバーシップの意図的な再編成 |
リメンバリングのハイフンの重要性
「Re-membering」という表記におけるハイフン(-)は意図的なものです。これは単なる「思い出す」という意味ではなく、「メンバーを再編成する(re-member)」という意味を強調しています。
例:Virginiaのケース
長年自分を「無価値で愚か」だと感じていたVirginiaは、セラピーを通じてこの否定的な自己イメージが実は幼少期に虐待的だった継父の見方であることに気づきました。彼女は自分の「人生のクラブ」から継父の影響力(メンバーシップ)を引き下げ、代わりに常に彼女を高く評価してきた妹の声を高める決断をしました。このプロセスを通じて、Virginiaは自分自身への見方を変え、より肯定的なアイデンティティを形成することができました。
リメンバリングでは、思い出すだけでなく、重要な他者たちが自分の人生とアイデンティティに与える影響力を意識的に再評価し、再調整することが核心となります。
4. リメンバリングの実践方法
リメンバリングの会話は、主に2つの異なる質問セットを中心に進行します。これらの質問は、人生における重要な人物との関係性を双方向的に探求するよう設計されています。
第1の質問セット:重要な他者があなたに与えた影響
- 「〇〇さんはあなたの人生にどのような貢献をしましたか?あなたの人生に違いをもたらした具体的な行動は何でしたか?」
- 「〇〇さんの行動は、あなた自身や人生についての理解にどのような違いをもたらしましたか?それはあなた自身についてどのように感じ、考えさせましたか?」
- 「あなたが今大切にしているこの価値観について、過去のどなたがあなたがこのように話すのを聞いて最も驚かないでしょうか?」
- 「その人はあなたについて何を知っていた、あるいは何を目撃していたからこそ、この価値観/信念/取り組みがあなたにとって重要だと分かったでしょうか?」
第2の質問セット:あなたが重要な他者に与えた影響
- 「なぜ〇〇さんはあなたにこのような関心を示したと思いますか?あなたが行ったどのようなことが、〇〇さんの人生に貢献したのでしょうか?」
- 「あなたと〇〇さんの関係は、〇〇さんにとってどのような意味があったと思いますか?あなたは〇〇さんが自分自身や人生についてどう考えるかにどのような違いをもたらしたかもしれませんか?」
- 「〇〇さんがそれに気づくことは、その方にとってどのような意味があったでしょうか?」
- 「それは〇〇さんの人生にどのように貢献したかもしれませんか?」
リメンバリングの実践的効果
多声的なアイデンティティの促進
単一の自己概念ではなく、様々な声(影響)からなる豊かなアイデンティティの形成を促します。
孤立感の解消
共通のテーマや価値観で結ばれた他者とのつながりを再認識し、孤立感を減らします。
好ましいアイデンティティの強化
ポジティブな影響を与えてきた人々の声を高めることで、自己肯定感を向上させます。
関係性の相互性の認識
自分が他者に与えた影響も探ることで、受動的ではなく相互的な関係性の理解を深めます。
これらの質問を通じて、人々は自分の人生に影響を与えてきた重要な人物との関係を振り返り、その関係性がどのように自分のアイデンティティを形成してきたかを新たな視点で理解できるようになります。また、自分自身が他者の人生にどのような影響を与えてきたかを認識することで、自己効力感や存在価値の感覚も高まります。
5. リメンバリング会話の実践ステップ
リメンバリング会話を実践するための具体的なステップを紹介します。これらのステップは、個人で振り返る場合にも、コーチやセラピストとの対話の中でも活用できます。
重要な人物の特定
以下のような状況で重要な人物を特定することから始めます:
- 過去の重要な人物を肯定的に言及する時
- 自分が現在活用しているスキルや知識について話す時
- 自分について否定的な結論(自分は無価値だ、ダメだ、など)を持っている時
この人物は必ずしも直接関係のある人である必要はありません。本の著者、歴史上の人物、架空のキャラクター、さらには大切なぬいぐるみなども含まれます。
第1の探求:その人があなたに与えた影響
以下の質問を自分に問いかけます(または対話の中で探求します):
- その人はあなたの人生にどのような貢献をしましたか?
- その行動はあなたの自己理解にどのような影響を与えましたか?
- その影響があなたの現在の価値観や強みとどのように結びついていますか?
