「職場の心理的安全性」と「フィードバックスキル」の関係 コーチング心理学より


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🧠「職場の心理的安全性」と「フィードバックスキル」の関係
― 心理的ネットワーク分析の研究を踏まえて ―
線の太さ=関連の強さ(相関の絶対値)
線の色=方向(青:正の関係、赤:負の関係)
を表しています。
職場の心理的安全性とフィードバックスキルの関係を心理的ネットワーク分析に基づいて考察しました。記事の主な目的は、心理的安全性が高い職場を築くには、単なる仲の良さではなく、建設的で未来志向の対話(フィードフォワード)とリーダーシップが不可欠であることを示すことです。分析の結果、心理的安全性リーダーシップが職場全体の安全性を高めるハブ的役割を果たしていることや、協調性とレジリエンスが人間関係と回復力を支える一方で、過度な勤勉性(完璧主義)が心理的安全性を低下させるリスクがあることが示されています。結論として、率直さと建設的な対話の両立を目指すフィードバック・フィードフォワードのスキル教育が、安全な職場環境を醸成するための鍵となっています。
1. 背景:心理的安全性とは何か

近年、「心理的安全性(Psychological Safety)」という言葉がビジネスの世界でも広く知られるようになりました。
心理的安全性とは、「チーム内で自分の意見を安心して言える」状態のことを指します(Edmondson, 1999)。
東京大学の研究チーム(佐々木ら, 2022)は、国際的に研究されている尺度を日本の職場向けに翻訳し,
「職場の心理的安全性の測定尺度」を開発しました。この尺度は,仕事のパフォーマンス・ワークエンゲージメント,組織内自尊感情,サーバントリーダーシップなど有意に関連することを示しています。
2. 今回の分析:職場スキルと性格傾向の関係を可視化
今回の心理的ネットワーク分析では、次の3領域のデータを組み合わせて可視化しました。
- 🔹 職場の心理的安全性(東京大学 日本語版尺度)
- 🔹 フィードバック・フィードフォワードスキル(自己効力感尺度)一般社団法人コーチング心理学協会研究開発
- 🔹 ビッグファイブ・パーソナリティ(TIPI-J;小塩ら, 2012)
その結果、心理的安全性リーダーシップ(上司が安心して意見を言える場を作る力)が、
職場全体の安全性や人間関係をつなぐハブとなっていることがわかりました。
心理的安全性リーダーシップ尺度(心理テスト)はこちらへ
3. 心理的安全性とフィードバック,パーソナリティの関係について発見と考察
💬(1)心理的安全性リーダーシップの中心的役割
分析では、「心理的安全性リーダーシップ(PS_Leader)」が、
クリティカル・フィードバック(建設的助言)、
ポジティブ・フィードバック(承認・称賛)、
フィードフォワード(未来志向の対話)
と強く関連していました。
つまり、安心して意見を出し合える職場には、**「伝え方の上手いリーダー」**がいるのです。
指摘だけでなく、**未来への視点を共有する「フィードフォワード」**が特に重要であることも確認されました。
🧩(2)勤勉性(誠実性)と心理的安全性の意外な関係
ビッグファイブの中で、**勤勉性(Conscientiousness)は一般的に「責任感が強く努力家」な特徴とされます。
実際、今回の分析でも、勤勉性はワークエンゲージメント(仕事への熱意)**と正の関連を示しました。
一方で、心理的安全性との関連は弱く、場合によってはわずかに負の傾向が見られました。
これは、真面目で責任感が強い人ほど、完璧を求めすぎて**「ミスを許さない文化」**を無意識に作ってしまうことがあります。
したがって、「勤勉さ」は組織の推進力となる一方で、行き過ぎた完璧主義は心理的安全性を下げるリスクがあるとも言えます。
🌱(3)レジリエンスと協調性が支える職場の人間関係
レジリエンス(心理的回復力)は、ポジティブ・フィードバックや職場の人間関係との関連が強く、
「失敗を学びに変える力」が、心理的安全性の土台を支えていることが示唆されました。
また、ビッグファイブの中で**協調性(Agreeableness)**は、
フィードバックの質や人間関係の安定に深く関わる傾向が見られました。
協調性は単なる「優しさ」ではなく、他者の意見を尊重し、建設的に意見交換できる力です。
このスキルが、チーム全体の信頼感を高める「ハブ」として機能していました。
🧩 心理的ネットワーク分析の結果 遠距離の関係

職場の心理的安全性(PS系)・フィードバックスキル(FB/FF系)・パーソナリティ特性(Big Five)・レジリエンス
の関連を同時に可視化したものです。
2. 主なグループまとまり
🟦 A. 心理的安全性グループ(左下)
構成要素:
- 職場の心理的安全性(PS_Safety)
- チームの安全性(PS_Team_Member)
- 同僚に対する安全性(PS_Team_Colleague)
- リーダーに対する安全性(PS_Team_Leader)
- 心理的安全性リーダーシップ(PS_Leader)
- 職場の人間関係(Relationship_Team)
特徴:
- 内部結合が非常に強く、特に「同僚・リーダー・チームの安全性」が密接に関連。
- 「PS_Leader(心理的安全性リーダーシップ)」が中核にあり、
リーダーが心理的安全性の橋渡し役を担っていることが示唆されます。 - **Relationship_Team(職場の人間関係)**との太い結びつきは、
心理的安全性が「関係性の質」に強く依存していることを裏づけています。
🟩 B. フィードバック・フィードフォワードグループ(右上)
構成要素:
- FB_All(フィードバックスキル総合)
- FF_All(フィードフォワード総合)
- Critical_Feedback(クリティカル・フィードバック)
- Positive_Feedback(ポジティブ・フィードバック)
特徴:
- FB_All と FF_All の間の結びつきが非常に強く(最も太い青線)、
**「過去に学ぶ力」と「未来を描く力」**がセットで機能していることを示しています。 - Critical_Feedback も強く関係しており、
率直な指摘ができる文化は、未来志向の対話と共存していることが分かります。 - Positive_Feedback はやや中心寄りで、職場関係(Relationship_Team)やレジリエンスと接続。
→ ポジティブな承認が「関係性」と「回復力」を支える軸になっている構造。
🟦 C. レジリエンス(Resilience)クラスター
特徴:
- 中央に位置し、心理的安全性クラスターとパーソナリティクラスターをつなぐ「ハブ」。
- 「ワークエンゲージメント(WORK_Engagement)」と強く結びつき、
ストレス耐性・前向きな回復力が仕事への没入を支える構造が見られます。 - Positive_Feedback・Agreeableness(協調性)との接続もあり、
「支え合い・承認・柔軟さ」がレジリエンスを高める方向に働いています。
🟧 D. ビッグファイブ・パーソナリティクラスター(右上〜左上)
構成要素:
- AAAgree(協調性)
- AAConsc(勤勉性/誠実性)
- AAExtra(外向性)
- AAOpen(開放性/知的好奇心)
- AANeuro(神経症傾向)
特徴:
- **協調性(AAGree)**が中心的で、フィードバックスキル群やレジリエンスとの結びつきが目立ちます。
→ 「共感的で協力的な性格」は、チームでの対話スキルを促進。 - 勤勉性(AAConsc)と神経症傾向(AANeuro)の間には赤線(負の関係)。
→ 真面目さが過剰になると、不安や緊張に転じる可能性。 - 外向性・開放性は、協調性と正に関連し、発言・探究・創造的関与を促進。
3. 相関の特徴的パターン
| 関係ペア | 相関の傾向 | 解釈 |
|---|---|---|
| FB_All ↔ FF_All | 強い正相関(青) | フィードバックと未来志向スキルは同時に高まる |
| PS_Leader ↔ Relationship_Team | 強い正相関(青) | リーダーの安全性促進行動が職場関係を強化 |
| Resilience ↔ WORK_Engagement | 強い正相関(青) | 回復力が高い人ほど仕事に熱意を持てる |
| AAGree ↔ Positive_Feedback | 中程度の正相関(青) | 協調性が高い人ほどポジティブな関わりが多い |
| AAConsc ↔ PS_Safety | 弱い負相関(赤) | 真面目すぎる傾向は、発言しづらさを生む可能性 |
| AANeuro ↔ Resilience | 明確な負相関(赤) | 不安傾向が高いと回復力は下がる |
4. 解釈まとめ(ビジュアルから読み取れる心理的構造)
| 領域 | 中心要素 | 示唆される心理的メカニズム |
|---|---|---|
| 💬 フィードバック文化 | FB_All・FF_All | 対話スキルが安全性と成長文化を支える |
| 🧠 リーダーシップ | PS_Leader | 心理的安全性を職場全体に広げるハブ |
| 🌿 レジリエンス | Resilience | ストレス対処と関係性の結節点 |
| 🤝 協調性 | AAGree | 対人理解・信頼形成の潤滑油 |
| ⚙ 勤勉性 | AAConsc | 行動の信頼性を高めるが、過剰だと硬直を招く |
| ❤️ 神経症傾向 | AANeuro | 感情の不安定さがレジリエンスを弱める可能性 |
5. 実践的示唆(職場での応用)
- 心理的安全性を育むには:「率直さ×思いやり」の両立が重要。
→ フィードバック・フィードフォワードの教育が鍵。 - 誠実性のマネジメント:真面目さが安全性を損なわないよう、
「失敗の共有」「柔軟な完璧主義」を取り入れる。 - 協調性の活用:共感的メンバーをファシリテーター役に配置すると、
心理的安全性の波及効果が高まる。 - レジリエンス研修:ポジティブ・フィードバックと組み合わせることで、
「支え合うチーム」の基盤が形成される。
まとめ
今回のネットワーク分析から見えてきたのは、
「心理的に安全な職場」は単に「仲良しの場」ではなく、
「率直な意見交換と建設的な対話」が両立している場である、ということです。
そして、その中心には次の3つの要素がありました。
| カテゴリ | キーとなる要素 | 概要 |
