なぜ「性格」は十人十色なのか? 進化心理学で解き明かすパーソナリティの謎
なぜ「性格」は十人十色なのか?
進化心理学で解き明かすパーソナリティの謎
あなたの「内向的な性格」は、太古の昔から生き残るために磨かれた武器かもしれない。
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はじめに|「性格」は、進化の産物
「自分は人見知りだから損している」「心配性すぎて疲れる」——そんなふうに、自分の性格を「弱点」だと感じたことはありませんか?
でも、ちょっと待ってください。
現代の進化心理学は、こんな驚くべき視点を提示しています。「あなたの性格特性は、数万年にわたる人類の歴史の中で『生き残るために有利だった』から受け継がれてきた可能性が高い」というのです。
この記事では、心理学における性格の代表的モデル「ビッグファイブ(Big Five)」と、その背後にある感情・動機づけシステム「ANPS(情動神経科学的パーソナリティスケール)」を組み合わせながら、「なぜ人の性格はこれほど多様なのか」を進化の観点から解説します。難しい専門用語はできるだけ噛み砕いて説明しますので、ぜひ最後までお読みください。
ビッグファイブとは?──5つの性格次元の基礎知識
心理学者たちが長年の研究で導き出した「性格の普遍的な5つの軸」、それがビッグファイブです。文化や国籍を超えて、人間の性格はおおむねこの5次元で捉えられると言われています。
| 特性名 | 高い場合の特徴 | 低い場合の特徴 |
| 外向性 | 社交的・積極的・行動的 | 内向的・慎重・落ち着いている |
| 協調性 | 思いやりがある・協力的 | 競争的・自己主張が強い |
| 誠実性 | 計画的・真面目・自己規律が高い | 柔軟・衝動的・自由奔放 |
| 神経症傾向 | 不安・心配性・感情的になりやすい | 安定・冷静・ストレス耐性が高い |
| 開放性 | 好奇心旺盛・創造的・新しいもの好き | 現実的・保守的・慣例を好む |
これらはそれぞれ独立した軸であり、「高い・低い」どちらが「良い」というわけではありません。ここが重要なポイントです。
ANPS(情動神経科学的パーソナリティスケール)との接続
ビッグファイブは「行動レベル」の性格を測るモデルですが、その根底には脳の感情・動機づけシステムが働いています。神経科学者ヤーク・パンクセップ(Jaak Panksepp)が提唱したANPSは、哺乳類に共通する7つの基本的な感情システムを特定しました。
| 感情システム | はたらき | 対応するビッグファイブ |
| SEEKING(探索) | 好奇心・動機・探求 | 開放性 |
| PLAY(遊び) | 社会的遊び・同盟形成 | 外向性 |
| CARE(養育) | 共感・親切・養育行動 | 協調性↑ |
| FEAR(恐怖) | 脅威検出・回避行動 | 神経症傾向 |
| SADNESS(悲しみ) | 喪失感・孤独感の認識 | 神経症傾向 |
| ANGER(怒り) | フラストレーション・攻撃性 | 協調性↓・神経症傾向 |
これらのシステムは脳の深部(扁桃体・視床下部など)に根ざしており、「意志の力で変えられる」ような表面的な行動パターンではなく、神経生物学的な基盤を持っています。あなたの性格が「なかなか変わらない」と感じるのは、ある意味では当然のことなのです。
5つの性格特性、それぞれの「進化的意味」
では、各性格特性が進化的にどのような意味を持つのか、具体的に見ていきましょう。
① 外向性──社会を動かすリーダー遺伝子
「飲み会が大好き」「初対面でもすぐ打ち解ける」——その社交性は、人類史において「生き残り戦略」だった。
外向性の高い人は、ANPSの「PLAY(遊び)システム」が活発です。これは単なる「遊び好き」ではなく、社会的な絆を作り、同盟を形成し、集団内での地位と資源を獲得するための神経システムです。
進化的利点: 狩猟採集社会において、広い人脈と活発な行動力は食料・安全・繁殖機会の確保に直結しました。集団の中でリーダーシップを取れる人物は、より多くの資源と仲間を得られたのです。
進化的コスト: ただし、積極的なリスクテイクは捕食者に遭遇する危険や、競争相手との衝突リスクも高めます。また、外向的な人は子育てへの長期投資が少なくなる傾向も指摘されています(Nettle, 2006)。
現代への示唆: 外向性の高い人が多い環境では、逆に内向的な人が「希少性」として周波数依存選択的に有利になることもあります。どちらが「良い」かは、環境次第なのです。