第2の探求:あなたがその人に与えた影響
次に、相互性に注目します:
- なぜその人はあなたに関心を示したのでしょうか?
- あなたとの関係はその人にとってどのような意味があったでしょうか?
- あなたはその人の人生にどのような違いをもたらしたかもしれませんか?
共有テーマの探求
あなたとその人を結びつけている共有の価値観やテーマを探ります:
- どのような価値観や信念を共有していましたか?
- あなたたちはどのようなスキルや知識を共に大切にしていましたか?
- その共有テーマは現在のあなたの人生にどのように表れていますか?
メンバーシップの再編成
「人生のクラブ」のメンバーシップを意識的に再評価します:
- どの人物の声や影響力をより高めたいですか?
- どの人物の影響力を減らしたいですか?
- これらの変更をどのように形にしますか?(例:手紙を書く、儀式を行う、象徴的な行為など)
新たな理解と行動の統合
得られた洞察を現在の生活に統合します:
- この新たな理解はあなたの自己認識をどのように変えますか?
- 重要な他者との関係をどのように維持または発展させたいですか?
- 彼らから学んだことを今後どのように活かしていきますか?
実践のヒント
リメンバリングは一度きりの実践ではなく、継続的なプロセスです。異なる人物や異なる人生の時期について、何度も繰り返し行うことで、より豊かな自己理解と多様な視点が得られます。ジャーナリングや対話、アート表現など、自分に合った方法で探求してみましょう。
6. リメンバリングの実践事例
事例1:Jessica(マイケル・ホワイトの実践から)
背景
Jessicaは40代の女性で、幼少期から青年期にかけて親から虐待を受けた経験を持ち、自分自身を「価値のない人間」と考え、何度も自殺を考えるほど絶望していました。
リメンバリングの過程
セラピーの中で、彼女が9歳までの2年間、家族が引っ越すまでの間、隣人の女性が彼女を受け入れ、傷ついている時に世話をしてくれたという話が出てきました。このセラピストはリメンバリング会話を通じて、この隣人の女性が彼女の人生に与えた影響について探求しました。
Jessicaはこの隣人が彼女に身体的な慰めを与え、空腹の時に食べ物を与え、編み物や縫い物といった趣味を教えてくれたことを思い出しました。セラピストは次のような質問をしました:
- 「なぜこの隣人はあなたをこのように受け入れたのでしょうか?」
- 「彼女はあなたの両親が気づかなかったあなたの何を認めていたのでしょうか?」
- 「彼女はあなたのどんな価値を見ていたのでしょうか?」
これらの質問に対して、Jessicaは自分自身についての新たな肯定的な理解を語り始めました。最初は躊躇いがちでしたが、会話が進むにつれて、自分の価値についてより確信を持って話せるようになりました。
次に、セラピストは彼女が隣人の人生に与えた影響について質問しました:
- 「あなたはこの隣人の招待(編み物や縫い物)を受け入れましたか?それとも拒否しましたか?」
- 「あなたが彼女と共にこの大切な趣味に参加したことは、彼女にとってどのような意味があったでしょうか?」
- 「あなたの存在は彼女の人生にどのような違いをもたらしたかもしれませんか?」
これらの質問を通じて、Jessicaは自分が隣人の人生にも貢献していたという新たな理解を得ました。彼女は単なる「受け手」ではなく、この関係性の中で積極的な役割を果たしていたことに気づきました。
結果
このリメンバリング会話は、Jessicaにとって人生の転機となりました。彼女は自分の人生の無視されていた側面と再びつながることができ、自分自身に対する否定的な結論が浸食され、より肯定的な自己理解が生まれました。その後、彼女は虐待を受けた経験を持つ他の女性たちを助ける活動を始め、それを隣人の生き方への敬意を表す方法として捉えるようになりました。
事例2:田中さん(キャリア転換に悩む40代男性)
背景
田中さんは42歳のIT企業に勤める中間管理職です。20年近く同じ会社で働いてきましたが、最近のデジタル変革の波についていけず、自分はもう時代遅れで無価値だと感じていました。新しいプロジェクトでも若い世代に任せることが増え、「自分はもう必要とされていないのではないか」という思いに苦しんでいました。
リメンバリングの過程
