頑張らなくていいよは本当か? ホワイトハラスメントとは? 学習性無気力感 コーチング心理学 用語
ホワイトハラスメントと学習性無気力感
ホワイトハラスメントについて
近年注目されている「ホワイトハラスメント」と「学習性無気力感」について、初心者の方にもわかりやすく解説します。それぞれの概念の定義、発生する背景、具体例、そして有効な対処法について学ぶことができます。
職場や学校、家庭など様々な場面で起こりうるこれらの問題について理解を深め、より健全な人間関係を築くためのヒントを見つけてみましょう。
必要以上に、頑張りすぎている日本人ですが、無駄な努力は避けるために、頑張らなくてもよいというのは、とても正しいと考えます。
わたしたちは、十分に頑張っているため、それはとても認めてほしいと願っています。
しかしながら、自分の本当に大切な課題や問題に乗り越えていくために、「頑張る必要がある場面で、頑張らなくていい」というやりとりが多くなっている点に疑問があり、検討してみました。
ホワイトハラスメントとは
定義と概要
ホワイトハラスメント(略してホワハラ)とは、上司や同僚が相手に対して過剰な優しさや配慮を示すことで、結果的に相手の本当の成長機会を奪ってしまう行為を指します。「良かれと思って」行う言動が、逆に相手の自立や成長を妨げてしまうという、善意から生じる新たな形のハラスメントです。
名前に「ホワイト(白・善良)」とあるように、表面上は優しく、良い意図で行われていることが多いのが特徴です。しかし、結果として相手の能力開発やキャリア形成を阻害する可能性があります。
発生する背景
ホワイトハラスメントが発生する主な背景には、以下のような要因があります:
- パワーハラスメントへの過剰な警戒
- 「ブラック企業」というレッテルを避けたい意識
- 部下の失敗を恐れる過保護な姿勢
- 自分で全て解決したほうが早いという思考
- ハラスメント防止への意識が高まる中での行き過ぎた配慮
特に、近年のハラスメント批判の高まりを受けて、「厳しく指導することがハラスメントと見なされるのではないか」という懸念から、必要な指導や成長機会の提供を控えてしまうケースが増えています。
ホワイトハラスメントの具体例
仕事を巻き取るケース
部下が担当している仕事について「自分がやったほうが早い」と考え、本来部下が経験すべき業務を上司が全て引き取ってしまう。結果として、部下は経験を積む機会を失い、スキルアップができない。
挑戦の機会を与えないケース
「失敗させたくない」「負担をかけたくない」という配慮から、部下に難しい仕事や新しいプロジェクトを任せない。その結果、部下は新しいスキルを身につける機会を逃し、成長が止まる。
必要なフィードバックを控えるケース
「傷つけたくない」という思いから、改善点や課題について正直なフィードバックを避ける。その結果、部下は自分の弱点を認識できず、改善の機会を失う。
過剰なサポートのケース
部下が自分で考え、解決する前に、すぐにアドバイスやサポートを提供してしまう。その結果、部下は自分で問題解決する能力を養えない。
ホワイトハラスメントの影響
- 自立心や主体性の喪失
- 自己効力感の低下
- スキルアップの機会損失
- キャリア形成の停滞
- 最終的な離職や転職
ホワイトハラスメントの対処法
上司・指導者側の対策
適切なコミュニケーション
「配慮」と「放任」は異なります。部下との対話を増やし、どの程度のサポートを求めているのか、どのように成長したいと考えているのかを理解しましょう。一方的な思い込みではなく、双方向のコミュニケーションを心がけることが重要。
適切な難易度の仕事を任せる
部下の現在の能力よりも少し難しい、しかし達成可能な仕事を任せることで、成長を促します。「守りすぎ」も「任せすぎ」もバランスが重要です。失敗しても適切なフォローと学びの機会を提供することで、部下は安心して挑戦できます。
段階的な権限委譲
一度に全ての責任を押し付けるのではなく、段階的に権限を委譲していきましょう。初めは小さな決定から任せ、成功体験を積み重ねることで自信をつけさせます。
部下・被害者側の対策
自分の意思を明確に伝える