② 協調性──集団を守る「養育」と「平和」の本能
「つい人に優しくしてしまう」「争いごとが苦手」——それは、集団の結束を守るために磨かれた本能かもしれない。
協調性はANPSの「CARE(養育)システム」と深く結びついています。他者を気遣い、共感し、協力関係を築く能力は、子どもの養育や集団内の平和維持に欠かせないものでした。
進化的利点: 互いに協力し合う社会では、協調性の高い個体が信頼を獲得し、長期的な互恵的利他主義(助け合い)のネットワークの中心になれます。これは安定した食料供給や防衛上の大きな強みでした。
進化的コスト: しかし、協調性が高すぎると「お人好し」になり、他者に利用されるリスクが上がります。また、攻撃的・競争的な戦略が有効な場面でも、それを取れないという弱点にもなり得ます(Međedović, 2020)。
現代への示唆: 現代社会においても、チームワークが求められる職場環境や、子育て・介護が中心となる場面では、高い協調性は大きな強みです。
③ 誠実性──長期投資と信頼の「遅延報酬」戦略
「計画を立てないと落ち着かない」「約束は必ず守る」——その真面目さは、遅いライフヒストリー戦略の表れかもしれない。
誠実性は、ビッグファイブの中で最も前頭前皮質(大脳新皮質)の「抑制機能」と関連する特性です。衝動を抑え、長期的な目標のために現在の快楽を我慢できる能力です。
進化的利点: 誠実性が高い人は、将来への投資(農耕・貯蔵・関係維持)が得意です。危険や不安定さが高い環境では、慎重で計画的な行動が生存率を劇的に高めます。また、高い信頼性は社会的評判を高め、長期的な協力関係を生みます(Nettle, 2006)。
進化的コスト: 一方で、柔軟性が低いため、環境が急変したときの対応が遅れることがあります。また、即時の機会(目の前の食料・繁殖機会)を逃すリスクもあります。
現代への示唆: 現代社会では、誠実性は健康寿命・学業成績・職業的成功との最も強い相関を持つ特性のひとつとして知られています(Marengo et al., 2021)。
④ 神経症傾向──見えない危険を察知する「敏感なレーダー」
「なんとなく不安でたまらない」「小さなことが気になってしまう」——その繊細さは、あなたの先祖が危険を生き延びた証かもしれない。
神経症傾向は、ANPSの「FEAR(恐怖)」「SADNESS(悲しみ)」「ANGER(怒り)」システムの活性化と対応します。ネガティブな感情を感じやすく、脅威に敏感に反応する特性です。
進化的利点: 危険が多く、食料も安全も保証されない環境では、「ちょっとした異変に気づける人」の生存率は格段に高かったはずです。神経症傾向の高い人は、捕食者の気配・集団内の裏切り者・食料の枯渇など、あらゆる脅威を早期に検知します(Montag & Panksepp, 2017)。
進化的コスト: しかし現代社会では、生命の危機ではない状況でも警戒システムが誤作動し、慢性的な不安・抑うつ・ストレス性疾患を引き起こすことがあります。神経症傾向の高さはメンタルヘルスリスクの主要因のひとつです(Montag et al., 2020)。
現代への示唆: 「感受性が高い」ことは、アートや対人サービス、リスク管理など、繊細な知覚が求められる分野での強みになります。「治すべき欠点」ではなく、「活かすべき特性」として捉え直すことが大切です。
⑤ 開放性──未知の地へと踏み出す「探検家」の本能
「新しいことへの好奇心が止まらない」「アートや哲学が好き」——それは、人類を未知の土地へと広げた探検家精神の遺伝かもしれない。
開放性はANPSの「SEEKING(探索)システム」と最も密接に結びついています。新奇なものへの関心、想像力、認知的柔軟性がこの特性の核心です。
進化的利点: 開放性が高い個体は、新しい食料源・居住地・道具・社会的戦略を発見・発明する可能性が高く、集団全体に革新をもたらします。また、環境変化への適応力が高いため、気候変動や移住など大きな変化の局面で生き残りやすかったと考えられます(Montag et al., 2020)。
進化的コスト: 一方で、未知の環境への接近は捕食者・毒物・感染症などへの曝露リスクを高めます。また、既存の規範や慣習を破ることで集団から排除されるリスクもあります。
現代への示唆: 開放性はイノベーション・創造性・芸術的才能と強く結びついており、現代の知識社会では特に高く評価される特性です。
なぜ、一種類の「最適な性格」に収束しなかったのか?
