認知行動コーチングを活用したセルフコンパッションコーチングとは? セルフコンパッション入門
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認知行動コーチング × セルフコンパッション ガイド
科学的エビデンスに基づいた自己思いやりの実践方法
はじめに
このガイドでは、認知行動コーチングとセルフコンパッション(自己思いやり)を組み合わせたアプローチを紹介します。自己批判から自己思いやりへと移行するための実践的な方法を学び、心の健康と幸福感を高めていきましょう。
セルフコンパッションとは
セルフコンパッションとは、自分自身に対して思いやりを持ち、苦しみや失敗、不完全さに直面したときでも、自分を批判するのではなく、優しく接することができる力です。
セルフコンパッションの3つの要素
- 自分への優しさ(Self-kindness):自己批判ではなく、自分自身を理解し、優しく接すること
- 共通の人間性(Common humanity):苦しみや失敗は個人だけの経験ではなく、全ての人間に共通する体験であると認識すること
- マインドフルネス(Mindfulness):つらい感情や思考に対して、判断せず、バランスのとれた気づきを持つこと
認知行動コーチングとの関連性
認知行動コーチングは、思考、感情、行動の相互関連性に注目するアプローチです。セルフコンパッションと組み合わせることで、以下のような相乗効果が期待できます:
認知行動コーチング × セルフコンパッション
認知の変容
自己批判的な思考パターンを、より思いやりのある視点へと変換します
感情の調整
困難な感情に対して、より健全な形で向き合い、受け入れる力を育みます
行動の変化
自己批判による行動の制限ではなく、自己成長につながる行動を促進します
回復力の向上
困難から立ち直る力を高め、挫折や失敗に柔軟に対応できるようになります
セルフコンパッションコーチングの技法とは? gは効果量
思いやりの呼吸法
マインドフルな呼吸に注意を向けながら、自分自身に対する優しさと思いやりを育む実践。呼吸とともに「私は安全である」「私は自分を受け入れる」などの肯定的な言葉を内的に唱えることで、自律神経系の安定と安心感を促進します。
効果:ストレス低減、感情制御の改善、自己批判の軽減(g = 0.67)
思いやりのある内的対話
自己批判的な内的対話を認識し、より思いやりのある言葉に置き換える練習。困難な状況で、自分に対してどのような言葉をかけているか気づき、「大切な友人に話しかけるように」自分自身に語りかける方法を身につけます。
効果:抑うつ症状の減少(g = 0.66)、自己批判の軽減(g = 0.56)
共通の人間性の認識
困難や失敗は人間として共通の経験であることを理解する実践。「私だけが苦しんでいる」という孤立感から解放され、「これは人間としての共通体験だ」という視点に移行するワークを通じて、つながりの感覚を育みます。
効果:孤独感の軽減、レジリエンスの向上、人間関係の質の改善
セルフコンパッションブレイク
日常生活の中で、困難に直面した際に一時停止して3つのステップを実践する方法: 1) 苦しみを認識する(「これは苦しい瞬間だ」) 2) 共通の人間性を思い出す(「苦しみは人間共通の経験だ」) 3) 優しさを自分に向ける(「この瞬間、自分に優しくいよう」)
効果:ストレス対処力の向上、反芻思考の減少(g = 1.37)
実践的なセルフコッパンションコーチングの質問集
以下の質問を使って、自己批判から自己思いやりへと思考を転換する練習をしてみましょう。
自己批判を認識するための質問
- 最近、自分を厳しく批判したのはどのような状況ですか?
- そのとき、自分に対してどのような言葉をかけましたか?
- その言葉のトーンや口調はどのようなものでしたか?
- その自己批判によって、どのような感情が生じましたか?
- その感情は、体のどこにどのように現れましたか?
思いやりのある視点への転換質問
- 同じ状況で苦しんでいる親しい友人にどのような言葉をかけますか?
- この状況について、より思いやりのある見方はありますか?