「もう少し自分でやってみたい」「このプロジェクトに挑戦したい」など、自分の意思や希望をはっきりと伝えましょう。上司は悪意なく行動している場合が多いため、あなたの気持ちや希望を知らせることが重要です。
信頼関係の構築
上司との信頼関係を構築し、あなたの能力や意欲を示すことで、過剰な配慮を減らすことができます。小さな成功を積み重ね、徐々に任せてもらえる範囲を広げていきましょう。
組織としての対策ポイント
- 適切な指導とハラスメントの違いについての研修
- 定期的な1on1ミーティングの奨励
- 成長のための失敗を許容する文化の醸成
- 段階的な権限委譲のガイドライン作成
- 多様なフィードバック方法の導入
学習性無気力感とは
定義と概要
学習性無気力感(学習性無力感)とは、長期間にわたって回避できないストレスや困難な状況に置かれた結果、「何をしても状況は変わらない」「自分には無理だ」と学習してしまい、行動を起こそうとしなくなる心理状態を指します。
この概念は1967年に心理学者マーチン・セリグマンによって提唱されました。犬を使った実験で、逃れられない電気ショックを受け続けた犬は、後に逃げることができる状況になっても、諦めて逃げようとしなくなることを発見したことがきっかけです。
発生するメカニズム
学習性無気力感が発生する主なプロセスは以下の通りです:
- 制御不能な状況の経験 – 自分の行動に関わらず結果が変わらない状況を体験
- 認知的理解の形成 – 「何をしても無駄だ」という考え方を学習
- 般化 – この考え方が他の状況にも広がる
- 行動の変化 – 努力や挑戦をしなくなる
このプロセスを経ることで、本来は回避可能な状況でも、人は行動を起こさなくなります。つまり、「やってもムダだ」という思考パターンが定着してしまうのです。
学習性無気力感の具体例
学校での事例
何度勉強しても良い成績が取れない経験が続くと、「自分には勉強の才能がない」と思い込み、努力すること自体をやめてしまう。実際には学習方法の問題かもしれないのに、自分の能力そのものを疑ってしまう。
職場での事例
提案や意見が何度も却下される経験を繰り返すと、「自分の意見は価値がない」と考え、会議で発言しなくなる。自分の考えを伝えることをあきらめ、受動的な姿勢になってしまう。
人間関係での事例
何度も人間関係で裏切られた経験から、「誰も信頼できない」と考え、新たな人間関係を構築しようとしなくなる。本来なら良好な関係が築ける可能性があっても、試そうとすらしない状態になる。
キャリアでの事例
何度も転職や昇進に失敗した経験から、「自分にはもう成長の見込みはない」と考え、新しい挑戦や学習をしなくなる。現状に安住し、キャリアアップの機会を自ら放棄してしまう。
学習性無気力感の症状
- 意欲の低下・無気力
- 自己効力感(自分にはできるという感覚)の低下
- 消極的・受動的な態度
- 新しいことへの挑戦を避ける
- ネガティブな思考パターン
- うつ症状との関連性
学習性無気力感の対処法
個人でできる対策
小さな成功体験を積み重ねる
大きな目標ではなく、確実に達成できる小さな目標から始めます。例えば「3日間連続で10分だけ勉強する」など、非常に簡単な目標を設定し、確実に成功体験を得ることが重要です。小さな成功を積み重ねることで、「自分にもできる」という感覚を取り戻せます。
再帰属訓練
失敗の原因を自分の能力や性格のせいにするのではなく、方法や状況のせいと考え直す訓練です。「自分には才能がないから失敗した」ではなく「学習方法が合っていなかったから失敗した」と捉え直すことで、次の挑戦への意欲が湧きます。
代理経験(モデリング)
自分と似た状況から立ち直った人の体験を知ることで、「自分も変えられるかもしれない」という希望を持つことができます。ロールモデルを見つけ、その人の行動や考え方を学びましょう。
身体と心の健康管理
十分な睡眠、バランスの良い食事、適度な運動は、メンタルヘルスの基盤となります。特に朝の日光浴や規則正しい生活リズムは、無気力感の改善に効果的です。
周囲ができるサポート
適切なフィードバックの提供
努力や過程を認め、具体的かつ建設的なフィードバックを提供しましょう。「がんばったね」だけでなく、「◯◯という方法がうまくいったね」など、具体的に何が良かったかを伝えることが重要です。
