身体的ウェルビーイングコーチング入門

254816a41502d66b67431608a4f8cdc7
entry 4

「身体的ウェルビーイング」の概念を歴史的背景・理論モデル・主要提唱者・実証研究・介入手法・コーチング応用に分けて、より詳細に解説します。

🔷 1. 定義と歴史的背景

▷ WHO(1946)の健康定義

「健康とは、身体的、精神的および社会的に完全に良好な状態であり、単に病気や虚弱でないことではない」

この定義が初めて「身体的な健康=病気がない状態」ではなく、ウェルビーイングとしての健康を提示しました。


🔷 2. 理論モデルにおける身体的ウェルビーイング

モデル名 身体的ウェルビーイングの扱い
PERMA(セリグマン) 直接の構成要素には含まれないが、生活習慣がポジティブ感情や活力に影響すると補足的に述べられる。
Gallupの5つのウェルビーイング(Rath & Harter) 5要素の一つに「身体的ウェルビーイング」。主に「エネルギー」「日々の活動力」に焦点。
Wellness Wheel(Travis & Ryan) 身体的ウェルネス(Physical wellness)を中心軸に据え、運動・睡眠・栄養・禁煙などが含まれる。
Ryffの心理的ウェルビーイング 身体的健康自体は要素ではないが、「自己統制(Environmental Mastery)」の中に間接的に含まれる。

🔷 3. 主な提唱者と研究者(より詳細に)

名前 分野 貢献内容
C. E. A. Winslow(1920) 公衆衛生 「身体的健康は社会的に促進すべきもの」と初めて言及
Dean Ornish(米国) ライフスタイル医学 栄養・運動・瞑想・つながりの統合による心疾患の予防・逆転を証明
Michael Marmot 社会疫学 社会的格差が身体的健康に大きく影響することを「Whitehall Study」で実証
Shelley Taylor 健康心理学 ストレスと健康の関係、コーピングスタイルと免疫反応の研究
Christopher Peterson / Tom Rath ポジティブ心理学 / Gallup研究 「身体的ウェルビーイングは意識的に習慣を選ぶ力」として定義

🔷 4. 身体的ウェルビーイングの構成要素(詳細)

項目 内容 科学的エビデンス
運動 週150分以上の中程度運動 認知機能、感情調整、心血管系に効果(HHSガイドライン)
栄養 地中海食・バランス食 慢性疾患予防、脳機能向上(DASH・地中海食研究)
睡眠 7〜9時間の質の良い睡眠 睡眠不足は肥満・うつ・免疫低下に直結(Walker, 2017)
予防医療 健康診断、ワクチン接種 早期発見・早期治療
ストレス管理 呼吸法・マインドフルネス 心拍数・血圧の安定、免疫向上(Kabat-Zinnら)

 

次に、ルドルフ・タンジ博士が提唱するSHIELDメソッドの6つのステップを、概要とともに表にまとめました:


🧠 SHIELDメソッド:認知症予防と脳の健康を高める6つのステップ

項目 英語名(頭文字) 内容・概要
1 Sleep(S) 毎晩7〜8時間の質の高い睡眠をとることで、認知機能低下の原因となるプラークの除去を促進。
2 Handling stress(H) 瞑想や期待値の調整により、ストレスホルモン(コルチゾール)を減少させ、脳の疲労を軽減。
3 Interaction with friends(I) 社会的つながりを保つことで、孤独による認知症リスクを軽減し、灰白質の維持に貢献。
4 Exercise(E) 有酸素運動や筋トレにより、血流改善・神経細胞の成長・アミロイド分解を促進。週150分が目安。
5 Learning new things(L) 新しい学びによりシナプスを強化し、脳の柔軟性と記憶力を維持。語学や創造的活動が効果的。
6 Diet(D) 地中海食を基本とした食生活で、腸内環境を整え、脳の炎症やアミロイド蓄積を抑制。

このSHIELDメソッドは、どの年齢層にも有効で、日々の生活に取り入れやすいのが魅力です。

https://www.forbes.com/sites/bryanrobinson/2025/06/14/6-steps-to-preserve-brain-health-now-to-prevent-dementia-as-you-age/


🔷 5. 介入・実践例

◉ 医学・公衆衛生領域での介入

  • ウォーキング・プログラム(例:10,000歩チャレンジ)
  • 企業のヘルスプロモーション施策(例:禁煙支援・睡眠研修)
  • 食習慣の行動変容支援(例:栄養コーチング)