- 多くの人が同じような経験をしていることを、どのように認識できますか?
- この状況から1年後、どのように感じているでしょうか?
- 今この瞬間、自分を思いやるために何ができますか?
セルフコンパッションコーチングのワーク例
このワークシートは、自己批判的な思考を認識し、より思いやりのある視点へと変換するための効果的なツールです。
セルフコンパッションワークシート
状況
大切なプレゼンテーションで緊張して話がうまくまとまらなかった
自己批判的思考
「なんて失敗したんだろう。みんなの前で恥をかいた。こんな簡単なことさえできない私はダメだ。」
感情と身体感覚
恥ずかしさ、不安、胸の締め付け、肩の緊張
思いやりのある視点
「緊張するのは自然なこと。完璧である必要はない。誰でも時には言葉につまることがある。この経験から学び、次に活かそう。一つのプレゼンが全てを決めるわけではない。」
思いやりのある行動
深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。自分を責めるのをやめ、うまくできた部分も認める。次回のために建設的なフィードバックを求める。
日常生活での応用方法
セルフコンパッションを日常生活に取り入れるための実践的な方法を紹介します。
朝の実践
- 目覚めたら、3回深呼吸して一日の始まりを穏やかに迎える
- 鏡を見たときに、自分に対して優しい言葉をかける
- その日の自分への思いやりの意図を設定する
日中の実践
- 困難な状況に直面したら「セルフコンパッション・ブレイク」をとる
- 自己批判の声に気づいたら、より思いやりのある言葉に置き換える
- 短い「自分を労う」瞑想を行う(2〜3分)
夜の実践
- その日の自分を労う行動を3つ書き留める
- うまくいかなかったことを思いやりをもって振り返る
- 自分への感謝のメッセージを心の中で唱える
困難な時の実践
- 「これは苦しみの瞬間だ」と認識する
- 「苦しみは人間共通の経験だ」と思い出す
- 自分に優しく接する方法を具体的に考え実行する
セルフコンパッション・ワークシート
以下のワークシートを使って、自分自身への思いやりの実践を始めましょう。
1. 自己批判の気づき
最近、自分を批判した状況と、そのときの内なる声を書き出してください:
2. 友人への言葉
同じ状況で悩んでいる大切な友人に、あなたならどのような言葉をかけますか?
3. 思いやりのある視点
自分自身に対しても同じ思いやりをもって、新しい視点を書いてみましょう:
4. 具体的な自己ケア
この状況で自分を労わるために、どのような行動ができますか?
科学的エビデンス
セルフコンパッションの実践は、様々な科学研究によって効果が確認されています:
Ferrari et al.(2019)によるメタ分析では、セルフコンパッション介入は以下の領域で効果が示されています:
- 摂食行動の改善:大きな効果(g = 1.76)
- 反芻(ルミネーション)の軽減:大きな効果(g = 1.37)
- セルフコンパッションの向上:中程度の効果(g = 0.75)
- ストレスの軽減:中程度の効果(g = 0.67)
- うつ症状の軽減:中程度の効果(g = 0.66)
- マインドフルネスの向上:中程度の効果(g = 0.62)
- 自己批判の軽減:中程度の効果(g = 0.56)
- 不安の軽減:中程度の効果(g = 0.57)
認知行動コーチングとセルフコンパッションを組み合わせることで、自己理解を深め、行動変容を促すという相乗効果があります。心理的な回復力を高め、困難な状況に柔軟に対応できるようになることが期待できます。
*Hedges’ g 効果量
- 平均値の差を標準化して、異なる尺度のデータでも比較可能にする。
- 標本サイズが異なる場合に、より正確な効果量を算出できる。
小・中・大の目安として、一般的に以下の基準が用いられます:
- 小さい効果: g ≈ 0.2 中程度の効果: g ≈ 0.5 大きい効果: g ≈ 0.8
セルフコッパンションコーチングの事例 職場でのパフォーマンス不安
課題:30代男性、IT企業勤務。プレゼンテーションでの失敗経験から強い不安と自己批判に苦しみ、仕事の回避行動が増加。
介入:認知行動コーチングの枠組みで「失敗=無能」という認知の再構成と共に、セルフコンパッションの3要素を取り入れた。思いやりの呼吸法と共通の人間性の認識を日常に導入。