コーチングセッションの中で、田中さんは大学時代の恩師について触れました。その恩師は技術よりも人とのつながりの大切さを教えてくれた人物でした。コーチは以下のようなリメンバリングの質問を行いました:
- 「その恩師はあなたの人生や仕事にどのような影響を与えましたか?」
- 「なぜその恩師はあなたに特別な関心を示したのでしょうか?」
- 「あなたの中のどのような資質や才能を恩師は見ていたと思いますか?」
- 「もし今ここにその恩師がいたら、現在のあなたの状況についてどのようなアドバイスをくれると思いますか?」
これらの質問を通じて、田中さんは恩師が彼の「人をつなぐ力」「異なる視点を統合する能力」を高く評価していたことを思い出しました。また、自分が学生時代に恩師の研究室で異なるバックグラウンドを持つ学生たちの橋渡し役を務めていたことも思い出しました。
次に、コーチは田中さんが恩師に与えた影響についても尋ねました:
- 「あなたの存在や行動は恩師にとってどのような意味があったと思いますか?」
- 「恩師の教えや価値観をあなたが実践していることは、恩師にとってどのような価値があったでしょうか?」
田中さんは、恩師が常に「技術は変わっても、人と人をつなぐ力の価値は変わらない」と言っていたことを思い出しました。そして自分がその教えを社会人になっても実践し、多くのプロジェクトで異なる専門性を持つメンバーをまとめてきたことが、恩師の理念を実現する一助になっていたのではないかと気づきました。
結果
このリメンバリング会話を通じて、田中さんは自分の強みが最新技術の知識ではなく、「異なる専門性や世代をつなぐ力」にあることを再認識しました。彼は社内で若手エンジニアと年配の経営層を結ぶブリッジ役としての新しい役割を提案し、世代間のナレッジ移転プロジェクトを立ち上げました。技術の変化に追いつくことへの不安は残りましたが、自分独自の貢献の仕方に自信を持ち、新たなキャリアの方向性を見出すことができました。
事例3:佐藤さん(育児と仕事の両立に悩む30代女性)
背景
佐藤さんは35歳で、2歳と5歳の子どもを育てながら広告会社で働いています。育児と仕事の両立に疲れ果て、どちらも中途半端になっていると自分を責め、「良い母親でも良い社員でもない」という自己否定感に悩んでいました。
リメンバリングの過程
コーチングセッションで、佐藤さんは祖母のことを思い出しました。彼女の祖母も4人の子どもを育てながら家業を手伝っていました。コーチは以下のようなリメンバリング会話を行いました:
- 「あなたの祖母はどのように家族と仕事を両立していましたか?」
- 「祖母から学んだ、または影響を受けた価値観や姿勢は何ですか?」
- 「祖母があなたの今の状況を見たら、何と言うでしょうか?」
- 「あなたは祖母にとってどのような存在でしたか?あなたの存在は祖母にどんな影響を与えていましたか?」
佐藤さんは、祖母が「完璧を求めず、できることを精一杯する」という姿勢で生きていたことを思い出しました。また、祖母が自分の成長をいつも誇らしげに見守り、「あなたなら大丈夫」と常に励ましてくれたことも思い出しました。
さらに、祖母が晩年に「あなたが頑張っている姿を見るのが私の喜び」と言っていたことを思い出し、自分が祖母に希望や誇りを与えていたのではないかという新たな気づきを得ました。
結果
リメンバリング会話を通じて、佐藤さんは「完璧な母親・社員である必要はない」という祖母の価値観と再びつながることができました。彼女は自分の中の「すべてをこなさなければならない」という信念を見直し、優先順位を明確にして「今できる最善を尽くす」姿勢を取り入れました。また、自宅の目立つ場所に祖母の写真と座右の銘を置き、日々の決断に迷ったときに「祖母ならどう考えるだろう」と自問することで、自己批判的な思考から抜け出す助けとしています。
7. リメンバリング会話の質問例集
リメンバリングを実践する際に役立つ様々な質問例を場面別にまとめました。自己探求やコーチング、カウンセリングの場面で活用してください。
重要な人物を特定するための質問
- 「あなたが現在大切にしているこの価値観/強み/スキルについて、誰があなたに最初に気づかせてくれましたか?」
- 「困難な状況を乗り越えるとき、誰の声や言葉を思い出しますか?」