◉ コーチング心理学・ポジティブ心理学での応用

項目 介入例 活用目的
✦ 運動習慣 行動計画・if-thenプランニング 習慣化支援・自己効力感の向上
✦ 睡眠改善 スリープジャーナル + 質問 認知再構成、自己調整力の育成
✦ 栄養支援 フードマインドフルネス 食行動の意識化と選択力強化
✦ ストレス対処 呼吸法・簡易瞑想の導入 自律神経の調整と心身の一体感の育成

🔷 6. コーチングでの質問例

身体的ウェルビーイングを高めるコーチング質問は、「気づき」と「選択肢の創出」に焦点を当てると効果的です。

テーマ 質問例
睡眠 「最近、目覚めたときの感覚はいかがですか?」「質の高い睡眠のために、今からできることは?」
食習慣 「あなたの体が喜ぶ食べ物は何だと思いますか?」「今週、食事で1つ変えてみるとしたら何を選びますか?」
運動 「体を動かしたとき、どんな感覚になりますか?」「もし“楽しい”運動があるとしたら、それは何ですか?」
エネルギー 「最近、一番元気を感じたのはいつですか?」「疲れたとき、あなた自身をどう労っていますか?」

🔷 7. 補足:最近の研究動向(2020年代)

  • 身体活動の脳機能への効果:有酸素運動が前頭前野の実行機能・ワーキングメモリを高める(Erickson et al., 2020)
  • マインドフルネスと身体感覚:身体の感覚への気づきがストレス軽減や体調改善に貢献(Farb et al., 2015)
  • 職場介入:職場における「健康習慣支援プログラム」が離職率とエンゲージメントに影響(Harvard School of Public Health)

✅ まとめ:身体的ウェルビーイングとは

自分の身体の声に気づき、日常に活力とバランスをもたらす選択を重ねること
であり、単なる“病気でない”こと以上の、能動的な健康習慣の積み重ねです。


身体的ウェルビーイング(Physical Well-Being)は、健康の維持や増進だけでなく、心理的・社会的側面とも密接に関連しています。近年の研究では、身体的ウェルビーイングが単なる病気の不在ではなく、生活の質や幸福感、社会的つながりなど多面的な要素から成り立つことが強調されています。

身体的ウェルビーイングの構成要素

  • 主観的ウェルビーイング(SWB)との関係
    身体的ウェルビーイングは、人生の満足度やポジティブな感情、ネガティブな感情の低減といった主観的ウェルビーイングと強く関連しています(Simonsmeier et al., 2020; Moskowitz et al., 2018; Oishi, 2021; Mitić et al., 2023)。
  • 身体的健康と心理的健康の相互作用
    心理的ウェルビーイング(例:楽観性、人生の目的、個人的成長)は、将来の身体的健康を予測し、逆に身体的健康も心理的ウェルビーイングに影響を与えますが、心理的ウェルビーイングの方が身体的健康への影響が大きいとされています(Moskowitz et al., 2018; Raldiris & Dzierzewski, 2019; Gandhi, 2024; Shinde, 2024)。

影響要因とメカニズム

  • ライフスタイルと社会的資本
    運動習慣や社会的交流の頻度が高いほど、ウェルビーイングが高まり、それが身体的健康の維持・向上につながることが示されています(Zikos et al., 2022; Simonsmeier et al., 2020; Tamura, 2024)。
  • テクノロジーの活用
    ウェアラブルデバイスやIoTを活用した「コネクテッドヘルス」は、行動変容や健康管理を支援し、個人に合わせた介入や社会的つながりの強化に役立つとされています(Tamura, 2024)。

特殊な状況・集団での知見

  • 高齢者や慢性疾患患者
    高齢者では、社会的孤立の解消や目的意識の維持が身体的ウェルビーイングに重要です(Zikos et al., 2022; Raldiris & Dzierzewski, 2019; Tamura, 2024)。また、乳がん患者では、病気に対する認識や感情が身体的ウェルビーイングに影響を与えることが報告されています(Simos et al., 2025)。
  • 痛みの役割
    身体的痛みは、主観的ウェルビーイングのネガティブな側面の一部として捉えられ、痛みの有無が全体的なウェルビーイング評価に影響します(Mitić et al., 2023)。

課題と今後の展望

  • 測定と介入の課題
    身体的ウェルビーイングの測定方法や、心理的・社会的要素を含めた介入の効果検証には課題が残っています(Moskowitz et al., 2018; Oishi, 2021; Tamura, 2024)。
  • テクノロジーの倫理・普及
    コネクテッドヘルスの普及には、プライバシーやデータ管理、デジタルリテラシーの向上が必要です(Tamura, 2024)。