|---|---|---|
| 💡リーダーシップ | 心理的安全性リーダーシップ | 安心して発言できる場を作る力 |
| 💬対話スキル | クリティカル&ポジティブ・フィードバック/フィードフォワード | 建設的で未来志向のコミュニケーション |
| 🌿パーソナリティ | 協調性とレジリエンス | 信頼と回復力を支える柔軟さ |
今後への示唆
職場の心理的安全性を高めるには、単に「真面目である」ことではなく、
**「柔軟に対話できる誠実さ」**が求められます。
そのためには、次のような実践が有効です。
- ✔ フィードバックを「未来志向」で伝える(フィードフォワード)
- ✔ 相手の意図を確かめてから助言する
- ✔ 「失敗の共有」を奨励し、学びをチームで可視化する
📚参考文献
- 引用情報
(日本語版) Sasaki N, Inoue A, Asaoka H, Sekiya Y, Nishi D, Tsutsumi A, Imamura, K. The Survey Measure of Psychological Safety and Its Association with Mental Health and Job Performance: A Validation Study and Cross-Sectional Analysis. International journal of environmental research and public health. 2022;19(16).(原版) O’Donovan, R., Van Dun, D., & McAuliffe, E. (2020). Measuring psychological safety in healthcare teams: developing an observational measure to complement survey methods. BMC Med Res Methodol, 20(1), 203. doi:10.1186/s12874-020-01066-z - 小塩真司・阿部晋吾・カトローニ ピノ(2012)
『日本語版 Ten Item Personality Inventory(TIPI-J)作成の試み』
パーソナリティ研究, 21, 40–52.
(genbaGosling, S. D., Rentfrow, P. J., & Swann, W. B., Jr. (2003). A very brief measure of the Big−Five
personality domains. Journal of Research in Personality, 37, 504−528. - 徳吉陽河(2020)
『心理的安全性リーダーシップスキル自己効力感尺度の開発』
日本心理学会大会発表論文集, 84, PQ-002. - Edmondson, A. C. (1999). Psychological safety and learning behaviour in work teams.
Administrative Science Quarterly, 44, 350–383. - Newman, A., Donohue, R., & Eva, N. (2017). Psychological safety: A systematic review of the literature.
Human Resource Management Review, 27, 521–535.
投稿者プロフィール

- 徳吉陽河(とくよしようが)は、コーチング心理学研究会・コーチング心理学協会の創設者の一人であり、日本・世界のおけるコーチング心理学のパイオニア。コーチング心理士、公認心理師・キャリアコンサルタント、認定心理士(心理調査)、ポジティブ心理療法士、として教育・医療・福祉・産業分野で活動する専門家。東北大学大学院博士後期課程で研究し、国際コーチング心理学会、国際ポジティブ心理学会など、世界で学び、研究を発表。教育プログラム、心理尺度開発なども専門としている。著書に『ポジティブ大全』『科学的に正しい脳を活かす「問いのコツ」 結果を出す人はどんな質問をしているのか?』『ナラティヴ・セラピー BOOK』、『コーチング心理学ガイドブック』『コーチング心理学ハンドブック』などの翻訳書などがあり、科学的なエビデンスと物語(ナラティブ)に基づくコーチングとウェルビーイング教育を推進している。累計4000名のコーチ、カウンセリング実績」(ワークショップを含む)、「累計6000回以上のセミナー実績」以上の実績がある。国土交通省 航空保安大学講師、元東北文化学園大学講師、元仙台医療センター看護学校講師、元若者サポートセンター講師など。教育機関、海外・国外の法人企業などで講師を担当実績がある。学校法人・企業法人・医療法人(リハビリ)など、主に管理職に関わる講師を数多く担当。座右の銘は、「我以外皆我師」、失敗・挫折もたくさんしており、「万事塞翁が馬」大切にしている。「自己肯定感が低いからこそ成長できる」ことを大切にしている。
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