- 「もし今、あなたの人生を祝うパーティーを開くとしたら、ぜひとも招待したい人は誰ですか?(故人も含めて)」
- 「あなたが今のような話し方をしているのを聞いたら、最も驚かないのは誰でしょうか?」
- 「今のあなたの考え方や生き方に影響を与えた本の著者や歴史上の人物、架空のキャラクターはいますか?」
その人があなたに与えた影響を探る質問
- 「その人はあなたの人生にどのような貢献をしましたか?具体的にどんなことをしてくれましたか?」
- 「その人との関わりがなかったら、あなたの人生はどのように違っていたと思いますか?」
- 「その人があなたに伝えてくれた最も重要な教訓や価値観は何でしたか?」
- 「その人はあなたのどのような側面や可能性を見ていたと思いますか?」
- 「もしその人が今ここにいたら、現在のあなたについてどのような感想を持つでしょうか?」
- 「その人の言葉や行動は、あなたが自分自身や人生をどう見るかにどのような影響を与えましたか?」
あなたがその人に与えた影響を探る質問
- 「なぜその人はあなたに特別な関心を示したのだと思いますか?」
- 「あなたとの関係は、その人にとってどのような意味があったと思いますか?」
- 「あなたがその人の人生にもたらした喜びや価値は何だったと思いますか?」
- 「その人の人生の物語の中で、あなたはどのような役割を果たしていたと思いますか?」
- 「あなたの存在や行動が、その人の価値観や信念をどのように確認または強化していたと思いますか?」
共有テーマを探る質問
- 「あなたとその人が共に大切にしていた価値観や信念は何ですか?」
- 「あなた方はどのような夢や希望を共有していましたか?」
- 「あなた方を結びつけていた共通の関心事や情熱は何でしたか?」
- 「その人との関係から学んだことで、今もあなたの人生に生きているものは何ですか?」
リメンバリングを実践に移すための質問
- 「この新たな理解に基づいて、今後どのような選択や決断をしていきたいですか?」
- 「その人の存在や影響をあなたの日常生活の中でどのように honor(敬い、称える)していきたいですか?」
- 「この人との関係から学んだことを、他の人間関係にどのように活かせますか?」
- 「この重要な人物との結びつきを強化するために、どのような儀式や習慣を取り入れたいですか?」
- 「この人が大切にしていた価値観や教えを、あなた自身はどのように次世代に伝えていきたいですか?」
8. リメンバリングを活用するポイント
リメンバリング実践をより効果的にするための重要なポイントをご紹介します。
導入のタイミング
問題の影響を十分に探索した後で導入しましょう。問題の経験を軽視せず、十分に認めた上で、例外的な出来事や肯定的な側面を見つけてからリメンバリングの質問を行うのが効果的です。
多様なメンバーシップの考慮
血縁関係だけでなく、友人、教師、憧れの人物、さらには本や映画のキャラクター、ペットまで、様々な「メンバー」を視野に入れましょう。直接の関係がなくても影響を受けることはあります。
相互性の認識
自分が受けた影響だけでなく、自分が相手に与えた影響も探ることが重要です。これにより、「受動的な受け手」ではなく、関係性の中での自分の主体性に気づくことができます。
感情の大切さ
リメンバリング会話は感情的に強い体験になることがあります。その感情を大切にし、必要に応じて時間をかけて進めましょう。感情は新たな気づきや変化のきっかけとなります。
継続的なプロセス
リメンバリングは一度きりのものではなく、継続的なプロセスです。異なる人物や状況について、定期的に行うことで、より豊かな自己理解が得られます。
記録と表現
リメンバリングの洞察を日記、手紙、アート、儀式などで形にすることで、より深く統合できます。大切な人へ感謝の手紙を書くことも効果的です。
留意点
リメンバリングを実践する際に注意すべき点もあります:
- 否定的な影響を与えた人物のメンバーシップを見直す場合は、慎重に時間をかけて行いましょう。
- リメンバリングは「正しい答え」を探すものではなく、新たな視点や可能性を開くためのプロセスです。
- 重大なトラウマを伴う経験の場合は、専門家のサポートを受けることをお勧めします。
- 相手を見つけられない場合は焦らず、質問の仕方を変えたり、別のアプローチを試みましょう。