適切な難易度の課題設定
成功確率の高い課題から始め、少しずつ難易度を上げていくことで、自己効力感を高めることができます。段階的な成功体験が、「自分にもできる」という感覚を育みます。
専門的なサポート
学習性無気力感が深刻な場合や、うつ症状を伴う場合は、心理カウンセラーや精神科医などの専門家に相談することも検討しましょう。認知行動療法などの専門的アプローチが効果的な場合があります。
両者の関連性
ホワイトハラスメントと学習性無気力感は、一見異なる概念のように見えますが、実は密接に関連しています。
ホワイトハラスメントが学習性無気力感を引き起こす可能性
過剰な配慮や保護のもとでは、自分で問題解決をする機会が奪われ、「自分では何もできない」という思い込みが強化されます。その結果、自発的に行動を起こさなくなる学習性無気力感に陥りやすくなります。特に若い世代や新入社員は、過保護な環境で育てられることでチャレンジ精神や自己効力感を失う恐れがあります。
共通する解決策
両方の問題に共通する解決策としては、以下のような取り組みが効果的です:
- 適切な難易度の課題設定 – 挑戦できる範囲で少し難しい課題を与える
- 段階的な経験の蓄積 – 小さな成功体験から徐々に難度を上げていく
- 建設的なフィードバック – 結果だけでなくプロセスも評価する
- 自律性の尊重 – 自己決定の機会を提供する
- 適切な失敗の経験 – 安全な環境で失敗と回復を経験させる
まとめ
ホワイトハラスメント
- 過剰な優しさや配慮が逆に相手の成長を阻害する現象
- 善意から生じるため、加害者も被害者も気づきにくい
- 適切な難易度の仕事を任せ、成功体験を積ませることが大切
- 双方向のコミュニケーションが問題解決の鍵
学習性無気力感
- 長期的なストレスや困難から「何をしても無駄」と学習してしまう状態
- 小さな成功体験の積み重ねが重要
- 失敗の原因を適切に帰属させる訓練が効果的
- 健康管理と専門家のサポートも検討する
健全な関係性のために
ホワイトハラスメントも学習性無気力感も、適切なバランスを見つけることが重要です。過保護すぎず、放任しすぎず、相手の成長を促すためには何が必要かを常に考え、コミュニケーションを大切にしましょう。そして、小さな一歩から始め、少しずつ自分の可能性と自信を広げていくことが、どちらの問題にも有効なアプローチとなります。
投稿者プロフィール

- 徳吉陽河(とくよしようが)は、コーチング心理学研究会・コーチング心理学協会の創設者の一人であり、日本・世界のおけるコーチング心理学のパイオニア。コーチング心理士、公認心理師・キャリアコンサルタント、認定心理士(心理調査)、ポジティブ心理療法士、として教育・医療・福祉・産業分野で活動する専門家。東北大学大学院博士後期課程で研究し、国際コーチング心理学会、国際ポジティブ心理学会など、世界で学び、研究を発表。教育プログラム、心理尺度開発なども専門としている。著書に『ポジティブ大全』『科学的に正しい脳を活かす「問いのコツ」 結果を出す人はどんな質問をしているのか?』『ナラティヴ・セラピー BOOK』、『コーチング心理学ガイドブック』『コーチング心理学ハンドブック』などの翻訳書などがあり、科学的なエビデンスと物語(ナラティブ)に基づくコーチングとウェルビーイング教育を推進している。累計4000名のコーチ、カウンセリング実績」(ワークショップを含む)、「累計6000回以上のセミナー実績」以上の実績がある。国土交通省 航空保安大学講師、元東北文化学園大学講師、元仙台医療センター看護学校講師、元若者サポートセンター講師など。教育機関、海外・国外の法人企業などで講師を担当実績がある。学校法人・企業法人・医療法人(リハビリ)など、主に管理職に関わる講師を数多く担当。座右の銘は、「我以外皆我師」、失敗・挫折もたくさんしており、「万事塞翁が馬」大切にしている。「自己肯定感が低いからこそ成長できる」ことを大切にしている。
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