過食行動と自己批判
課題:20代女性、過食後の強い自己嫌悪と罪悪感のサイクルに悩む。完璧主義的な思考パターンが顕著。
介入:認知行動的アプローチで食行動記録と思考記録を実施。セルフコンパッションブレイクとマインドフルネスを組み合わせ、食事中の感覚への気づきと自己批判の軽減を図る。
うつ症状と反芻思考
課題:40代女性、離婚後のうつ症状と「自分は失敗者だ」という反芻思考に悩む。社会的引きこもり傾向。
介入:グループ形式のセルフコンパッションコーチング(8回)を実施。認知的再評価と共通の人間性に焦点。困難な感情を「観察」する技術と思いやりのある内的対話を練習。
学業ストレスと完璧主義
課題:大学生グループ(n=15)、試験ストレスと完璧主義的傾向による不安症状。高い自己批判と低い自己効力感。
介入:4週間のセルフコンパッションフォーカスの認知行動コーチング。非現実的な期待の特定、思いやりのある目標設定、ストレス対応のためのセルフコンパッションテクニックを導入。
参考文献
- Ferrari, M., Hunt, C., Harrysunker, A., Abbott, M. J., Beath, A. P., & Einstein, D. A. (2019). Self-compassion interventions and psychosocial outcomes: A meta-analysis of RCTs. Mindfulness, 10(8), 1455-1473.
- Gilbert, P. (2014). The origins and nature of compassion focused therapy. British Journal of Clinical Psychology, 53(1), 6-41.
- Neff, K. D., & Germer, C. K. (2013). A pilot study and randomized controlled trial of the mindful self‐compassion program. Journal of Clinical Psychology, 69(1), 28-44.
- Neff, K. D. (2003). Self-compassion: An alternative conceptualization of a healthy attitude toward oneself. Self and Identity, 2(2), 85-101.
投稿者プロフィール

- 徳吉陽河(とくよしようが)は、コーチング心理学研究会・コーチング心理学協会の創設者の一人であり、日本・世界のおけるコーチング心理学のパイオニア。コーチング心理士、公認心理師・キャリアコンサルタント、認定心理士(心理調査)、ポジティブ心理療法士、として教育・医療・福祉・産業分野で活動する専門家。東北大学大学院博士後期課程で研究し、国際コーチング心理学会、国際ポジティブ心理学会など、世界で学び、研究を発表。教育プログラム、心理尺度開発なども専門としている。著書に『ポジティブ大全』『科学的に正しい脳を活かす「問いのコツ」 結果を出す人はどんな質問をしているのか?』『ナラティヴ・セラピー BOOK』、『コーチング心理学ガイドブック』『コーチング心理学ハンドブック』などの翻訳書などがあり、科学的なエビデンスと物語(ナラティブ)に基づくコーチングとウェルビーイング教育を推進している。累計4000名のコーチ、カウンセリング実績」(ワークショップを含む)、「累計6000回以上のセミナー実績」以上の実績がある。国土交通省 航空保安大学講師、元東北文化学園大学講師、元仙台医療センター看護学校講師、元若者サポートセンター講師など。教育機関、海外・国外の法人企業などで講師を担当実績がある。学校法人・企業法人・医療法人(リハビリ)など、主に管理職に関わる講師を数多く担当。座右の銘は、「我以外皆我師」、失敗・挫折もたくさんしており、「万事塞翁が馬」大切にしている。「自己肯定感が低いからこそ成長できる」ことを大切にしている。
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