日常生活での実践アイデア
- 人生の節目や決断の時に、重要な人物の視点から自分の選択を考えてみる
- 感謝の日記をつけ、自分の人生に影響を与えた人々への感謝を記録する
- 大切な人との思い出の品やシンボルを身近に置き、その関係性を日常的に思い出す
- 誕生日や記念日に、その人から学んだことや共有した価値観を振り返る時間を持つ
- 困難な状況に直面したとき、「もし○○さんなら、この状況をどう見るだろう?」と問いかける
社会人におすすめの活用シーン
- キャリアの岐路: 転職やキャリアチェンジを考える際に、あなたの才能や強みを見抜いていた人物の視点を取り入れる
- リーダーシップの発揮: あなたがリスペクトするリーダーの価値観や実践を自分のリーダーシップに活かす
- ワークライフバランス: 仕事と私生活のバランスについて、あなたが模範とする人物ならどう考えるかを参考にする
- 対人関係の改善: 困難な人間関係に直面したとき、過去の重要な関係から学んだ知恵を活用する
- 自己成長: 新しいスキルや知識を習得する過程で、あなたの学びを支えてきた人々の存在を思い出し、モチベーションを高める
9. まとめ:リメンバリングの可能性
ナラティヴコーチングにおけるリメンバリングは、単なる過去の回想ではなく、人生における重要な他者との関係性を通して自分のアイデンティティを再構築していく実践です。
リメンバリングの主な効果
つながりの回復
孤立感の解消と重要な他者とのつながりの再認識
多声的アイデンティティ
様々な声と影響からなる豊かな自己理解の形成
主体性の回復
関係性における自分の貢献と影響力の認識
リメンバリングでは、「人生のクラブのメンバーシップ」を意識的に再編成することで、自分自身への見方や理解を変えていきます。これにより、過去の否定的な経験や自己概念に囚われず、より豊かで多面的なアイデンティティを構築することが可能になります。
特に社会人にとって、キャリアや人間関係の岐路に立ったとき、重要な決断を迫られたとき、自己価値を見失いそうになったときに、リメンバリングは新たな視点と可能性をもたらす強力なツールとなります。
「私たちの人間関係が自己を創り出すのであって、自己が人間関係を創り出すのではない」
— ケネス・ガーゲン
リメンバリングは、人生における「わたし」が、実は多くの重要な他者との関係性の中で形成されてきたことを教えてくれます。この理解は、「一人で何とかしなければ」という孤独な闘いから私たちを解放し、人生を共に旅する大切な存在とのつながりを再確認させてくれるのです。
本ガイドで紹介した概念と実践方法が、あなた自身のリメンバリングの旅の一助となり、より豊かな自己理解と人生の可能性へとつながることを願っています。
投稿者プロフィール

- 徳吉陽河(とくよしようが)は、コーチング心理学研究会・コーチング心理学協会の創設者の一人であり、日本・世界のおけるコーチング心理学のパイオニア。コーチング心理士、公認心理師・キャリアコンサルタント、認定心理士(心理調査)、ポジティブ心理療法士、として教育・医療・福祉・産業分野で活動する専門家。東北大学大学院博士後期課程で研究し、国際コーチング心理学会、国際ポジティブ心理学会など、世界で学び、研究を発表。教育プログラム、心理尺度開発なども専門としている。著書に『ポジティブ大全』『科学的に正しい脳を活かす「問いのコツ」 結果を出す人はどんな質問をしているのか?』『ナラティヴ・セラピー BOOK』、『コーチング心理学ガイドブック』『コーチング心理学ハンドブック』などの翻訳書などがあり、科学的なエビデンスと物語(ナラティブ)に基づくコーチングとウェルビーイング教育を推進している。累計4000名のコーチ、カウンセリング実績」(ワークショップを含む)、「累計6000回以上のセミナー実績」以上の実績がある。国土交通省 航空保安大学講師、元東北文化学園大学講師、元仙台医療センター看護学校講師、元若者サポートセンター講師など。教育機関、海外・国外の法人企業などで講師を担当実績がある。学校法人・企業法人・医療法人(リハビリ)など、主に管理職に関わる講師を数多く担当。座右の銘は、「我以外皆我師」、失敗・挫折もたくさんしており、「万事塞翁が馬」大切にしている。「自己肯定感が低いからこそ成長できる」ことを大切にしている。