まとめ

身体的ウェルビーイングは、心理的・社会的要素やライフスタイル、テクノロジーの活用と密接に関係しています。運動や社会的交流、ポジティブな心理状態の維持が、健康の維持・増進に重要であり、今後は個人に合わせた介入やテクノロジーの活用がさらに期待されます。

References

Zikos, V., Shangkhum, P., & Kesavayuth, D. (2022). Well-Being and Physical Health: A Mediation Analysis. Journal of Happiness Studies, 23, 2849 – 2879. https://doi.org/10.1007/s10902-022-00529-y

Simonsmeier, B., Simacek, T., Buecker, S., Terwiel, S., & Ingwersen, B. (2020). Physical activity and subjective well-being in healthy individuals: a meta-analytic review. Health Psychology Review, 15, 574 – 592. https://doi.org/10.1080/17437199.2020.1760728

Moskowitz, J., Schuette, S., Boughton, S., Bassett, S., Shiu, E., & Hernandez, R. (2018). Psychological Well-Being and Physical Health: Associations, Mechanisms, and Future Directions. Emotion Review, 10, 18 – 29. https://doi.org/10.1177/1754073917697824

Raldiris, T., & Dzierzewski, J. (2019). WHICH CAME FIRST, WELL-BEING OR PHYSICAL HEALTH? A LONGITUDINAL INVESTIGATION IN MID- TO LATE LIFE. Innovation in Aging, 3, S721 – S721. https://doi.org/10.1093/geroni/igz038.2642

Oishi, S. (2021). Subjective Well-Being and Physical Health. **.

Gandhi, R. (2024). Mental health and physical well being: A correlation. International Journal of Advanced Psychiatric Nursinghttps://doi.org/10.33545/26641348.2024.v6.i1b.149

Simos, P., Karademas, E., Sousa, B., Stamatakos, G., Roziner, I., Mattson, J., Kolokotroni, E., Almeida, S., Oliveira-Maia, A., Poikonen-Saksela, P., Lemos, R., Kondylakis, H., Mazzocco, K., & Pat-Horenczyk, R. (2025). The illness representations-physical well-being interplay over time in breast cancer patients.. Health psychology : official journal of the Division of Health Psychology, American Psychological Associationhttps://doi.org/10.1037/hea0001499

Shinde, A. (2024). The Impact of Positive Mental State on Physical Health. International Journal For Multidisciplinary Researchhttps://doi.org/10.36948/ijfmr.2024.v06i02.17268

Tamura, T. (2024). Technologies for well-being: a grand challenge in connected health. Frontiers in Digital Health, 6. https://doi.org/10.3389/fdgth.2024.1503554

Mitić, P., Trajković, N., Bogataj, Š., & Barić, R. (2023). Editorial: Effects of physical activity on psychological well-being. Frontiers in Psychology, 14. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2023.1121976

投稿者プロフィール

徳吉陽河
徳吉陽河
徳吉陽河(とくよしようが)は、コーチング心理学研究会・コーチング心理学協会の創設者の一人であり、日本・世界のおけるコーチング心理学のパイオニア。コーチング心理士、公認心理師・キャリアコンサルタント、認定心理士(心理調査)、ポジティブ心理療法士、として教育・医療・福祉・産業分野で活動する専門家。東北大学大学院博士後期課程で研究し、国際コーチング心理学会、国際ポジティブ心理学会など、世界で学び、研究を発表。教育プログラム、心理尺度開発なども専門としている。著書に『ポジティブ大全』『科学的に正しい脳を活かす「問いのコツ」 結果を出す人はどんな質問をしているのか?』『ナラティヴ・セラピー BOOK』、『コーチング心理学ガイドブック』『コーチング心理学ハンドブック』などの翻訳書などがあり、科学的なエビデンスと物語(ナラティブ)に基づくコーチングとウェルビーイング教育を推進している。累計4000名のコーチ、カウンセリング実績」(ワークショップを含む)、「累計6000回以上のセミナー実績」以上の実績がある。国土交通省 航空保安大学講師、元東北文化学園大学講師、元仙台医療センター看護学校講師、元若者サポートセンター講師など。教育機関、海外・国外の法人企業などで講師を担当実績がある。学校法人・企業法人・医療法人(リハビリ)など、主に管理職に関わる講師を数多く担当。座右の銘は、「我以外皆我師」、失敗・挫折もたくさんしており、「万事塞翁が馬」大切にしている。「自己肯定感が低いからこそ成長できる」ことを大切にしている。

こんな講座があります

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です