ここまで読んで、こんな疑問が浮かんだ方もいるかもしれません。「それなら、すべての人が一番『有利な』性格に進化していればよかったのでは?」
しかし、進化はそう単純ではありません。性格の多様性が維持された理由には、主に以下の3つが挙げられます。
- 環境の多様性: どの性格が有利かは環境によって異なります。豊かで安定した環境では外向性・開放性が有利ですが、危険で厳しい環境では神経症傾向・誠実性が生存に貢献します。人類は様々な環境に展開してきたため、多様な性格が生き残ったのです。
- 周波数依存選択: ある特性を持つ個体が集団内に少ないほど、その特性が有利になる現象です。たとえば外向的な人が多い集団では、内向的で思慮深い人が際立って価値を持ちます。
- 進化的トレードオフ: すべての特性には利点と欠点があり、「完璧な性格」は存在しません。高い外向性は資源獲得に有利ですが、危険も増す。高い神経症傾向は安全を高めるが、健康を損なう。これらのトレードオフが多様性を維持します(Nettle, 2006; Međedović, 2020)。
まとめ──あなたの性格は、祖先からの「贈り物」
進化心理学の視点から見ると、パーソナリティの多様性は「欠陥」や「個人の失敗」ではなく、数万年にわたる環境への適応の結果として理解できます。
外向的であることも、内向的であることも。心配性であることも、楽天的であることも。それぞれに進化的な意味があり、それぞれの環境で「強み」になりうるのです。
自分の性格を責めるのではなく、「この特性は、どんな環境・文脈で強みになるか」を問い直してみてください。あなたの性格は、あなたの祖先が生き延びてきた証です。
もちろん、性格は「生まれつき変えられない」というわけでもありません。環境・経験・意図的な努力によって、ある程度は変化します。ただ、その変化はとても緩やかで、「意志の力だけで即座に変えられる」ものではないことも、神経生物学的に説明できます。
大切なのは、「自分はこういう人間だ」と決めつけることでも、「こうあるべき」と無理をすることでもなく、自分の特性を理解した上で、それを活かせる環境と戦略を選んでいくことではないでしょうか。
参考文献
Marengo, D., et al. (2021). Big Five personality traits and social media use. Personality and Individual Differences.
Međedović, J. (2020). Evolutionary perspectives on personality. Evolutionary Psychological Science.
Montag, C., & Panksepp, J. (2017). Primary emotional systems and personality. Frontiers in Psychology.
Montag, C., et al. (2020). ANPS and Big Five. Journal of Research in Personality.
Nettle, D. (2006). The evolution of personality variation in humans and other animals. American Psychologist, 61(6), 622–631.
投稿者プロフィール

- 徳吉陽河(とくよしようが)は、コーチング心理学研究会・コーチング心理学協会の創設者の一人であり、日本・世界のおけるコーチング心理学のパイオニア。コーチング心理士、公認心理師・キャリアコンサルタント、認定心理士(心理調査)、ポジティブ心理療法士、として教育・医療・福祉・産業分野で活動する専門家。東北大学大学院博士後期課程で研究し、国際コーチング心理学会、国際ポジティブ心理学会など、世界で学び、研究を発表。教育プログラム、心理尺度開発なども専門としている。著書に『ポジティブ大全』『科学的に正しい脳を活かす「問いのコツ」 結果を出す人はどんな質問をしているのか?』『ナラティヴ・セラピー BOOK』、『コーチング心理学ガイドブック』『コーチング心理学ハンドブック』などの翻訳書などがあり、科学的なエビデンスと物語(ナラティブ)に基づくコーチングとウェルビーイング教育を推進している。累計4000名のコーチ、カウンセリング実績」(ワークショップを含む)、「累計6000回以上のセミナー実績」以上の実績がある。国土交通省 航空保安大学講師、元東北文化学園大学講師、元仙台医療センター看護学校講師、元若者サポートセンター講師など。教育機関、海外・国外の法人企業などで講師を担当実績がある。学校法人・企業法人・医療法人(リハビリ)など、主に管理職に関わる講師を数多く担当。座右の銘は、「我以外皆我師」、失敗・挫折もたくさんしており、「万事塞翁が馬」大切にしている。「自己肯定感が低いからこそ成長できる」ことを大切にしている。










